滑って転んでいる少女達を見下ろして、プレセアは説明した。
「この『セフィーロ』では、創師に武器を創ってもらう騎士や剣士は、自分で『材料』を持ってくるって決まりなのよ」
「なるほど、お金はいらないけれど無料でもないとは、そういう意味だったんですね」
「ざ、『材料』ってどんなものなの?やっぱり金とか、銀とか、銅とか?」
「RPGによく出てくるのはミスリルですね」
「何それ?」
「こちらの世界の鉱物ですわ。ミスリルは違いますけど」
「金と銀は光輝く値打ちのある金属です。どちらも装飾品としての加工が一般的ですね。銅は赤っぽい色をした金属で、いろいろな用途に使われます。ミスリルは私も物語の中でしか知りませんが、非常に丈夫で美しい鉱物だったと思います」
「ふーん」
「え、何で知ってるの?」
髪の長い少女の言葉に、とプレセアは顔を見合わせる。
「あれ、言ってなかったかしら?」
「言っていませんよ」
「何をおっしゃっていないんですか?」
丁寧な言葉遣いの少女の疑問に、とプレセアは声をそろえて答えた。
「「(私)が異世界から来たってことを(です)」」
「「「...ぇえーーーーーーーっ!!!」」」
「そう言えば、セフィーロではどんな鉱物があるんですか?」
「いろいろね。アールとか、スライとか、クストも丈夫だけど...」
は少女達の叫び声を気にすることなく、自分が思ったことをプレセアに尋ねる。
「ちょっと!何で私たちの叫び声を無視するのよ!!」
「私たち以外に異世界からいらっしゃった方がいるとは思いませんでしたわ」
「あなたも『魔法騎士』なのか?!」
の態度に不満を持ち、少女達が質問を浴びせてくる。
はそれに苦笑すると、プレセアさんの話の後で説明すると言った。
「必要なことから聞いていかないと、頭の中が整理しきれないでしょう?」
「...だけど...」
「心配しなくても、きちんと説明しますから。いまはプレセアさんの話を聞いてください」
「そうですわね。プレセアさんのお話が途中になってしまいましたし...」
「分かったわ。でも、絶対にあとで説明してもらうわよ」
「はい、はい。それで、『クストも丈夫だけど』の後は?」
に促されて、プレセアが続きを話し始めた。
「『魔法騎士』が持つ武器は、そんなものじゃだめよ。『伝説』にしたがって、『伝説の鉱物』じゃなきゃ」
「『伝説の鉱物』?」
「そう...『伝説の鉱物・エスクード』」
「『エスクード』...」
「『セフィーロ』で唯一『成長する武器』が創れる鉱物よ」
「成長?武器が?」
「...成長するということは、成長させるための何かが必要になりますね」
「ええ、『エスクード』で創った武器は、持ち主の技量や精神力に合わせて成長するのよ」
「なるほど、持ち主の『技量』ですか」
プレセアの言葉に頷いているの横で、髪の長い少女がグッとこぶしを握り締める。
「それはお得な武器だわっ!次から次へと武器を買い換えなくてもいいんですものね」
「でも、持ち主が『成長』しなければ、武器も『成長』しないわ」
「考えようによっては、武器を買い換えた方が楽かもしれませんわね。腕を上げなくても、武器が強いものだったら威力は大きいはずですから」
「うっ...」
先ほどの少女が、今の会話で言葉に詰まってしまう。
プレセアは、その様子を気にすることなく話を続ける。
「どちらにしろ貴方たちが『魔法騎士』となるためには、『エスクード』で創った武器を持って、武器を成長させるしかないの」
「どうしてだ?」
「『エスクード』で創った武器は『魔神』を蘇らせる事のできる『鍵』のひとつだからよ」
「『魔神』...?『鍵』...?」
プレセアの言葉に、と少女達は不思議そうな顔をする。
それ様子にプレセアは怪訝な顔になる。
「はともかく、貴方たち導師クレフから何も聞いて無いの?」
「話の途中でザガートの追っ手がきて...私たちを逃がしてくれるために1人で...」
「クレフ...それを知ってて...モコナを私に預けていかれたのね」
プレセアは少女の話に不安そうな顔をして、少女達に背を向ける。
「クレフが言ってた。貴方に会って武器を...って。よく聞こえなかったけど、きっと貴方に会って武器を創ってもらえって言いたかったんだと思う。『魔法騎士』となって、『セフィーロ』を救ってくれってクレフは言ってた。まだこの『セフィーロ』のことはよく分からないけど、私たちを助けてくれたクレフに何かしたい」
そう言って、少女は真剣な顔でプレセアを見つめた。
「材料を取ってくる。だから私たちに、武器を創って欲しい」
少女の言葉に、はっとして振り返ったプレセアは笑顔を浮かべる。
「もちろんよ。私からもお願いするわ、異世界の来訪者たち。どうかこの『セフィーロ』を救って」
「うん!!」
第三話 『セフィーロ』の武器
「さ、そうと決まったら早く出発なさい」
少女達の背中を押して出発させようとするプレセアに、が苦笑しながら声をかける。
「プレセアさん、その前に武器では...?」
「そうよ。それに、その『エスクード』ってどこにあるの?」
「『あそこ』よv」
「『あそこ』って、どちらでしょうか?」
「そりゃーもう『あそこ』といえば、『伝説の泉エテルナ』!!」
「エテルナ?」
「プレセアさん、私たちにこの世界の場所を行っても通じませんよ」
の言葉を無視して、プレセアは話を続ける。
「何人もの戦士達が伝説の鉱物『エスクード』を求めて『エテルナ』を目指し...そして、誰ひとり帰ってこなかった」
「ええええええ!!か、帰ってこなかったの!?」
「ええ、誰ひとりね」
「それはぶっそうなお話ですわね」
「そ、そんなところに私たち行くの!?」
「ほほほ、だから武器を持っていきなさいって言ってるのよ」
そう言って笑うプレセアに、が疑問の声をあげる。
「でも、この子たちだけで大丈夫ですか?実戦経験が豊富なようには見えませんが」
「見ただけでお分かりになるんですか?」
「私のいたところでは、戦えないと困る状況でしたから。多少なら雰囲気で分かりますよ」
「じゃあ、貴方は強いのか?」
「特別強いというほどではありませんが、弱くはないと思いますよ」
2人の少女との会話をよそに、髪の長い少女がガチャガチャと周りの武器を手当たり次第に集めていく。
「全部持っていってもいいけど、使いこなせないわよ?」
その様子を見ていたプレセアの一言で、少女は持っていた武器を床に落とした。
「はっ!そういえば私たち魔法が使えるんだったわ!!」
「まだ使い方も分かりませんが」
「私たちわね。でも...」
「え...」
髪の長い少女の言葉で、注目された小さい少女が思わず後ずさる。
「このあたりでは魔法は使えないわよ」
「えええ!?どうして!?」
「ここは『沈黙の森』。魔法の呪文は森の結界に阻まれて唱えられないの」
「『沈黙』ということは...言葉を媒介するものが使えなくなるということですか?」
「そうよ」
「やっぱり、これ全部持ってくーーー!!」
泣きながら先ほどのようにたくさん武器を持つ少女に、プレセアは苦笑しながら手をパタパタと振った。
「武器をよく見なさい。いまの貴方たちに、いちばん合った武器がちゃんと分かるから。ちゃんと武器は貴方たちを『呼ぶ』から」
「武器が『呼ぶ』?...いちばん合った武器がこの子たちに反応するということですか?」
「そうよ。ほらね」
パアアァアアア
プレセアの言葉と共に3つの武器が淡く光り、少女たちの前に浮かび上がる。
そして、少女たちの手甲が光ると、武器が飾りの中にシュルッと吸い込まれるように消えた。
「消えた!?」
「大丈夫よ。その防具は導師クレフのものでしょ。今の武器は手の飾りの中にちゃんと入ってるわ。必要なとき『願えば』ちゃんと貴方たちの手に戻るから」
「さすが『意志』の世界ですね(念や錬金術だと、発動条件がいろいろあるものですけど)」
が『セフィーロ』の技術に感心していると、少女たちが話し始めた。
「『エテルナ』までどうやって行けばいいんだ?」
「ほら、あの魔法使いの鳥さんがいたじゃない。精獣だっけ?」
「さっき言ったでしょ?ここでは魔法は使えないって」
「でも私たち、ここまでその鳥に乗ってきたのよ」
「それは導師クレフの精獣だからよ。『セフィーロ』最高の魔導師の魔法だから、この森まで消えずにいられたのね。きっと今ごろ消えてるわ」
「ではどうやって、その『エテルナ』まで行けばいいんでしょう」
「モコナが教えてくれるわ」
「ぷぅ」
プレセアの言葉に、と少女たちはモコナを驚いて注視する。
「モコナは導師クレフからお預かりしていた子なの。『魔法騎士』となるものがきたら渡してくれって」
「この子どんな特技があるの?」
「連れて行けば分かるわ。旅に必要な最低限のものはモコナが持っているわ」
「ちょ、ちょっと、この子とどうやって会話すればいいのよ」
「モコナさんの言いたいことは、体の動きや表情を見れば推測しやすいですよ」
「ぷぅ、ぷぅ」
「私、分かるよ。何となくだけど」
「動物に詳しい方がいらっしゃって、助かりましたわね」
「これ、動物?」
「植物には見えないでしょう?」
「そういう意味じゃないんだけど...」
の言葉に呆れた少女が、はっとした顔でを見た。
「そう言えば、貴方さっきあとで説明するって言ってたわよね」
「言いましたね」
「貴方も『魔法騎士』なんですか?」
「いいえ。私の場合は、貴方たちと違って召喚されたわけではありませんから...簡単に言うと迷子ですね」
「それじゃ、貴方は戻れないのか?」
「今は戻れませんが、何かしら帰る方法を見つけるつもりですから...そんな顔しなくても大丈夫ですよ」
心配そうに見上げてくる少女に、は微笑を浮かべた。
「そういえば、あまり見かけない服だけど、あなたも『東京』から来たの?」
「んー、異世界に移動してしまったのはこれで4度目ですけど...ここに来る前は『アメストリスのリゼンブール』で、その前が『パドキア共和国』、その前が『エルディナ軍の研究施設』にいましたね。そして今度が『プレセアさんの家』に落ちてきたんですが...」
「そんなに!」
「まあ、こういう状況には慣れてますから」
苦笑しながら言ったに、何かを考え込んでいた眼鏡をかけた少女が話しかけた。
「よろしければ貴方も一緒に行きませんか?」
「「ええ!!」」
「...エメロード姫なら、異世界に行く方法を知っているかもしれないと?」
「はい。闇雲に探すよりは効率がいいと思いますわ」
「一緒に行くかわりに手助けを、と言ったところですか...」
「なるほど、確かに私たちだけよりは...」
「残念ですが、エメロード姫が知っているとは思えません。召喚というのは、他の人を呼び出すことを目的としたものです。私のように自分で異世界間を移動しようとするのとは、方法が異なるでしょう。それに貴方たちが『成長』するためには、他の人を当てにして行動するのでは意味が無いでしょう?推測ですが『エスクード』を取ってくるということそのものが、『成長』に関係あるんだと思います」
「そこまで考えたことはなかったけど...『沈黙の森』を抜ければ確かに『成長』すると思うわ」
「やっぱり、私たちだけで行かなきゃいけないのね」
の言葉をプレセアが肯定すると、髪の長い少女がガックリと項垂れる。
「ですが、わずかな可能性からそこまで考えられたのは、素晴らしいと思います。...『貴方たちが本当に危ないときだけ手助けをする』という条件で良いなら、『エテルナ』までご一緒しますが?」
「「えっ!」」
「よろしいんですか?」
の提案に少女たちは驚きながらも、嬉しそうな顔をした。
「ええ、ここに来てからほとんど部屋にこもりっきりでしたから。その泉にも興味がわきましたし。プレセアさん、かまいませんよね?」
「大丈夫よ。も武器を選んでいく?」
「私は大丈夫ですよ。この前話したでしょう?」
「そうね。さ、そうと決まったら出発、出発」
そう言いながらプレセアは、少女たちを玄関の方へ押していった。
外にでると、髪の長い少女が辺りを見回して先ほど乗ってきた鳥を探した。
「ああ、やっぱり鳥さんがいない」
「あら、あら」
ガックリと項垂れている少女の後ろで、いちばん小さい少女がプレセアにお礼を言った。
「ありがとうプレセア」
「『異世界』から召喚された、未来の『魔法騎士』たち...名前を教えてくれる?」
「光」「海よ」「風ですわ」
「ヒカル・ウミ・フウ、変わった名前ね」
3人の名前を聞いたプレセアが不思議そうな顔をする。
「必ず『エスクード』を持って帰ってらっしゃい。貴方たちに素晴らしい武器を作ってあげるから。それに、これの感想もぜひ教えたいし。これ食べ物でしょ?」
「うん!!」
「モコナ、、みんなをお願いね」
「ぷぅ」「はい」
2人(?)は返事をして、しっかりと頷いた。
「いってきます!!!」
「まぁ、何とかがんばってくるわ」
「生きて、またお会いできるといいのですが」
「不吉なことを言うのはやめてーーーっ」
風の言葉に叫んでいる海を見て、と光は苦笑する。
『沈黙の森』の中へ入っていく4人を小さくなるまで見送ると、プレセアは顔の前でそっと手を組み、祈りを捧げる。
(エメロード姫の御加護があらん事を...)
あとがき
レイアース第三話終了です。
今度は3人の名前が出せましたー!
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
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4話