厚く黒い雲が空を覆い、ゴロゴロと音が鳴る中、5人はジープを西へと走らせていた。
「...あーあ。ひと雨来るな、こりゃあ」
「宿か何かにつくまで間に合うかな?」
「賭けるか?無理な方に千円」
「俺も」
「オレもっ」
「同じく」
「だから...賭けになってませんって...」
そんなことを言いながら進んでいると、悟空が辺りを見回し始めた。
「どうした悟空?ハラでも減ったか?」
「ん...いや...なんかさっきから変なニオイがする」
「そう言えば...」
「!?ちょっと...皆!あれを...!!」
前方にあるものに気付いた八戒が、ジープを止めた。
「 おい、何だよコレ...」
「妖怪の死体ですね...腐敗が始まっているようですが、外傷はありませんね(お札?書いてある文字は...『六界死屍』?『天道是非』?仏教用語でしょうか?)
「腐敗って...そんなはっきり言うなよな」
「?」
なぜダメなのか分かっていないが首を傾げる。
「...とりあえず、町に向かいましょう。もしかしたら、これが何なのか知っているかもしれません」
「ああ」
第十三話 六道
宿の外では予想通り降りだした雨が音を響かせている。
「...やっぱり、あと一歩で間に合いませんでしたね」
「へくしっ!」
「ジープ、体を拭きますから、こっちに来てください」
「ピィー」
「あ、光った、光った!」
「近いなこりゃ」
「ほら、悟空もちゃんと乾かさないとだめですよ」
「むー」
ジープを拭いているの横で、八戒が水を滴らせている悟空の髪を拭く。
「温かいお茶お持ちしましたー」
「あ、ども」
「ありがとうございます」
宿の従業員の女性が人数分のお茶を持ってくると、声をかけながら湯のみをテーブルに置いた。
「災難でしたねェ。急に空、荒れちゃって。でも、しばらく続くみたいですよ。雨」
「げー、マジかよ...」
「 ちょっと、ここに来る途中妖怪の死体と大量に出くわしたんだが...」
「ああ。それはきっと六道様だわ」
「『六道』...?」
「誰ソレ?」
「...どこかのお寺の方ですか?」
女性の言葉に首を傾げると、女性はさらに説明を加えた。
「お客さんたちは東から来たからご存じないでしょうけど、最近この辺では『救世主』とまで呼ばれているお坊さんです。妖怪を退治するため、各地を転々としているそうで、姿を見た者は少ないんですけど...なんでも体中に札を張った大男で、彼の呪符にかかれば、いかなる妖怪も滅するという凄まじい力を持った法力僧だそうです」
「札...そう言えば、さっき見た妖怪たちの死体にも札が 」
「姿を見た人が少ないなら、もしかして『六道』とという呼び名の由来は、お札に書かれてた字ですか?」
「さあ?そこまでは...」
「そうですか」
「.........」
が頷いたあと前に顔を戻すと、三蔵が何かを考え込んでいた。
がどうしたのかと聞こうとしたとき、悟浄が女性を口説き始めた声が聞こえてきた。
「 へえ、住み込みで働いてるんだ。部屋どこ?教えてよ」
「えー?どうしようかなあー」
「そとも雨だし、俺たちも濡れようぜ」
「おい!セクハラ河童!」
三蔵はどこからともなく取り出したハリセンを構え、不機嫌な声で言った。
「何だよッ!俺が何しようと関係ねェだろ!?大体てめぇ、そのハリセンいつもどこから出してくるんだよ!?」
「この前の紅孩児の一件から、個人行動は控えろと言ったばかりだろうが!!」
「お茶冷めますよー」
「ん?ジープもお茶飲みますか?」
「ピー」
「紅凱児っ!?あいつ今度いつ来んのかなあ?」
「うーん...やっぱり一番上にいると雑用も多そうですから、しばらくは無理じゃないですかねぇ?」
「ダチかお前ら...」
わくわくとした顔で聞いてくる悟空に、も敵を語るにしては穏やか過ぎる調子で返すと、悟浄が呆れながら言った。
「とにかく...雨が上がるまではここで休むことにしましょう。うちのジープはホロがついてませんし」
「ああ、そうだな...」
「でも、ホロがついていても、雨の中を走ったらジープが風邪をひきますよ」
「あ、そう言えばそうですね」
2人そろってのほほんとした会話を交わしていたが、三蔵はそれを聞き流しながら、降り続ける雨を眺めていた。
夜も深まり、誰もが眠りについているころ、はふっと意識を浮上させた。
「............ッ...」
外から聞こえてくる雨音に消されそうな小さな声を耳にしたは、静かに体を起こし、声の聞こえた方に顔を向けた。
隣では、と同じように、声に気付いた八戒が体を起こしている。
2人が視線を向けた先では、三蔵がひどくうなされていた。
と八戒はお互いに視線を合わせると、ベットから下りた。
「 ッ!!」
2人がベットから下りて大した時間もたたずに、三蔵が目を覚ました。
三蔵は荒い息を、起き上がって整えようとした。
「...大丈夫ですか?」
「八戒」
「ひどくうなされていましたから」
「そうか...すまない」
「いいえ」
八戒が水を差しだしながら言うと、三蔵はだいぶ落ち着いた声で返した。
「...三蔵?」
「も起こしたか?」
「いえ、少し肌寒くて...三蔵もタオル使いますか?お湯で温めたものですが」
「ああ」
が差し出した温かいタオルを肌にあてると、三蔵は無意識に深く息を吐いた。
「雨、止みませんね」
「...ああ」
「実は、僕も駄目なんです。雨の夜は」
「 そうだったな」
は八戒が『僕も』と言ったことに気づいていたが、特に反応は示さなかった。
パリン
ガシャン
「きゃあああ!!」
突然聞こえてきたガラスが割れる音と悲鳴に、3人の目が一斉にドアへと向けられ、まだ寝ていた2人も起きる。
「 !!何だ!?」
「......妖気が」
「行ってみましょう」
たちが部屋のドアを開けると、廊下を走ってきた女性が声をあげた。
「た...助けてェ!!」
「どうした!?」
「調理場に...妖怪が...!!」
女性に部屋の中に入っているように言うと、5人は素早く服を身につけ、調理場へと走った。
悟浄が勢いよく調理場のドアを開けて見たのは、床に倒れた男性と、その腸(はらわた)を引きずり出して口に運ぶ妖怪の姿。
「調理場はなァ!モノ食う所じゃねェんだよ!!」
その言葉とともに繰り出された悟浄の蹴りが、妖怪を勢いよく吹っ飛ばす。
「「悟浄後ろにも...!!」」
「 !」
「おらァ!!」
「がっ」
長い爪で悟浄を引き裂こうとした妖怪は、悟空に殴り飛ばされ、気絶した。
「寝起きいいじゃんかよ悟空ッ」
「たまにわねッ!さてとコイツらどーす...」
ヒュッ
悟空がどうするか尋ねようとしたとき、その言葉を遮るように、何枚ものが妖怪たちに向かって投げられた。
「!」
『オン』
「ぎゃあぁあああ!!」
妖怪たちに張り付いた札は、焼けるような音ともにその効果を発揮した。
「な...何だァ!?」
シャン
悟浄たちが呆然としたまま妖怪たちを見やるなか、はわずかに聞こえてきた鈴の音のようなものに気付き、そちらへと顔を向けた。
『ダマカラシャダソワワタヤ』
シャン!
「...(錫杖...僧?)」
『ウンタラタカンマン...』
聞こえてきた声に、三蔵は驚いたように目を見開き、声を上げている人物を見た。
目の前にいる人物は顔や服のいたるところに札を張り、身の丈よりも大きな錫杖を持ち、息絶えた妖怪たちを見下ろしていた。
「...我が名は六道...この世の妖怪は1匹残らず俺が滅する」
あとがき
最遊記第十三話終了です。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
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