ウケケケケケケケ...

チチチチチチ...

ギャ  ッ ギャ  


木漏れ日がふりそそぐ森の道を進んでいると、そこかしこから森の生き物達の鳴き声が聞こえてくる。

「あ、何か鳴いてる」

「なかなかユニークな鳴き声ですね」

モコナを抱えている光の隣で、も耳を澄ましている。

その後ろで、海と風が辺りを見回している。

それから間もなく、5人(4人と1匹)は分かれ道へとさしかかった。

「さて、これからどっちに行けばいいのかしら?」

「ぷぅ?」

「『伝説の泉・エテルナ』よ」

「ぷぅ?」

海の質問に、モコナは体をクイッと横に曲げた。

「『エテルナ』へ行く道よ!こっちでいいの!?それともこっち!?」

「ぷぅぷぅ」

モコナは短い前足(手?)をパタパタと振って、光の腕の中で楽しそうにしている。

「「......」」

「何...?このリアクションは...ひょっとして...」

「ご存じないのかも知れませんわね」

「ちょっとお!話が全然違うじゃない!!」

思わず絶叫した海に、光が困ったような顔をし、と顔を見合わせる。

「『伝説の泉・エテルナ』まではこの子が知ってるって、プレセアが言ってたわよね!!!!」

「...言いましたね」

「ぷぅ。ぷぅ」

相変わらず楽しそうなモコナと暗いオーラを背負った海が対峙する。

そのオーラを背負ったまま、海がと光に詰め寄る。

「ねぇ、この子なんて言ってるの!?」

「...な、なんだか一緒に旅が出来るから...喜んでるみたいだけど...うれしいなぁ〜みたいな...」

「まあ、このところ、家に引きこもってましたからねぇ...外に出たのは確かに久しぶりですし...」

2人の言葉を聞いて海の額に青筋が浮かび、それを見た光が冷や汗を流し、はそっと眼を反らす。

これは遠足じゃないのよぉぉぉ!!!

「おやつもありませんしねぇ」

「遠足といったらお弁当じゃないんですか?」

「どちらも大切ですわ」

「はっ!そうだわ!!食料よ!確かプレセアは、旅に必要なものはこの子が持ってるって言ってたわよね」

4人の視線がモコナに集中する。

「わ       !!!よく考えたら、この子のどこに『旅に必要なもの』がついてるって言うのぉぉ!?」

海の絶叫にも、モコナは楽しそうに耳を振っている。

「帰るのよ!とにかく1度プレセアのところに戻るの!!」

そう言って海が後ろを振り返ったが、そこでぴたりと動きを止めた。









  第四話   初戦










「.........道が...消えてる...?」

続いていたはずの道が消え、そこには木々が生い茂っていた。

「さっきまで見えていたプレセアの家もないわ!」

「これは、戻りたくとも戻れませんわね」

「あー...方位磁石も完全に狂ってますね。きっとこのまままっすぐ進んでも、プレセアさんの家までは戻れそうにありませんね」

「さすが不思議一杯の『セフィーロ』。空飛ぶお魚さんやお馬さんだけじゃなく、今度はいきなり来た道が消えて森まであるんですのね」

「空飛ぶ魚?へぇ、見てみたいですね」

「感心してる場合じゃない!あなたプレセアと一緒に住んでたんでしょう!?道分からないの!!?」

「一緒に住んでたといってもごく最近ですし、沈黙の森に入るのは初めてですからねぇ」

「あー!!もう!これじゃ、私たちここでフォークダンスでも踊ってるしかないわよ!!!」

「あら、私フォークダンス得意ですわよ」

「私もよ。特にマイムマイム」

「フォークダンス限定なんですか?」

「皆さんで踊るのが楽しいんですわ」

「なるほど」

「モコナ!?」

光の声に3人が振り向くと、モコナが腕の中から飛び出し、ぴょんぴょんと飛び跳ねていた。

「ど、どうしたの!?」

「案内してくれているようですね」

「モコナがついて来いって」

と光が同時に言って駆け出すと、その後を追うように海と風も走り出した。

「本当に動物に詳しい方がいらっしゃって助かりましたわね」

「道を知ってるなら、ちゃんと案内してよぉ。寿命が23秒縮まったわよ」

「モコナ!」

飛び跳ねていたモコナが開けた場所で振り向くと、光が嬉しそうにモコナを呼んだ。

モコナは近づいていった光に飛びついた。

「足速いね。モコナ」

「どちらかというと、走るよりも跳ねるの方が近いですけどね」

そのとき2人にフッと影がかかる。

「ん?かげ?」

「...そろそろかなぁ、とは思ってましたけどね」

の見ているほうに光が顔を向けると、そこには光の3倍はある一つ眼の巨大な生き物が、敵意に満ちた眼で2人を見下ろしていた。

そこに少し遅れていた海と風が走ってくる。

「ハア、もう少しゆっくり走って欲しいわ」

「お3人とも若いですわね」

「来ちゃだめだ!!」

「「!!」」

「いえ、来たほうがいいでしょう。はぐれたときのほうが厄介です」

「でも...」

めきめきと木をへし折りながら近づいてくる魔物を見据えながら言うに、光が困惑した声で返すと、海と風もそれに気づいた。

「さ、さっそく怪獣の登場なの!?」

「あれは怪獣とではなく、魔物というのでは?確か、クレフさんがそうおっしゃっていましたわ」

「本にも、一応魔物と書いてありましたよ」

がそう言った瞬間、魔物が長い尻尾を振り回す。

「きゃああ!」

「わっ!!」

「次が来ますよ!」

そして今度は口を大きく開けて炎を吐き出した。

辺りに黒い煙が充満する。

「ちょっと、どうすればいいのぉ!?」

「どうするって...プレセアさんが貸してくれたでしょう?」

「そうそう。プレセアさんに武器を貸していただいたんでしたわ」

「「おおっ」」

3人が武器の存在を思い出した瞬間、手甲の石から光りとなってそれぞれの武器が現れた。

光りだった武器はやがてはっきりとした形を取り、光が幅の広い両手剣、海がレイピア、風が弓矢をそれぞれ構える。

もいつの間にかグローブをはめ、手には身の丈ほどもある槍を握っていた。

「なかなか様になってるじゃない。3人とも」

「私は、学校では弓道部ですの」

「私は家が剣道の道場やってるから、小さいときからずっと剣道やってたんだ」

「なるほど。確かに『今の私たちに1番合った武器』だわね。あなたは?」

「ん?ああ、これは自前の武器ですよ。プレセアさんのところで言ったように、私はあくまでサポート役ですからね」

「分かったわ」


シャ     


魔物の鋭い声と共に少女達のいるところに前足が振りおろされる。

それを飛んでかわすと、海が光に話しかけた。

「ねぇ、試しに魔法唱えてみてよ」

「え?でもプレセアがここは『沈黙の森』で魔法は使えないって...」

「クレフさんの精獣も消えてしまいましたしね」

「物は試しよ。ほら、魔法だったらあの馬に乗った女王様みたいなおばさんもやっつけられたわけだし、使えたらきっと便利よ」

(女王様みたいな...?...いや、ここは違う世界だからあの人たちはいないはず...たぶん...きっと...)

「う、う、うう...うん」

が内心で冷や汗を流していると、光がすっと剣を空にかざした。

「すぅ...炎の矢!!!」

「......」

「......」

「......」

「...はれ?!

思わず魔物も固まってじっと見ていたが、何も起こらない。

「やっぱり、だめみたいですわね」

「じゃあ、クレフが私たちにくれた魔法がいったい何なのか、全然分からないじゃないの!」

そして、少女たちが慌てての方に走ってくる。

「ああ、せっかく『魔法少女』になれるチャンスだったのに」

「この『沈黙の森』を抜ければ、きっと憧れの『魔法少女』になれますわ」

「おしゃべりもいいですけど、後ろも注意しましょうね...『ヒュッ』っと!」

少女たちとすれ違うと、迫っていた魔物の手の鋭い爪と切断する。

それに魔物がひるんだ隙をついて、光が手を押しやるように斬り込んだ。

「くっ」

魔物に押され、光がわずかに後ろに下がったとき、風の放った矢が眼の中心を射抜く。


  ォオオオォォオオ...


さらに海がわき腹を深く切り裂き、最後に光が魔物の頭上まで飛び上がり、一気に剣を振り下ろす。

光が体を両断すると、魔物は力なく地面に倒れた。

「やったわね」

「皆さんご無事でよかったですわ」

「ええ、怪我がなくて何よりです」

「強い、強い!すごいのね」

海が光の頭をぐりぐりと撫でながら言う。

「...えっと、名前は」

獅堂(しどう) (ひかる)

「光ね。『光』って呼んでいい?」

「うん!!」

「あなた達は?」

鳳凰寺(ほうおうじ) (ふう)ですわ」

「あなた達のように苗字が先なら、 です」

「じゃ『風』と『』ね」

「あなたは龍咲(りゅうざき) (うみ)さん。『海さん』ってお呼びしてもよろしいですか?」

そう言って視線をと光にも向ける。

「あなたは『光さん』で、あなたは『さん』でよろしいですか?」

「私は構いませんよ」

「これから私たちは『運命共同体』なんだから、呼び捨てでいいわよ」

「私も光でいいけど」

「いえいえ、私はさん付けでお呼びするのが親愛の証ですから」

「「へぇ」」

にこにこと笑う風に、と海が相槌を打つ。

「じゃ、私は『海ちゃん』と『風ちゃん』と『くん』でいいかな?」

「どうぞ」

「いいわよ」

「『風ちゃん』なんて呼んでいただけのは初めてですわ」

「海ちゃん。風ちゃん。くん」

にこにこと笑う光に3人も笑顔を向ける。

「...光って、今どきめずらしく純朴そうな娘さんよね」

「本当に」

「?、あなたたちも『娘さん』だと思うんですが」

「その前に『純朴そうな』って付けたでしょう?」

「『純朴』=素直で飾り気のない様子...2人も充分それに当てはまると思いますけど?」

「そうかしら?光ほど素直じゃないと思うけど」

「きっと光さんが1番素直ですわ」

「そうよね」

その言葉に光るが少し頬を染める。

「えっと...くんは、私たちを何て呼ぶんだ?」

「そうですね...では、あなたの呼称を借りましょうか」

「どういうことだ?」

「『光ちゃん』、『海ちゃん』、『風ちゃん』にしましょうか、ということです。構いませんか?」

「うん!」

「いいわよ」

「はい」

少女たちが頷いたとき、今までいなかったモコナが光のところへ飛び跳ねてきた。

「モコナ!」

「お帰りなさい」

「ぷぅ!」

「大丈夫だった?モコナ」

「あ!このぉお!いったいどこに隠れてたのよ!!」

光の腕の中で、モコナは海の声にも楽しそうに笑っている。

「ああ...ぜんぜん反省してない!!この子がいったい何の役に立つというのよ!!」

「道案内でしょう?」

「その他によ」

話していると、草むらががさがさと音を立てたので、が視線を向ける。

すると、そこから5つの眼を持ち、体が棘だらけの蔓でできた魔物が現れた。

「また魔物ぉ!?」

はっと気づいた3人も素早く武器を構えたが、は槍を肩に立てかけたまま、不思議そうに魔物とは少しずれた位置を見上げた。


  ピシッ


「「「え!?」」」

誰も攻撃を仕掛けていないにもかかわらず、魔物が突然2つに裂け、地面に崩れ落ちた。

「「「......」」」

「...剣士?

「「「え?」」」

が魔物とは違うところを見ながら呟いた言葉に、少女たちが首を傾げたとき、木の上から声がかけられた。

「お前たち、何者だ!?」

その声に慌てて視線を向けると、そこには自分の身の丈ほどもある曲刀をたずさえた青年が、4人を見下ろしていた。











あとがき
レイアース第三話終了です。
やっと原作の1巻が終了です。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

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