彩雲国物語 第3話





「うーん...こんなものですかねぇ」

が自分の作ったものを眺めて評価をくだしている後ろで、娘夫婦とその兄弟たち(にとっては義息子)は呆気にとられていた。

そもそもが義息子の屋敷に来たのは、ほんの半月前で、娘の懐妊が分かったときからである。

安心して生めるように長期滞在するために、やってきたというわけだ。

ここに来ては、はたと気がついた。

さすがにおなかの中に子供のいる状態で結婚式は無理でも、嫁となる娘に『嫁入り道具』を作ってやることは出来るじゃないかと。

そこで嫁入り道具を買いに行くとならないあたりがである。

さっそく薔華と邵可(は娘と同じ名前だからと『邵』と呼ぶ)につげると、娘はものすごく乗り気で、義息子は作るというに驚いていた。

はもともと薔華とともに暮らしていたときは、家具やら装飾品やらを作って生計を立てていたし、娘を探している間も簡単な装飾品を作って売りさばき資金を得ていた。

そのことを話すと、義息子はこの人はどこまで器用なのかと呆気にとられていたが、材料を手に入れるために店を教えてくれたのでとても助かった。

もちろん紅家本家の一室を借りて作っているのだから、きちんと義息子の弟たち(しつこいようだがにとっては義息子)にもそのことを知らせにいった。

そのときに、彩七家は家の者以外には厳しいということを知っていたので『様』を付けて呼んだら...真ん中の義息子には泣かれ、末の義息子には微妙な顔をされた。

は2人のお願いで、真ん中の義息子『紅 黎深(れいしん)』を『黎』、末の義息子『紅 玖琅(くろう)』を『琅』呼ぶことになった。

余談だが邵可と黎深はを『義父上(ちちうえ)』と呼び、玖琅は『殿』と呼ぶ。

さて話がずれたが、が娘のために嫁入り道具の材料をそろえだしたのが2週間前、作り出したのは1週間前である。

目の間に置かれた鏡台と箪笥と机案、装飾品、筆や(すずり)、果ては花や葉が透かしにされた上質紙など...とても1週間でそろえられるようなものではない。

筆と上質紙以外は全て細かな彫刻が彫られ、鏡台と箪笥と机案は漆塗り、金箔や銀箔、螺鈿(らでん)まで施されている。

もちろん装飾品には金や銀のほかに紅玉などの宝石が使われている。

国宝級のものをたった1週間でこれほどの数作れば、誰だって呆気に取られるに決まっている。

生憎とにその自覚はないし、これら全ての材料がの私費で支払われているため、紅家(ゆかり)のものが陰口を叩くことは無いだろうくらいにしか考えていない。

だが娘と義息子たちが何も言葉を発しないとやはり不安になってくるらしい。

「薔華、こういうのは嫌いでしたか?気に入らないなら作り直しますけど」

「驚いておるだけじゃ。まさかここまでのものを作るとは」

「嫁入り道具なんですから、これくらい普通だと思いますけど」

「義父上、さすがにこれだけの物は彩七家でもそろえるのは無理かと」

「え、これ、そんなに質素でしたか?」

殿、逆です。王の貴妃たちでもこれだけのものはお目にかかれません」

「そうですか?でも、お世辞でもそう言っていただけると嬉しいですね」

「そんな!義父上、お世辞ではなくとてもすばらしいです!!これほどのものを作れるとはさすが義父上です!!!」

「ふふっ、ありがとうございます」

が笑顔で礼を言うと真っ赤になる義息子が1人出来上がった。

「薔華、一応使いやすいように工夫したんですけど、気に入りませんか?」

「まさか!父様が作ってくれたものを気に入らぬわけがあるまい。しかし、工夫とはどのようなものなのじゃ?」

「鏡台は鏡の角度を変えられるようにしましたし、あとは引き出しの中を薄い板で仕切ったんですよ。中に入れておいた化粧品は鉛や水銀の入ってないものを新しく作りましたし、化粧道具も毛の硬さなどでいろいろそろえました。箪笥も滑らかに開くようにした上で、ちょっとしたことをしないと外れないようにしましたし、机案の高さも変えられるんですよ」

「ほう。確かにそれは使いやすそうじゃ。しかし、化粧まで作ったのか?」

「当たり前じゃないですか。いつまでも鉛や水銀なんかの入った化粧品をあなたに使わせているわけにはいきません」

殿、もしよろしければその作り方を教えていただけますか?」

「実はそのつもりだったんですよ。私だけが作るよりも、一般市場に出回ったほうが手に入れやすいですから」

「良いんですか?」

「足りないかもしれませんが、宿泊代代わりにでもしてください」

足りないどころか多すぎると4人がそれぞれ思ったり口に出したりしたが、誰がどのような反応だったかは伏せておく。











ありがとうございました!

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