迷子の旅 in NARUTO(30)
「あ...お菓子が...」
「我に返った後の最初の言葉がそれ?」
「普通そこまで悲壮感を漂わせるか?」
我に返った振りをして最初に口にした言葉にしては確かに妙かもしれないが、にとっては攻撃を受けたことよりお菓子がだめになったことのほうが気になるのは事実である。
「うちの従業員たちは、一応私の教え子みたいなものですから...初めて自分で作ったものを食べてあげられなかったんですよ」
「まあまあ、帰ったらもう1回作ってもらってくださいよ」
「今は無事にこの場を離れるのが先決だからな」
やや涙目になっているを多少おざなりに慰めながら、2人は注意深くあたりを警戒している。
はもう1度刺さっているクナイを見て、困惑と不安をはっきりと顔に浮かべた。
そして深く息をはいて口をきゅっと結ぶと血の気の引いた顔を2人に向ける。
「私は...どうすれば良いでしょうか」
「意外と冷静ですね」
「商人ですから...見栄と虚勢を張るのは得意なんです」
目の端に移る血の気の引いた顔と小刻みに震える体、そして震えを押さえ込んでいる声は確かにおびえた人間のものだ。
この様子をの友人たちが見ていたら、演技に感心するか、よくここまでと呆れるか、嘘でもこんな態度取らせやがってと相手の息の根を止めるか...ナルトたちなら1番最後の反応だろうか?
の護衛たちはその様子に気丈だなと割りとあっさりした感想だけであった。
さすがにこの状況での観察に気を回すことがほとんど出来ないという理由のためかもしれないが。
「とりあえずこの場を離れます。アスマ、よろしく!」
「ああ。失礼」
「っえ!?」
アスマにひょいと肩に担ぎ上げられ、は驚きでびくりと体を揺らす。
「このまま走って移動します。怖いときは目を閉じて」
「俺が後ろを走っていって攻撃を防ぎますから、安心してください」
「...はい」
が腕1本で支えられた不安定な状態で頷き返すと、2人は一気に駆け出した。
2人とも見晴らしのいい街道を通ることはせず、街道からややそれた森に入り木の上を移動して行く。
は必死な様子でアスマにしがみつき、きつく目を閉じている。
を守りながら移動している間、2人はあたりを警戒しているが、実はもう警戒の必要はない。
相手がクナイを投げた瞬間には、もうすでに事切れており、だからこそ上忍たちが殺気に気づかなかったのだ。
正しくは出発前から出していたの影分身が相手に気づく間も与えずに息の根を止めていたのである。
3人が休憩を取る頃にはこの周辺に潜んでいた敵はほとんど殲滅されており、攻撃を仕掛けてきた相手が最後の1人だったため、2人の取った行動は骨折り損ともいえる。
(これでしばらくは大丈夫でしょう。さすがに堂々と街中では仕掛けてくることはないでしょうし。でも、結構揺れるけど、移動するには楽で良いですね。予定より早くつきそうですし。今度ナル君たちにもやってみましょうか?)
影分身で物騒なことをして、演技をしている本人の内心はものすごくのんきだった。
「猿飛さん、はたけさん、ありがとうございます」
「気にしなくても良いですよ」
「仕事ですから」
そしての予想通り予定より半日近く早く宿場町の入り口へつくと、アスマに降ろしてもらい、多少よろけながらも自分の足で立つ。
3人は1番大きな宿に向かうと、宿の者に案内されて6人ほど人がいても余裕がある室へと通された。
部屋の中に入り、周りからの視線がなくなるとはほっと息を吐いてこわばった体をほぐした。
「疲れましたか?」
多少事務的な問いではあったが、はそれに気を悪くした様子もなく苦笑交じりに頷き返す。
「ええ、ちょっと疲れが出たみたいです。夕食まではまだ時間がありますから、少し休ませてもらいますね」
の言葉に頷いた2人に頭を下げ、近くにあった寝椅子に体を預けるとゆっくりと目を閉じて風の国での予定を考え始めた。
ありがとうございました!
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