「モコナさんの額の宝石が...!」
「さっきまで『赤』だったのに『青』に変わったぞ!」
「なぜ...?」
パアアアアァァァァァァ
『青』に変わったモコナの額の石から出た一筋の光りが、海の額に向かって伸びる。
光りが海の額に触れると、小さな光の粒となり海の髪をなびかせながら飛びまわる。
「これはいったい...?」
「海さん!!」
「何だ?」
その時に、耳を通さずに頭の中に直接人の声が聞こえてきた。
『......ウミ...聞こえるかウミ...』
「!?(これは...魔法...ですか?)」
「......クレフ...?」
『そうだ。このモコナを通じてお前の心に直接語りかけている。聞こえるか?』
「聞こえるわ」
(海ちゃんの心に直接?...それならどうして私にも聞こえるんでしょうか?風ちゃんやフェリオさんには聞こえていないようですけれど)
『お前はヒカルを助けたいと願った。ヒカルを助けるために『魔法』が欲しいと願った』
「助けたい...光を助ける『魔法』が欲しい!!」
そう言いながら祈るように顔の前で手を握り締めた海の胸元に、光りが集まり球体となった。
その球体は次第に圧縮され輝きを増していく。
『分かるか?お前のなかに『力』があることが...今までと違う『力』があることが...』
「分かるわ...胸の奥が熱い...『言葉』が...『言葉』が浮かんでくる...」
(声は聞こえても、同じような状態になるわけではないんですね...そうなると余計に声が聞こえてくる理由が分からなくなりますね)
『それがお前の『魔法』だ』
第八話 『魔法』
「氷槍投射!!」
クレフがそう言った瞬間、地面に転び、疲れて息が荒くなっている光にたくさんの氷の塊が降り注いだ。
それを見たが自分の足の状態を無視して飛び出そうとした。
だが、今回はが行くよりも『魔法』に目覚めた海のほうが早かった。
「水の龍!!!」
言葉とともに現われた大量の水が、一つに集まり、うねり、巨大な龍の形となった。
グアァアアアアァアアアア!!!
「きゃあああああ!!!」
海が手を前に突き出すと、水は渦を巻くように動き、地面を深くえぐりながら魔術師へと牙をむけた。
水が通り抜けたあとには女性の姿はなく、身につけていた額飾りだけがその場に残されていた。
魔法が完全に消え去ると、海の体がガクンと後ろに傾く。
「海ちゃん!!!」
「海さん!!!」
抱きとめたと風がゆっくりと海を地面に座らせた。
「海ちゃん!!」
先ほどの魔法で土煙の立つ中を光が走り出てくると、座り込んだ海の横に膝をついた。
「海ちゃん!海ちゃん!!」
「...光...大丈夫だった?」
「うん!海ちゃんが助けてくれたから!海ちゃんの『魔法』で助けてくれたから大丈夫だ!」
「良かった...光ってなんだかほっとけないんだもの...妹みたいに可愛くて...なんだか一生懸命で...」
海は自分の背を支えてくれている風へと顔を向けた。
「風も...怪我はない...?」
「ええ、海さんの『魔法』のおかげでちゃんと倒せましたわ」
「良かった...私たちどうなっちゃうか分からないけど...この『セフィーロ』に3人そろって呼ばれたんだもんね」
そう言った海は今度はに顔を向け、その傷を見るとつらそうな顔になる。
「...その傷、私をかばったときに出来たのよね...私よりひどいけど、大丈夫なの?」
「このくらいの傷は何度も経験があるから大丈夫です。止血点から石がずれてますね...止血しなおしますからじっとしていてください」
「の傷は...?」
「大丈夫だと言ったでしょう。今は止血をして傷を治すことを考えていなさい。そうしないと海ちゃんだけでなく、光ちゃんと風ちゃんも『心』がつらいままになりますよ」
「...そうね。でも、私はがそのままなのも『心』がつらいわ...」
「海ちゃん!海ちゃん!!」
話している途中で意識を手放した海を見た光は、涙を流しながら名前を呼ぶ。
(出血や痛みによるショック症状は出ていませんが、出血がやはり多い...あの『念』は相手に意識がないと使えませんし...医療用の錬金術もここまで傷が深いと私の知識では)
自分の力不足の悔しさを唇をかみしめて耐えながら、は止血を施していく。
の止血の様子を見ていた風はスッと立ち上がった。
「...海さんは私たちを助けてくださいました。私たちを助けるために...『魔法』を使ってくださいました...」
視線を海に注いだまま、風は顔をキリッと引き締めた。
「今度は私の番ですわ」
「...風ちゃん?」
止血の手を止めないまま、はいぶかしげに風の名前を呼んだ。
の言葉に答えないまま、風はモコナの前に行き膝をついた。
「モコナさんの額の宝石から光が出て、海さんは『魔法』が使えるようになりました...モコナさん...私に『魔法』を下さい!海さんを、海さんとさんを助けたいんです!2人を助けるための『魔法』を下さい!!」
風がそう言った瞬間、海の時と同様に額の石の色が変わり、一筋の光りが風の額へと伸びる。
「風ちゃん!!」
「今度は額の飾りが『緑』になった!」
『......フウ...』
(...また、聞こえますね。先ほどが例外というわけではなさそうですね)
「......あなたはクレフ...?」
『そうだ』
「...私に『魔法』を教えてください」
『もうお前の『魔法』はお前の中にある』
「胸の奥から何か言葉が...」
『そうだ。その力がお前の『魔法』だ。お前たちはそれぞれ仲間を思いやる『心』で『魔法』を習得したんだ。忘れるな。この『セフィーロ』では何よりも『意志』の『力』が勝るのだ。『信じる心』こそがこの『セフィーロ』での『力』となるのだ』
クレフの言葉が聞こえている間閉じていた目を開く。
「癒しの風」
植物のように枝分かれした風(かぜ)がと海の体を支え、そっと傷をなでていく。
その風は傷だけでなく、敗れた衣服をも直していく。
風が消えるとそこには無傷の海が地面に座り込み、服が元通りになったが立っていた。
魔法での服は元通りになった。
だが、の傷は治っていない。
(...無機物も直せるようですが、それはあくまで風ちゃんが認識できているものに限られるようですね)
「海ちゃん!!!君!!!」
幸いにも傷がふさがっていないことは服に隠れて分からなかったらしい。
は顔や首等に見える傷がなくてよかったと思う。
傷はオーラで覆っているし、すでに半分ほどふさがっているので問題はないだろう。
どうやら少女たちに心配をかけずに済みそうだ。
怪我の治った海と海に抱きついている光、そして安堵の息をついている風を見てはそう思った。
「二人とも!よかった!ほんとによかった!もうどこも痛くない?怪我も平気?」
「大丈夫ですよ」
「大丈夫よ。光」
「ん 」
傷の痛みなど全く感じさせない笑顔でが答え、光の頬についた汚れをハンカチで拭きながら海が答える。
「風ちゃん、ありがとうございます」
「ありがとう、風」
「いいえ、さんが海さんを助けてくださらなかったら、海さんがもっとひどい怪我をしていたでしょうし、海さんの魔法がなければ、私たち全員あのおばさんに殺されていたかもしれませんわ」
そう言うと風は次に光を見た。
「光さんもあのおばさんと戦ってくれて本当にありがとう」
その風の言葉に光はぶんぶんと音がするくらい首を横に振る。
「私たちは仲間だ。まだであったばかりだけど、この『セフィーロ』で三人きりの大切な大切な『仲間』だ。私ひとりでこの『セフィーロ』に召喚されてたら寂しかったかもしれないけど、海ちゃんと風ちゃんが一緒にいてくれたから一緒に頑張れる。それに君は一人で『セフィーロ』に来たばかっりなのに、私たちを手伝ってくれて、『大丈夫』って勇気づけてくれる。だから頑張れる!『仲間』がいると思うと『力』が湧いてくるんだ!」
「「......」」
「『仲間』ですか...」
光の言葉に呆けている海と風と、が他の世界にいる人たちのことを思い出しながら言った言葉に気づくと、光はおずおずと二人を見上げた。
「...ひょっとして...そう思ってるのって私だけ...かな?あの、あのっ、『仲間』だって言ったの迷惑だったかな?海ちゃんにも風ちゃんにも君にも聞いてないのに、勝手に三人のことを『仲間』なんて...」
真っ赤になりながら恥ずかしそうに言う光に三人が笑みをこぼした。
「光って、ほんっとうにいまどき珍しい『いい子』よね」
「本当に。私こんな可愛い方と『仲間』になれて幸せですわ」
「あんなに素敵な言葉を言ってくださる方が『仲間』でとても嬉しいですよ」
三人の言葉を聞いた光が顔をあげ、嬉しそうな顔になる。
「私も光を助けたいと思ったから『力』が湧いてきたわ。大切な『仲間』の光をあのおばさんの魔の手から救わなきゃと思ったら勇気が出て、自然と『言葉』が出てきた」
「海ちゃん...」
「何が何だか分からないし、どうして私たち3人が、ううん、4人がこんな目に合うのか理不尽ではあるけど、元の世界『東京』に戻るために力を合わせて頑張りましょう。『エテルナ』までにも迷惑かけちゃうかもしれないけど」
「一緒に行くと言ったのは私なんですから、迷惑だなんて思いませんよ」
「ありがとう、。そして、これからもよろしく、光」
海がスッと右手を差し出す。
「私もよろしくお願いいたしますわ」
「『エテルナ』までですが、よろしくお願いしますね」
「...風ちゃん...君...」
海に続いて差し出された二人の手と海の手を、決意も新たに光はまとめて握り締めた。
あとがき
レイアース第8話終了です。
途中で出てきた傷を治す『念』はまだ『H×H』のほうで出てきていません。
たぶん『H×H』の38話か39話あたりでると思います。
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9話