「お前たち何者だ!?」

見下ろしてくる青年を見据え、少女たちは武器を構え直す。

その様子には回りに分からない程度に苦笑を浮かべた。

『敵』を倒すことに、正確には『敵』を殺すことに対する精神的な負担がないのは戦う上で良かったと言えることではあったが、相手に殺気や敵意があるかどうか区別がつかないのは少し困るなと思ったのだ。

もっとも、殺すことに何も感じていないのではなく『倒す』=『殺す』ということがまだ少女たちに理解できていないのかもしれない。

少女たちが『東京に帰る』、『エメロード姫を助ける』という目的のほうにばかり目が行くのはある意味しょうがないかもしれないが、相手が魔物ではなく人になった場合少し厄介かもしれない。

そんなことを考えながら、は武器を構えることなく肩に立てかけたまま少女たちと青年の様子を見やる。

「...敵かしら?」

「...さあ?一応『人型(ひとがた)』はなさってますけど、先ほどのおばさんの例もありますから安心できませんわね」

(先ほどのおばさん?...そういえば『ザガートの追っ手が来て』と言ってましたね。しかし、『世界を支えるほどの力を持つエメロード姫』が、『その人に()ぐ力の持ち主神官(ソル)ザガート』に幽閉された...ねぇ。何となく裏を読みたくなるのは、やはり歳のせいでしょうか?)

「あっ!」

「ん?」

そんなことを考えていると、モコナがジャンプして前へと跳び出し、ぴょんぴょんと跳びながら木を上り、青年の腕にペタッとくっつく。

そして腕からさらに上へと上り、青年の頭の上をぐるぐると楽しそうに歩き始めた。

「な...何だ?これは...?」

「モコナさん楽しそうですね」

少女たちが呆気に取られている中、は動物(?)の本能ってすごいなぁと感心しながら呟いた。

そのときにはすでに手から槍は消えていた。

「光の剣が...!」

「手の飾りに戻ってしまいましたわね」

2人の言葉通り、モコナの行動を見ていた光も剣先を下げると、光りとなって手甲の石の中へと戻っていった。

剣を仕舞った光は青年のほうへと足を踏み出す。

「光!!」

「なるほど。光さんが戦う『意志』をなくしたから、剣もなくなったんですわ」

「戦う『意志』をなくしたって...あ、だめよ!まだ敵か味方かも分からないんだから!」

「少なくとも、あの方に敵意はないようですよ」

「うん。私も大丈夫だと思う。だってモコナが...あんなに嬉しそうなんだもの」

モコナに懐かれている青年は、やや諦めたように腕を組んだままモコナの好きなようにさせていた。

「助けてくれてありがとう!」

「ええ、とても助かりました。ありがとうございます!」

「お前たち、何者だ?」

「私は と言います」

「私は獅堂 光。東京から来たんだ」

「...トウキョウ?何だそれは?」

「私たちはエメロード姫に召喚され...むぐむぐ」

『召喚された魔法騎士(マジックナイト)』と言おうとした光の口を海が後ろから手でふさいだ。

「海ちゃ、どうして急に...?」

「まだあの方が私たちにとって『いい人』なのか『悪い人』なのか分かりません」

「もしあの方がザガートさんとやらの関係者だったら、私たちがエメロード姫に呼ばれて『セフィーロ』に来た『異世界』のものだと知れたら...私たち、きっとここで殺されますわ」

「...でもモコナが......」

モコナ(あのこ)はいつもああなのかもしれないわよ」

「............」

「いつもああかどうかは分かりませんが、今敵意がないのはあなたたちの存在を知らないからとも取れます。用心に越したことはないでしょう」

「でも...助けてもらったのに...」

「親切で助けてくださったのかは、これから確認すればいいことですわ」

そういうと風と海も青年へと顔を向けた。

「私は鳳凰寺 風。こちらは...」

「龍咲 海よ」

「よろしかったら、お名前をお聞かせいただけませんか?」

「俺はフェリオ」

名乗ったあと青年は間を置かずに4人に問いかけた。

「お前たちはどうして『沈黙の森』なんかでうろちょろしてるんだ?ここは『魔法』も『呪文』も仕えない。もちろん『魔法書(マジックストック)』も『魔法具(マジックアイテム)』もだ。使えるのは自分の『頭』と『体』だけ。相当の剣技がないと生きて出られないところだぞ」

「そういうあなたはどうしてここにいるの?」

「俺はこれから『エテルナ』に行くところだ」

「「「『エテルナ』へ!?」」」

「まあ、普通はそうですよね(それ以外だとすれば腕試しくらいのものでしょうし)」

「エ...『エテルナ』に何しに行くの!?」

「『伝説の鉱物・エスクード』を取りに」

「「「えええええ!?」」」

「それほど驚くことではないと思うんですが...」

非常に驚いている3人に、は目的地を聞いているのだから目的も分かるだろうにと苦笑しながら言う。









  第五話   同行者










「だって、『エスクード』ってプレセアが取って来いって言った『武器のもと』よね!」

「う、うん」

「私とあなた方の記憶違いでなければ、『エテルナ』へは『伝説の好物・エスクード』を取りに行って、プレセアさんに『伝説の武器』を作ってもらう予定ではありますね」

「じゃあフェリオって子はライバルってこと!?」

「ええ!?」

「『エスクード』がどの位あるかによりますね。それなりの量があるなら、ライバルにならなくてもいいわけですし」

「でも、『エスクード』ってたくさんあるのかしら!?私たちの分がなくなちゃわないでしょうね!?はその辺り何か知らないの!?」

「残念ながらまったく知りませんね」

そんな会話を小声でこそこそをしている横で、風は何か考え込んでいる。

「妙な格好してるな。まあ、防御甲冑(ガード)を3人はちゃんと着けてるようだが。あんたは何で着けてないんだ?」

「私の場合は普段つけていませんから、無い方が慣れていますし身軽でいいんですよ」

「珍しい奴だな」

木から降りてきた青年が、一人だけ防御甲冑(ガード)冑をつけていないに訝しげな視線を向ける。

それに当たり前のことのように返すと、興味を惹かれたようにをしげしげと見た。

「フェリオさん...でしたわよね」

「ああ」

の横に並び、風が青年に声を掛けた。

「『エテルナ』に行かれるんでしたわよね」

「ああ」

「『エテルナ』までの道はご存知ですの?」

「さっきも言っただろう。この『沈黙の森』では魔法は一切使えない。もちろん『魔法磁石(マジックコンパス)』も何の役にも立たない。『エテルナ』へはこの『沈黙の森』を通らなきゃいけないことは知ってるが、『森の出口』は自力で探すしかない。だから、俺に頼られても無理だぜ」

「『出口』は知っていますわ」

「ええ、私たちは真っ直ぐに『出口』に向かっているところですから」

「何だって!?」

その言葉に驚いたのは青年だけでなく、光と海も驚き、困惑した表情で2人を見ている。

はプレセアの家で交渉を持ちかけてきたときと同じ風の雰囲気で、青年に同行を求めるつもりだろうと予想していたのでそれほど驚きはない。

かえって、少女3人に対してフォローするのが自分1人だけということで、3人が大怪我をする可能性も考えていたためこれ幸いと風に調子を合わせる。

2人は困惑気味に見つめてくる光ると海に、黙ってにっこりと笑顔を向けた。

「出口を知ってるだって?おいおい、寝言は寝てから言えよ」

「あら?どなたか眠ってらっしゃいました?」

「あいにく全員起きてますね」

「......!?」

泰然とした様子で笑顔を崩さない2人に、さすがに青年も表情を変えた。

「...『出口』を知ってると言うのは本当か?」

「本当ですわ」

「ええ、わざわざすぐにばれる嘘をつく必要はありませんしね」

「でも、信じないのならそれまでですけれど」

「.........『出口』はどこだ?」

「...知りたいですか?」

「お前たちが知ってるのならな」

「お教えしてもよろしいですわ」

「ですが、もちろん教えるだけと言うのはこちらに利益がありません」

「はい。ですから、条件があります」

「条件?」

「ええ、条件です」

2人ともさらににっこりと笑顔を浮かべる。

「「私たちを『出口』まで一緒に連れて行ってください」」

「にゃっ!?風ちゃん!?くん!?」

「ふっ!やるわね、風、

2人の言葉に光と海はそれぞれ異なる反応を示す。

「この森には魔物がたくさんいるようですね。私たちだけでこの森から脱出するのはかなり難しそうですわ」

「特に私たちはこの森にどんな魔物がいるかも知りませんし、数に押されれば全員で無事にこの森を抜けるのはより難しくなります」

「だから私たちと一緒にこの『沈黙の森』で行動してくだされば、『出口』までご案内しますわ」

「...いやだと言ったら?」

「私たちの後をつけても無駄ですわよ。私たちだけではこの森から生きて出られそうにありませんもの。あなたも遭難なさるでしょうけど」

「それにこの森から無事に抜けられたとしても、私たちだけなら何日かかることやら...下手をすれば怪我をして余計に時間がかかることになるでしょうね」

「......」

「いかがですか?」

「...俺は護衛って訳か」

「『世の中持ちつ持たれつ』ですわ」

「何だそれは?」

「私たちの国の格言ですわ」

「へぇ、どこの国にも似たような格言があるものですね」

2人の言葉に青年は疑問を持ったように呟いた。

「国...?お前たち旅行者か?どこから来た?」

「「......」」

2人とも黙ってにっこりと笑みを向けている。

「なかなか食えない奴らだな」

「おいしく頂かれては困ってしまいますわ」

「まあ、食べたとしてもおいしくないとは思いますけどね(私の体の9割は金属ですし)」

「わかった」

「やったー!!」

「?、?」

青年の言葉に海は両手を挙げて喜び、光はよく分かっていないが海につられるように両手を挙げた。

青年が条件を受け入れ頷いた後、近くの茂みが小さくがさがさと音をたてて動いた。

「フェリオさん、後ろに」

「!」



   シュルルルル




がそう声を掛けたとき、茂みの中から棘だらけの蔓が飛び出してきた。

次の瞬間、先ほど青年が倒した魔物と同じ種類の魔物が姿を現し5人を見下ろした。

「新手か!?」

振り返った青年はすぐさま剣を振りかざし、一太刀で魔物を切り捨てた。

「いいボディガードになりそうね、風、廉」

「私たちだけではこの『沈黙の森』から出るのは難しいですわ。でもあの方がいらして下さったら無事森を脱出できる確率も増えます」

「でもやはり技量を高めるにはまかせっきりにするわけはいきませんよ」

「ええ、自分たちで何とかできる場合はそうしたほうがいいですわね」

「そうね。でも、本当にモコナが『エテルナ』までの道を知ってるのかしら?」

ちらりと疑わしそうに海がモコナを見ると、見られていることに気づいたモコナは楽しそうに耳と手をぱたぱたと動かしている。

その様子に海はだめかも...と少し思った。

「すごいっ!」

一太刀で魔物を倒した青年に、光は尊敬に満ちたキラキラとした目を向ける。

「そんな大きな剣を片手で扱えるなんてすごいな!ものすごく修行したのか!?」

「ああ...エメロード姫のためにな」

「「「え?」」」

「へぇ、そうなんですか」

少女たちは驚きの声を上げ、は納得したように言葉を返す。

この青年ほどの技量でそのあたりの普通の剣士と言われても納得できなかっただろう。

だからこそ、『エメロード姫のため』という青年の言葉には信憑性があるとも言える。









あとがき

魔法(マジック)騎士(ナイト)レイアース第五話終了です。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

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