「やっぱり妙だと思った」
「フェリオ...」
今までのやり取りを黙って聞いていた青年が声をかけると、3人ははっとして振り返った。
フェリオの気配に気づいていたは黙ってフェリオを見つめている。
「お前たちがあの『伝説の魔法騎士』だったんだな」
「だますつもりはなかったんだ...」
「俺が敵か味方か分からないから警戒したのか?」
「そうです」
「!?」
青年の問いをただ肯定するに、海が驚くが、視線は海へ向けられることなくまっすぐに青年を見ている。
「...すみません」
目を伏せて謝る風に、青年は意外なことに笑顔で言った。
「賢明な判断だな」
「「「え!?」」」
「ありがとうございます」
ぽかんと口をあけて驚く三人の様子に苦笑しながら、は礼を言う。
「さっきの会話を聞いていると、お前たちはは力を合わせてエメロード姫を救う決意をしたようだ。だが、が『エテルナ』までしかついて行かないのはどうしてだ?」
「...風ちゃん、海ちゃん、君、本当のことフェリオに話したい」
「もちろん構いませんよ」
光の言葉に風と海も頷き、も了承する。
「私たち3人は『東京』から来たんだ。君は...」
「私は3人とは別の『異世界』から、偶然にこの『セフィーロ』に迷い込んでしまったんです。だから私は『魔法騎士』ではありません」
「私たちは突然『東京タワー』の床が抜けて、気がついたらこの『セフィーロ』にいた。そして...『クレフ』という名の魔法使いに会ってこの『世界』を、『セフィーロ』を救ってほしいって言われたんだ」
「導士クレフにあったのか!?あの『セフィーロ』最高の魔道師に!」
「あのおぢさんって有名人だったのね」
「そのようですわね」
「...?(おぢさんというほどの声じゃなかった気がしたんですけれど...どちらかという変声期前のような高い声でしたし)」
「のことは置いておくとして、ヒカルたちを召喚したのは...」
「エメロード姫だってクレフは言ってた」
「さっきエメロード姫をさらったのは神官ザガートだって言ったな?」
「それもクレフが教えてくれた」
「やっと納得がいった。なぜ『平和』なはずの『セフィーロ』に魔物が闊歩してるのか。常春なはずの『セフィーロ』に天変地異が続いているのか」
「この「世界」の方々はエメロード姫がどうなっているのかご存じないんですか?」
「ああ」
の問いに青年は頷いた。
第9話 『魔法騎士』の伝説
「今度はあなたの番よ。私たちは自分の正体を明かしたわ。あなたは何者なの?」
「......エメロード姫の知り合いだ」
「「「???」」」
「分かりました」
「え?それで納得できるの?」
「少なくとも私は、フェリオさんは信用出来ると思います」
「...そうね」
の言葉に頷いた少女たちを見ながら、青年はポツリと呟いた。
「『伝説』は本当だったんだな」
「『伝説』ってどんな『伝説』ですの?クレフさんもプレセアさんも口にしてらっしゃいましたが、内容はお聞きできなかったんです」
「そう言えば、君は知ってるのか?」
「プレセアさんの口から聞いたことはあります。ですが、そのことに関する書籍はプレセアさんのお宅には一冊もありませんでした」
「『伝説』とは言っても『伝承』だからな。きちんとした文章にもなっていない、口伝えに伝えられている『伝承』。この『セフィーロ』の『柱』に異変が起こった時、『異世界』から召喚されたものが『伝説の魔法騎士』となって『魔神』の『力』を借りて戦う」
「そうだ!クレフも『魔法騎士』になるには『魔神』をよみがえらせなきゃならないって言ってた!」
「プレセアさんも、確か『エスクード』で作った武器が『魔神』をよみがえらせる『鍵』になると言っていましたね」
「でも、どうして『伝説の魔法騎士』は『異世界』の人間でなきゃいけないの?この「セフィーロ」にもあなたみたいな強い人はたくさんいるでしょう?」
「確かにわざわざ『異世界』から戦いなれていない人を呼ぶ必要があるとは思えませんね。他の『世界』の私でもこう考えるんですから、
『セフィーロ』の方々も疑問に思っているんじゃないですか?」
「ああ、俺もそれが納得いかなかったんだ。だから『エテルナ』で『エスクード』を取って、俺が『伝説の騎士』になれないか試してみる
つもりだった」
青年の言葉に、風が思い出したように言う。
「そう言えば、クレフさんはたくさんの魔道師さんたちや騎士さんたちがエメロード姫を救うために戦ったとおっしゃっていましたわ」
「相手が神官ザガートなら当然だ。勝てるわけがない」
「そそそそ、そんなに強いの?」
「めちゃくちゃ強い!」
「せっかくの決心に地震がきそうよ」
頭を抱える海に苦笑しながら、はふと思った。
(二番目がめちゃくちゃ強いなら、一番目の人はどれくらい強いのでしょうか?)
だがその疑問を深く考えることができない。
(まるで『何か』に邪魔されているよう...)
そう思ったはやや険しい顔つきになる。
「でもそんなにお強いのなら、なおさら『異世界』の者では無理なのでは?この『セフィーロ』の常識も分かりませんし、私たちの世界では魔物がのしのし歩いたりしませんもの。さんのおっしゃったように戦った経験がない『異世界』の者を呼ぶ理由が分かりませんわ。ゲーム内ではプレーヤーはみんな勇者ですけれど」
「そうそう。『伝説の魔法騎士』なんてゲームの中の話よ」
「それは俺にも分からない。しかし『伝説』は確かに実在してしまったようだな...『セフィーロ』の『柱』であるエメロード姫が神官ザガートにさらわれた。姫が今どんな状態でどこにいるかは全く分からないが、『柱』を失った『セフィーロ』は居住区にまで魔物が出没し、地震や嵐が相次いでいる。この世界の『魔物』は人々の『不安』の具現だ。『柱』はこの世界のすべてをその『意志』の『力』で支えている。『セフィーロ』が常に平和で人々の暮らしやすい『世界』であるようにと祈るエメロード姫の『心』が、『セフィーロ』を異常気象のない豊かで美しい世界に保っていたんだ」
(常にこの『世界』のことだけを祈る...つまり、『世界』のこと以外を考えていなければいけないということになる。『人間』にはそれは苦痛となりえるのではないのでしょうか)
「しかし今、姫の『心』はこの『セフィーロ』について祈ることができない状態らしい。だから空は荒れ、大地は鳴く。そのため人々は不安と恐怖に包まれ、その『負』の『心』が『魔物』を作り上げるんだ」
「じゃ、あの魔物たちは...」
「全部『心』が実体化したものだ」
はそれを聞いてふと具現化する『念』を思い出した。
具現化する『念』を作るとき、その性質や形は能力者の性格やその時の気分に左右されやすい。
この『世界』の魔物は、普通の人も具現化できる『念』のようなものなのかもしれない。
「......『心』...不安と恐怖の『心』が...あの『魔物』たちを生む.....」
「人の『精神力』が『平和』をもたらし、同じ『精神力』が『破壊』も呼んでしまう...」
「『セフィーロ』...本当に...不思議な世界ね...」
「......何よりたった一人で支えている(世界なんて...まるで『人柱』...)」
少女たちと青年を気遣って言葉には出さなかったが、あまり好きになれなさそうな『世界』だと思った。
「人々はおびえている。何人かの魔道師、騎士、戦士たちが異変の原因はエメロード姫に何かあったためではと思い...エメロード姫を助けようと姫のいる『城』を目指したが帰ってこなかった」
「「『城』...?」」
「その魔道師さんたちも、皆さんあなたのように『伝説の魔法騎士』になるべく戦いに出られたのですね」
「いや」
風の言葉を青年は即座に否定した。
「『伝説の魔法騎士』のことを知っているのは、この『セフィーロ』の『柱』であるエメロード姫に近しい者だけだ」
「え...?」
「エメロード姫に近しい者だけ?」
「じゃ、あなたは...」
「あははは 」
風の問いを青年は笑ってかわし、話題を変える。
「しかし、エメロード姫が『異世界』から『伝説の魔法騎士』を召喚したということは、『異世界』のものしか『伝説の魔法騎士』になれないというのは本当らしいな」
「少なくとも、光ちゃんたちが『セフィーロ』にいるということは『魔法騎士』が実在するという証明になることは確かだと思いますよ」
が青年の言葉に相槌を打っていると、モコナの額の石が再び道を指し示した。
「モコナの額の飾りが...今度はいつものように赤く光っているわ」
「ぷぅ、ぷぅ」
「『伝説の泉・エテルナ』への道を教えてるんだ」
「ん?フェリオさん、どちらへ行かれるんですか?」
「え?」
の言葉に少女たちが振り返ると、青年は踵を返し再び森へと入るところだった。
「フェリオ!」
「...約束は『沈黙の森』の出口までだ」
振り返って言った青年の視線と風の視線が絡まり、しばし二人とも見つめあう。
青年は右の耳につけていた環状の耳飾りを外し、風の手を取り、そっと手のひらに握らせた。
「...これは...?」
「お前にやる」
「でも...私には差し上げるものが...」
青年は戸惑う風の前に跪き、風の右手に口づけた。
一瞬何事か分からなかったが、すぐに状況を理解した風の顔が真っ赤に染まる。
「!!?」
「?」
「おや?」
それを見ていた3人はそれぞれ異なる反応をした。
「ちゃんとお礼はいただいた」
そう言って笑うと青年は木の枝に飛び乗った。
「近いうちにまた会おう。『伝説の魔法騎士』たち」
そう言い残して去って言った青年の姿は、木の葉に隠れてすぐに見えなくなった。
あとがき
レイアース第9話終了です。
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