「『お兄ちゃん』って まさか!」
「紅孩児の...妹ぉ!?」
「ああ、どうりでよく似てるわけですね」
胸を張って言った李厘に、廉以外の4人が驚きを露わにし、廉は予測が確定したことに笑顔を浮かべている。
「...だから死んでね♥」
そう言って李厘は、茶目っ気たっぷりに片目をつぶった。
「嫌です」
「「「「......」」」」
...が、はバッサリと李厘の要求を切り捨てる。
三蔵たち4人の視線がに集まるが、李厘はそれに気づかず、むっと口を曲げて言った。
「む!?我侭なヤツだなァ!」
「『死んで』と言われて、『はい』と答える、他力本願な自殺志願者よりはマシだと思います」
「ん〜?確かに、そっちの方が嫌かも」
「そうでしょう?」
どこか友人たちの会話のような雰囲気になったところで、李厘はハッとして勢いよく顔を左右に振った。
「こんなことで誤魔化されないよ!」
「それは残念です」
実際にそう思ってるのか、演技しているのかは分らないが、は深くゆっくりとため息をつく。
「...とゆーわけでっっ!どっからでもかかってこいっっ!!」
びしっとを指さして言った李厘に、は軽く首を傾げ、他の4人は何とも言えない顔でに視線を向けた。
第二十話 キョウダイ
「どっからって言われてもなァ...」
「さて、どーしたもんでしょう」
「ん〜...ちょっと様子見ますか?」
悟浄と八戒の困惑した声に、も少し困った顔で提案する。
「むっ!オイラが小さいからってバカにしてるなっ?じゃあ、こっちからイクよ!!」
「うあ!!?」
強い踏み込みとともに放たれた拳を悟浄が避ける。
避けられた拳は、大きな音とともに地面に深い穴を開けた。
「なッ...」
「本気じゃなくても、結構破壊力ありますねぇ」
破壊後を見て顔色を悪くする悟空とは対照的に、はのほほんとした声で感想を口にした。
李厘はその様子を見ながら、ボキッと指の関節を鳴らしている。
「悟空、お前行けっっ!サイズが一番近い!」
「なんでだよっ!?子供相手なら八戒かだろ!?」
「私はこのまま避け続けますよ。ちょっと疲れてますし(と言うか、こっちに気を引いていれば良いだけですし)」
「それを言うなら、女性の扱いは悟浄でしょう」
「あんなの女じゃねェよ」
「さすがに、それは失礼じゃないですか?」
「でやッ!」
あーだこーだと言いながら、相手を押し付け合っている所へ、李厘が攻撃を仕掛ける。
「ちょ...ちょっと待て!!」
「待たないモンね♥悪い奴はみんな死んじゃえ!!」
(『悪い奴』ねぇ...やっぱり外見と、精神年齢は比例してるようですね)
3人がアタフタする中そんなことを考えながら相手の動きを見ていると、李厘の動きを封じるための腕が後ろから伸びてきていた。
「捕獲完了」
「にゃっ?うにゃにゃっ?」
「ご苦労様です」
ひょいっと李厘の襟首を掴んで持ち上げている三蔵に、はにっこりと笑って労わりの言葉をかける。
「降ろせよ っっ!タレ目!ハゲっ!!」
「...殺すぞマジで。誰がハゲだっつーの」
「何だか悟空にも似てますねぇ」
「おォっ!さすが三蔵。つーか、もしかしてってお取り役か?」
「特に相談した訳じゃないんでしょうが、息の合ったコンビプレーでしたね。それに、さすが2人とも小動物の扱いはお手の物ですね!!」
「誰が小動物だよっ!ってか、俺はそいつに似てねえ!」
さっきまでの緊張感がきれいさっぱり無くなりかけた頃、捕まえられている李厘が怒声を上げる。
「も っっ!オイラ超ムカついたっ!!ゆるさないぞぉっ」
「食うか?」
「食べる。」
「桃まんもありますが」
「ちょーだい」
「あ、手慣づけた。プロだ」
三蔵が肉まんを、が桃まんを見せると、あっさり敵意が引っ込んだ。
「...おや?」
「ん?何かいんの?」
「 そこまでだ」
センサーの反応に気づいていたが、あえて今気付いたような反応をするにつられて、4人もの見ている建物の屋根へと目を移す。
そこには紅孩児と八百鼡、そしてもうひとり、紅孩児より背が高く、筋骨隆々の男がたちを見下ろしていた。
「また会ったな、三蔵一行。我が妹...返してもらいに来た」
「紅孩児...!!」
驚きの声を上げ、武器を構えるより先に...
「〜〜〜〜あのなァッ!人を誘拐犯よばわりすんじゃねェよ!こいつから来たんだ!こいつから!!大体、毎回毎回高いとこから登場すんなっつの!」
「てめぇ、妹をどーゆー育て方してやがるんだ!?」
「これじゃあ、女版悟空ですよ〜〜」
「......(呆れ)」
「あはは...」
言葉と態度で不満が炸裂した。
「何か...反感かってるみたいですケド」
「返す言葉もねえなあ、オイ」
「......」
そんな微妙な雰囲気をものともせず、李厘が紅孩児に向かって手を上げて言った。
「やっほ お兄ちゃん♥」
「『やっほー』じゃ無いわ馬鹿者!!」
さらに兄弟の会話が続きそうな時、三蔵が李厘を掴んでいた手をパッと放した。
「うにゃ」
「いーよ返すよ。別にいらねえから」
「三蔵、せめて言ってから放したほうが良かったのでは?」
「別にかまわねーだろ」
地面に落ちた李厘について話す2人よりさらに前に、悟空が出る。
「おいっ、紅孩児!!まさか妹引き取ってまたズラかるつもりじゃね だろうな!?この間の決着つけさせろよ!」
「 フン、いいだろう。この際だ、俺一人に手こずる貴様らが、4対4で勝てると言うならな...!!」
紅孩児の言葉に首を傾げると同時、李厘が勢いよく起き上がる。
「4対4?...私抜かされているんでしょうか?.........邪魔にならないところに行きましょう」
「やたッ♥オイラも混ざるッ!くらえっっタレ目ぼーずッ!!さっきのお返しだいッ♥」
三蔵の頭めがけて放たれた膝蹴りを、腕でガードすると、すぐに攻撃へと移る。
「あのなぁ...俺は、飼育係じゃねぇんだよ!!」
三蔵の拳が鳩尾に入り、李厘が腹を抱えてうずくまる。
「いっった い!!死んじゃう〜〜〜〜〜ぅ!え んっっ」
「...で、いつまで下手くそな演技を続ける気だ?」
「バレバレ?」
面白くもなさそうに見下ろす三蔵に、李厘はちらりと舌を出して見せる。
一方、八戒の前に立ったのは、以前戦った八百鼡だった。
「あなたは...」
「先日はお見苦しいところをお見せ致しました!」
「や、ご丁寧にどうも」
お互いにぺこりと頭を下げる。
「改めて手合わせ願えますか、猪八戒殿?これからは、生きてあの方の役に立とうと思います」
「 良い心掛けですね。も喜びますよ」
「ええ、殿にも伝えたいと思います」
そんな会話を少し離れたところで聞いていたも、ふんわりとした笑みを浮かべていたが、残念ながらそれを見たのはに抱かれているジープだけだった。
そして、先手必勝とばかりに相手の腕に鎖を絡ませると、悟浄は挑発とも取れる笑みを口元に浮かべた。
「俺の相手はあんたか?オッサン」
「...沙、悟浄...か」
「何?」
男はそう呟くと、ふっと笑った。
訝しがる悟浄に体を向けて、さらに言う。
「実際に会うまでは半信半疑だったが、どうやら間違いねェらしいな...よォ」
その男の顔を正面から見た悟浄は、眼を見開き、思わず口から笑い声がこぼれ、煙草が落ちる。
「はは... マジで?」
最後に男会った時が脳裏に過ぎり、煙草の落ちる速度が妙に遅く感じる。
「な...んで、あんたがここに出てくんだよ...!?(生きて...たんだな、やっぱ)」
「自己紹介が遅れたな。俺は紅孩児直属の剣客、『独角ジ』って男だ」
男はそう言いながら、左手を上にかざすと、悟浄の武器と同じように何もないところから鍔の部分に眼球のついた青竜刀が現われた。
その青竜刀の刃を鎖に当て、切断する。
「 !」
「...ま、そーゆーワケなんだけどよ。生憎、自分で決めた生きざまは譲れない性分なんだわ。悪ィな」
「くっ......ははッ!!気が合うねぇ。俺もそーなのよ」
悟浄はそう言って、最初とは違う笑みと浮かべた。
あとがき
最遊記第二十話終了です。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
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