3人はビルグナ砦を出発して、領地の境辺りで野宿をしていた。

食事も終わり交代で見張りをしようかという段になったとき、がその必要はないと言った。

「私はやることがあって寝ませんから、一晩見張りもしていますよ」

これに男と少女は顔を見合わせた。

「一晩中とはいかんだろう」

「いったい何をやるわけ?」

「剣を造らなきゃいけないんですよ。3人分」

「ここでか?」

「ガレンスのだけじゃないの?」

「ガレンスのだけ造ったら、あの人は絶対受け取らないと思いますよ」

「そんなことはないと思うが」

「剣を直してくれといったのはガレンスのほうじゃないか」

は2人に肩をすくめて見せた。

「ガレンスが言っていたでしょう。守護神の直した剣なら箔がつくと。そんな剣をウォルやナシアスを差し置いて持ってるなんて、ガレンスがすると思いますか?」

人一倍忠誠心の強いガレンスが、主君や騎士団長を差し置いて、そんな剣を持つはずがない。

そこまで考えていなかった2人は、確かにそうなるだろうなと頷いた。

「では、残りの2本は俺とナシアスのか!?」

「まあ、要らなくても形だけでも貰ってくださいね」

「何。が造るのって飾り物の剣なわけ?」

「まさか。そんなもの造っても使いようがないじゃないですか」

「そりゃそうだけど。人間ってそういうもの飾りたがるじゃないか」

「それは否定せんが、そんなことをするのは戦わずに剣を集めているものだけだぞ」

「あ、やっぱりこっちでもそういう人いるんですか」

そう言って呆れたように笑うに、男も苦笑を返す。

「いるにはいるが、俺は剣を飾る趣味などないからな。貰えるなら、ありがたく使わせてもらおう」

「それはよかった」

「3人一緒に作るの?」

「いえ。最初はウォルで、その次がナシアス。最後がガレンスじゃないと...後でガレンスに怒鳴られないように」

そう言って肩をすくめるが、表情はそれをおもしろがっている風でもある。

「しかし、が造れば一晩で出来るのか?普通はもっとかかるはずだぞ」

「そりゃあ、そうですよ。私の造り方は、裏技どころか、反則技みたいなもんなんですから」

「それって僕たちが起きてたら出来ないかな?」

「いいえ。そんなことはありませんよ」

「それならぜひとも見たいな」

興味深げに見つめてくる2人の子供のような反応に、が笑い声を上げながら了承した。

は小物入れから紙とペン、紙の下に敷くための板を取り出すと、さらさらと紙にペンを走らせた。

どうやら剣の設計図らしい。

「見てもいい?」

「どうぞ」

が了承すると、2人は明かりを遮らないように紙面を覗き込む。

紙の上ではがペンを走らせるごとに、次第に剣の輪郭や刃に刻まれる模様などが描かれ、見たこともない文字が書き記されていく。

剣の細かい部分まで書くと、それに合わせた鞘も描き、さらに細かな注釈が文章で書き加えられていく。

2人には何と書いてあるかは分からなかったが、おそらく材質や造り方、細かな形なのだろうと見当をつけた。

が紙に向かってから1時間ほどで、ペンを止め、隅々まで検分する。

どこにも書き損じや欠けている所がないかを確認すると、それを火で燃えない場所に置いた後、小物入れの中に手を突っ込んだ。

そうして取り出されたものは、黒鉄(くろがね)、鋼、銀、銀とは異なる同色の金属片、黒珊瑚(コーラル)、レインボーオブシディアン(光りの当たり方で色が変わって見える黒曜石)、黒い糸と布、それが地面に積み上げられていく。

「えーと...うん、これで全部ですね。2人ともちょっと私の後ろにいてもらえますか?」

2人がの後ろに移動したのを確認すると、地面においていた設計図を持った。

「『鍛冶屋の小人たち(エブリー アイテムショップ)』」

がそう言った瞬間、足元にポンと音をたてて膝丈ほどしかない小人が5人現れた。

後ろにいた2人は驚いて足元の小人たちをまじまじと見つめる。

は小人に目線を合わせるようにしゃがみこむと、設計図を手渡した。

「お願いしますね」

『『『『『お任せを!!』』』』』

設計図を受け取った小人たちは、声高に言うと最初と同じように音をたてて消えた。

地面にはが出した材料もきれいに消えていて、さっき見たのは夢ではないかと思ってしまうような状況だった。

「一応こんな風にお願いすれば、明日の晩には出来てますよ」

振り向いていったに、2人はため息をついた。

「確かにこれは反則技だ」

以外誰にも出来ん」









   第14話    ビルグナからの出立










国王達が出発してから数日経ったビルグナ砦では、ナシアスが思ってもみなかった人物と会っていた。

「ドラ将軍!」

「おお、ナシアス殿!」

2人はしっかりとお互いの両手を握り合った。

それきり言葉が続かなかった。

相手の顔を見つめる眼がたちまち熱く潤みかかってくる。

横ではドラ将軍の娘のシャーミアン、そしてナシアスの腹心の部下ガレンスが同じように眼を濡らしていた。

言葉を詰まらせながらナシアスが言う。

「こうして...こうして再び将軍のお元気なお姿を拝見できるとは、これほど嬉しいことはございません。蟄居(ちっきょ)を命じられたと聞いて、いても立ってもいられぬ思いでおりました」

「何の。これしき。ナシアス殿こそ、今までよくこの砦を守られた。わしは改革派の連中がナシアス殿に何か非道なことをするのではないかと、気がかりでならなかったぞ」

ナシアスは笑って頷いた。

「あの手この手の理由をつけて何度も王宮まで出向くようにと言ってきましたが、こちらもあの手この手の口実を設けて先延ばしにいたしました。おびき寄せられて捕らえられてはかないませんからな。ドラ将軍こそ、よくご無事で脱出を果たされました。お見事でございます」

「それを言われては面映(おもは)ゆい。自力で出てきたわけではないからな」

「と、申されますと...」

将軍の小さな眼が悪戯っぽく笑う。

「奴らが出してくれたのだ。シャーミアンを北の塔送りにされたくなければ、陛下を捕らえてくるようにとの口上をもってな」

ナシアスも水色の眼に笑いを浮かべて、将軍の横に控えているシャーミアンを見た。

「誰の差し金にせよ、ペールゼンでないことだけは確かでしょうな。まったく、言いつけるに事欠いて...」

「相手を間違えているとしか言いようがないわ。それにしても、この1件で陛下がこのわしを疑うと本気で考えているとしたらだ」

「仕掛ける相手を間違えているとしか言いようがありませんな」

2人は声をそろえて豪快に笑った。

ビルグナ砦はデルフィニアでも屈指の勢力のひとつ、ラモナ騎士団の拠点として知られている。

ラモナ騎士団は今の政府に対して好意的とは言えない上、ビルグナ砦は首都からかなりの距離が開いている。

コーラルを支配している改革派にしてみれば、まことに厄介な相手と言わねばなるまい。

同じく、未だにかつての主君に忠誠を誓うドラ将軍も、改革派にとっては厄介な難物である。

国王派の人々を何とか抑え込みたい改革派は、お互いにかみ合い共倒れになってくれるよう、もしくはどちらかがどちらかを倒してくれれば儲けものと考えてドラ将軍を解き放ったわけだが、ビルグナ砦は、幽閉されているはずのドラ将軍が突如、数百の手勢を引き連れて味方に現れたからといって、その心を疑ったりはしなかった。

ドラ将軍もまた、何故自由の身になれたのかを、包み隠さず率直に話した。

聞いていたナシアスは感心したように言ったのである。

「さすがはシャーミアン殿だ。お父上じこみの武勇は並ではない。お父上の重荷にならぬよう、お1人でコーラル城から脱出するとは、大変な手柄です」

「いいえ、ナシアス様。私の手柄というよりは彼らの失態です。私の見張りについていたのはろくに剣もつかないような男爵家の令息でしたし、監視もお粗末なものでした。私が取りわけ優れていたのではなく、彼らが私を女と見て油断してくれたのです」

玲瓏たる声の答えに、ナシアスとガレンスがちらりと目配せを交わした。

微苦笑にも似た何やら意味ありげな眼の色だった。

ドラ将軍はそんな彼らの様子には気づかず、身を乗り出して、もっとも気がかりなことを尋ねた。

「して、ナシアス殿。その陛下は今どこにいらっしゃる?」

「詳しいことは私にも分かりません。ただ、この砦を出発するときには、まっすぐコーラルを目指すつもりだとおっしゃっていました」

「ほほう」

予想済みと言えば予想済みであり、意外と言えば意外な答えだった。

王座奪還のためにはどうしても王国の心臓部であるコーラルを取り戻さなければならない。

したがって国王が首都を目指したというのはおかしなことではないのだが、そのためにはかなりの兵力が不可欠なのである。

にもかかわらずラモナ騎士団長と副団長がこの地に残っている。

「すると、陛下はどのくらいの数の兵隊を連れていかれたのだ?」

ナシアスとガレンスは顔を見合わせ、なんとも言いがたい微笑を浮かべた。

「兵隊はお連れになりませんでした」

「何?」

「このラモナ騎士団の兵は、ただの1人もお連れにならなかったのです」

ドラ将軍が仰天したのはもちろんである。

「で、では陛下は、たったお1人でコーラルを目指しておられるというのか!ナシアス殿!貴公ともあろう者がなぜそんなことをさせたのだ!!」

ガレンスがなだめるように口を挟んだ。

「いや、お待ちを。ドラ将軍。正確には陛下はお1人ではございません。バルドウの子供たちがついておられます」

「ガレンス!お前までが何を馬鹿なことを!!」

「父上」

いきり立っている父親にシャーミアンがそっと声を掛ける。

ナシアスも真顔で言った。

「ドラ将軍。ガレンスは単なる例えや思い込みで言ったのではありません。陛下はそうとしか思えないようなものたちとご一緒なのです。私もこの眼で見るまでは到底信じられませんでしたが...事実です」

「いったい何のことだ?」

この質問にナシアスは少し考えて、騎士装束に身を固めた令嬢を見やった。

「例えば、シャーミアン殿はお父上譲りの勇敢な騎士でいらっしゃるが、このガレンスを力で叩き伏せることがお出来になりますか?」

乱暴な質問にシャーミアンは榛色(はしばみいろ)の眼を見張り、首を振った。

「私には無理ですわ。ガレンスの強力はロアにまで聞こえていますもの。力比べとなれば父でも難しいのではないでしょうか」

「これ、シャーミアン」

「私は何も父上を軽んじたのではありません。事実と思うことを申し上げたのみです」

「いや、もちろん武術となれば、ドラ将軍にかなうはずもありませんが...」

ガレンスが苦笑しながら会話に加わった。

「お褒めに預かりましたように、私も力には少々自信がございます。ですが先日、力比べでこてんぱんにやられましてな」

「何と。お主を力でねじ伏せるような剛の者が、この近辺にまだおったのか?」

今度はナシアスが頷いて言った。

「陛下が連れていらっしゃったのです。旅の途中に知り合われたようですが、大切な友だと言っておられました。コーラルを攻めるに当たっても、人質となっている方々を救うにも何よりも心強い味方になってくれるだろうと...私も同意見です。なにしろ私もその片割れに見事にしてやられました。ガレンスと力比べをした方とは、後日にということになりましたが、おそらく私でも勝つことは難しいでしょう」

「まあ...」

シャーミアンが眼を見張った。

デルフィニア全土で美技とまで(うた)われたナシアスの剣術を打破するとは、並大抵のことではない。

「ふむ。そうするとその勇者たちが陛下のお傍についているというのか?」

「はい。2人とはいえ、優に50人...いや、100人分の兵隊に相当する戦力だあることは間違いありません」

「ふうむ...」

将軍とシャーミアンはその勇者たちを次のように想像した。

すなわち身の丈はあの国王を遥かに上回る巨人であり、両の腕には隆々と筋肉が盛り上がり、顔立ちは精悍(せいかん)、目線は鋭敏。

剛毅木訥(ごうきぼくとつ)にして勇猛果敢。

一癖も二癖もある独特の雰囲気を漂わせた、おそらくは中年以上の男達だろうと。

力も技もある戦士とはそういうものだからだ。

「しかし、妙だな?それほどの男ならば噂くらい聞きそうなものだが...」

ガレンスが急いで言った。

「いえ、将軍。男ではありません。いや、確かに片方は男なのですが...」

「何だと?」

「初めは2人とも少年に見えたのですが...片方は娘なんですな、これが」

ガレンスは照れくさそうに頭を掻き、ナシアスも頷いた。

「そうですな。2人ともシャーミアン殿より4つか5つ、年下ではないでしょうか」

呆気にとられたドラ親娘(おやこ)である。

シャーミアンが恐る恐る念を入れた。

「あの...あのでもナシアス様。それでは...12か3ということになってしまいますけれど?」

「ええ、そのくらいだと思いますよ」

ここで、どうにもこうにもたまりかねたドラ将軍が爆発した。

「2人とも!!い、一体全体、今がどういうときだと思っているのだ!!悪ふざけにも程があるぞ!!」

真っ赤になって怒声を発した将軍とは対照的に、ナシアスは真摯な表情を浮かべている。

「将軍。あなたがそうおっしゃるお気持ちはよく分かります。それはもういやというほど分かります。我々とて自分の眼で見たのでなければ、そして実際に剣を交えたのでなければ、こんな話はとても信じられなかったでしょう」

ガレンスも言葉を添えた。

「ですが、掛値なしに本当のことなんです。私だってこんなことは認めたくありませんが、私もナシアス様も真剣を持って戦って、その娘に敗北し...私は少年と剣を交えることさえもかなわずに敗北しました。それは、この騎士団の主だったものすべてが、実際にその眼で確かめたことなんです」

将軍は頭から湯気を吹きそうな有様だったが、真剣そのものの2人の態度に一応は譲歩した。

「すると...何か?12、3の娘が剣術で貴公を上回り、その娘にガレンスも敗れ、少年が力でガレンスを上回ったというのか?」

「まさにその通りです」

「話にならん!諸君は戯れごとでその子供らに負けてやっただけなのではないか!」

「あれほど力を振り絞ったことはかつてなかったんですがね」

「あれほど手強い相手に出会ったのも初めてです」

すかさず答えた2人に将軍は開いた口がふさがらない様子だった。

シャーミアンもどう反応したらよいものか、父親と顔を交互に見比べていた。

「ナシアス様。いったい、その子供たちというのは何者なのです?」

「分かりません。名前は少年が、少女がグリンダ。年頃は12か3。我々が知っているのはそれだけですが、武術も頭の冴えもとてもその歳の子供とは思えません」

ガレンスが言い、ナシアスも頷いた。

「まさしく。真剣をとって私とガレンスと戦い、こちらに傷1つ付けることなく勝利してみせる。それだけでも少年と少女の身に為せることとも思えませんが、少年がガレンスの剣を2本の指で受け止め、少女がこの砦の外壁に楽々と飛び上がったのを見た時には思わず寒気を覚えました」

「剣を指で受け止め、外壁に飛び上がっただと?」

「はい。最も自前の跳躍力のみとはいかず、人の肩を借りて、でしたが...」

まさか踏まれたのが国王本人であるとは言えず、ごまかしたナシアスだった。

「それにしても人の脚にかなうこととも思えません。少年の方は腕だけでこの壁をよじ登ったのですが...コーラルの城壁も同じように越えればいいと、そうして捕らえられているフェルナン伯爵を救えばいいと、こともなげに言いきりました。常人には到底不可能なことですが、あの子供たちならば本当に成しとげてみせるに違いありません」

ドラ父娘は唖然としてナシアスの言葉を聞いていた。

この砦の外壁もコーラル城の城壁も、他者の侵入を防ぐに充分な高さがある。

それを跳躍またはよじ登って越えるなど、想像することさえ出来なかった。

飛び下りたら即死しかねない高さなのである。

2人とも恐ろしく疑惑的な眼をラモナ騎士団長に向けたが、その無言の問いかけに、ナシアスは重々しく頷くことで答えた。

「あれこそはバルドウの子供たちというものでしょう。あるいは本当に勝利の女神と剣の守護神なのかもしれません」

「守護神にしてはずいぶんと柔和で、勝利の女神にしては見目がよすぎますがね」

ガレンスが笑いながら口を挟んだ。

「確かに、守護神テューイがあれほど穏やかな顔をするとは聞いたことがないな」

「それに勝利の女神ハーミアが別嬪(べっぴん)とは今まで聞いたことがないんですが、あのハーミアはちょいとばかりちいちゃいが、そりゃあきれいだった」

「穏やか?美しい?」

「はい。テューイの黒曜石のような瞳から注がれる眼差しは、まるで子供が戯れるのを見守る親のように慈愛にあふれ、その黒髪が艶めくさまは周りを包み込むように光りをふりまき、ハーミアの髪はさながら黄金のごときに輝いて波打ち、顔立ちも姿も玉石(ぎょくせき)を掘り込んだような端正と艶を誇り、肌の色は例えるなら薔薇色、瞳はさながら宝石のごとき緑...」

「ガレンス。無理に詩的な言い回しを使うのはよせ。聞くに耐えん」

若い主人に苦笑しながら言われて、ガレンスは興ざめしたように肩をすくめた。

「私は嘘は言っちゃおりませんぞ。まあ、少しばかり表現が月並みだったかもしれませんがね、とにかく美少年とたいへんな美少女でした」

将軍とシャーミアンは思わず眼と眼を見交わした。

そして軽く咳払いした将軍が慎重に尋ねたのである。

「失礼だが...2人とも、白昼から夢でも見たのではないだろうな?」

「やはり信じていただけませんか?」

「当たり前だ」

ナシアスは低く笑っている。

「ドラ将軍。百聞は一見に()かずと言います。ぜひとも、ご自身の眼で実際にご覧になってみてください。そうすればお分かりになるはずです」

「言われずともわしはすぐさま陛下の後を追う。その...その子供たちがどんな力を持っているのか知らんが、陛下お1人でコーラルへ向かうなどもっての他だ。フェルナン伯爵のことでお心を痛めておられるのは分かるが、そのような自殺行為をあの伯爵が喜ぶものか」

言うが早いか身を翻した将軍である。

すかさずシャーミアンが続き、そればかりかナシアスとガレンスも後に続いた。

「ドラ将軍。我々も御供いたします」

「馬鹿を言うな。ビルグナを(から)にするつもりか。コーラルが何を仕掛けてくるか分からんのだぞ」

「我々もそう思い、陛下に同行することを思いとどまりました。しかし将軍。コーラルの仕掛けた罠はあなたでした。となればこれ以上、ここにじっとしている理由はありません」

一理である。

将軍にも分かっていた。

コーラルを支配している改革派は、ドラ将軍とビルグナ砦、ひいてはあの男と仲違(なかたが)いを始めるようにしむけたのだ。

当然、結果待ちの態勢にあるはずで、すぐさま次の手を打ってくるとは考えにくい。

「しかしだ、やつらはまさにコーラルへ向けて進軍させるため、わしを解き放ったのだぞ。そうして我々を本物の逆賊に仕立て上げて1万の近衛兵団を襲いかからせようという魂胆だ。大して我々の勢力は双方合わせても2500。1度ロアへ戻ればもう500は都合がつこうが、どちらにせよ勝ち目がない」

「それならば戦力をかき集めながらコーラルへ向かいましょう。陛下が戻られたことを告げれば、日和見の諸侯たちも考え直さねばなりますまい」

断言したナシアスをドラ将軍が不思議そうに見つめた。

「貴公、いやに自身ありげだが、何ぞ策でもあるのか?」

「いいえ。まったく根拠はないのですが...」

ナシアスは、はにかんだように笑っていた。

「おかしなもので、今は相手が誰であろうと負ける気がしないのです。陛下はご無事で戻られ、将軍ともこうしてお会いすることができ、しかも陛下にはバルドウの子供たちがお味方を約束しているのです。となれば、ここは決断の潮時というものでしょう」

「ナシアス殿...」

再び呆れ顔になった将軍だが、やがてたくましい肩をすくめて言った。

「となると、貴公がそれほど崇拝している子供たちの顔を、ぜひとも確かめねばなるまいな」

「腕前も、です。ドラ将軍」

ここぞとばかりにガレンスが付け加えた。











あとがき

デルフィニア戦記第14話終了です。
最初のほうに出てきた『鍛冶屋の小人たち≪エブリー アイテムショップ≫』は、材料と設計図を用意し、具現化させた小人たちに渡すとほぼ1日で武器や装飾品などを造れるという能力です。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

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