彩雲国物語 第6話





「おじいちゃま、お庭のさくらはどうして家の外にあるさくらと違うの?」

そのことに今気づいたとでも言うように、客人たちが桜を見上げた。

「秀麗は良い目をしていますね」

「ありがとう。おじいちゃま、どうして違うのかお話して」

「この桜は、私の母、秀麗にとっては『ひいおばあさま』の故郷の桜なんです」

「ひいおばあちゃま?」

「ええ、『吉野』という名前の桜なんです。家の外に植えてある桜は、秀麗が生まれるずっと前に、山桜を植え替えたものだと思いますよ」

「お家のさくらは?」

「この桜は、私が偶然持っていた桜の苗木が成長したものです。もともとは違うところに植えてあったのを、私が我侭を言って植木屋さんに植え替えてもらったんですよ」

「おじいちゃまがわがまま言うの?」

きょとんとした顔で見てくる秀麗に、は穏やかな笑みを向けた。

「私は家族の中で一番欲張りですから、我侭もいっぱいなんですよ」

「いっぱい?」

「ええ」

その言葉に秀麗だけでなく静蘭も驚いたようにを見た。

娘夫婦はその理由が分かっているとでも言うかのようにのんびりとお茶を飲んでいる。

黎深は『そんなことはありません!』と叫びたいのだけれど、2人の会話を割って入ることが出来ず、初対面の2人は黎深ほどじゃないだろうという顔をしている。

「たとえば、どんなこと?」

「そうですね。今度のおやつはプリンを作りたいなとか、でもケーキやクッキーも作りたいなとか、秀麗と静蘭に花冠も作りたいなとか、今度家族みんなで散歩に行きたいなとか、たくさんありますよ」

「大旦那様、それは我侭とは言わないと思います」

「そうですか?秀麗はどう思います?」

「ぷりんがいいとおもう」

「お嬢様、そういう意味ではなくてですね」

「妾は抹茶のシフォンケーキが良いと思うぞ」

「私は胡麻のくっきーがいいと思いますよ」

「......旦那様...奥様」

「じゃあ、プリン、シフォンケーキ、クッキーの順に作りましょう」

「せいらんは?」

「ちゃんと聞きますよ。静蘭は何が良いですか?」

「......では、蒸しパンを」

主人たちに根負けしたように、静蘭は答えた。

「義父上、わ、私は」

「黎深、君は仕事があるだろう」

大好きな兄に一言で止められ、黎深は固まった。

「邵、流石にプリンは無理ですけど他のものなら包めますから、休憩時間に黎に渡してくれませんか?」

「ち、義父上!!」

「分かりました。黎深、来るのは休憩時間だけですよ」

「ちゃんとお友達と一緒に分けて食べるんですよ」

「は、はい!!」

真っ赤な顔で、涙目で何度も頷く黎深は、後日が作ったお菓子を『分け与える』ことにものすごく葛藤(かっとう)した。

むしろその友人たちが日ごろの憂さ晴らしとばかりに大量にかっさらっていった。











ありがとうございました!
花見ネタは『ザ・ビーンズvol.2』のマンガに手を加えました。

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