問題の砦はウィンザ城と同じく飾り気のない無骨な姿だった。

違うのは1つだけ高い塔がそびえていることと、その大きさだった。

軽く倍以上あり、何と言っても全体の雰囲気が大きく違っていた。

塔の上には物見台が設けられ、見張りが眼を光らせている。

さらに近づいてみると、城壁に見えた外壁部分はどうやら巨大な塀のようだった。

その塀のあちこちに矢狭間が設けられ、正面に当たる部分には近づくものを確認するための詰所まで造られている。

これは本物の戦闘用の要塞だった。

まっすぐに近づいていった3人は見張りの兵士達にたちまち見つけられ、大声で問いただされた。

「止まれ!何者だ!」

正面横の2階の窓からの問いかけである。

たった3人を相手に大げさなことだが、それだけこの砦の規律は厳しいということだ。

男はその兵士を見上げて大声で言い返した。

「ラモナ騎士団長に伝えろ!主君が会いに来たとな!」

「何?」

その兵士は一瞬いぶかしげな顔つきになった。

長旅を続けてきたと一目で分かる、少年と少女を1人ずつ連れただけの自由戦士が、なぜ、自分たちの指揮官を臣下扱いするのかと思った。

「この野良犬めが!世迷言をほざくな!我がラモナ騎士団はデルフィニア国王以外の主君は持たん!」

「その王だ!馬鹿者め!!」

「...ひ、ひえっ!?」

驚愕のあまり、その兵士は2階の窓から転がり落ちそうになった。

慌てて身を乗り出して、真下に立っている男の顔を眼を凝らして検分にかかる。

男は半年の放浪生活で髪も伸びている。

ウィンザで着替えはしたが、その後すぐに川に飛び込んで野山の行軍を続けてきたのだから、衣服もだいぶくたびれている。

この風体で王と名乗っても信じろというほうが無理だが、見張りの兵士はまじまじと男の顔を見やった後、感極まった絶叫を上げたのだ。

「ま、まさしく国王陛下!いやご無礼をお許しください。良くぞご無事で...ご無事でお戻りくださいました!ああ、ありがたい!!」

「その王をいつまで道に立たせておくつもりだ!橋を下ろせ!」

「は、ははっ!ただちに!」

内部が急に慌しくなる。

国王帰還の報が砦のあちこちに飛んでいるのだ。

「さすがに、貫禄だね」

「ええ、堂々としていると見栄えしますね」

「ひやかすな」

砦の入り口は巻き上げ式の橋になっている。

人が出入りするたびに一々開閉するのは大変な労力のはずだが、外からの侵入を防ぐためだとしたら、この砦はまさに実用品だ。

やがて橋が下ろされると、真っ先に駆け出してきて国王の前に膝をついたのが、ラモナ騎士団長、ナシアスだった。

「陛下!ウォル・グリーク陛下!どれほどこの日を待ちわびましたことか!」

男はナシアスの肩を抱いて立たせ、真剣な顔で問いかけた。

「フェルナン伯爵が投獄されたと聞いたが...」

騎士団長も苦しい表情になる。

「伯爵はあくまでも身の潔白を主張され、改革派に従うことを断固として拒否されました。おそらくペールゼンは未だに慕うものたちへの見せしめに、伯爵を捕らえたのでしょう...」

男は低く唸った。

近くにいた騎士が勢いよく言う。

「ですがこうして陛下がお戻りになられたからには、改革派の横暴など許してはおきません。ペールゼンはデルフィニア全土を抑えているかのような大口を叩いておりますが、実際に掌握しているのはコーラルを含むわずかな地域のみ。ほとんどの領主は中立の立場を取っております」

「分かった。まずは何か食べるものをもらいたいな。それからコーラルの様子を詳しく聞かせてくれ」

「お任せください」

ラモナ騎士団長を始め、主だった騎士たちは残らず国王を出迎えに来たわけだが、王の横に立っている子供たちに注意を向けたものは1人もいなかった。

身の回りの世話をさせる小者か何かだと思っていたらしい。

2人とも川に飛び込んだ後、まる3日歩き続けて、服や容姿がだいぶ色あせていたせいもある。

だから男が子供たちを手招き、自分より先に橋を渡るように指し示したときは、異同唖然としたのだった。

「陛下。その子供たちは?」

「こっちがグリンダで、こっちが。俺の友人だ」

尋ねたナシアスに男はあっさりと紹介した。









  第11話   臣下ではない









「おとも...だちで?」

「ああ、そうだ」

そう言われても、騎士たちには納得がゆきかねるようだった。

若い騎士などは明らかな疑惑のまなざしで2人をじろじろと眺めている。

ナシアスもまた首を傾げつつ、問いかけた。

「その、失礼ですが、どういう身元の子供でございますか?」

「俺も詳しくは知らん」

その場がざわっとどよめいた。

若い騎士の1人などは意気込んで主君に迫った。

「恐れながら、国王陛下に申し上げます。たとえ子供2人といえども、氏素性の知れぬものをお傍に置かれますのはいかがなものかと...何と申しましても今の陛下は王座奪還を控えた大事なお体。いくら用心しても、すぎるということはございません」

団長ナシアスも頷く。

「もっともです。この子供らの素性と、それから在所がどこなのか確認せねばなりますまい。見たところ、平民の子供のようですが、それにしてはその剣は何事です?こんな子供には扱いかける品でしょうに...」

「楽々と使っていたがな。まあ、聞け。この子供たちは俺の恩人なのだ。国王たるもの、受けた恩を忘れるわけにゆかんからな。手厚く遇してやらねばならん」

別の騎士が眉をしかめて言う。

「しかし、もしも生まれの卑しいものでしたら、どうなさいます?陛下のお身のまわりを務めようというならば、それ相応の名誉ある家の出身とあるべきです。下賤の子供を...しかも剣を腰にした下賤の子供なぞを、陛下のお傍に近づけるわけには参りませんぞ」

ウォルは肩をすくめて子供たちを見た。

2人とも肩をすくめるだけで、答えに変えた。

「どうした。お前たち?在所はどこなのだ?両親の名は?」

2人に詰め寄る若い騎士の態度には、たとえ子供2匹といえども、得体の知れないものを王の傍には近づけるまいという決意が現れている。

2人とも黙って首を傾げている。

「まあ、待て。この子らはずいぶん俺の役に立ってくれたのだ。身元は分からなくともこの先の首都奪回のためには欠くことのできない人材だ。怪しげな者でないことは俺が保障する」

本当はどうだか分かったものではない。

馬と駆け比べをして勝ちを収める足を持ち、大の男を軽々と持ち上げるだけの力を持ち、星の明かりだけで獣のように自在に動ける眼を持っている。

にいたっては、自称314歳だは、魔法を使うは、小物入れからいろいろなものを取り出すはと、少女以上に得体が知れない。

そんなものが怪しくないわけはないのだが、男は命を救われた相手に対して誠意を尽くすことに決めていた。

国王の言葉に騎士たちも不承不承に引き下がったものの、子供たちを取り巻いて口々に話しかけた。

「これ、お前たちは陛下のためにどのような働きをして見せたのだ。過分なお言葉ではないか」

「うむ。お前たちのような子供が陛下の命の恩人とは、身に余る名誉だぞ。いささか理解に苦しむところだが...」

「詮索はよせ。陛下はこの子供らのことを忠実であるとおっしゃったではないか。今は1人の味方も惜しいところなのだぞ。これからも誠心誠意お仕えしてくれ」

「まったく」

仕切りと頷き会っていた騎士たちだが、少女は何を思ったか、と眼を合わせた後、その囲みを抜けた。

そして砦とウォルとに背を向けて歩き出した。

「リィ!」

ナシアスと話していたウォルが気づいて大声を上げた。

「リィ!どうした!?」

聞こえているはずなのに少女は振り返らず、どんどん遠ざかって行こうとする。

男は慌てて後を追い、がその後を少しだけ早足で歩いていく。

「陛下!」

騎士たちもぞろぞろと後を追う。

普通の歩調で歩いていた少女に追いつくのに、たいして時間はかからなかった。

少女はそれでも足を止めようとはしない。

はその理由を予想して小さくため息をつき、男は肩越しに忙しなく話しかけた。

「リィ、どうしたのだ。コーラルは方向が違う。そっちではないぞ」

金髪の少女は足を止めて振り向き、真っ向から男の顔を見上げた。

は2人の傍らで、いや、どちらかと言うと、無意識にリィの方に近いかもしれない。

少女のように表には出さないが、内心は少女の思いに近いものがある。

「ここでお別れにしよう。君はコーラルへ行けばいい。僕は他のところへ行く」

「リィ!?」

男は驚いた。

「なぜだ。俺とともに来ると言ったのは、手伝うと言ったのはお前ではないか。もそう言っていただろう?」

「ウォル。リィの行動の決定権は、リィにあります。私と一緒に言ったからといって、それを私が決めることは出来ません」

「...それは、そうだが...」

「ウォルは、自分を自由戦士だと言ったぞ」

「.........」

「仕える主人を持たず、領地も持たず、剣1本で世を渡っている自由戦士。そう言ったはずだ」

「それは、あの時そういうより他に...」

「ウォル、意味が違いますよ。心の在り方が、です」

「何?」

「俺も自由戦士だ」

「.........」

「そういう意味では、私も自由戦士になりますね」

きっぱりと言った少女に、も続ける。

「俺が手伝い助けようと思ったのは、俺の剣を役立ててもいいと思ったのは、同じ自由戦士の心を持つものに対してだ。人に命令したり、忠誠を求めたり、自分のために役立つように強制したりするようなやつのためじゃない」

「リィ、それは...」

「この剣と戦士としての誇りにかけて。俺は誰にも命令はさせない。そんなことは許さない。まして誰かに忠誠を誓ったり、仕えたり、ありがたいお褒めの言葉なんかもらうのを喜びにするのは真っ平だ」

緑の眼に怒りの炎が燃えている。

「私に命令できる人なんてこの世に誰もいませんし、作るつもりもありませんよ。私が手を貸すと言ったのは、ウォルと言う友人に対してで、間違ってもデルフィニア国王という役職に対してではありません。ですから、私はあなたの臣下ではありません」

黒い目が静かに男を見据えている。

後をついて来た騎士たちは、子供たちのものの言い方に驚きを隠せないでいる。

男は真剣な顔でゆっくりと首を振った。

「誓って、お前たちを臣下と扱うつもりはない」

「お前がそう思っていても、まわりが許さない」

「それは先ほどのやり取りを見ていれば、分かるでしょう?」

「どこの馬の骨とも知れない小娘が、国王にこんなものの言い方をして、なれなれしく友達扱いするとはとんでもないことだと言うはずだ」

「それを言うなら、『こんな小僧が』も付け足されますよ。それにそのせいで、悪くするとあなたを侮る人たちが出てくるかもしれません」

「俺か...いや、俺らか、お前の臣下か、そのうちお前はどちらかを取らなければならなくなる。コーラル奪回のためには、俺1人よりも大勢の兵士達こそがお前には必要なはずだ」

「あなたのお父さんを助けると言う目的だけならまだしも、コラール奪回を目的とするならそのほうがいいでしょうね」

「だからここで別れる」

「私も別れたほうがいいでしょうね」

「リィ、、待ってくれ」

2人の言うことはまさしく的を射ている。

今までのどんな場合もそうだったように。

だからこそ、今ここでこの2人と別れることなど出来なかった。

理屈でも、計算でもなく、男の心の最も深いところが、そう言うのだ。

「お前たちの言う通り、いかにも俺が国王だ。ならば臣下の者には俺のやり方に従ってもらう。お前たちは俺の友だ。誰にだろうと文句は言わさん」

きっぱりと断言する。

「もし、お前たちを友と扱うことで部下達が俺の味方をしないというのなら、仕方がない。お前たちと3人で父を救いにコーラルを目指そう。ロシェの街道でお前たちが言ったようにな」

決意に満ちた男の口調に、2人の心は少し揺らいだようだった。

男はちょっと口元をほころばせる。

「第一、お前たち、どこへ行く当てもないと言っていたではないか。おまけにこの辺りの地理も分からない。それならここにいろ。今から俺のように物分りのいい道連れを見つけるのは至難の業だぞ」

「確かにその通りなんですけど...」

「言い方がかわいくないぞ、お前!」

肯定したとは逆に、少女は即座に言い返したが、少し紅潮しているところを見ると、図星をついたのかもしれない。

何度もこのような経験のある以上に、少女にとってここは未知の世界なのである。

相手がこの風変わりな男だったからこそ、その素姓に疑問も抱かず、余計な詮索もせず、話し相手になってくれて、2人の常識の足らなさを補ってくれていたが、1歩間違えば異端者として追われる可能性も充分あるのだ。

少女は自分で言うように、その外見の他は、ものの考え方も、能力も『異常』としか言いようのない存在だったからである。

も何度も違う世界に迷い込み、その世界の常識を理解するまで奇異の目で見られたことが何度もある。

しかし、年齢とともに経験を重ね、自分より年下の人間たちに対して折れると言うことを知っているとは違い、この少女は素直に折れたりしない。

一回りも年の違う男を見上げて憤然と言い放った。

「まわりくどいことを言ってないで、傍にいて欲しいならそう言って頼んだらどうなんだ!」

「では、頼む。傍にいてくれ」

真顔で言った男に少女は一瞬、二の句が告げず、は思わず噴きだしてから、あまり意味がないだろうが笑いをこらえた。

ナシアスをはじめ、騎士たちもあっけに取られた顔つきでいる。

「それとも膝を折って頼まなければだめか?」

少女は急いで首を振り、は笑いをこらえながら手をパタパタと振る。

この男にそんな真似はさせられなかった。

「リィ、。俺には、もはや選択の自由さえない。コーラルを取り戻し、王権を奪回するより他に道はない。今となっては強制されたからではなく、自分の意思でそうするつもりだ。堂々と俺の敵と戦い、倒すつもりでいる。だからこそ、お前たちいてもらいたい。臣下としてではなく、頼みになる友として力を貸して欲しい。そもそも俺はお前たちに3度までも命を救われ、その恩にまだ何も報いてはいないのだぞ。それを思えば、俺が何をすればいいのか、お前たちが命令してくれてもいいくらいだ」

「「.........」」

「俺はこれ以上の臣下は望まん。王座を追われたとはいえ、忠実な部下達が俺には大勢いる。彼らはペールゼンを倒すために俺に力を貸してくれるだろう。    だがな、リィ、。昔の少年のころのように俺の名を呼んでくれるものは、もはやただの1人もおらんのだ。かつての友人たちは皆俺に恭しく頭を下げ、たとえ個人的な席でも陛下だの国王だのと堅苦しい態度を決して崩さない。父でさえそうなのだ。1人や2人くらい、ウォルと、その名を呼んでくれる友人が欲しいと思うのさ。お前たちにそれを望んではいけないか?」

2人はしばらくじっとたたずみ、男も黙ってその答えを待っていた。

やがて少女がゆっくりと言った。

「俺は、王様のロウ・デルフィンなんて人は知らないぞ」

「ああ」

「私が知っているのは、自由戦士で友人のウォルだけですよ」

「願ったりだ」

「今まで見たいに怒鳴りつけたり、かつぎ上げたりするぞ」

「ぜひ、そうしてくれ」

3人は互いに眼をのぞきあって、同時に微笑を浮かべた。

「ぜひって、そんな頻繁にかつぎ上げたくないんですけれど...相変わらず、おもしろい人ですね」

「ほんっとに変な王様だ」

「誉め言葉として取っておこう。来てくれるな?」

2人は頷いて、唖然としている騎士団一同に眼をやった。

気の毒に、目の前の情景が信じられないと言う顔つきである。

多難な前途を象徴しているようで、少女はため息つき、は頬をかいて、悪戯っぽく笑った。

「この先、こういう反応を何回見ることになるんでしょうねぇ?」

「まったくだ。どうなったって知らないからな」

「かまうものか。もしお前たちに身分がないのがいけないというなら、そうとも。俺が適当な身分を与えてやるさ。皆が納得してお前たちにひざまずくだけの身分をな」

「ウォル、いくらなんでもそれは...」

「勝手にそんな都合のいいこと...」

「王というものは、そういうことだけは便利なものだ。そうさな。いっそ、デルフィニア王子、と、デルフィニア王女、グリンディエタ・ラーデンというのはどうだ?」

2人の目が真ん丸になった。

「「何だって(ですって)?」」

しかし、男は自分の思い付きがすっかり気に入ったようで、何度も頷いている。

「うむ。そうだ。我ながらいい考えだぞ。そうすれば民衆も貴族達もお前たちを度外視できん。いやでも敬わねばならなくなるさ。俺は今のところ一人身で子もないし、王の後継者はぜひとも必要だったところだし、そうしよう」

「えっ!?いや、いい考えじゃないですってば!!」

「そうしようって、ちょっと...ウォル!」

しきりに頷きながら踵を返して砦へ戻っていく男に2人は慌てて追いすがった。

「ちょっと待てってば!冗談じゃないぞ!そんなの!」

「そうですよ!絶対お断りです!」

男は答えずに、笑いながらずんずん進んでいく。

後に残されたラモナ騎士団は、あっけにとられて主君の後ろ姿を見つめている。

「ちょっと、ウォル!いやだって聞こえてるくせに、さも自分の考えに満足してるように笑わないでください!」

「ウォル!こら!王様がそんな無茶苦茶なこと言ったら駄目じゃないか!」

息せき切って追ってきた2人に男はやっと振り向いて、にやりと笑った。

「いけないか?」

「「当たり前だ(です)!」」

「だいたい王子だの王女だの、いきなりでっちあげられるもんか!」

「だいたい、私たちは国民ですらないんですよ!」

「そんなことはないぞ。現に何代か前の王は、愛した平民の娘をそのままでは体裁がつかんというので、1度貴族の養女としてから王妃に迎えるという離れ業をやってのけたし、もっと前には、子の生まれぬことを案じた王が親族の子供を養子として向かえたという事実もある。それに王妃が他国からも嫁いできているのに、子供を他国民から迎えてはならんという、謂れはなかろう。何とでもなるさ」

なお抗議しようとした2人を制して、男は悪戯っぽく笑った。

「無事にコーラルを奪回できたらの話だ。今すぐどうこうというわけではないぞ。俺はな、それまでのお前たちの活躍ぶりいかんでは、間違いなく、黙っていても皆はお前たちに一目置くようになるはずだと思っているからな」

「何を考えてるんだ、まったく」

「本当ですよ」

2人のほうが疲れたような呆れ顔になる。

「どうせ俺はまともな王ではないからな。諦めてもらうさ」

男は豪快に笑っている。

「俺もこの剣に誓おう。コーラルを取り戻したら、そのときは誰もがお前たちを敬い、俺に対してどんな言葉をかけようとも咎めだてたりしないだけの地位を与えると」

「いらないって言うのに」

「私も全力で拒否します。そんな面倒なものはないほうがありがたいんですから、押し付けないでくださいよ」

「それに、俺たちが地位目当てでお前の味方になるように聞こえるぞ」

「お前たちがそんなもの望まんと言うことは俺が誰よりよく知ってるさ。単に俺の気持ちの問題だ」

このとき、取り残されていた騎士たちがようやく驚愕から立ち直り、慌てて主君の後を追いかけてきた。

「陛下!」

「ナシアス。聞いての通りだ。俺はこの子供たちを友として扱う。お前たちがどう思おうとそれは勝手だが、俺に対する態度や口の聞き方に注文をつけたりするな。怒ると怖いやつらだぞ」

「いや、ですが...」

騎士団長は単に驚いているようだが、他の騎士たちは明らかに渋い顔で、それでは下のものに対する示しがつかないと口々に言い立てた。

男はこの抗議に首を傾げた。

「やはり王子と王女ということにしてしまうか」

「「要らないと言ってるんだ(いるでしょう)」」

「そうかな。悪い考えではないと思うのだが」

「ぶん殴られたいのか」

「では、私は頬を引っ張らせてもらいます」

この脅しを聞いていた騎士団一同は、ぞっと震え上がったのである。

しかし、男は気分を害した様子もなく、むしろ楽しそうに笑っていた。

「分かった。分かった。とりあえずコーラルを取り戻してからのことだ」

男は笑いながら子供たちを促し、砦の橋を渡った。









あとがき

デルフィニア戦記第11話終了です。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

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