三千世界の鴉を殺し 序章
ルシファード・オスカーシュタイン(4歳)は朝から困惑していた。
キッチンでは自分の母(フリーダム・ゼロ)が普段以上に手をかけた料理を作り、仕事中毒の父(オリビエ・オスカーシュタイン)がわざわざ休みを取って家にいるのである。
実際に家にいる父を見たときは、それはもうまぬけな顔で驚いて母に笑われてしまったが。
少なくとも今日は家族の誕生日ではなかったはずだと首を傾げながら朝食を摂る。
「ルーシー。今日は俺たちの友人が来るからな」
その言葉に、ルシファードは食事の手をぴたりと止めて母の顔をまじまじと見た。
今、母は『俺たち』と言ったはずだ。
その『俺たち』とは、はたして母と父のことなのか、それとも母とマリリアードのことなのか。
いや、母とマリリアードのことは自分たち家族以外誰も知らないはずだ。
しかし、父の友人はマリリアードしか聞いたことがない。
そんな息子の疑問を感じ取ったのか、父が顔を向けてきた。
「私たち3人の友人だ」
その言葉にルシファードは眼を見開いた。
やってくる友人とは、この父の友人を勤めることもでき、なおかつ母たちのことも知っている人物ということだ。
そしてタイミングが良いのか悪いのか、ルシファードが考え込む前にチャイムがなった。
それを聞きつけた母がいそいそと玄関へと向かう。
しばらくして、母と共に1人の青年がリビングへとやってきた。
「早かったな」
「ええ、道がすいていましたから。久しぶりです、オリビエ」
「ああ」
あの父が口元に笑みを浮かべながら言葉を返したことに、ルシファードはものすごく驚いた。
だが、驚いて固まってもフォークを落とさないのはさすがである。
その固まっているルシファードに青年の眼が向けられる。
珍しく緊張していると、その青年がにっこりと笑いながら言った。
「フリーダの出産に立ち会ったんですけど、覚えていないでしょうね。会うのは4年ぶりですけど、オリビエに似て素直そうな子になりましたね」
今この青年はなんと言っただろうか。
自分が生まれたときに母と共にいて、自分が生まれたときに顔をあわせたらしい(もちろん覚えていないが)。
いや、それよりもあの父を、O2を素直と言わなかっただろうか。
息子の自分から見ても、父は捻くれていると思う(お茶目なところもあるが)。
「そう思うのはお前くらいだろうな」
「そうですか?でも、フリーダとマリリンよりは素直だと思うんですけど」
「失礼ですね。私のどこが素直じゃないんですか」
「マリリン。分かっていることをあえて聞くのは、意味がないと思うんですけど」
母もいつも間にかマリリアードと入れ替わっていたらしい。
しかし、マリリアードをマリリンと呼ぶということは『黄金のイルカ号』の頃からの知り合いらしい。
それにしては今まで1度も話を聞いたことがないが。
「、ルーシーに名乗っていないのではないですか?」
「ああ、そういえばまだでしたね」
その青年はルシファードと目線を合わせるように身を低くした。
「正確には、はじめましてではないのですけれど、覚えていないでしょうからはじめましてですね。私は・。あなたのご両親とマリリアードの友人をしてます」
「...ルシファード・オスカーシュタイン。2人の息子をしてます」
少しおかしな自己紹介となったが、とにかくこれがルシファードとの初対面であった。
ありがとうございました!
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