三千世界の鴉を殺し (3)
「久しぶりですね、オリビエ」
「ああ、久しぶりだな」
どこか幼さを残した顔立ちのがふんわりとした笑みを向けながら挨拶をすると、O2もわずかに口元を緩めて挨拶をした。
この様子をO2の部下たちが見ていれば、発狂する者が続出しただろう。
それは決して誇張ではない。
何といっても、彼はあの銀河連邦軍中央本部情報部部長オリビエ・オスカーシュタイン少将なのだ。
「ところで、あなた最近ちゃんとした生活を送ってますか?」
「いつも通りだ」
「なるほど...いつも通り仕事中毒なんですね」
ため息とともに吐きだされた言葉など気にする様子もなく、O2自ら2人分のコーヒーを入れた。
はそれを受け取ると、もう一度ため息をつく。
「最低限の睡眠を取ってくださいとか、せめて1日に1回は栄養補助食品以外を食べてくださいとか、疲れてるんですからコーヒーにミルクだけでも入れてはどうですか...なんて何度言わせるんですか」
「お前が勝手に言っているだけだろう」
「否定はしませんが、それを実行してくださったら私の心配が減るんですすけどねぇ」
「生憎、私を常に心配するのはお前だけだからな」
「あなたの部下たちも心配してると思いますよ」
「論外だ」
「......あなたの部下たちって、ほんっとうに報われない子たちばかりですよね」
即答したO2の言葉に、そっと目じりの涙をぬぐう振りをして可哀想な彼の部下たちを思う。
「本題に入りたいのだが」
「ん?ああ、何ですか?」
あっさりと表情も雰囲気も変えて座りなおした様子を誰かが見ていたら、実はそれほど彼の部下たちを憐れには思っていないのではないだろうかと思っただろう。
「スペース・コロニー1機が完全に使用不可能になったことは知っているか?」
「ルーシェ君が壊したんですよね」
「いつから呼ぶ名を『ルーシー』から『ルーシェ』に変えた?」
「だいぶ前ですよ。あの子が女の子の呼び方は嫌だと言ったので...で、スペース・コロニーの件がどうかしたんですか?あれはルーシェ君が『2階級降格の上、辺境惑星基地での地上勤務』を行うということで片付いたんじゃありませんでしたか?...13台の娘たちの判断にケチをつけておいて」
「私はお前の『ミリタリー・メビウス』が適切な判断をしたことは分かっている」
「ありがとうございます。駄々をこねたのは、ルーシェ君にコンプレックスを持っている馬鹿どもだということは分かってますから、安心してください」
「いつものように私に被害が来なければ構わん」
「いつもすいませんねぇ」
O2にさえ被害が来なければ何をやってもいいと公言しているようなものだ。
実際にも友人たちに被害を及ぼさずに嫌がらせをすることに慣れている...物騒なこと極まりないが。
「...っと、話がずれましたね。それで、スペース・コロニーの件がどうかしたんですか?」
「左遷先は惑星バーミリオンだ」
「へぇー、あそこですか」
「連邦軍病院のある医師についてデータ改竄の疑いがある」
「サラのデータですか?」
あっさりと名前をあげたをO2は面白そうに見やる。
「ずいぶん素直に話したな」
「だって別に隠してませんから。データ改竄といっても人種を混合種と登録して、父親の所に私の名前を入れているだけでしょう」
「確かに、お前が戸籍上父親となったのはかなりの人数になるからな...子供がお前の孤児院の出身で、親が孤児院の院長がお前なら、不思議なことではない」
「そうでしょう?だから、サラディン・アラムートは・の義息子です。何か問題がありますか?」
「そのことに関してはない」
「ありがとうございます」
にっこりと笑った顔はとても可愛らしいが、実はそれが何より食えない顔だと知る者は意外と少ない。
この後しばらく、狐と古狸の化かし合いは続きそうだ。
ありがとうございました!
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