「何あいつ!!?妙に様になってたわね。まるで王子様みたいで...」

「お姫様の知り合いと言ってましたし、別におかしいことじゃないと思いますけど?」

「?」

「でも、びっくり.........って!?風!」

「顔が真っ赤ですね」

の言葉の通り、風は口付けられた手を押さえながら、顔を真っ赤にして青年の去った森をぼうっと見ていた。

「どうしたの?風!」

「あっ...な、なななな、何でもありませんわ」

「真っ赤よ風」

「ええ、頬が林檎のようですね」

「えっ!?えっ?えっ!!?」

「......風、あなた...」

「手の甲へのキスって、この『世界』でも意味は同じなんでしょうか?」

「えっ!?えっ!!?えええええっ!!!??

にやりと笑う海と自覚なしに追い詰めているに、風はさらに真っ赤になる。

真っ赤になる風を助けるかのようなタイミングで、先ほどの青年の行動の意味が分かっていない光とモコナから言葉がかかる。

「ぷぅ、ぷぅ」

「モコナが早くいこうって」

「い、行きましょう!光さん、海さん、さん!」

「風ちゃん、そっちじゃないよ」

「90度左にずれてますよ」

まだ動揺している風がぎくしゃくとした動きで歩き出したが、行先とは違う方向に歩きだしたために光とから声をかけられた。









   第十話    泉










そそり立つ巨大な岩がいくつもある野原を四人は魔物を倒しながら進んでいく。



  ズズ...



「本当にこれが『不安』の具現化なの?」

「...倒した時の手ごたえもあるのに...」

(やはり...この子たちの様子もおかしい。『不安』が具現化されたものだということにあまり納得できていないのなら、これは『生き物』を殺しているというのだと思うはず...まして、『学校』や『部』という言葉から、都市で過ごしていると判断した場合、この子たちが食料になるような生き物も自分の手で殺したことはないでしょうに...殺すことへの動揺や躊躇がなさすぎる)

「ぷぅ、ぷぅ」

「モコナがこの先だって!」

その言葉には思考を中断せざるをえなくなった。

モコナの差したほうに走って行くと、目の前に開けた場所が現れた。

「「「!!」」」

「.........水は?」

目の前に広がる場所には水が一滴も見当たらない。

あるのは石畳が如き詰められた道が、その先にはワイングラスを押しつぶしたような形の岩が鎮座していて、その上には草が生い茂っている。

「ちょっと...ここのどこに『泉』があるのよ?」

「...水らしきものは見当たりませんわね」

「ぷぅ、ぷぅ」

「...モコナさん、非常に満足そうなご様子です」

モコナ           !!!」

光に抱きかかえられたモコナは海に怒鳴られながら得意そうに胸(腹?)を張った。

「確かに、あのおばさんと戦ったときは助かったわよ。モコナがいなきゃクレフに『魔法』を教えてもらえなかった...でも!それとこれは別よ!」

海は目の前に広がる場所を指さしながら叫ぶ。

「私たちは戦う決意をしたのよ!だから『伝説の泉・エテルナ』に行きたいの!誰が原っぱに案内してと言ったの!?こんなお弁当でも広げたくなるような場所...」

「あら、本当にお弁当を食べるのに適した場所ですこと」

「どうせならプレセアさんの家を出る前に作ってくれば良かったですね」

「この『セフィーロ』にも卵焼きってあるんでしょうか?」

「卵焼きがあるかは分りませんが、卵はありましたよ」

のんきな会話をしている2人に気付かず、海はモコナに抗議している。

「ぷぅ、ぷぅ」

「どこにも『泉』なんてないじゃない!」

「ぷぅ、ぷぅ」

「あ...あれ?」

「どうなさったんですの?光さん」

「何か見つけたんですか?」

「あの『線』なんだろう?」

「『線』?」

光と海の視線が岩の上へと向き、と風もやや遅れてそちらに目を向けた。

「.........『線』ですわね」

「ええ、どこからどう見ても『線』ですね」

「...な、何これ?」

「...分かりませんわ...ただ『線』があるだけですわね」

「下に何も支えはありませんね。どうして浮いているんでしょうか?」

「さあ?」

「ぷぅ、ぷぅ」

「あ、待ってモコナ!」

四人そろって首を傾げていると、モコナが鳴きながらその場から移動したため光が追いかけた。

「何でこんなところに『線』が横たわってるのよ」

「さあ?『セフィーロ』は不思議な場所ですから」

「この『世界』って想像できそうなものは何でもありそうですよね」

「不思議でも何でもありでもいいけど、『伝説の泉・エテルナ』はどこなのよぉ!?」

あああああ!!!

「光ちゃん?」

「どうしたの光!?」

「海ちゃん、風ちゃん、君!見て!」

近くにある岩の上に登りたちを見下ろしている光にうながされ、三人は同じ岩の上へと登る。

「?」

「いったい何が...って.........え?」

「!?」

「ああああああ!!」

先ほどいた辺りを見下ろすと、と風はぽかんと口を開け、海は絶叫した。

「い、いずみ!?」

台のようになった岩の上に、はっきりと水が揺らめいているのが見えた。

「こ...これが『伝説の泉・エテルナ』!?」

「...直径はあの『線』と同じくらいですね」

「でも、さっきは何もなかったわよ!?」

海の言葉を聞きながら、光ととモコナは岩から飛び降りストンと着地する。

「あの『線』だ」

「あ、やっぱりですか」

「え?」

二人の言葉に海がきょとんとした顔をする。

「この『泉』、上から見ないと『線』にしか見えないんだ」

「ほとんど幅がないのに、どうしてそう見えるのかは分りませんが...まるで紙の上に書かれてるような感じですね」

「なるほど...二次元、つまり平面的な『泉』なんですね」

「そのようですね」

そのことを確認すると海と風も岩の上から下りてきた。

「...で、この『泉』のどこに『エスクード』があるのよ?ただ『泉』があるだけで、鉱物らしきものなんて見当たらないわよ」

「まあ、それはおそらく...」

は『泉』の下にある岩の淵に足をかけて登ると、『泉』の中を覗き込んだ。

「「この中...じゃないかな(でしょうか?)」」

「えええええ!?」

「海ちゃんさっきから絶叫しっぱなしですね」

「絶叫したくもなるわよ...なんて非常識...」

「本当に『セフィーロ』は不思議でいっぱいですわね」

「不思議じゃすまないわよ!私たちはこの妙な泉『エテルナ』で伝説の鉱物『エスクード』を取ってこなきゃならないのよ!この厚みの全くない泉で!」

「『妙な泉』ではありませんわ。『伝説の泉』ですわ」

「こんな横から見たら線に見える泉!『妙な泉・エテルナ』で充分よ!」

そう言って海はの横にある『線』をびしりと指差して宣言した。

「決めたわ!あなたは今日から『妙な泉・エテルナ』よ!」

「「決めたわ!」と言われましても...」

「海さん、『セフィーロ』の方々が慣れ親しんでいらっしゃったお名前を変えてしまっては後々問題が...」

わあっ!!?

うわっ!!

風が話していた途中に叫び声をあげた二人に驚き、海と風が振り返った。

「どうしたの!?光!!」

「光さん!さん!」




   どぼん...




が『泉』に落ちた。

「「...ええっ!?」」

「モコナ!?」

の後を追うように泉の上にジャンプしたモコナの体がふっと掻き消える。

「モコナ!!君!!」

「...落ちちゃった上に...消えちゃった......」

「モコナ!?君!?」

『泉』は波紋ができているだけで、どちらも浮いてこない。

「...『泉』は...やっぱりこの中のようですわね」

「でも深さも分からないし、水の中での呼吸はどうするの?」

「さあ」

にっこりと笑って言う風の言葉に、海が固まる。

「入ってみないと分かりませんわ」

「あぁ...やっぱり不幸の連続なのね〜」

「......私行く」

「光?」

「モコナはきっとこの中に『伝説の鉱物・エスクード』があることを教えてくれたんだと思う。私は『魔法マジック騎士ナイト』になるって決めた。だから『エスクード』を取ってこなきゃ」

「......そうね」

「行きましょう。ここに立っていても仕方ありませんわ」

「何が起こるか分からないけど、一人で出来ないことも三人なら出来るかもしれない!がんばろう!!」

光の言葉に2人も頷いた。

そして、ふと気づいたように海が言った。

「そう言えば、はどうして『泉』に落ちたの?」

「さあ?落ちる前に叫んでらっしゃいましたけれど」

「光は見てた?」

「...モコナに体当たりされて落ちたんだ......モコナが『泉』に落ちないように押し戻して...」

「.........って意外なところで運が悪いのね」

「モコナさんは自主的に『泉』に消えてしまいましたものね」









あとがき

レイアース第十話終了です。

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