「......ジープでは無理ですね」

「そうですねぇ」

三蔵一行はジープから降り、目の前に広がっている岩場を見渡した。

「歩きですか?」

「そうですね。あ、荷物降ろさないと」

「手伝います」

「大丈夫です。そこに突っ立ってるデッカイ人にやってもらいますから」

八戒が指差した方を見ると、タバコを咥えた悟浄が顔を引きつらせていた。

「俺かよ...」

は三蔵と一緒に待ってて下さいね」

「はい」

「おいっ!!」

「悟浄、早く荷物降ろせよな」

「お前もやれ!バカ猿!!」

「猿って言うな!!」


「2人ともそれくらいにしておかないと...」


   パアァン!!


「「ってー!」」

「うるせえ!さっさとしろ!!」

2人は三蔵にハリセンで殴られた所をさすりながら、渋々とジープに積み込まれていた荷物を降ろした。

降ろされた荷物を八戒が詰めなおしていくと、全ての荷物は2つの鞄に収めることが出来た。

「やっぱり、ここは...」

「あれですよね」

「?、あれ?」

「そ、あれ。んじゃ、早速...ジャンケン」

「「「ぽん」」」

出された手の形は、グー、グー、グー、チョキ、グーだった。

「......あ」

「ゲッ!」

「あはは、それじゃあよろしく」

「がんばれよー」

「ふん」

以外の3人は悟空に荷物を押し付けて、先に歩いていく。

「あーーっ!くっそーーっ!!」

「...手伝いますか?」

「大丈夫だって!次は勝つしなっ!!」

そう言って悟空は、荷物を担ぎ上げてドスドスと勢いよく道を進んでいく。

あとに残されたはジープと顔を見合わせると、ジープを肩に乗せて悟空の後を追って歩き出した。








「...あいこで」

「しょッ」

「............」

「あーっ!またかよ!!」

荷物持ちを決めるためのジャンケンに8連敗した悟空に、は哀れみの目を向ける。

他の3人は悟空を気にせずにどんどん進んでいく。

「おいっ、どこまで歩くんだよッ!」

今まで荷物を持ちっぱなしだった悟空が、いらついて不満の声をあげる。

「どこまで...と言われても...」

「こんな岩場じゃ、ジープは通れませんからねぇ...」

「見える範囲は全部こういう状態ですから、この山を越えないと何とも言えませんね」

と八戒の言葉に、悟空が不機嫌な顔になる。

「お前さぁーっ、ジープ以外には変身できねーのかよ、白竜!!」

「ピーーッ!」

「あっ!逃げんな!!」

「ピィィーーッ!」

「え?」

「待ちやがれっ!!」

「ピィー!!」

「悟空、ジープ、落ち着いてください!」

の背後に隠れようとするジープを捕まえようとする悟空が、に抱きつくような形で手を伸ばす。

ジープが捕まらないように動き回るために、悟空もそれを追いかけて手を動かす。

そのためは、悟空とジープに挟まれて揉みくちゃにされていた。

「先生ー、動物が動物と子どもを虐待してまーす」

「誰が動物だよ!この河童!!」

「あ?お前に決まってるだろ?」

は悟空と悟浄が言い合いを始めた隙に、ジープを抱えて三蔵と八戒のところに避難する。

「髪の毛がクシャクシャになってしまいましたねぇ」

そう言いながらの髪を手櫛で直す八戒に、が礼を言った。









    第七話    預かり物








悟空と悟浄の言い合いは、八戒の笑顔で言ったひと言で終了した。

残念なことに、はジープの羽で耳と目を覆われていたため、八戒が何を言ったのか分からなかったが、八戒の言葉を間近で聞いた2人は青い顔をしていた。

2人の様子には首を傾げ、三蔵は2人を馬鹿にした目で見ていた。

5人がそれから再び歩き始めて2時間ほど経ち、昼をかなり過ぎたころ三蔵が口を開いた。

「...このままだと山を越える前に日が暮れちまうな」

「そうですね......あっ」

「?、どうかしましたか?」

「この先に人が生活しているようです」

「あ?こんな所にか?」

「妖怪じゃねーの?」

「いえ、妖気については三蔵に教えてもらいましたから、人と妖怪の区別が出来るようになりましたし...それに、生体反応が広い範囲に広がってますから、生活していると考えて間違いないと思います」

「「へぇー、三蔵にねぇ...」」

「...何が言いたい」

「「べっつにー」」

「貴様ら...」

「まあまあ」

ニヤニヤと笑いながら言う2人を三蔵が睨みつけて発砲しようとするのを、八戒が笑顔で止めた。

「ここで撃つと音が響きますから、この先にいる人達のところまで銃声が届きますよ」

「チッ!」

八戒の言葉に、三蔵は舌打ちをしながら銃をしまった。

「とりあえず、そこに行って一晩の宿をお借りしますか」

「...ああ」

5人がさらに歩くこと30分、ようやく先に建物らしきものが見えた来た。

扉の前にたどり着くと、は扉の上に書かれている文字を見上げた。

「...お寺ですか」

「げ、たいそーな寺だな、オイ」

「すみませーん」

八戒が声をかけると、中から1人の僧が出てきて2階の欄干から5人を見下ろす。

「何か用か!?」

「我々は旅の者ですが、今夜だけでもこちらに泊めて頂けませんか?」

「フン、ここは神聖なる寺院である故、素性の知らぬものを招き入れるわけにはいかん!」

「なッ...」

「クソッ!これだから俺は坊主って奴が嫌いなんだよ!!」

「へー、初耳」

「こうじゃないお坊さんなら、好きだってことじゃないですか?」

「「...気色ワリィこと言うな...」」

の言葉に、三蔵と悟浄が顔を歪めながら言う。

「んー、困りましたねぇ」

「なー、腹減ったてば、三蔵っっ!!」

「さ...三蔵だと?」

悟空の言葉を聞いた僧が驚きの声をあげ、身を乗り出して三蔵の姿を確認する。

「...まさか、『玄奘三蔵法師』...!?」

「何!?」

「しっ...失礼しました!!今すぐお通しします!!」

「へっ?」

「...権威主義の集まりですか」

先ほどまでと打って変わり、丁寧な言葉遣いで迎え入れる僧に悟空が疑問の声を上げ、が呆れたようにぽつりとひと言もらした。

「?、何だ、それ?」

「食べ物のことではありませんよ」

「じゃあ、良いや」

「...、中に入ったら(言葉に)気をつけて下さいね」

「はい」

あっさりと悟空をあしらったに苦笑しながら言った八戒に、は笑顔で頷いた。

5人は僧に案内されて寺の奥へと進んでいく。

「こちらでございます」

案内してきた僧が扉を開けると、部屋の置くには1体の仏像が置かれ、その前にはこの寺院の高位の僧らしき人物が3人座っていた。

その僧達と入り口との間には、ずらりと下位の僧たちが並び、道を作っている。

三蔵が入っていくと、3人の中央に座っていた年老いた僧が、笑みを浮かべて三蔵に話しかけた。

「これは、三蔵法師殿。このような古寺に、ようこそお越し下さいました」

「...歓迎いたみいる」

僧と三蔵が話している後ろで、他の僧達に聞こえないように悟浄と八戒が話をしている。

「オイ、あいつってそんなにお偉い様だったワケ?」

「...というより、『三蔵』の称号の力ですね...この世界には『天地開元』という5つの経典があるそうで、その経典それぞれの守り人に与えられるのが『三蔵』の名だそうです。仏教徒の間では、最高僧の証としてあがめられる訳ですね」

「何であんな神も仏も無いような生臭坊主が『三蔵』なんだ?」

「そこまでは、ちょっと...」

「教典を守りきる強さがあるかどうかじゃないんですか?」

「...まあ、普通の坊主はひ弱だしな」

の言葉に納得する3人をよそに、僧は三蔵に話しかけている。

「実は光明三蔵法師も十数年前、この寺に立ち寄って下さったのですよ。光明様の端正で荘厳なお姿が、今でも目に焼きついております。玄奘様は本当によく似ていらっしゃる」

「...」

「光明三蔵様が亡くなられた後を、愛弟子である貴方様が『玄奘三蔵』として継がれたと聞いておりますが」

「...そんなことより、この石林を1日で越えるのは難儀ゆえ、一夜の宿を借りたいのだが」

「ええ!それはもちろん、喜んで!...ただ...」

そこまで言った僧が、三蔵の後ろにいた4人をちらっと見る。

「何か?」

「ここは神聖なる寺院内でして、本来ならば部外者をお通しする訳には...そちらの方々は仏道に帰依する方の様にはとても...」

「ざっけんなよ!坊主は良くても一般人(パンピー)は入れられねーッてか?高級レストランかよ、ここは!!」

「まあまあ」

「高級レストランなら、一般人も服装と料金が何とかなれば入れますけどね」

も油を注がないで...」

「俺は構わんが」

「うわー、言うと思ったー」

怒りをあらわにする悟浄をよそに、小さな声で三蔵が言った言葉に悟空が呆れる。

「随分と信仰心の強い方々のようですね」

「警戒心の間違いじゃねーの?」

声を落として言う八戒に、悟浄が不機嫌な声で返す。

たちを眺めていた僧が、三蔵に向かって口を開く。

「この方々はお弟子さんですか?」

「...いや、『下僕』3人と『観世音菩薩様からの預かり物』だ」

「観世音菩薩様の!!」

驚く僧とは違い、下僕と言われた悟空と悟浄は三蔵に殴り掛かろうとするのを八戒に止められていた。

その傍らで、は三蔵の言葉を聞いて固まってしまった。

「...?どうしたんですか?」

「......八戒、私『物』扱いされました...」

「「...あっ!」」

「いえ、きっと『物』ではなくて『者』ですよ」

「...本当にそう思いますか?」

「「......」」

「...あははははははは...」

笑って誤魔化されたは、先ほど以上にショックを受け落ち込んでしまった。

(...荷物扱いされたアル君の気持ちを、こんな形で知ることになるなんて...)

落ち込んでいるをよそに、が『観世音菩薩からの預かり物』だと知った僧は、先ほどよりも丁寧な態度でに接する。

「では今回は三蔵様とその方に免じて、そちらの方々にも最高のおもてなしを御用意いたします」

その僧が言ったように、全員がここに泊まることになったが、は先ほどのショックでほとんど食事を取れなかった。

そのことで、ここの僧達に『観世音菩薩に関わりがある方だけに、ほとんど食べなくても良いのだな』と思われていたことを読み取ったのは、三蔵と八戒だけだった。











あとがき

最遊記第七話終了です。
普段『人』として行動しているだけに、『物』扱いはショックだった様です。
これをさんの親達が聞いたら、どうなるかなぁなんて思ってみたり...

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

6話   戻る   8話