「ぼやっとここに立ってたら何匹魔物を倒してもきりがない!」

青年があたりに気を配りながら言った。

「どっちへ行くんだ?」

「ぷぅ」

尋ねながら青年の視線は4人へと向き、4人の視線はモコナへと集まる。

すると、モコナの額にある石がキラキラと光を放ちだした。

「モコナの額の宝石みたいなのが...!」

「光ってる!」



  パアァァアァアァ



さらに輝きを増した石から、光りが真っ直ぐに飛び出した。

「モコナさんの額から出た光りが差しているほうが...『出口』ですわ」

「そのようですね。でもこんな目立つような目印だと...」

「「!!」」

「魔物だ!」

「魔物が集まりやすいですよね」

その場にいた人の視線が上空にいる魔物に向けられた。

「走れ!」

青年の掛け声とともに光がモコナを抱きかかえ、全員が一斉に走り出す。

「どうしてあいつと戦わないの!?」

5つの目と鋭い爪がある1本の足を持ち、トカゲのような尾でバランスを取りながらその魔物は器用に木々の間を縫ってたちへと飛んできている。

「あの魔物には剣は効かない...お前たちそんなことも分からずにこのあたりをうろちょろしているのか?お前たち...旅行者といっていたが...本当は何者だ?剣士や騎士でないのならどうして武器を...」

「まあ、『セフィーロ』に来て間もないですからね。それに...詳しく話している暇はなさそうですよ」

がそういうと向かっている少し先のほうでボコボコと地面が盛り上がってきている。

そして地面の中から現れたのは、頭の部分が巨大な目となっているトカゲと人間を掛け合わせたような魔物だった。

先頭を走っていた光はすぐさまモコナをに渡し、武器を出すと、海とともに斬りかかり、2人で合計3体の魔物を数瞬で倒した。

「なかなかやるじゃないか」

「感心してる場合じゃないようですよ」



   クェェェエェェン



「追いつかれた!!」

「ええいっ!」

地面を滑るようにして近づいてくる魔物の足を、光が剣をふるい切り離す。

「なっ!?」

「傷がふさがった!?」

「だから言っただろう!そいつには剣は効かない!」

驚きの声を上げると光に、青年が叫ぶ。

その時を狙ったようなタイミングで魔物が口から炎を吐きだす。

「うわっ!?」

「モコナさん何でそんなに嬉しそうなんですか!?」










   第六話   出口へ










炎をよけながら楽しそうな顔で耳をパタパタと動かすモコナに気付いたが微妙な表情で叫ぶ。

それに呆れる余裕もなく海が叫んだ。

「ちょ、ちょっと!やたら強いわよ!」

「弓も効きませんの?」

「そいつは武器では倒せない」

「つまり武器以外でなら倒せるんですね?」

「そうだ」

「『魔法』も使えない森で、武器を使わないでどうやってやっつけるのよ!?」

「...頭を使うんだよ」

降りかかる瓦礫をよけながら叫ぶ海に、青年はそう答えると魔物の注意をひきつけるように高く飛び上がった。

木の枝を蹴って飛ぶように走る青年を、魔物が細い木の枝をへし折りながら追っていく。

「危ない!」

「危ないのは光よ!」

慌ててついて行こうとする光を海が止めた。

「でもフェリオひとりじゃ危ない!」

「いや、あの人はわざわざ自分で危険を呼びこむようなことをするような人には見えません」

「ええ、あの方...何か考えがあるんですわ」

そう風が言ったとき、青年が枯れて葉のついていない巨木の上で立ち止まり振り返る。

魔物は木の上にいる青年へとクチバシを向けた。

「フェリオ!!」

クチバシがふれる寸前に青年は魔物の後ろへ飛んで移動すると、魔物の足場となっている岩を自らの剣で殴りつけた。



   ドシュ

 グェエエエエエ!!!



突如バランスを崩された魔物は、どうする事も出来ずに槍のような枝に体を貫かれた。

「やった!!」

「いやー、強い強い!ほんっとにあのフェリオをスカウトしてよかったわ」

「私たちだけなら倒す方法が分からずに逃げ回っていたでしょ、っ!風ちゃん、危ない!」

「!」

が気づいた時には最後の力を振り絞って放たれた魔物の炎が風へと放たれていた。

「馬鹿なに突っ立ってるんだ!!」

当たる寸前に青年が風の上に覆いかぶさり攻撃をかわした。

少し遅れて風の顔から外れた眼鏡がカシャンと音を立てて地面に落ちる。

「風ちゃん!」

「風!!」

「風ちゃん!フェリオさん!怪我はありませんか!?」

「ああ」

「ええ...ありがとうございます。助かりましたわ」

やや呆然としながらも言葉を返すと、風はフェリオに礼を言った。

「でも...『馬鹿』なんて言われたのは初めてですわ」

起き上がって眼鏡を拾い風が笑顔で言うと、青年も笑みを向けた。

「お前、ちゃんと可愛く笑えるじゃないか」

「え?」

「さっきはちょっと意地悪そうだったが、今のは可愛かったぞ」

「......//////」

「おやおや」

青年の言葉に顔を赤くする風と少年のような笑顔を向けるフェリオを、は微笑ましげに見やる。

「大丈夫!?」

「風ちゃん!!」

ほど耳がよくない二人は少し離れていたせいか先ほどのやり取りは聞こえていなかったようだ。

心配そうな目を向けてくる2人に風は笑顔で答える。

「大丈夫ですわ」

その言葉にほっとしたように息をつく後ろでは青年とが会話をしている。

「あの魔物本当に死んだかな?」

「ええ、あの魔物()死んでます」

「...あの魔物()?」

「向こうから近づいてきてます」

「!?、分かるのか!」

「気配には割と聡いんです」

「それなら急いでこの場を離れたほうがいいな」

「ええ」

「ぷぅ、ぷぅ」

2人がそう言うと、光に抱きかかえられているモコナが手を動かしてある方向を指し示す。

「モコナさん?」

「え!?」

皆の視線が集まると、モコナの額から再び光りが飛び出した。

光りの先の木々の間からは、木の葉に遮られていない明るい日差しが差し込んできている。

「出口だ!!」

「やったー!!」

「さ、急ぎましょう」

風の声で一斉に出口へと走り出す。

「これであこがれの魔法少女になれるわ!!」

「あこがれですか?......え?(急に気配が現れた!?)」

ぷぅうう!!!

「っ!!(殺気!?)」

「モコナ?君?」

不思議そうに振り返った光の横を一瞬で駆け抜け、海の腕をつかむと自分の場所と入れ替え、出口に背を向けを海の顔を自分の胸に押しつける。

「え!?何!?」

いきなり引っ張られ、抱きしめられる形になった海が混乱しながら顔を上げようとしたとき、少女たちに聞き覚えのある声が響いた。

氷尖撃射(アライア)



  ゴオォオオオオォオオオオ!!!



きゃああああ!!!

「つっ!!」

のほぼ全身から、またが庇いきれなかった海の手足から大量の血が流れ出た。

その攻撃の衝撃か傷の痛みのためかは分らないが、気を失った海の体を支えながらは自分の傷の痛みに耐える。

海の傷が骨まで達していないことを確認すると、は海を抱えたままがくりと膝をついた。

『硬』が間に合わなかったの背中はいくつか貫通しかけた傷があり、左右どちらの足もかろうじて繋がっているような状態である。

「!!」

「海さん!!さん!!」

「海ちゃん!!君!!」

駆け寄ってくる光たちを確認しながら、は攻撃を仕掛けてきた相手へと目を向けた。

その眼には静かな怒りが揺らめいていた。









あとがき

レイアース第6話終了です。

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