「おいっ!悟浄!!席替われよッ!お前が前にいると煙たくてしょーがねーだろッ!?」
「ああ、悪ィな。後ろにお子様乗ってんの忘れてたぜ」
「ンだとッ!!?」
エンジン音を響かせて荒野を走るジープの中で、いつものように悟空と悟浄が言い合いを始めると、いらついたように三蔵が2人に目を向けた。
「...いい加減にしろよ貴様ら。何なら降りて走るか?」
「あははは、まーまー、もうすぐ町が見えてくれるハズです。2人もそれくらいにしないと、を起こしちゃいますよ」
「あっ!」
八戒の言葉に悟空が慌てて隣で寝ているを見ると、2人の言い合いで起きることもなく、すやすやと気持ち良さそうに寝ていた。
が起きないことに悟空がほっとしたのを見て、悟浄がからかおうとするのを八戒がさえぎった。
「悟浄も静かにして下さいね。僕達以上に妖怪を相手にしてるせいで、は疲れてるんですから」
「分かったよ」
「でも、あいつらもせこいよな。1番弱そうなばっかり狙うんだから」
「そんなやつらなんか、相手にならねーけどな」
「避ける暇も与えず眉間にグサリですからね。さすがにあれだけの数を相手にすると疲れるようですけど」
ガクン!
3人が話しているときジープが大きく揺れたために、眠っていたの体が三蔵に寄り掛かる体勢になった。
「「「「.........」」」」
「...スー...」
「「ぷっ!」」
「...貴様ら」
「2人とも笑ったらが起きちゃいますよ。三蔵も疲れてるを起こしたくは無いでしょう?」
笑顔で言う八戒に三蔵は苦々しい顔になり、悟空と悟浄はを起こさないように三蔵から目を背けた。
「町までもう少しですから、我慢して下さい。今日は久々に屋根のあるところで眠れそうですよ」
町についてすぐ、三蔵は自分に寄り掛かって眠るを起こした。
三蔵に起こされたは少し寝ぼけた顔で4人におはようございますと言うと、八戒と悟浄は苦笑しながら、悟空は元気な声で返事をし、三蔵は不機嫌そうに頷いた。
寝起きでまだボーっとしながらも不機嫌な三蔵に首を傾げると、悟空と悟浄が噴き出して三蔵に睨まれた。
三蔵に睨まれた2人は宿を探してくると言って、さっさと車を降りて逃げてしまった。
怒りのやり場がなくなった三蔵が舌打ちすると、2人が行ってしまった方向を見ていたが口を開いた。
「宿を探すって言っても、どうやって私達に知らせるつもりなんでしょうか?」
「僕達が2人を探すことになりそうですね」
「見つけたときに、騒ぎを起こしてないと良いですね」
「あの2人がそろってるだけで騒がしいだろうが。行くぞ」
不機嫌そうな三蔵の声に八戒が苦笑しながらジープを発進させると、程なくして何か騒ぎが起きているところが見えてきた。
「別れてから10分も経ってない筈なんですけどねー」
「状況から考えてあの女性の方が絡まれてたんじゃないですか?」
「ふん、騒がしいことには替わりねーな」
キッ!
八戒が悟空と悟浄の後ろにジープを止めると、いらついた様子の三蔵がジープに立ち上がって2人を見下ろした。
「おい、悟空!悟浄!あまり派手な行動をとるなつっただろ!?」
「僕らも充分目立ってますよ、三蔵」
「8.5倍は地味だって」
「当社比だろ?」
「...当社比?」
「あはは、気にしちゃダメですよ」
「分かりました」
は八戒の言葉に頷いたあと、地面に落ちている野菜を拾うためにジープから降りた。
「...はい」「ほい」
と悟空が落ちていた野菜を差し出すと、呆然と成り行きを見ていた少女がハッと我に返った。
「俺ら旅してンだ。飯のうまい宿屋教えてよ」
「駐車場完備だと嬉しいんですが」
「...そっ...それならウチが...」
第五話 茄陳の町 1
「あッ!てめェ!!それ俺が取っといたスブタじゃねーかよ!かえせ!!」
「るせーな、イジ汚ねーぞ猿!草でも食ってな!」
「言いやがったな!C級エロ河童!!」
「ンだとコラ!クソチビ猿!!」
パパン!!(三蔵のハリセン)
ピココン!(のピコハン)
「静かに食え!静かに!!」
「食事中の殴り合いは禁止です」
「すいませーん、お茶おかわり」
5人のやり取りに宿屋の少女−朋茗−がくすくすと笑う。
「おう、お客さん達!!朋茗を助けてくれた礼だ。どんどん食ってくれ!」
「お父さん」
「恩にきますv」「ありがとうございます」
「いやぁ、なんの。ところでお客さん達、東から来たんだってね」
「ああ...そうだが」
「へぇ、めずらしいなあ。東の砂漠は物騒であまり人は通らないのに、皆さんよく無事でしたねー。強いんだ、やっぱ」
朋茗の言葉に、と悟空以外の3人がわずかにこわばった顔をする。
「特に最近、すっごく凶暴な5人組の妖怪が出没するってウワサですよ。彼らの通った跡には、妖怪の屍の山ができるって...同種争いで人間には被害ないみたいですけど」
「そうなんですか。私達は幸いにもそれほど妖怪に狙われませんでしたけど、こちらにはそういう妖怪もいるんですねぇ」
「でもそれって、まるで俺らのことみた『がごっ!!』.......」
「ああ、スマン。今、お前の頭にハエがいたんだ」
「惜しーな。逃げられたか」
「......?」
「気にしないで下さいねv」
悟空の頭をテーブルに押さえこんでいる悟浄に、は苦笑すると困惑している朋茗にお手拭を頼んだ。
朋茗はまだ困惑しながらもにお手拭を渡す。
「ありがとうございます」
「あ、いえ」
「...ところで、この界隈での妖怪の動向はどうなってるんだ?」
三蔵の質問に宿の店主は暗い顔をして答えた。
「...どうもこうもないがね。ちょっと前までは、この町でも妖怪が普通に暮らしてたさ。だがある日を境に、みんなどこかへ消えちまった。町の人間を10人ほど喰い散らかしてな」
「......あたし妖怪なんて嫌い」
「朋茗!」
「だって、人間食べるのよ!?ただの化け物じゃない!人間と妖怪が一緒に暮らすなんて無理よッ!!町のみんなもそう言ってる!」
「朋茗!!」
叫びだした朋茗をと悟空がじっと見つめ、他の3人も黙って朋茗の言うことを聞いていた。
「...すまんね。妖怪に喰われた被害者の中に、この娘の友達がいたもんだから...」
(?、取り乱してすまないと言うのとは、少し感じが違うような...)
宿の主人の言葉に違和感を感じが内心首を傾げたとき、八戒がテーブルに箸を置いた。
「...さてと、ごちそうさまでした。この料理全部、朋茗さんが作って下さったんですね?」
「あ...はい」
「え、マジで?すげーじゃん!!こんなウマイ物、久々に食ったよ、俺。さんきゅなッ」
「とてもおいしかったです」
「...あ、ありがとう...」
食事を終えた5人は宿屋の1室に集まっていた。
「っじゃーん!『おいちょ』だぜ、『おいちょ』!!」
「あ、僕『かぶ』です」
「...私も」
「うわっ!てめーら、何度目だよっ!?」
「私は8度目ですよ」
「いや、そういう意味で言ったんじゃねーから」
「?」
「あはは、コーヒー入れましょうか?」
「手伝います」
2人がコーヒーを持ってテーブルに向かうと、三蔵が椅子に座って何かを考え込んでいた。
「?、三蔵?」
「...三蔵?」
2人の呼びかけに考え込んでいた三蔵がふたりに気づいて顔を上げる。
「コーヒーどうぞ」
「ああ、さんきゅ」
八戒が三蔵の前にカップを置き、も持っていたカップをテーブルに置く。
「...それにしても先ほどの話からすると、人間達は妖怪の存在にかなり不信感を抱いてしまってますね」
「そうだな。『異変』の理由を知らん一般の人間には、妖怪が本性を現した風にしか見えんだろ」
「ま、理解しろっつっても、無理な話だろうがよ」
「悟浄はともかく...僕と悟空はこの妖力制御装置がないと町を歩けませんね」
「...(悟浄はともかく?)この様子だと、正気を保ってる妖怪はかなり少ないでしょうね」
「ああ...」
そう言って三蔵は悟空と悟浄のほうを見る。
と八戒も2人のほうを見ると、2人はまたいつものように取っ組み合いをしていた。
「ありゃ」
「...喧嘩するほど仲が良い...ですか?」
3人は子どもっぽい悟空と大人気ない悟浄のやり取りを呆れた目で眺める。
そのとき窓の外が騒がしいことに気づいた5人が、外に目を向ける。
「ああ、先刻団体客の予約があったって...旅の一座だとよ」
「ひょーv踊り子の姉ちゃん達、イケてんじゃん。俺のベットでも踊ってもらうか?ああ?」
「『ピィー!』教育的指導」
「...八戒、その笛はどこから...」
が八戒の拭いた笛の出所に疑問を投げかけると、八戒はそれを笑顔で誤魔化した。
「で、今夜どーすんの?団体客が入ったから、個室余ってるって朋茗が言ってたぜ」
「...そうだな。俺達はいつ何時、妖怪の不意打ちを食らうか分からん。なるべく寝食共にするのが得策だな...と言いたいところだが、宿屋に来てまで野郎の寝顔は見たくない。解散!!」
三蔵がそう言うと、と八戒以外の3人がぞろぞろと部屋を出て行く。
「予想はしてましたけど...」
「いやあ、皆さん自分に正直ですね。おやすみなさい」
「おやすみなさい、また明日」
「はい、また明日」
八戒に挨拶するとも部屋を出て行った。
夜も深まり宿全体が寝静まっているとき、は部屋の外で動く気配を感じふっと目を覚ました。
気配がの部屋の前で止まり、ゆっくりとドアを開けて部屋の中に入ってきたのを確認すると、ベットから起き上がり侵入者に顔を向けた。
起き上がったに驚いた侵入者の動きが一瞬止まった隙に、は侵入者の背後へとまわり首筋に手刀を叩きつけて気絶させた。
ドサッ!
を縛り上げて人質にするつもりだったらしく、侵入者の横にはロープが落ちていた。
気絶している侵入者を少し呆れた目で見ると、そのロープで侵入者を縛り上げた。
が侵入者を縛り上げている間、隣の三蔵の部屋で物音がしていたが、三蔵なら大丈夫だろうと大して気にせず作業を続ける。
侵入者を縛り上げて邪魔にならないところに放り出すと、は三蔵の部屋へと行くために廊下に出た。
パン!
が廊下に出ると、三蔵の部屋から銃声が聞こえてきた。
その音でやはり三蔵が無事であることを確認して、は三蔵の部屋のドアをノックした。
「三蔵、大丈夫でしたか?」
「ああ」
が部屋の中に入ると、三蔵が妖怪に銃を突きつけていた。
「一応私のところに来た人は縛っておきました」
「そうか」
「...そんな悠長にしていて良いのか?」
「何?」
「各部屋にも刺客を放ってあるんだぜ。貴様らの仲間達も今頃は...」
「フン。それがどうした?」
は目の前の妖怪が三蔵とに話しかけていたにもかかわらず、2人を見ていないことに気付いた。
妖怪が見ている方向に注意を向けると、の耳がわずかな物音を捉えた。
「生憎だが、俺は他人を気にしてやるほど出来た人間じゃ「三蔵!!」
ヒュ!
パシィ!!
「「ッ!?」」
が三蔵に注意を促そうとした瞬間、後ろから糸が伸びてきて2人の手を絡め取った。
「くっ...」
「...っ!朋茗さん!」
2人が振り返ると、天井に巨大な蜘蛛の巣が張られ、その上に上半身が裸の女性が朋茗を腕に抱えて立っていた。
「そうよ...ボウヤ達、他人の心配なんて必要ないわよねェ。貴方達も死ぬんだから!!」
「...人質ってわけか」
「我ら闇蜘蛛一族から逃れられた獲物はいないのよ『玄奘三蔵法師』...大きな獲物がかかったこと、ふふっ」
女の言葉を聞きながら、三蔵は糸を切るために、は糸の強度を確かめるために糸が絡まった腕を引き寄せる。
(天井までの距離が捕捉出来ません...糸を切った後に朋茗を助けられるかは微妙なところですか...)
「無駄な抵抗はおよしなさい。この娘がどうなっても良いの?」
「やめろ、殺すぞ」「やめなさい、殺しますよ」
睨みつけながら言い放った2人に、女はくすりと笑みをこぼした。
「これ以上西へは行かせない。ここからは黄泉の旅路よ。もちろん5人まとめて仲良くね」
あとがき
最遊記第五話終了です。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
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