三千世界の鴉を殺し (1)
「オリビエとマリリンと会ったのは、2人が舌戦を繰り広げているところに落ちたときなんですよ」
「よく無事だったね」
落ちたというのは良く分からなかったが、2人が言い争いをしているところに出くわして無事ですんだのは奇跡だ、ということは息子にも分かるらしい。
「ええ。仕事道具以外の物を投げつけられて、テレパスで思考を読まれそうになりました」
「撃たなかっただけましだろう」
「そうですね」
「何を言ってるんですか。動揺して、相手が誰かとっさに確認できなかったのに」
「固まっていた奴に言われたくはない」
部屋の空気が冷たくなる。
「2人そろうと、にぎやかですよね」
「そうなの?俺の前だとめったに喧嘩しないんだけど」
「おや。マリリン、がんばってますねぇ。子供の前では喧嘩はしないと言ってましたけど、実行できてるんですね。オリビエ相手に」
「でも喧嘩するときは、部屋に追い払われる」
ルシファードからやや憮然とした雰囲気がただよう。
「それは、ルーシー君を気遣ってですよ。前にあの2人の言い争いを聞いていただけで、1ヶ月悪夢にうなされた人がいましたから」
「俺は平気なのに」
「まあ、受け入れてあげてください。オリビエもそれに関して反対していないということは、(なけなしの)親心なんでしょう」
「ふーん」
ルシファードはジュースに口をつけながらまだ舌戦を繰りひろげている両親へと眼を移した。
2人とも無表情に相手を罵っている。
当分終わりそうにないと思いながら、ルシファードはに問いかけた。
「フリーダとはいつ会ったの?」
「旅行中に、偶然会ったんですよ。そのとき思わず『マリリン!』と叫んでしまったんですけど、あっという間にかつがれて人気のないところへ」
「見てすぐに分かったの!?」
普段、フリーダは素顔をさらしていないのだから、分かるわけがない。
だがが気づいたのは顔を見たからではなく、気配が同じだったからである。
そのまま知らないふりをしていれば、も似た気配の人がいるものだで終わっただろうが、かつがれて場所を移したあとに説教をされれば、本人だと気づくというものだ。
そう教えると、ルシファードは不思議そうにを見た。
「気配は分かるけど、全員違うの?」
「ええ、違います。もっともそれが分かるようになったのは80歳くらいのときですけど」
「...もしかしてあの2人より年上?」
「ええ。今年で「!もとはといえば、あなたが気づかなかったらこれも私に気づくこともなかったんですよ!」
「それは責任転化というのではないか。それが気づかなくとも、私なら後々気づくとは思わなかったのか」
「いやですね。友以外で周りが見えない人が、気づくわけないじゃないですか」
どうやら、こちらにも飛び火してきたらしい。
しかし、再び2人で集中してしまうため、たいした被害はない。
もこういう状況にには慣れているのか、笑いながら2人のやりとりを聞いている。
だが、いつまでも続けばいい加減飽きてくるものだ。
「2人ともあんまり喧嘩を続けていると、『おみやげ』あげませんよ」
2人の口論がぴたりと止まる。
どうやらどちらも『おみやげ』というものが気になるらしい。
「オリビエには『最高機密情報』とマリリンには『特殊繊維でできた中性的な下着』なんですけど」
いらないなら廃棄しますよと、それはもうにっこりと笑って言ったに2人はしぶしぶと喧嘩をやめた。
「2人ともいい子ですね。あ、ちゃんとルーシー君の『おみやげ』もありますからね」
このときが2人をいい『子』呼ばわりし、ルシファードの尊敬を勝ち取った瞬間である。
ありがとうございました!
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