三蔵一行が訪れた町は、さまざまな店から声が上がり賑わいを見せていた。
「うわぁー、店がいっぱいだっっ」
「人もいっぱいですね」
5人はざわめきがあふれる町の通りを進んだ。
「こんなにぎやかな町は久しぶりだな」
「ああ」
「妖怪の影響をあまり受けていないんでしょうね」
先を進んでいた悟空が笑顔で振り返る。
「三蔵!!あれ食いたい!」
「却下」
肉まんを指さしていった悟空の言葉を、一言で切り捨てた。
「何でだよっ!!イジワル坊主!!!タレ目!!ハゲ!!」
「聞こえんな。誰がハゲだ」
三蔵は悟空の悪態を気にも留めないが、泣き付かれたと八戒は困ったような顔になった。
「まあまあ...いいじゃないですか?肉まんくらい」
「...私のカードで買ってきましょうか?」
「甘やかすと悪い癖がつくぞ、2人とも...お前、カードなんか持ってたか?」
「この前届いたんです(正確には届けてもらったんですが)。お寺に行く前に、換金できるものを渡して(観世音さんに)お願いしていたので」
「...だったらなおさら、自分のものを買うのに使え」
「めっきり主婦だねェ」
「死ぬか?」
ポンと肩に手を置いてしみじみと言う悟浄に、三蔵は冷たい声で言った。
「もしもし、そこ行くお兄さん達」
ふと道の横にいた者から声がかかった。
「...?(生体反応がない?)」
「旅の人でしょ?この清一色が、旅路の先行きを占ってあげますよ」
「ケッ、興味ねぇよ。占いなんて」
「第一、麻雀の役を通り名にしてる易者なんざ信用度低いな」
「占いにお金をかけるくらいなら、悟空に肉まんを買います」
「え?買ってくれんの?」
「...たとえ話だったんですが」
目を輝かせて言う悟空に、少し呆れながら言葉を返す。
「そっけないなぁ...ま、いいや。教えてあげましょう。死相が出てますよ、皆さん。クククク...怖いですねぇ...」
((((!!こいつ...!?))))
(『死なない私』に死相が見える時点でダメなのでは?)
「死に近いところに生きているでしょう?我には分かる。特に そう、貴方だ」
「!」
清一色はそう言いながら八戒を指さした。
「そんな偽善者面で誤魔化してるけど、罪人の目をしてるじゃないですか」
「......」
「腹に傷を持っていますね?それが貴方の罪の証だ。償いきれない程の...」
その言葉に悟空が切れた。
「 ッ何者だてめぇ!?ケンカ売ってんのか!?」
「おっと」
勢いよく叩かれた机に合わせて、麻雀牌が音を立てた。
「我はただの易者ですよ。信用度の低い...ね」
「信用度が低いではなく、無いの間違いでは?」
「手厳しい方ですね。でも、我の牌は運命を語るんです...ほら...『災いは汝らとともに』 」
『滅』と刻まれた牌を見せながら、清一色は真意の読めない笑みを浮かべる。
「ま、信じないのは勝手ですけどね...」
「それどーゆう...」
ドォオン
「きゃあぁあぁ!!」
悟空が問い詰めようとしたとき、破壊音とともに巨大な蟹のような黒い物が、建物を壊しながらたちの前に姿を現した。
第十九話 黒い式神
「ぎゃあああ!!」
「うわあぁ!化け物だ!!」
町の人々は叫び声をあげながら逃げ惑う。
「な...何だありゃあ...!?」
「妖気はありませんが......あ」
「 !!」
5人の視線がそちらに向けられている間に、清一色は姿を消していた。
「まさかアレも牛魔王の刺客かよ!?」
「いや。それは分からんが、奴の胸元の梵字...あれは『式神』の印だ」
「式神!?あんなでかいのが!?」
「そう言えば、生体反応もありませんね...(あれ?じゃあ、さっきの人も式神なんでしょうか?)」
が首を傾げている間にも、式神は町を破壊し続けている。
「きゃああぁあ!!」
「あ...」
大きな瓦礫がいたるところに降り注ぎ、何人もの町の人たちを押しつぶした。
「げ...ヒデぇ...!」
「クソッ...誰の使いか知らねーけどよ、いい気になってンじゃねーぞ!!」
そう言って悟浄は、錫杖の先についた三日月形の刃を飛ばした。
だが、それは相手に傷をつけることもできず、硬い殻によって弾かれた。
「!!なッ...!!」
「...さすが甲殻類モドキですね(関節を狙うべきでしょうか?)」
「感心してる場合かよ!?」
「〜ちょっと待て!!あんな頑丈な式神がいるのかよ!?」
「何で出来てやがるんだ...?」
その時、式神の足の1本が、たちの傍にあった店を破壊した。
「危ない...よけて!!」
降ってきた巨大な瓦礫を、八戒の声で慌ててよけた。
「〜〜〜〜〜〜っぶね ッ!!死ぬかと思ったっっマジで...」
「八戒、ありがとうございます!」
尻もちをついて叫ぶ悟空の横で、が声をかけてくれた八戒に礼を言う。
「しっかしよォ、デカくて、硬くて、黒いなんて、立派だねェ、ダンナ♥」
「...お前よくこの状況で下ネタ吐けるな」
「え...?下ネタなんですか?ゴキブリのことじゃなくて?」
中指を立てて言った悟浄の言葉に、がそう返すと、一瞬周り(悟空は除く)が何とも言えない顔をした。
「三蔵!魔天経文を...!」
「やっぱそれっきゃねえか 悟空!!奴の注意をそらしとけ!」
「合点♥」
そう言いながら如意棒を出すと、悟空は式神に向かって駆け出した。
「相手してやるぜカニ星人!!」
悟空が勢いよく如意棒を叩きつけると、式神の注意が悟空に向いた。
続けて攻撃を加えようとしたとき、悟空の足元でニャアーという小さな鳴き声がした。
悟空がふっと下を見ると、足元に1匹の猫がすり寄って来ていた。
「悟空!!」
「危 ...ッ」
注意を足元に向けている悟空にと八戒が声をかけようとしたとき、ひとつの影が屋根の上から飛び出した。
その影は、式神の間合いに入ると、強烈な一撃を拳で加え、地面に倒してしまった。
「 !な...」
「何が起こったンだ?」
「屋根の上から飛んだ方が、殴って倒したようですが...」
呆然とその様子を見ている5人にも、泡を吹いて倒れている式神にも構うことなく、その影は髪についた鈴を鳴らしながら、猫のもとへと足を進める。
「にゃ?」
「危なかったね、お前...あはは!くすぐったいって!」
その猫を抱き上げて笑っている少女に、悟浄が思わず呟いた。
「お...女の子ォ!?」
「今の...この娘が?」
「...何だか似てるような...?」
「 あ!」
猫を下して、すぐ傍にいる5人に気づいた少女が声を上げた。
「『三蔵いっこお』やっとめっけ!!」
「え?」
「牛魔王の刺客さんですか?」
「オイラは李厘!!紅孩児お兄ちゃんの代わりに、君たちをやっつけに来たよっっ」
「『お兄ちゃん』って まさか!」
「紅孩児の...妹ぉ!?」
「ああ、どうりでよく似てるわけですね」
胸を張って言った李厘に、以外の4人が驚きを露わにし、は予測が確定したことに笑顔を浮かべている。
「...だから死んでね♥」
そう言って李厘は、茶目っ気たっぷりに片目をつぶった。
あとがき
最遊記第十九話終了です。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
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