創竜伝 (1)
「ただいま帰りました」
「「おかえりなさい」」
とたとたと走ってきて出迎えた8歳と4歳の甥たちをそれぞれ片手で持ち上げると、はリビングへと移動した。
8歳の甥を竜堂始、4歳の甥を竜堂続という。
まだ出迎えにはこれない0歳の甥、竜堂終は義母のもとにいるはずである。
戸籍上は22歳のは2年前に専門学校を卒業し、ジュエリーデザイナーとして働いている。
まだ2年足らずにもかかわらず、その作品は高い評価を受け、自分の店を持つまでになった。
だが、基本的にはほとんど家で制作活動を行い、公にはあまり出ないためにほとんど顔を知られていない。
最近は甥たちの母、の義姉が乳腺炎で退院が遅れていて義母が生まれたばかりの終の面倒を見ているため、必然的にが2人の甥の面倒を見ることになっている。
普段家にいるはずのがなぜ出かけていたかというと、明日が日曜日なので義姉の見舞いに行く際にクッキーでも作っていこうかという話しになったのだが、バターがなかったので買いに行っていたのである。
その話が出たとき甥たちにクッキーの型抜きをお願いしようと言ったため、2人ともが帰ってくるのを今か今かと待っていた。
始は4歳の頃から『責任ある長兄としての自覚』を持っていたが、この歳若い叔父には無意識に甘えが出るらしい。
また続も兄以外の人間に敬意を払うことがないが、は自分たちを無条件で守ってくれる人ということは分かっているらしく、始の次に尊敬する相手である。
もまた、幼い家族がかわいいようで、いつも笑顔で接している。
ただ、家族の中で自身が人でないことを知っているのは義父司と始だけである。
他の人たちは14歳までの記憶がなく、司に拾われてきた義息子または義弟としか知らない。
義父はともかく、なぜ始がそれを知っているかというと、甥たちはどうも普通も人と異なるところがあるようで、始もそれを悩んだ時期があったのである。
その悩みに真っ先に気づいたのがであり、自身が人でないということを話し、人と違うことは始のせいではなく、たとえ人と違ったとしても嫌いにはならないと言った。
それ以来、どうやら吹っ切れたらしく、人と違うということに悩むことはなくなった。
もちらんが人ではないということを知っても、始は今までと同じようにに懐いてもいた。
続が大きくなったら同じような悩みを持つかもしれないので、そのときはまた話すことになるだろうが。
甥たちが型抜きをしている横で、が2人のおやつを作っている。
オーブンはクッキーで使うので、今日は練りきりである。
これもちょっと多めに作って明日病院に持っていくことになっている。
甥たちの眼はときどきの手元に注がれ、形作られていく菓子にきらきらと瞳を輝かせる。
きっと型抜きが終ったら自分たちもやってみたいと言い出すだろうと、ふたつほど手をつけずに残している。
まさか今こうして手伝いをしている2人が、将来に家庭科だけ苦手とするとは露ほどにも思っていないかった。
家庭科の技量は姪に集積されたらしいと気づくのは、あと10年ほど先のことである。
ありがとうございました!
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