少年陰陽師 (1)
「くろいの、みえなくなっちゃったよ?」
「それでいい」
晴明が口元に笑みをうかべながら末の孫の頭を撫でた。
そこにたまたま通りかかったが足を止める。
まだ幼い末の孫−昌浩−に大きすぎる力は制御できないだろうということはにも分かるので否やはないが、そこでひとつ困ったことがあるのに気づいた。
「ずうっと、みえないの?」
「いいや。お前が本当に必要なときがきたら、ちゃんと見えるようになる。だからそのときまでに、必要なことを全部覚えてしまおうな...」
末の孫に笑いかけている晴明を邪魔すると、後で面倒なことになるので、はいつも晴明が気づくまで待つことにしている。
今回はさほど待つこともなく気づいてもらえたらしい。
「、何か用か?」
「ー」
笑いながらぱたぱたと手を振ってくる昌浩に、手を振り返しながら晴明の隣に腰を下ろす。
「昌浩の力を抑えたんですね」
「反対か?」
「いいえ」
言葉のやりとりは短いが、それだけでも充分相手の思いが伝わる程度には共に過ごしてきている。
「ただ、問題がひとつあるんですけど...」
「何じゃ?」
「私、隠形できませんよ」
その言葉にはたと気づき晴明は少し眼を見開いた。
「おお、忘れとった」
「隠形する必要もありませんでしたしねぇ」
お互いにさてどうしたものかと考え込んだ。
するとそこに、何もないところからため息が降ってきた。
「白虎?」
「ならば、人のふりをすることができたのではなかったか?」
「「......そういえば」」
思い出したように顔を見合わせる2人に、白虎は聞こえないようにもう1度ため息をついた。
「最近このままの姿だったんで、すっかり忘れてましたね」
「50年が最近か?」
「わりと最近ですよ。なるとしたら、やっぱりこの場合は家人ですかねぇ?」
「そのほうが面倒はないだろうが、いっそのこと親戚として陰陽寮に入るか?」
「...成親と昌親の手伝いと、10年後に昌浩の手伝いをしろと?」
「いや、わしの手伝いもじゃ」
「そうなると、必然的に吉平と吉昌の手伝いもすることになるんですけど」
「なら大丈夫じゃ」
妙に自信たっぷりに言いきられた。
50年以上一緒にいれば、なんとなく相手の先の行動も読める。
いやだと言ったら、安倍家総がかりで説得されるのだろう。
そうなったら自分が何と言っても陰陽寮に入れられるだろうなと、なかば諦めた気持ちで流れる雲に眼を向けた。
ありがとうございました!
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