「...プレセアさん、本当にこれやるんですか?」
「もちろんよ!今度こそ、今度こそ!書斎荒らしの犯人として、モコナを捕まえるのよ!!」
トラップを仕掛けているの横で、プレセアは自分の世界に入り、捕まえた後のことを言い始める。
「どんなせっかんをしようかしら?あの細い目が本当に開くのか、無理矢理開いてみようかしら?それとも身長が伸びるか、手と足をひっぱて見ようかしら?」
うきうきと話すプレセアに、は呆れたようにため息をついた。
(いくら誤作動しないようにしても、これって決定的な欠点があるんですけど...言っても聞いてくれないですよねぇ)
はもう一度ため息をついて、トラップを作動させた。
「プレセアさん、一応作動させましたからこの部屋から出ましょう。ちゃんと作動するのは、私たちが部屋を出てからですから」
「そうね。うふふふふふふふふ 、楽しみね」
「.........」
楽しそうに笑うプレセアに、は何も言うことが出来ずに目をそらした。
「私は倉庫の整理に行くけど、はどうするの?」
「そうですね。本を読ませてもらって良いですか?帰るための方法が分かるかもしれないので」
「かまわないけれど、異世界に関する本は無かったわよ?」
「思わぬところから、思わぬ発見がということも考えられますから。どちらにしろ、他にやることがありませんし」
「それもそうね」
そう言ってプレセアは倉庫へ、は自分にあてがわれた部屋へと入っていった。
ガッシャーン!!
が部屋で本を読んでいると、檻が落ちた音が家中に響き渡ってきた。
は本から目を上げて、書斎の方の気配を探る。
(プレセアさんが向かったようですね。モコナさん...の他に3人?)
「お客さまが捕まってしまいましたか...」
はやれやれとため息をつきながら、書斎へと向かうために立ち上がった。
が書斎に向かって歩いていると、プレセアの楽しそうな声が聞こえてきた。
「ふふふふ、さ、どんなせっかんをしてやろうかしら!お口がどこまで広がるか、引っ張ってやろうかしら!それとも3人一緒に釜の中でゆでてみようかしら!!!!」
「ちょっと、私たちはねぇ!!」
「ああ、久しぶりに楽しい時間が過ごせそうよー!!」
「人の話を聞けというにーーーー!!」
このやり取りを聞いたは思わず足を止めて、遠い目をした。
(やっぱり...プレセアさん、絶好調ですね。なぜか、あの人とかあの人とかを思い出すのは...ああ、自分の世界に入ると話を聞かない人達だからですか)
「今何といったの!」
物思いにふけっていたは、聞こえてきたプレセアの声で我にかえった。
「...こうしている場合ではありませんでしたね。行きますか...」
が書斎に近づくと先ほどよりはっきりと声が聞こえてくる。
「何度も大声で呼んだのに!」
「うちの鍵は導師クレフの特製...この『セフィーロ』の何人たりともこの鍵なしで明けることは不可能なはず...」
(そう言えば、クレフさんに許可をいただけないと、入れないと言ってましたね。と、言うことは...)
「貴方たちはひょっとして...エメロード姫に召喚された、伝説の『魔法騎士』たち...?」
「ひょっとしなくても、そうよ!!」
はその声が聞こえたあと、書斎に足を踏み入れる。
「では、本当に始まるのね。『伝説の戦い』が...」
そう言うとプレセアは、本棚の横にある紐を引いた。
ガーーーーーーーーッ
ガシャーーーーーーーー・・ン
「ようこそ、伝説の『魔法騎士』たち。私はプレセア、この『セフィーロ』で最高位の創師よ」
第二話 3人の少女
「やっぱり他の人がトラップにかかってたんですね」
プレセアの自己紹介が終わったところで、が苦笑しながら声をかける。
「!」
「...誰だ?」
「「さぁ」」
魔法騎士の少女達の疑問に気付かず、プレセアはに話しかける。
「、やっぱりってどういうこと?」
「だって、このトラップは荒らされたら檻が落ちてくるようにはなってましたけど、荒らした人がいるところに落ちるとは限りませんし」
「え?」
「現に、荒らした人ではなく他の方が掴まったでしょう?」
「...もっと早く」
「言ってたら、聞きましたか?」
「............」
は黙り込んだプレセアから少女達へと目を移す。
そのとき、モコナが一番小さな少女に飛びついた。
「モコナがそんなに嬉しがってるってことは...間違いなさそうね」
「え...?」
モコナを抱えながら、少女が疑問の声をあげる。
「導師クレフからお話はうかがっているわ。もし伝説の『魔法騎士』たちが訪ねてきたら、武器を授けてやってくれって」
「ここで武器を貸してもらえるのか!?」
「ほほほほほほ、私は創師、武器や防具を創るのが仕事ですもの」
「貴方たちが自分で武器を...?」
「いえ、プレセアさんだけです。私はここでお世話になっているだけですから」
「じゃあ、あなた1人で?」
「そうよ」
えへんと胸を張って言うプレセアに、は苦笑する。
「さすが、やれ精獣だ魔法使いだと、なんでもありの世界ね。武器屋まであるなんて」
「あら、でも親切ですわよね。ほとんどのRPGでは、武器はお金を貯めて買う事になっているんですもの。無料でいただけるなんて、幸せですわ」
「無料じゃないわよ」
きらきらと目を輝かせながら言った少女の言葉を、プレセアはあっさりと否定した。
「ええ!?お金とるの!?」
「やっぱり世の中甘くありませんわねぇ」
「...(おや?)」
プレセアの言葉にごそごそとポケットを探しだした小さな少女を、は不思議そうに見つめる。
少女が上着から取り出したものを見ると、少女ががっくりと項垂れ、それにつられてモコナも困ったような顔になる。
少女は落ち込んだまま、プレセアに取り出したものを差し出した。
「サイフ...鞄の中に忘れてきたみたいなんだ...いま、ぜんぜんお金持ってなくて...これしかなくて...」
その落ち込んだ様子に、プレセアは微笑むと少女の手をそっと包み込んだ。
「お金はいいのよ」
「でも、無料じゃないって...」
「プレセアさんは無料ではないと言いましたが、対価がお金だとは言っていませんよ」
「そういうこと。ついてきて」
そう言って部屋を出て行くプレセアの後を、少女達とが追いかける。
「無料じゃないのにお金はいらないってどういう事?」
「私はここに来て日が浅いので分かりませんよ」
「ここで代金分働くのかもしれませんわ」
「は、働くぅ!?」
何かを想像したらしい長い髪の少女が、そのイメージを散らすように、ぱっぱっと空中で手を振る。
「そ、そんなことしていたら『セフィーロ』の危機は救えないわよ!」
「あら、プレセアさんのお宅の平穏は守れますわよ」
「そんなもん、守りたくないわ!」
言い合いをしている少女達に苦笑しながら、はプレセアの後を着いていく。
プレセアはある扉の前に来ると鍵を取り出し、扉を開けた。
「わあぁぁ」
「...凄いですね」
「そう言えば、もここに入るのは初めてだったわね」
「はい。ここまで種類と数がそろってるのは、私もあまり見たことがありませんね」
部屋の中にはたくさんの武器や防具が並べてあり、それを見た少女達は驚きの声をあげ、ものめずらしそうに辺りを見回す。
もはじめて入るプレセアの武器庫に感嘆の声を漏らす。
「これ、全部あなたが?」
「そうよ」
「凄い......」
「さ、好きな武器を選びなさい」
「え!?だって、さっき無料じゃあげないって...」
「私たち、この世界のお金は持ち合わせていないのですが...」
「やーねー、お金はいらないっていったでしょ」
(お金以外の『対価』ということですね...この子達に払えるものだとは思いますけど...)
「じゃ、何を...」
疑問の声をあげる少女達に、プレセアは周りにある武器を指し示した。
「この中から好きな武器を選びなさい。でもそれは『貴方たちの武器』じゃないわ。貸してあげるだけ」
「私たちの武器じゃない?」
「私の創る武器は不特定多数の『誰か』のためのものじゃないわ。ひとつひとつが、たった一人のために創られてるの。それぞれが、その人のためだけのものなのよ」
「じゃ、ここにあるものは...」
「そう、あなたたちのものじゃないわ。『貴方たちの武器』はこれから創るのよ。貴方たちのためだけに...」
「私たちのためだけの...」
真剣な顔でプレセアを見つめる3人に、プレセアは大砲の上に座ると話を続けた。
「だからこの中からひとつ、好きな武器を選びなさい」
「でもさっきは、これは私たちのものじゃないって...」
「そうよ。でも、武器を持たずにこの『沈黙の森』から『あそこ』に行くのは、死にに行くようなものだもの」
(『死にに行くようなもの』?...見たところ、この子たちが実戦慣れしてるとは思えませんけど...)
「『あそこ』って?」
「言ったでしょ。私は貴方たちだけが使える、貴方たちだけのための武器を創るって」
「ええ、おうかがいしましたわ」
「『伝説の戦い』で貴方たちが真の『魔法騎士』になれるよう、私はこれまでで最高の武器を創るつもり」
「ありがとう」
(『真』の?...『魔法騎士』になれなかった人たちがいるということですか...そして『伝説』といわれるほど有名なのに、最高位の創師といわれている人の家にも、詳細の書いてある本が1冊も無いなんて...)
プレセアの言葉に目を潤ませて感動する少女と違い、はプレセアの言葉にいくつか疑問を持つ。
プレセアは、考え込んでいるに気づかずに話を進めた。
「だから、『材料』は自分で取ってきてねっ!」
すってーん!!
「...凄い滑りっぷりですね」
は3人のあまりの滑りっぷりに、先ほどまで考えていたことを頭から放り出してしまった。
あとがき
レイアース第二話終了です。
3人の名前が出せませんでした。
次はちゃんと名前が出せたらなぁとおもいます。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
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