「あ、お帰りなさい」

「おう、ただいま」

「あれ?何で、悟浄に抱えられてんの?」

話を終えて旬麗の家に戻ってきた2人を出むかえた悟空が、悟浄の小脇に抱えられているを見て不思議そうな顔をする。

「......さあ?」

「『さあ?』って、自分のことじゃん」

「何か有無を言わせず抱えあげられたので...」

「で?何で悟浄はを抱えてるんですか?」

「ああ、嫌がらせ」

あっさりといわれた理由に、悟空とは首を傾げる。

「嫌がらせ受けるようなこと何かしたのか?」

「んー...『ムカつきました』連発したこと?『私、悟浄が父親なのイヤ』発言?野宿のときに髪を三つ編みにしたこと?悟浄の触角に鈴を付けてみたこと?それとも...」

「おいっ!あれオマエかよッ!!ッつうか、触覚じゃねえ!」

「あはは、そういう時は『何かしましたっけ?』って聞かないと墓穴掘っちゃいますよ」

「あ、そうですね」

「いらん入れ知恵スンナッ!」

「てか、全然嫌がらせになってねぇじゃん」

「言われるまで嫌がらせって気づきませんでしたしね」

「...ぐらいの年になると子ども扱いされるの嫌がるものですけどねぇ」

「見た目はともかく、そこの馬鹿どもより精神的に大人だからだろ」

「ああ、なるほど」

「納得すんなッ!」

「バカ猿と同列に扱うんじゃねぇ!!」

「ンだとこのエロ河童!!」


   パアァン!

   ピッコーン!



「うるせえっ!」


「喧嘩するなら、私を降ろしてからにして下さい」

「あはは、2人とも息の合ったツッコミですねぇ」

八戒の言葉に、が驚いたような顔をして八戒を見る。

「え?ツッコミ?」

「ええ、どうかしましたか?」

「...ツッコミって言われたの初めてです!」

きらきらと目を輝かせながら言うに、4人はなるほどと非常に納得した。






「さて、問題です。おばさんが敷いてくれた布団3組、そして特等席と言わんばかりのベットがひとつ...」

「...まさかこの俺に床で寝ろなどとでも言うつもりか?」

「5日も野宿してたんだぜぇー?俺だってベットがいいッ!」

「誰もヤローとなんざ肩並べて寝たかねーっつの」

「私は布団で良いですよ。1人用のベットで2人より、3人分の布団で4人の方が寝れる面積広いですし」

「じゃあ、は1抜けということでv」

八戒がにそう言ったあと、4人は顔を見合わせる。

「...勝負だな」

「おう!」

はそんな4人をよそに、1番端の布団にジープと一緒に横になる。

「おやすみなさい」

「キュー」

さっさと眠りについたに背を向けて座っていた悟浄がカードを取り出す。

「ンじゃまぁ、カードで一発勝負といこうぜ?4人の中で一番強いカードを引いたやつが、勝ちってこった」

「っしゃ」

4人がそれぞれカードを引いていく。

「...あ、やりィvじゃーんっ!(キング)だぜキング!!俺の勝ちーv」

「ばぁか!数字がデカけりゃいーってモンでもねーぞ。こっちゃ(エース)なのよ!」

「何ィ!?」

「フン...甘いんだよ愚民ども」

三蔵がそう言ってカードを見せると、悟浄はしまったと言う顔をした。

「!!スペードのA...!?くっそー、それがあったか!!」

「あのー、ちょっと」

騒ぐ悟浄に、八戒が手招きしながら声をかける。

JOKER(ジョーカー)なんですけど僕」

八戒がカードを見せると、3人が一瞬固まる。

しかし、ハッと我に返った悟空がベットめがけてダイブする。

「ヤダーーーッ!やっぱ俺ベットがいいーーーっ!!」

「あッてめ!!ガキかおめーはッ!」

「大体カードで勝負すんのが間違いなんだよ!!こいつが勝つのが目に見えてンだろうが!!」

「えー?僕のせーじゃあないですよぉ」

「あ、いででででっ!」

「誰だよJOKER入れた奴ぁ!?」


   ガチャ


「遅くなってごめんなさい。皆さんの服、全部乾きましたから...」

乾いた服を持ってきた旬麗が中に入ると、ベットの上で取っ組み合いをしていた4人を見てドサッと持っていた服を落とした。

「......すー......」

「...あっ、あのっ、スミマセン!!ここに置いておきますねっ『バタン』わっ私何も見てませんから!!...ごゆっくりどうぞ!!」

「「.........」」

慌てて出て行った旬麗に、部屋の中がしばし沈黙で満たされる。

「...........くー......」

「...オイッ!なんか今すっげえ誤解されてねェか!!?」

「え?何?なんで?」

「......あーもーイイよ、死ねお前ら!」

「...すー...」

「あ、じゃあ僕はベットでvおやすみなサーイ」

「あっ!が布団ひとつ占領してる!!」

「げ!マジかよ!!」









    第十話   小さな蜜蜂たち









「ちょっと!!起きとくれよアンタ達!」

「...ん?...おばさま?」

は朝早くに部屋には言ってきた半の怒鳴り声で目を覚ました。

「がごぉ...」

「ぐー...」

「かー...」

「......」

「ねぇ!!」

「?、皆さん、起きないんですか?」

「アンタも起こしとくれ!」

「分かりました」

は隣に寝ていた悟空の体を揺する。

「起きて下さい、悟空」

「......ごぉ...」

「朝ですよー」

「...がぁ...」

「ああ!もうじれったいねっ!!起きろー!!

の起こし方にいらついた半が、悟空の寝ていた敷布団を引っ張って、無理やり布団から放り出した。

「すごいですねぇ」

「〜何だよオバちゃん?まだ6時じゃん」

「それどころじゃないんだよ!旬麗知らないかい?」

「旬麗がどうかしたのか?」

「どこにもいないんだよ!村のウワサ話を聞いちまったみたいで...」

「ウワサ?」

「ああ、昨晩西の森に現れて人間を襲った妖怪が、茲燕によく似ていたって...」

「...まさか旬麗は1人でそこへ...!?」

「急ぎましょう。ジープ先に外へ。おばさま薬箱があったら貸して下さい。旬麗が怪我をしてたら応急処置をしますから」

「ああ、分かった!すぐ持ってくるよ」

「僕らも急いで準備を!」

「ああっ!」

5人は急いで着替えると、半から薬を受け取り、ジープへと乗り込み西の森へと向かった。

「もうちょいスピード出ねぇの!?」

「これでも最速なんですけどね」

「...村人のウワサ通りその妖怪が茲燕だとしたら、なおさら旬麗と会わせる訳にはいかんな」

「...その可能性は低いと思います。狂う前に出て行ってからずっとこの近くにいたとしたら、もっと以前に出てきていたはずです。この近くにいなかったとしても、今更出で来る理由が分かりません」

「紅孩児の手下になっていたという可能性は?」

「可能性はあるでしょうけど、私たちが村に泊まったのは予定外のことです。ここまでタイミングよく出てくるのは、難しいと思います」

「確かに...」

「ンなことどうでも良いって!それより何考えてんだよ旬麗は!?」

「なぁんにも考えちゃねーだろうよ。愛しいヤローのこと以外はな」

「...っ!八戒、道が!」

「っと」


  キキッ!


何本もの木が生い茂り、目の前に続いていた道が途切れていた。

「これ以上車じゃ進めませんね」

「この近くに生態反応は感知できません」

「思ったより深いな、この森は...」

「手分けしよう。悟浄と八戒は向こうへ、俺と悟空はこっちを探す。は...」

「ちょっと裏技使います」

「...何?」

「『小さな蜜蜂《シークレット アイズ》 type bee』」

の言葉で100匹以上のミツバチがいっせいに現れる。

「「「「!!」」」」

「小型のセンサーです。見つけたら全部その場所に飛ばします」

「分かった。いくぞ」

「ああ」

「ジープは目印として、とここにいて下さい」

「キュー...」

八戒と悟浄、三蔵と悟空が二手に分かれて探し始め、もミツバチを四方に散らして探し始める。

(...1〜12 unfind...37〜52 unfind...68〜 74 unfind...58 find!!追われてる!?)

「ジープここにいて下さい!」

「ピィー!」

は旬麗を見つけた瞬間、ジープを飛び降りて森の奥へと駆け込んだ。

「きゃああああ!!」

が森の中へ駆け込んですぐ、旬麗の悲鳴がの耳に届いてきた。

「っ!(もう少し!)っ旬麗さん!!」

「!!君っ!」

旬麗の名前を呼びながら飛び出してきたに、旬麗と妖怪たちの視線が集まる。

は妖怪と旬麗の間に滑り込むようにして割って入ると、旬麗を背に庇い妖怪たちを見据えた。

「...昨日の今日でこんな上玉が2人も手に入るなんざ、ついてるなァオイ」


   ブブブブブブブブ...


「ッ!!何だァ!!?」

妖怪がへと手を伸ばそうとした瞬間、周りから大量のミツバチが飛び出してきて妖怪たちの視界を塞ぐ。

「「旬麗ッ...!」」


   バキャ


「「お?」」

ミツバチの後を追ってきた悟空と悟浄が、旬麗とに1番近かった妖怪の顔面と後頭部に蹴りを入れる。

「「でッ!」」

しかしお互いの存在を確認していなかったため、双方ともバランスを崩して倒れた。

「何やってんだよ、あのバカコンビは」

「今のがクロスカウンターってやつですね!!」

「三蔵、八戒...」

「あ、蜂たちのおかげですぐ来れましたけど、大丈夫でしたか?」

「はい」

「このサル!!前方をよく見て飛び込んでこいよ!!」

「人のこと言えんのか!?ああ!?」

と八戒が無事を確認している横で、悟空と悟浄が足を抱えながら罵り合う。

すると、いきなりのことに呆然としていた妖怪達が我に返って喚きだす。

「...って言うか、何だよてめェら!?」

「突然わいて出やがって...」

妖怪たちの言葉を聞き、三蔵が旬麗に問いかける。

「やっぱ、あんたの恋人じゃないんだな?」

「ええ...背格好はよく似てるけど違います...茲燕を...茲燕を知らない!?そこの人と同じ銀髪の...」

「はぁ?...知らねぇな、この辺で銀髪の妖怪は俺くらいだぜ」

そ...う...

「!旬麗さん!?」

「旬麗!!」

ふっと後ろに倒れこんだ旬麗を三蔵が受け止め、も慌てて駆け寄る。

「...気が緩んだんでしょう。こんなところまで走ってきたんだ、無理もないです」

「目立った傷は、足の擦り傷くらいですね...消毒しますから、皆さんはあっち向いて下さい」

「あぁ?」

「...皆さん、気絶してる人の生足をじっと見てるつもりですか?」

「あ、そっか」

「...オイ!待ちやがれ!!」

が近くで変身したジープに乗せられた旬麗の傷を消毒していると、妖怪達が苛立ったように声をあげた。

「勝手に持ち帰るんじゃネェよ!!!」

「その女は俺達のエモノだ!!」

「何ならテメェらもミンチにしてやろうか?」

「ンだとォ!」

「ああ、今日はやめとこお」

いきり立つ悟空を、悟浄がのんびりとした声で止める。

「今日はあんましヒトゴロシしたくない気分なの、俺。だから大人しく帰って、クソして寝ろや、OK?」

「なッ...」

「さ、行こか」

「おばさんも心配してるでしょうしね」

「まだ消毒終わってませんてば」

当然のことながら、妖怪たちはその言葉と態度にいきり立つ。

「おいナメてンのかてめェら!?」

「...おい、ちょっと待て!!あの赤毛の男...俺聞いたことあるぜ。人間と妖怪の間にできた禁忌の子供は、深紅の瞳と髪を持って生まれるってな」

「なんだ、じゃあアイツ出来損ないじゃねェかッ!」

その言葉に、はぴくりと反応して妖怪たちに顔を向ける。

「アソコの毛も赤いのかよ?ええ?出来損ない」

その言葉に今まで無視していた悟浄が、顔に怒りを浮かべて振り返る。

悟浄が振り返って見たものは、妖怪を締め上げる悟空と八戒、妖怪の口の銃口を突っ込んでいる三蔵、そして妖怪たち全員の首にワイヤーを巻きつけているの姿だった。

「ホラ『口は災いの元』ってよく言いますよねぇ?続きが言いたいならあの世でどうぞv」

「八戒、あんまり動かすと首がスパッといっちゃいます」

「ヒイッ!わ...悪かった!!助け...」

  
   ヒュルン ドサ


「...詫びるくらいなら、最初っから言わなきゃいーんだよ。バァーーカ」

「...いっそのこと、ワイヤーしまわない方が良かったですかねぇ?」

「ク...クックック...」

中指を立てながら言う三蔵と、残念そうに呟くに、悟浄がこらえきれなくなったように笑いを漏らす。

「...ったく、変なやつらだよお前ら」

「類は友を呼ぶ...でしたっけ?」

「最悪だな」

の言葉に三蔵が嫌そうに顔をゆがめ、それに八戒が苦笑する。

悟浄もそれに笑い声を上げると、5人は妖怪たちに背を向けジープへと歩き出す。

「...そっ...たばれェ!!」

「何、そんなに興味あんの?アソコの毛の色v」

   
     ゾン!!!


「ま、確かめられンのは『イイ女』だけ、だけどな」

5人が背を向けた瞬間襲ってきた妖怪たちは、悟浄の錫杖でバラバラにされた。

「きしし、ちゃんと黒いよなっ黒!!風呂場で見たもんねオレ」

「言うな!」

「旬麗が聞いてなくてよかったですね」

「あはは、ホントですねぇ」






旬麗を送り届けた一行は、西へとジープを走らせていた。

「...ふーん、じゃあ今回は悟浄の兄貴とは別人だったんだ」

「多分な...兄貴は銀髪じゃねぇし...ま、イイってことよ。お互い、生きてりゃその内どっかでスレ違うくらいはするだろ」

「...そうですね」

「しっかし、アレだな。フリーのいい女はなかなかいねェよ」

「ケッ、くだらねーな」

「お前ねー、女に興味ないなんて病気だぜビョーキ!それともホモ?」

「ホモソーセージ?」

「...撃ってもいいか?」

「一発じゃ死にませんよ」

「いえ、ちゃんと頭を狙えば一発でも...」

「ああっ!」

が話している途中、何かを見つけた悟空が叫び声をあげる。

「昨日のトランプ!てめェ、やっぱりカードスリかえてたな!イカサマ河童!!」

「っせーな、過去のことにこだわんなよ。もてねェぞ、猿吉!!」

「2人とも、だからこんな狭いところで取っ組み合いをしてると『ドン』...あ」


    ぐら...


「ああっ!?」

「おい、まさか」

だああッ!!


   ドボン!!!


「やっぱり撃つ!!」

「三蔵、水に浸かった銃で撃つと危険ですよぉ」

「何でお前だけ逃げてんだよ!!」

「じゃあ、この着替えいらないんですね?」

「ゲッ!」

が確保していた服に着替えたあと、悟空と悟浄が三蔵の的にされたのは自業自得ということで...










あとがき

最遊記第十話終了です。
H×Hより念能力を使う場面が多いですね。
最遊記2巻の巻末付録の話を入れました。

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

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