紅孩児との接触後、宿屋に戻ってきた5人は・三蔵・八戒、悟空と悟浄に別れて休息をとっていた。

思った以上に血を流していたは、傷を塞いでから既に3時間以上眠り続けている。

の寝息がかすかに聞こえて来る部屋の中で、八戒は窓から暗くなった外を眺めていた。

「今夜は冷えるな」

「三蔵」

三蔵は八戒に声をかけると、八戒の横に来て窓枠に背を預けた。

「...僕らが出会ってから、もう3年経つんですねぇ」

「何だ、あれからまだ3年か?呆れるほどに長く感じるけどな...もお良いってくらい」

「あはは、言われてみれば...ちょっといろいろ思い出しちゃったんで、別に忘れてた訳じゃないんですけどね」

「...八戒、お前がもし『あの時の事』に復讐という形ででも決着付けたいと思っているなら、無理にこの旅に付き合うこともない。お前はお前の思う道を進めばいいんだ」

「そうですね...だけど、今ここにいるのもちゃんと僕の意志です。それに...」


   ばん!


「さんぞーっ!やっぱ俺、こっちの部屋がいいッ!!」


八戒の話の途中に、悟空が勢いよくドアを開けて部屋なかに入ってきた。

「コイツ寝てる間に足の裏にラクガキしやがったんだぜ!?」

「ンだとォ、こっちゃテメエのイビキがうるさくて眠れねーんだよ!!」


大声で怒鳴り合いを始めた2人に、三蔵がギリッとこぶしを握り締める。

「るせんだよっ!!二日酔いに響くじゃねーか!黙らせるぞテメエら!!」

「「うわあ、八つ当たりだーッ」

「...やっぱり、『保父さん』がいたほうが育児は楽でしょ『保護者さん』?」

「......まったくだ」

八戒の言葉に痛む頭を押さえながら三蔵が頷いた。

そのとき三蔵から離れて行った2人が、相変わらず眠っているに気付く。

「あれ?のヤツまだ寝てンの?」

「ええ...悟浄起こしてもらえますか?」

「は?別に寝かせときゃいいじゃん」

「寝かせといてあげたいんですけど...まだお風呂に入ってないんですよ。お酒のにおいもしますし...」

「まあ、いいけどよ...、起きろよ」

悟浄はに声を掛けながら、ぺしぺしと頬を叩いた。

「おーい」

「......みゅ......」

「ホッペタ引っ張っちまうぞー」

「...にゅぅ.........」

「うわっ!すんげぇ柔けえ」

「...随分伸びるな」

「悟浄!俺にもやらせてッ!」

「あんまり力を入れると赤くなっちゃいますよ」

「.........にょ?」

「あ、起きた」

「............」

「「「「......」」」」

はボーっとした顔で、焦点の合わない目を八戒と悟浄がいるところへと向ける。

...ただいまアサヒさん

「「「「!!」」」」

何かを呟いて安心しきった柔らかい笑みを八戒と悟浄に見せると、パタンとベットに倒れこんで再び寝息をたて始めた。

「.........今の...何?」

「............さあ...」

「...ズリィ」

「「は?」」

「何で2人のほう見てあんな顔で笑うんだよッ!ズルイじゃんか!!」

「ンなこと言ったって...なあ?」

「...心当たりとかねぇのか?」

「あれ?三蔵も気になるんですか?」

「...また騒がれたら、頭がイテェだろが...」

「心当たり...心当たりねぇ............あ...」

悟浄の声に三人が反応し、3人の視線が悟浄に集中する。

「悟浄、心当たりあるんですか?」

「あー、あることはあるんだけどよォ...俺が言って良いもんなのか分かんねーしなぁ」

「いいじゃん!もったいぶらずに教えろよッ!!」

「うーん......やっぱ、ダメだわ」

「ええーーーーーーっ!!!」

「うるせえ!叫ぶなっつてんだろッ!!」

「だってさー」

「あー、明日にでもに聞け...あっさり教えてくれると思うけどな」

「あっさり教えてくれるんなら、悟浄が話してくれても良いじゃん」

「俺だって詳しく聞いたわけじゃねーんだよっ」

文句を言う悟空に悟浄が怒鳴ると、いつものように八戒が諌める。

「まあまあ、2人とも落ち着いて...三蔵、明日どうしますか?二日酔いが酷いならもう一泊しましょうか?」

「あぁ?」

もここまで起きないなんて珍しいですし...よっぽど疲れたんですねぇ」

「......もう一泊だけだ」

「ええ、分かってますv」

「ヤリィ!明日起きたらすぐ聞くからな!」

「...俺に言ってどうすんだよ、この猿」

「猿ってゆーなッ!!!」

「じゃあバカか!?バカだな!?」

「んだと、この河童ァ!!」

「うるせえ!!!さっさと出てけ!!!」

「「ぎゃあっ!!」」

「あはは、おやすみなさーい」









   第十二話   世界の話









翌日5人は昼近くまで眠っていて、1番早く起きたは時計をまじまじと確認して首を傾げた。

「...全員で寝坊...ですか?...あ、ジープは...?」

はまだ寝ている二人を起こさないようにそっと部屋を出ると、ジープの止めてある場所へと向かった。

「ジープ?」

「ピィーッ」

「はい、おはようございます(お昼近いですけど)...今日は全員寝坊したみたいなんですよ」

「ピーーー」

「ええ、まだ皆さん寝てましたけど、そろそろ起きてくると思いますよ」

「おーーーい!ーーーーーーっ!!」

「...ね?」

「キュー...」

がジープと話していると、宿の扉を勢いよく開けて悟空が走ってきた。

「メシだってさっ!」

「分かりました。ジープの分は後で持ってきますね」

「ピィー」

はジープに声をかけると、悟空と一緒に宿の中へ戻っていった。






部屋へと戻る途中、悟空はを何度も横目に見てそわそわと落ち着きがなかった。

はそんな悟空の様子に気づいて首を傾げたが、さすがに悟空も通路で話すのはまずいと思ったのか言葉を濁していた。

二人が部屋に戻ると、三蔵は煙草を咥えながら新聞に目を通し、八戒は人数分のお茶を入れていた。

「三蔵、八戒、おはようございます」

「...ああ」

「おはようございます。今悟浄が朝食を買いに行ってますから、もう少し待って下さいね」

「はい...出発は昼過ぎですか?」

「あ、言ってませんでしたね。出発は明日になったんですよ。昨日は結構疲れましたからねぇ」

「昨日...紅孩児さんと八百鼡さんですか?」

「あはは、それもあるんですけど...は二日酔いになってませんか?」

「ええ、私はお酒を飲んでも酔いませんから」

「...うわぁ、やっぱ八戒の同類かよ」

「おや、おかえりなさい」

「おかえりなさい、悟浄。同類って...何がですか?」

紙袋を両手に抱えて帰ってきた悟浄に、が首を傾げる。

「何って、いくら飲んでも酔わないヤツってことだよ」

「嫌ですねぇ、僕だって少しは酔ってましたよ?」

「...疑問系で言ってくる時点で信じらんねーよ」

「私の場合は八戒とは違いますよ。飲んだらすぐに水に分解されますから、酔うという感覚が分かりませんし...」

「うわっ!もったいねー!!」

「...友人達にも同じことを言われました」

悟浄の驚いた声に苦笑しながら言ったに、黙って聞いていた悟空がその言葉に勢いよく反応した。

「なあ!そいつらって昨日のに関係あんのかッ!?」

「......は?」

「...それじゃ分かんねーだろうがバカ猿」

「説明もろくに出来ねぇのか...」

「何だよ2人ともっ!!!」

「まあまあ、がいきなりのことに混乱してますから...えーと、は昨日の夜のこと覚えてますか?」

「夜?...紅孩児さんたちと会った後ですか?すぐに寝てしまいましたよね?」

「ええ、それで1度僕達が起こしたんですけど覚えてますか?」

「...ああ、音声記録としては残ってますけど...映像の方はぼやけてますね」

「......それって覚えてんの?覚えてねーの?」

「一応、覚えてる方に分類されると思います」

「じゃあさっ!そのとき何て言ったんだ!?何かすっげぇ安心したって顔で笑ってたけど!」

「えーと...『...ただいまアサヒさん』ですね」

「...誰?」

「あれ?知りませんでしたっけ?私の母ですよ」

「ふーん.........あれ?」

「「...は?」」

当たり前のように言ったためにの言葉を聞き流しそうになった悟空と、2人が話すのを聞いていた三蔵と八戒が疑問を顔中に浮かべてを見る。

「なあ...ってロボットじゃなかったっけ?...ロボットも母親から生まれんのか?」

「?、そういう事例は確認されてませんけど?」

「だって今...」

「...育ての親って意味だとよ」

「悟浄は知ってたんですか?」

「ああ、俺のことを話したときにから聞いた」

「じゃあ、何で八戒と悟浄を見て笑ったんだ?」

「映像がぼやけてたせいで、アサヒさんかと思ったんですよ...てっきり夢でも見てるのかと思ったんですけど...」

「...2人とも男じゃん」

「んー、でも髪が悟浄と同じ赤毛で、目が八戒みたいな緑色なんですよ」

「へぇー...」

の言葉に頷いていた悟空が、急に不機嫌な顔になる。

「?、どうかしましたか?」

「...やっぱ、は帰りたいんだよな?」

「あ?何だよいきなり...」

「だって、さっき『ただいま』つったじゃん!...だから...」

「私、いつでも帰れますけど?」

「「「「...はぁ?」」」」

「元々この世界にも自分で移動して来ましたし、1回の移動に半年くらい時間が必要ですけど、自由に行き来できますよ」

「...えーと、それなら何故僕達と旅をしてるんですか?」

「ここの前の世界で、牛魔王の蘇生実験の関係者に狙われたって説明したでしょう?異世界にいても狙われるんなら、サクッと元を断ったほうが楽じゃないですか」

の言葉に悟空を悟浄はポカンと口を開け、八戒も呆気にとられたようにを見つめる。

の話を黙って聞いていた三蔵は、先ほどのの言葉に違和感を覚えて疑問を口にする。

「...『前の世界』ってのはどういうことだ?普通は『元の世界』じゃねぇのか?」

「あれ?それも言ってませんでしたっけ?」

「...それもって?」

「自力での移動はこの世界が初めてですけど、他の世界には事故でいくつか行ったことがあるんですよ」

「......何つーか...」

「波乱万丈って感じですねぇ」

「そこまで波乱に満ちては...............いるのかなぁ?」

が今までのことを思い出しながら首を捻ったとき、部屋の中に大きな腹の音が鳴り響く。

「...腹減った」

「話に夢中になってしまいましたねぇ。食べながら話しましょうか?」

「おう!メシvメシv」

「あ、悟空ちょっと待ってください」

「ええーーーーーーーっ!」

「うるせえっ!」


   スパーン!!


「いってえっ!!」

三蔵にハリセンで殴られて痛がる悟空の横で、が悟浄の買ってきたものを一つ一つ確認していく。

「食べても大丈夫ですよ」

「いったい何なわけ?」

「何って...毒の確認ですけど?」

「毒って...」

「昨日の夕食に入っていたので、念のために」

「「「「............」」」」

「?、どうかしましたか?」

「あー...いろいろ言いたいことはあるんだが...」

「...とりあえず、ご飯にしましょうか?」

「......そうだな」

の言葉にいろいろ言いたいことを飲み込んで、4人が席について食事を取り始めると、も首をかしげながら悟浄が買って来た食事へと手を伸ばす。

「昨日って...やっぱ、あの姉ちゃんだよな?」

「はい、運ばれてきた全ての料理に入っていましたよ。料理に入ってたのは致死量の無味無臭の毒でしたし、睡眠薬も副作用が出ないように調合されてましたから、かなり腕のある方なんでしょうねぇ」

「無味無臭って...そんなのでも分かるんですか?」

「ええ、シルバさん...友人の家に行くと必ず毒入りのものが出てきましたから、どんなものか位は」

「...今の、僕の聞き間違いでしょうか?」

「いや...おそらく俺も同じように聞こえた...」

「お前、その友人に恨まれてた...とか?」

「いいえ、1番仲の良い友人ですけど...ああ、そう言えば世界が違いましたね」

「...のいた世界じゃ、毒入りのヤツを食べんのが普通なわけ?」

「一般のお宅では食べませよ。友人の家は有名な暗殺一家だったので、毒に慣れさせるために食事には毒が入っているんですよ。懐かしいですねぇ、友人や友人の子供たちといっしょに暗殺術を学んだり、拷問を受けたりしたものです」

「「「「オイッ!!」」」

「?、どうかしましたか?」

「何か...話を聞くほど混乱してくんだけど...」

「奇遇ですねぇ...僕もですよ」

「でも聞いとかねーと、余計気になってくるんだけど...」

「.........とりあえず、お前がいた世界とそこでどんなことしてたか簡単に説明しろ...お前らも話しを途中で遮るな。後でまとめて言え」

の話に疲れたようにこぼす3人に、三蔵がため息をつきながら提案すると3人はそれに微妙な表情で頷き、は4人の様子を特に気にすることもなく話し始めた。

「最初にいた世界は、私が作られた世界ですね。軍のスパイ用機体として作られたんですけど、擬似的な感情を持ってしまったので、廃棄処分されることになったんですよ」

「なっ!何だよそ...もがっ」

「質問はあとにして下さいね?...続けてください」

「廃棄処分になる寸前に先ほど言った母...アサヒさんのいる世界に移動して拾われました。その後アサヒさんと共に暮らしながら、師匠に念を教えていただいて、ハンター証をとって、情報屋として40年ほど働きました」

「40!!『パン!』いってー!」

「黙ってろ」

「次の世界には、能力の暴走のような形で移動することになったんですけど...そこでアサヒさん以外に家族と呼べる人達に拾われて、義弟たちと錬金術という技術を習得して.........(2人のことを無闇に話すわけにはいかないので省略して...)いろいろなところに旅しました」

「...(何か絶対はしょった!!)」

「その次がセフィーロ...『意思』の力が全てを決め、たった1人の『柱』と呼ばれる人が全てを支える世界でした。今は、そこにいる全ての人達の『意思』で支えられています...その世界にいたときに狙われ、この世界へと移動してきました。後は皆さんが知っての通りです」

「......もう質問しても良いんだよな?」

「ええ、どうぞ」

先ほど三蔵に叩かれた悟空が恐る恐るに尋ねると、はそれに苦笑しながら頷いた。

って今何歳なわけ?」

「そうですね...60歳ほどになりますか...」

「60って...だったらお前の母親も60以上でとっくにババアじゃ...『ぴこん!』って!」

「念を覚えると、老化も防げるんです。アサヒさん(とビスケさんの)見た目は私が拾われた時から変わってません!相変わらずとっても美人...なはずです」

「いってぇな...このマザコンめ」

ってマザコンなのか?」

「そうですよ」

「...自分で言っちゃうんですね」

「?、家族を『大好き』って言うのに何か問題あるんですか?」

「普通はマザコンと言われたら、恥ずかしがったり怒ったりするものですけど...『好き』と言うことに抵抗は無いんですか?」

「だって記憶ってどんどん忘れられていくでしょう?...私は忘れることは出来ませんからずっと覚えてますけど...それに私は半永久的に動き続けますけど、生物って必ず死ぬじゃないですか。限られた時間で、私が大切だって思ってることを知って欲しいし、そう言ったときの嬉しそうな顔を覚えていたいって思うのは普通でしょう?」

「...結構考えてるんだな...」

「まあ、それなりには...」

の話しを聞いて考え込んでいた悟空が、ふっとあることに気づき、の様子を窺いながら言葉を発した。

「でも...がいなくなって20年以上経つなら、とっくに死んだと思われてるんじゃねーの?」

「移動の座標に時間軸も組み込んでますから、(うまくいけば)私がいなくなった次の日に戻れるので大丈夫です」

「へぇー...じゃあ、どれ位こっちにいても大丈夫なんだな!!」

「そうですね」

嬉しそうに言ってくる悟空に、も笑顔で答える。

「他に何か聞きたいことありますか?」

「他に...って言われてもなぁ...」

「何か、聞きたいことがありすぎるって感じなんですよねぇ...」

「あっ!俺、がいた世界のこともっと聞きたいっ!」

「構いませんけど、もう少し後でも良いですか?」

「...もしかして、言い辛いことですか?」

「いえ、ジープにご飯を持っていく約束をしてたので」

「「「.........」」」

思っていたのとまったく違う理由に3人は微妙な顔になり、悟空は相変わらず嬉しそうに頷く。

「じゃあ、後でなっ!よっし!メシvメシvv」

「そういえば珍しく猿がメシに集中してなかったな...」

「猿って言うなっ!エロ河童!!」

「はっ!見た目も中身も充分猿じゃねぇか、このバカ猿!!」

「んだとっ!!」

「うるせえ!黙って食え!!」

「あはは、皆さん元気ですねぇ」

「八戒、ジープの分これで良いですか?」

「ええ、大丈夫ですよ」

「あーっ!!それ俺のだろっ!!」

「悟空、そんなに食べたかったんなら、私の分あげましょうか?」

「えっ!良いの!?」

「このバカ猿っ!!」


   スパーーーン


「いってーーーーっ!!」

「自分より小さいのから取ってんじゃねーよ!お前も自分の分くらいちゃんと食え!!」

「そうそう、食わねーから60にもなってそんなチビなんだぜ?」

「身長は任意で変えられますよ。狙ってる人達に見つからないためとジープに乗るために、今は小さくなってますけど...」

「それでも、食事はちゃんと取らなきゃダメですよ?食べないと体力が続かないでしょう?」

「悟空のほうが消費率高いと思うんですけど...」

「そうだよ!俺、充電式なんだからなっ!」

「お前、少しは反省しろっ!」

「別に良いじゃんかっ!!」

その後、は食事について保父さんと保護者の説教を悟空と一緒に聞くことになり、お腹を空かせたジープに一生懸命謝ることになった。









あとがき

最遊記第十二話終了です。
三蔵一行に色々とばらしてみました。

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

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