5人は夕食を終え、泊まる部屋へと案内された。
「はー、やっと生き返ったぜっ」
「...まあ、あれだけ食べればそうでしょうね」
ベットにドサッと座りながら言う悟空に、『物』扱いのショックから立ち直ったが呆れたように返す。
「良いお部屋じゃないですか」
「ま、三蔵様とのおかげっスかv」
「殺すぞ」
「『物』扱いでしたけどね」
「...こだわりますね」
「こだわりますよ」
めずらしく子どもっぽいの様子に、八戒が苦笑をする。
そのとき部屋の隅でお茶を入れていた少年僧が、盆に人数分の湯飲みを載せてたちのほうへ歩いてきた。
その少年は湯飲みをテーブルに置きながら、達に話しかけた。
「どうぞおくつろぎ下さい。私は身の回りのお世話をさせて頂く“葉”と申します。よろしくお願いします!」
「チッ、配膳ぐらいキレーな姉ちゃんにやらせろっての」
笑顔で挨拶する葉に悟浄が舌打ちしながら言うと、少年は驚いた顔をして言い返した。
「そんな不浄な...!!この寺院内は女人禁制ですよ...ですよね、三蔵様ッv」
「...何故俺にふるんだ」
「私、生きて三蔵様にお会い出来るとは思っておりませんでした。感激ですッ!!三蔵様といえば、御仏に選ばれし尊き御方!我々仏教徒にとって、絶対的存在にございます!!」
「ぷっ、とおとい?」
「それに、観世音菩薩様に関係する方を伴なっていらっしゃるなんて...」
目を潤ませながら言う葉の話を、三蔵はどうでも良さそうに聞き流し、悟空は実際の三蔵を知っているだけに小さく噴き出した。
三蔵に引き続き潤んだ目で見られたは、わざと少し無表情な顔をして葉に話しかけた。
「...言葉は選んだほうがよろしいですよ」
「え?」
「先ほど、ここが女人禁制だと言う前に『不浄だ』とおっしゃったでしょう」
「あ、はい。言いましたが...」
「そのような言い方だと、女性そのものを『不浄』とみなしていると捉えられても仕方ないですよ。女性が不浄なのではなく、女性にみだりに邪な感情を持つことを不浄としているのでしょう?」
「あっ、はい!その通りです!」
「生き物は女性から生まれてきます。女性を不浄だと思うのは、生まれてくる命を不浄と捉えてしまうと言うことですよ」
「はい!すいませんでした!!」
「いえ、分かって頂ければそれで良いんですよ」
「はい!...さすが観世音菩薩様に縁のある方ですねッ!私、感動しました!!」
感激する葉の後ろでは、雰囲気を変えて話し出したを4人が驚いた顔をして見つめていた。
「いやはや、すごいですねー」
「お前よりもの方が坊主に向いてるんじゃねぇ?」
「...が坊主になったらシンパが大量にできそー」
「確かに、三蔵よりもすごいことになりそうですよね」
「三蔵様のシンパも取られたりしてな?」
「フン、あんな連中のし付けてくれてやる」
「まあ、その気持ちも分かりますけどね...」
と話をしていた葉が、先ほど以上に顔を輝かせて三蔵たちを振り返る。
「これで失礼します。では、ごゆっくり!御用の際は何でもお申し付け下さいv」
そういって葉が出て行った後、部屋の中がしばし沈黙に包まれた。
「「三蔵が銃ブッ放してる姿を見せてやりてえっッ!」」
「私も投げナイフ大量に飛ばしてますけどね」
「やれやれ、これが本当の『知らぬが仏』ですねぇ」
「フン」
三蔵はいつものように不機嫌そうな顔で4人の言葉を聞き流す。
「でも、があんな風に言うとは思わなかったなぁ」
「ああ、あれですか?...まあ、八つ当たりでしたしねぇ」
「「「...は?」」」
「?、どうかしましたか?」
「あれが八つ当たりだったんですか?」
「そうですよ。普段ならわざわざ人の言葉遣いに文句言ったりしませんし、言った言葉がどう取られるかは本人の責任でしょう?」
「八つ当たりなのに敬語...変な八つ当たりだな」
「まあ、らしいけどな」
「...そうですね」
第八話 命
「わちゃー、もう腹減ってきたっ」
「...すー...」
「ここの食い物って、豆とか野菜ばっかなんだもんよ〜」
「仕方ないですよ。一応、精進料理だから」
「.......くー......」
「線香の臭いが染みついちまわ」
「ま、明日まで辛抱するこったな。ロン」
ばん!
「何なさってるんですかーッ!!」
「麻雀」
「...んー?」
勢いよく扉が開いた音と葉の怒鳴り声で、眠っていたが目を覚ました。
「、起きちゃいましたか?」
「...おあよーごじゃぁますぅ?」
「あはは、舌が回ってませんねぇ」
「...んんー...」
まだ寝ぼけているとそれに笑いを漏らす八戒をよそに、三蔵たちの様子を見た葉が叫び声を上げる。
「うあ!煙草なんか吸ってはいけません三蔵様ッ」
「あー?」
「よっマルコメ君、かけつけ一杯」
「あああああっ!缶ビールなんか持ち込んでるぅ〜!!」
葉は慌てて床に転がっていた荷物を取り上げる。
「没収ですッ!!」
ドサ...ドサドサドサ...
「...え?」
葉が床に落ちたものを見ると、そこにはビール・酒のほかに成人指定向けのビデオと本がいくつか落ちていた。
葉はそれを目にした瞬間顔を真っ赤にして、眩暈がしたようにふらりとなる。
「...悟浄...」
「...あちゃー」
「んー?」
床に落ちたものを見せないようにの目を塞ぎながら呆れた声で名前を呼ぶ八戒に、悟浄は失敗したと言うような顔をした。
「...まったく」
「ちっ」
顔を真っ赤にした葉に呼ばれた僧に、酒やビデオを没収されたため、悟浄はいらだたしげに舌打ちをした。
「三蔵様ともあろうお方が、何故あの様な下賎な輩をお連れに...『ダン!』ッ!」
僧の言葉を遮るように、三蔵は僧の横の壁に勢いよく手をついた。
「喉、渇いたんだけど」
「はっ...はいっ、ただいまお茶をお持ち致します!!」
「どォも」
「何?どしたの?」
「さーね」
三蔵の行動に悟空が疑問の声を上げるが、悟浄はそれに新聞を読みながら生返事をする。
「...ところで、この寺院は妖怪の被害にあったことは無いんですか?」
「ええ!それはもちろんですともっ!この寺院は、御仏のご加護により俗物が近づかないと言われております。我々の篤い信仰が通じてのことでしょう」
「じゃあ、武器とか何も置いてないの?」
「そりゃあ、殺生は仏の道に反しますから」
「ちっ、めでてェ奴ら」
「『めでたい』1.祝いたい気持ちがする。2.すばらしい、『お』を前に付けて、人が良すぎてだまされやすい」
「なんで考えがそっちの方に行くんだ?」
思考が違う方向に行っているに悟浄が呆れたように言う横で、八戒は真面目な様子で話をする。
「...となると、なおのこと僕らがここに長居するわけにはいきませんね」
お茶を持ってきた僧と葉が出て行ってから数時間経った部屋では...
「牛肉ー、豚肉ー、トリ肉ー、魚肉ー...」
「女ー、酒ー、煙草ー...」
悟空と悟浄が自分の欲求にしたがって、欲しいものを次々に口に出していた。
「煩悩の固まりですねぇ」
「ここが森だったら食料を捕りに行けたんですけどねぇ」
「あはは、いつも助かってます」
「いえいえ、どういたしまして」
笑顔で言葉を交わすと八戒に、悟浄が呆れたようにため息をついた。
「...で、三蔵はどーしたの?」
「僧正さんに呼ばれて行きましたけど」
「こんな時間に?」
そのとき、八戒の膝で丸くなっていたジープと2人の話を聞いていたがふっと窓へ顔を向ける。
「ピーッ、ピーッ!」「...あ」
「ジープ?」
「、どうした?」
ドン!!
「うわ!?」
突然の衝撃音に、悟空は急いで立ち上がり窓の外を覗き込む。
「まさか、また刺客かよ?」
「残念ながら、その様ですねっ」
4人は急いで妖気の元へと向かった。
が妖怪たちの元へ向かっていたころ、三蔵はこの寺院の僧正と対面していた。
「...で、何ですか話というのは」
非常に不機嫌な様子で話す三蔵に、僧正たちは必要以上に笑顔を向けながら話し出した。
「実は、ぜひとも三蔵様にこの寺院への長期滞在を願いたく存じまして...」
「私は先を急いでいるのだが」
「一ヶ月...いえ、一週間でもかまいません!!」
「三蔵様がこの寺院に立ち寄られたのも、全ては御仏の導き...そうに違いありません!是非説法等にあやかりたいと、皆も申しておりまして...」
「...あんた達、ソレ光明三蔵にも同じこと頼んだだろ」
「ええ...それは、丁寧にお断りされましたが」
三蔵はその言葉を聞いてため息をつくと、僧正たちに背を向けて扉へと歩き出した。
「本当に甘い人だな、あのお師匠様は。失礼する」
「さ...三蔵様!?」
呼び止められた三蔵は、面倒臭そうに振り返って口を開いた。
「光明三蔵法師があえて言わなかったことを、俺が言ってやろうか?...いいトシこいて、ワガママぬかしてんじゃねーよ」
「な...何ということを...!」
「口が過ぎますぞ!三蔵様!!」
バン!
「大変でございます!!」
僧正たちが三蔵の言葉を非難していると、1人の僧が部屋の中に飛びこんできた。
「どうした、騒々しい!!常に平常心を忘れてはならぬと...」
「それどころではございません!!妖怪に侵入されました!!」
「何!!?」
「『三蔵どもを出せ』とわめきながら...寺院内のものを次々と手をかけております!!」
「ぎゃひゃひゃひゃはぁ!オラ出てこいよ、三蔵法師!!反逆者ども!!早く来ねェと、坊主全部食っちまうぞ!」
殺した僧の頭を握りつぶしながら笑う妖怪に、葉は部屋の隅で耳を塞ぎ、体を縮めて怯えていた。
「チッ、つまんねぇな。今度はムサい野郎1匹かよ。前回みたいな美女のサービスを期待してたんだがな」
「...フン!てめェらが裏切り者の妖怪三人組と三蔵法師にくっついてる人間か。紅孩児様の命により、貴様らを始末する!!俺様にかかればひとたまりもないわ!!」
石仏の上から降りてきた悟浄が、その妖怪を見て達に声をかける。
「...おい、どー思うよ?」
「態度がでかくてムカツク、減点20点」
「笑い方が下品、減点15点」
「セリフが三流、減点10点」
「なっ...何だ貴様ら!バカにしてるのか!?」
「あ、歯が黄色い、減点5点」
「ぶっ...ブチ殺す!!」
悟空の言葉にその妖怪が切れて、怒鳴り声を上げながら斧を投げてきた。
ドカッ!
妖怪が投げた斧は、悟浄の横を通って後ろの壁に突き刺さった。
「...度胸は合格」
ゴッ
「がはッ...」
悟浄は壁に刺さっていた斧を床に投げ捨てると、妖怪の顔面に膝と叩き込む。
「でや!」
ばきゃ!
悟浄の攻撃を受けた妖怪に、悟空も顔面に上段蹴りを食らわすと、妖怪は瓦礫と化した壁のところまで吹っ飛んだ。
「うっ...」
「まさか、これくらいの力であんな大見得きってたんじゃないですよね?」
「それよりも、これくらいの力なのに1人で来たことが不思議なんですけど?」
「いい性格ね、お前ら」
妖怪を見下ろしながらにこやかに言う八戒と、本気で不思議がっているに悟浄が呆れたように呟く。
「なーんだ、弱いじゃんコイツ」
「クソッ」
悟空の言葉に倒れていた妖怪が近くにあった瓦礫を掴み、握りつぶして大量の破片にし、4人に放り投げてきた。
「うわ、セコイッ」
「ちょっと、さがってて下さい!」
バチィ!!
八戒が3人の前に立ち左手を前に向けると、半球状の壁が広がり飛んできた瓦礫を防いだ。
「...盾ですか?」
「ええ、クモ女さんと戦ったとき考え付いたんです。『気』を固めて、バリヤーにできないかなーなんて」
「初めてでこれだけのものを作れるなんて、器用ですね」
「いーなー、八戒!俺もそれやってみたい!!」
「うーん、集中力が無いとなんとも...」
呆然と八戒を見ていた妖怪が、立ち上がって達に指を突きつける。
「先手必勝!!俺様の真の力を見せてやるぜ!!」
そう言った妖怪の右腕の一部がぐぐっとせり上がり、1mほどの刀状になる。
「ああ、だから右袖だけなかったんですねぇ」
「ダッセェ服だと思ってたンだよなッ」
「『如意棒』ッ!!」
妖怪の攻撃を悟空は如意棒で受け止めたが、相手の刃が如意棒の半分くらいまで沈み込んでいた。
「ッ!!スッゲ馬鹿力!!」
「お前に言われちゃお終いだな」
「スピードは上がってませんけどね」
「まとめて始末してやる!!...何ィ!?『ガン』
ドサッ
達に切りかかろうとした妖怪が、間には行って来た三蔵に刀の背と押さえられて殴り倒される。
「倒れ方が無様だ。40点減点」
「三蔵っっ」
「計90点の減点ですね」
「...(減点したということは)最初から見てたんですか?」
「さあな」
「ったく、何でお前ってオイシイとこ独りじめするワケ!?こんな奴俺1人でも余裕だったのによォ」
「...その様だな」
三蔵は倒れている妖怪に近づくと、顎を蹴り上げて上を向かせた。
「お前ごときの刺客をよこす様じゃ、俺達はよほど見くびられてるらしいな。貴様らの主君『紅孩児』とやらに...牛魔王蘇生実験の目的は何だ?裏には何がある」
「...ヘッ、あんた血生臭ェな...そっちのガキもな...今まで何人の血を浴びてきた?『三蔵』の名が聞いて呆れるぜ」
「10点減点...ゲームオーバーだ」
「...バーカ、言われなくても死んでやるよ『カチ』」
「「!」」
妖怪の言葉とスイッチ音に、すぐさまと八戒が反応する。
「三蔵!!」
グイッ!
「っ!!」
八戒が三蔵の名前を呼ぶのと同時に、が三蔵の腕を掴んで後ろの引っ張る。
ドン!!
「「!!」」
「何、もしかして自爆したってヤツ!?」
「...マジで?」
妖怪が自爆した場所を眺める三蔵を、は掴んでいた腕を離して見上げた。
「とっさに掴んでしまいましたけど、赤くなってませんか?」
「ああ」
「大丈夫かよ2人とも!?」
「ああ、大したことない」
「大丈夫です」
三蔵たちから少し離れたところでは、八戒が座り込んでいた葉に声をかけていた。
「怪我はないですか?」
「......あなた達は...何者なんですか!?」
呆然としていた葉が声を荒げて達に言う。
「今までにも沢山の血を浴びた...って、こんな風に殺生を続けてきたのですか!?」
「...っ、あのなぁッ!仕方ねーだろ!?ヤらなきゃヤられちまうんだからさぁ!?」
「それが良い事だとは、僕らだって思っていませんよ。でも...」
「良くないに決まってますよ!たとえ誰であろうと命を奪うという行為は御仏への冒涜です!」
「...おい、お前それ本心で言っているのか?」
「...妄信的なのも、ここまで来ると馬鹿らしいですね」
と三蔵の言葉に、怒鳴っていた葉と他の3人が2人を見る。
「これだけ身内が殺されても、そんなことが言えるのかよ」
「肉を持ったものを殺してないから、自分はどんな命も奪って無いとでも言うつもりですか?」
「そんなに『神』に近づきたかったら死んじまえ」
「命を奪うのが嫌なら自殺でもなさい」
「あ...」
「少なくともそれで、あなたの食糧になっている植物たちの命は助かりますよ」
「死ねば誰だろうが『仏』になれるぞ。そこの坊主たちみたいにな」
と三蔵の言葉に、葉はその場にへたり込んでしまった。
「意外とキツイのな、お前」
「よく言われます」
悟空の言葉に頷いているの横で、悟浄が煙草を咥える。
「...でもまあ残念なことに、俺達は生きてるんだなコレが」
そう言った悟浄や他の4人を壁に開いた穴から入ってくる朝日が照らし出す。
「朝になってしまいましたね...」
「あーあ、徹夜かよ」
「どうしますか、三蔵?」
「...行くぞ」
5人は寺院の中で僧正たちと向き合っていた。
「...ここから北西へ抜ければ、夕刻までには平地へ出ると思います。ジープなら町まですぐでしょう」
「御迷惑をおかけしました」
「いえいえ、とんでもない!!」
「今回のことで、我々がいかに危機管理がなっていないか思い知らされました。死んだ僧達の魂をムダにせぬ様に致します」
「皆様にもとんだ御無礼を...」
「あ、気にしないで下さい。たまには浄化された生活も必要な方々ですから」
「汚れ物か俺達は」
僧達の後ろに控えていた葉が、すっと前に進み出る。
「葉...?」
「三蔵様、全て片付きましたら又この寺に立ち寄っていただけますか?...その時は、私に麻雀を教えて下さい」
「...覚えておく」
「あ、やめた方がイイよ。三蔵と悟浄はスッゲ性格ヒネたうち方するから」
「おいエテ公『ゴッ』いまだに役も覚えきれねぇ猿に言われたかねぇなぁ!!?ああ!?」
「あはは」
「本当のことじゃんか!イカサマ河童!!」
「え?悟浄、イカサマしないと勝てないんですか?」
「あー!うるせー!!お前はどうなんだよ!」
「麻雀牌の形や傷を暗記しちゃうんで、負けたこと無いですよ?」
「「そっちの方が卑怯くせぇぞ!!」」
賑やかに去って行く5人を、葉は姿が見えなくなるまで見送っていた。
あとがき
最遊記第八話終了です。
予定よりかなり長くなってしまいました...
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
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