彩雲国物語 第7話
ずるずると襟をつかまれて引きずられている『見た目青年』の男と、引きずっている50を過ぎてなお現役武人の老人との組み合わせは異様に目立っている。
訓練場へと近づくごとに人は増え、ほとんどの者たちが手を止めて、呆気にとられて、または、訝しげに2人を注視している。
引きずられている見た目は青年、実年齢はすでに500歳を超えたは、一応彩雲国では老人と同い年と言うことにしている。
同い年と言うことにされている老人は宋隼凱。名誉職の三師の1人、宋太傅である。
同い年ということにしているのに何故が若いまま姿を変えていないかというと......単にしわを増やすのが面倒だという理由だったりする。
まあ、そのことは置いておくとしても、は娘を探してうろうろしているうちに三師どころか『紅家以外』の七家の当主やその妻や子供たちと知り合いになっている。
今は紅家とのかかわりが1番強いが。
この国でと友人となった者たちがまずはじめに思うのは、『もったいない』である。
武官としても文官としてもこれ以上ないほどの能力を持っていながら、この国のものではないからと言う理由で国に仕えていないのは確かに周りから見ると非常にもったいない。
本人としては家族に囲まれてほのぼのと過ごす日常に満足しているようではあるが。
さて、話が大幅にずれていたが、はなぜか友人に訓練場へと引きずられている。
久しぶりにばったりと会った友人に挨拶をしようと口を開く間も与えられずに引きずられている。
(さて、何故こんなことになったのでしょうか?)
首が絞まらないように襟を反対側に引っ張りながら、は友人を見上げる。
後頭部しか見えなかったが、足取りとオーラから判断するに非常に上機嫌である。
この友人が上機嫌になることといったらやはりあれだろうかと、考えているうちに2人は訓練場のど真ん中に立っていた。
「、勝負だ!」
「久しぶりに会った第一声がそれですか」
義息子に届け物をした帰りに、いきなり引きずって連れてこられたことに対する不満にしてはややおとなしめである。
「今度こそ勝つのはわしだ!」
「隼凱、引きずってきたことに対する謝罪は無いんですか?」
「てめぇ、何で武器を持ってねえんだ!?」
「私の言葉は無視ですか...何故義息子に届け物をするのに武器がいるんですか」
「チッ!おい!木刀2本持って来い!!」
「そういうのは使う人が持ってくるべきでしょう。ほら、行きますよ」
急いで木刀を取りに行こうとした者やその周りにいた者たちが、の言った言葉とそれに舌打ちしながらも黙って歩く宋太傅に目をむいて硬直した。
そんな周りの反応など軽く無視して木刀を手にした2人は、いきなり木刀を打ち合わせた。
木刀同士がぶつかってたてる甲高い音で我に返った武官たちは、あわててその場を離れやや遠巻きに2人の打ち合いに見入る。
一合、また一合と合わさる数が増えていくごとに、周りのざわめきが消え、訓練場に2人の木刀がぶつかる音だけが響いていく。
誰もついて行けぬほど早く力強い剣を、2人は口元に笑みを浮かべながらふるう。
武官たちの誰もがその試合に見入っていると、突然その後ろから怒声が響いた。
「てめえら!何サボってやがる!!」
「いつから他人の訓練を黙って見ていられるほど強くなった」
すらりと剣を抜いて武官たちを睨みつけている右羽軍大将軍白雷炎と左羽軍大将軍黒燿世に、全身に冷や汗をかきながらすくみ上がる。
「おや?雷炎と燿世じゃないですか。ずいぶん大きくなりましたねぇ」
「「師!?」」
「その呼ばれ方をするのもずいぶんと久々ですね」
「!人と刀交えてるときに気をそらすんじゃねえよ!!」
「それなら木刀を放り出してあの子達のところに行くけど良いんですか?」
「良いわけあるか!!こっちに集中しやがれ!」
「むさ苦しい友人より、かわいらしい昔の教え子たちのほうが良いと思うのは当たり前だと思うんですけど」
「教え子だぁ!?お前そんなこともしてたのかよ!!?」
「あの子達の前でうっかり熊だか虎だか狼だかを素手で倒しちゃったんですよ。土下座されながらお願いされたら断れないじゃないですか」
「はっ!相変わらずガキには甘いこった!!」
「いやですねぇ。わざわざこうやって試合に付き合ってあげているんですから、充分友人にも甘いでしょう?」
この会話を相変わらずの速さで剣を交えながら交わしている。
呆然としている黒白両将軍と相変わらず剣を交えている2人の会話は、周りにいた武官たちの理解許容量を超えた。
その日にこれを見ていた武官たちはそろってこれは夢だったと思い誰にも話さなかった。
まさか宋太傅と黒白両将軍が義息子に会いに来たをときどき訓練場に連れてくるとは夢にも思わずに。
ありがとうございました!
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