町の小さな図書館は、もう夕方に近いためかいるのはここで働いているだけであった。
...パタン...パタン...
「ええと、この本はこっちで、この本がこっち...あっ、変な本が混じってますねぇ」
人のいない図書館で、は本の整理をしながら小さく独り言を呟いていた。
日が徐々に傾き、今日の図書館での仕事もあとわずかとなっていた。
「えーと...あった、あった。なぜあんなところにしまわれていたんでしょうか?」
は返却のあった本をすべて本棚に戻すと、足音を立てないようにして事務室へと戻った。
ドアを開けて中に入ると、事務室の机には修理が必要な本が積み重なっていた。
その本の山を一瞥すると、とりあえず邪魔にならないように、空き箱に入れておくことにした。
は事務室の奥にあるクローゼットの中からちょうど良さそうな箱を見つけると、本が崩れないよう慎重に箱の中に入れた。
「ふぅ、今日はここまでですね」
時間を確認するとため息をつき、首を動かすとぽきぽきと関節が音を立てた。
(...以前は疲れたときに体がどうなるのかも分かっていませんでしたね)
ふっと昔のことを思い出し、苦笑した。
...ボーン...ボーン...
壁掛け時計が帰宅時間を告げた。
は荷物をまとめ、家で修繕する2冊の本を持つと、事務室を出て鍵をかけた。
図書館の薄暗くなった廊下を、すたすたと今日の夕食のメニューを考えながら歩いて行く。
(エド君もアル君も成長期だからたくさん食べますからねぇ。ボリュームのあるものが良いでしょうか...
それとも、やはり身長が伸びるように牛乳や小魚を使った料理のほうが良いでしょうか?
でも、わざわざ牛乳の料理を作らなくてもそろそろ背が伸び始めていますし...2人ともあまり気付いていませんけど)
ビリッ!
が階段に差し掛かったとき、持っていた本の一冊が自らの重さで背表紙から破れた。
「わ、ウソ!」
バラバラになって落ちてゆく本を受け止めようと、は身を乗り出した。
が本を受け止めようと、前に行き過ぎたために階段の方へと体が倒れていく。
(ッ!!本がバラバラになるから動けないし...落ちたら二人に怒られるんだろうなぁ)
階段から落ちかけている人が考えるにしては暢気なことを考えながら、は衝撃に備えて体を丸め、目を閉じた。
第一話 不法侵入?
ドサッ!
「...?」
(あの高さから落ちたにしては、衝撃が少ないような気が...)
は目を開けると周りを見回した。
(見たことのない所ですけど...ん?夕方のはずなのに随分と日が高いですねぇ。......考えたくないですけど...)
「また...なんでしょうねぇ」
は深いため息を吐くと、もう一度周りを見回した。
(どこかの家の中みたいですけど...もしかして、私不法侵入中でしょうか?)
さらに厄介なことに気付き、はもう一度ため息をつくと家の中の気配を探った。
(数は2、ここから近いのは...南側ですね)
人数と場所を確認すると、はこの家の住人と話をするために近いほうへと向かった。
5mほど離れたドアの奥にいるらしく、はドアをノックすると、少々申し訳なさそうに扉の奥に声をかけた。
「あの、突然申し訳ありません。あ、勝手に入ってきてすいません。ええと、ここがどこか分からないので場所をお尋ねしたいのですけれども...」
1分ほどたったが中からは何の返事もなく、は途方にくれてしまった。
(中に誰かいるのは確かなんですけど...やはり,不審がられてるんでしょうか?)
はもう一度声をかけたが、やはり返事はない。
どうしようかしばらく悩んだが、駄目もとでドアのノブを回してみた。
すると予想外なことにすんなりとドアは開いた。
「?、...あのぅ」
がそっとドアを開けて中に入ると、部屋の半分が天井まである本棚が埋め尽くされ、部屋の中央には卵形の椅子らしきものが浮かんでいた。
「あの、すいません」
が声をかけると椅子がくるりと回り、こちら側を向いた。
「......」
椅子には額に赤い石のついた白い生き物が座っていた。
「......」
「......」
と白い生き物は、しばし無言で見つめあった。
「.........えーと」
「ぷぅ?」
沈黙に耐え切れなかったが言葉を発すると、白い生き物も鳴き声を上げて首(体?)を傾げた。
カチッ
そのときかすかなを聞きつけ、は立っていた場所から飛び退いた。
ガーーーーーーッ!
ガシャーン!!
が白い生き物の隣に着地すると同時に、天井から檻が落ちてきた。
あっけにとられて茫然と檻を見ていると、先ほど感知したもう一人が近づいてくるのを感じた。
(さて、どうしたものでしょうか...)
が考え込んでいると、もう一人が高笑いと共に部屋に入ってきた。
「おーほほほほほ!!かかったわね、モコナ!!やっと捕まえたわ!私の書斎をいつもめちゃくちゃにした分、折かんを受けてもらうわよ!」
(...モコナって、この白い生き物のことでしょうか?)
「さ、どんな折かんをしてやろうかしら!お耳がどこまで伸びるか引っぱってやろうかしら!」
(伸びるまえに千切れるような気が...)
「そのお口にどれだけモノが詰め込めるかやってみようかしら!!」
(確かに頬袋でもありそうですけど...)
「おーーーほほほほ 「ぷぅ」 ほほほ 「ぷぅ」 ほ...ほ?」
一人で悦に入っていた女性が、くるりととモコナを振り返った。
「モッモコナ!?どうしてって...」
「えーと、お邪魔してます」
「「......」」
「ぷぅ」
お互いに無言のまま見詰め合っていたが、モコナが鳴くとはっと気付いた女性がに話しかけた。
「私の書斎を荒らしてたのはあなた?」
「いいえ、私はここについたばかりですし。場所が分からなかったので、この家の方にお聞きしようと思ったんですが...」
「え?じゃあ、どうして檻が落ちてきてるの?書斎が荒らされたら落ちるようになってたんだけど」
「さぁ?誤作動でしょうか?荒らされた様子もありませんし」
「えっ!!...ほんとだ...」
が指摘すると女性はがっくりと肩を落とした。
「今度こそ証拠をつかんだとおもったのに...」
落ち込んでいる女性には申し訳なさそうに声をかけた。
「あの、すいません。ここがどこだかお聞きしたいんですけど」
「ん?ああ、そんなことを言ってたわね。ここは『沈黙の森』よ」
「...えーと、変なことをお聞きしますが、この世界に名前ってありますか?」
「ええ、あるわよ。ここはセフィーロという名前だけど...まるで異世界から来たみたいな言い方ね」
そんな訳ないだろうけどと笑いながら否定する女性に、は言葉を詰まらせた。
そのの様子を見てピタリと笑いをやめると、女性はぽかんと口を開けてまじまじとを見た。
「...もしかして、本当に異世界から来てたりする?」
「..........はい」
が肯定すると女性は驚き、すごい勢いで質問を浴びせてきた。
「ええっ!!あなたがエメロード姫に召喚された、伝説の魔法騎士なの!?他には!?伝説では3人らしいけど!あ!導師クレフには会ったんでしょう?そうでなかったらうちに入ることなんて出来ないし!」
「あ、あの!」
女性の質問をさえぎっては何とか自分の状況を説明した。
「あの、私の場合召喚された覚えはないですし、落っこちたので伝説の人たちとは違うかと...」
「......え?でも、異世界から来たのよね?」
「ええ、それは間違いないと思いますが...」
「それなのに魔法騎士じゃないの?」
「召喚された覚えはありませんし...それに、今の私の状態は迷子みたいなものですし」
「迷子...そんなことってありえるの?」
「不本意ながら、異世界に落ちたのはこれで3回目なので...」
「...方向音痴?」
「...違います」
不名誉なレッテルを貼られ、は疲れたため息を吐いた。
あとがき
レイアース第一話終了です。
プレセアさんの名前が出せませんでした...
次回は(多分)出てくるはずです。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
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