「エヴァンジェリンが学校の結界に気づきましたよ」
「今更か?」
「ええ。今更です」
呆れながら呟いたチモの言葉に、はカップを持ちながらにっこりと笑って肯定する。
「あいつがここに来て10年以上経ってるはずだろ?」
「ええ。予測では3年以内に自力で見つけてくれるはずだったんですけれど」
「結局1度もパソコンについて学ばないままここまで来たと?」
「あの子曰く、機械とは相性が悪いらしいですよ」
「言い訳としては2点だな。だいたいと絡繰も機械じゃねェか」
「片や保護者、片や魔法使いの従者ですしねぇ」
「まあ、持て余してるという意味なら確かに相性悪いかもな」
本人たちに自覚はないが、かなりの酷評だ。
「おや?」
「どうした?」
「エヴァが鼻血を出しました」
「覗きでもやったのか?」
「いいえ。転んで顔面を打っただけですね...屋根の上で」
「どうせ飛ぶつもりで地面を蹴った後、そのまま屋根の端にでも引っかかって転んだんだろ」
「大当たりです。その後『空も飛べぬとは人間とは何て不便なんだ(エヴァンジェリンの声)』と愚痴ってます」
「相変わらずあいつはバカだな。人間でも飛べるだろうに」
「そうですよね。魔力が使えないなら気を使えるようにして飛べばいいと誰でも考えつくのに...あの子ちょっと考えが浅いんですよね」
本人たちに自覚はない......はずだ。
「で、今夜チビを襲うのか?」
「らしいですよ。まあ、私たち予定通り静観ですね」
「あのぬらりひょんもどきの話だとチビのスキルアップの為だしなァ...一応あいつは女と子供は殺さねーから心配いらんだろが」
「まあそのおかげで賞金が600万ドル止まりでしたからね。まあ、殺していたとしても多くてこの4倍くらいでしょうね」
「子供の小遣いにもならないな」
(ひどいドル安状態の2009年2月初め)1$=88円で計算すると600万$=5憶2800万円になる。
国家予算でしか見ないような金額なのだが、2人にはその4倍でも子供の小遣いより少ないらしい。
実際に子供にそれ以上の小遣いをやっていたかと聞かれれば、帰ってくる答えは間違いなくYESなのだが。
「それで、殺しそうになったら止めるか?」
「ええ。止めますよ」
「どっちの為に?」
「もちろん3人と私たちの為に」
がにっこりと笑って答えると、チモは「愚問だったな」と肩をすくめた。
ネギ・スプリングフィールドの場合には父親の友人兼師匠としてその命を助ける。
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの場合には保護者として将来の枷を増やさないようにして厄介事を回避させる。
絡繰茶々丸の場合には同種族(?)の保護者として行動指針と感情発露の一端の安全を確保する。
自分たちに関してはいろいろ理由はあるが、大まかには自己満足のために。
「まあ、チビが俺達に止められる程度の力しかないなら、この先父親の重圧に押しつぶされるだろうけどな」
「心配しなくても厄介事を片づけていけば自然と実力は付いていきますよ。何もしてなくてもネギ君の名前だけは売れてますからね」
「厄介事には事欠かないって?こっちにまで飛んできそうだな」
「確実に飛んでくるでしょうね。もっとも今は明日のことより今日の夜です」
「それもそうだな」
チモはの言葉に頷くと、ぬるくなった紅茶を飲みほした。
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!風の精霊17人!!集い来りて...」
「...!」
「あたたたっ」
「っ!?」
詠唱の途中に額に茶々丸のデコピンが当たって痛がっている神楽坂明日奈に気を取られた。
だが茶々丸も明日奈のデコピンで体勢を崩しているのを見、大丈夫だと自分に言い聞かせたネギは橋の下に捨てられてしまった杖の代わりを取り出し詠唱を続ける。
代わりの杖の子供用練習杖には先端にかわいらしい星型が付いており、それを見たエヴァンジェリンは嘲笑う。
「ハハハなんだそのカワイイ杖は!喰らえ!!魔法の射手氷の17矢!!」
「ううっ...!魔法の射手連弾・雷の17矢!!」
ドドド...ドカン!
エヴァンジェリンの攻撃を何とか相殺できたが、すぐに次の詠唱が続く。
「はは!雷も使えるとは!!だが詠唱に時間が掛かり過ぎだぞ!!リク・ラク・ラ・ラック・ライラック・闇の精霊29柱!!」
「(に、29人!?)くっ!ラ、ラス・テル・マ・スキル・マギステル・光の精霊29柱!!」
「魔法の射手連弾・闇の29矢!!」
「魔法の射手連弾・光の29矢!!」
お互いの魔法が宙で相殺しあい、その余波はどちらにも強風となって襲いかかる。
「うくっ...」
「ネギ!」
「マスター...」
「アハハいいぞ!よく付いて来たな!!」
力を試していることを隠そうともしないエヴァンジェリンに怯むことなく、ネギは詠唱を続ける。
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル・来たれ雷精風の精!!」
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック・来たれ氷精闇の精!!」
「えっ!?」
「フフッ」
ネギの一番い力の強い魔法に合わせて来たエヴァンジェリンにネギが驚きの声を上げる。
その様子をエヴァンジェリンが悪戯が成功したような顔で笑った。
「雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐」
「闇を従え吹雪け常夜の氷雪...来るがいいぼーや!!」
「雷の暴風!!!」
「闇の吹雪!!!」
ズバアァアアアッ
ドォオン...
ズバアァアアアッ
どちらの魔法も膨大な魔力が竜巻のように渦を作り、それが宙で衝突した。
「ぐぅっ...くくっ...」
「っ...えぇい!!」
ネギは打ち負けそうにな力に諦めず大きくヒビの入った杖を振り下ろすと同時に...
「は...!?ハックシュン!!」
「な...何!?」
くしゃみでコントロールがおかしくなった上に、その際魔法に余計な魔力加えられた。
そのためネギの杖の先は砕け散り、ネギの魔法がエヴァンジェリンの魔法を突き破った。
ネギの魔法はエヴァンジェリンの魔法障壁にあたり、強い光を放ちながら爆発した。
「ネギー!!」
「マスター...」
「ハァ、ハァ...!」
しばらくすると爆発時の煙が晴れ、宙に浮かんだままのエヴァンジェリンの姿が現れる。
ただし裸で...
「やりおったな小僧...フフッ...フフフ、期待通りだよ。流石は奴の息子だ...」
「あ、あわっ!脱げっ...!?ご、ごめんなさッ」
「や、やったぜ兄貴!あのエヴァンジェリンに打ち勝ったぜ!?信じられねー!!」
頬をひきつらせた全裸のエヴァンジェリンを見たネギは思わず顔を赤くし涙目で謝るが、傍にいたオコジョ妖精は歓声を上げる。
「ぐっ...だがぼうや、まだ決着が着いていないぞ!」
「っ!いけないマスター!戻って!!」
勝負を続けようとしたエヴァンジェリンに茶々丸が警告を発してすぐ、橋の上にあったライトの強力な光がエヴァンジェリンを射抜く。
「な、何!?」
「予定よりも7分27秒も停電の復旧が早い!!マスター!!」
「ちっ!ええいっ!いい加減な仕事をしおって!」
一部しか灯っていなかった明りが停電が終了したために、急速に魔帆良全体に広がっていく。
エヴァンジェリンが静電気のような痛みを感じた直後、強い光とともに封印がエヴァンジェリンの身を焼いた。
「きゃんっ!」
「マスター!」
「ど、どうしたの!?」
「停電の復旧でマスターへの封印が復活したのです!魔力がなくなれば、マスターはただの子供。このままでは湖へ...後、マスターは泳げません」
茶々丸が橋の淵を蹴るよりも早くエヴァンジェリンは湖へと落下していく。
「エヴァンジェリンさん!!」
「!!」
そして茶々丸が湖に身を躍らせるよりも早くネギが橋から飛び降りた。
「ぐ...!!(バ、バカが!魔力をさっきの打ち合いで使い果たし、杖もなしで何をするつもりだ...一緒に死ぬぞ?)」
「ネギーっ!!」
「杖よ!」
湖へと落ちながら、ネギは手を前に出して叫ぶ。
(...そういえば、前にもいたなこんなバカが)
エヴァンジェリンの脳裏に走馬灯のように思い出が再生されていく...
あとがき
『『ネギま』とのクロス』第3話です。
おいおい様、気に入っていただけると、嬉しいです。
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