麻帆良学園の大学院薬学部。

医者のの手伝いのためにと、この世界でチモ(人型)が選んだ所属先だったりする。

その薬学部の廊下を歩いていた茶々丸(ちゃちゃまる)は、目的の人物がいる部屋の前まで来るとドアをノックした。

すると、すぐに声が返ってくる。

「失礼します」

「いらっしゃい、絡繰(からくり)さん」

「今調合している。もう少し待て」

「はい。先生、お久しぶりです」

「はい、お久しぶりです」

はにっこりと笑いながら言うと、茶々丸の前に缶ジュースを置いた。
 
「この部屋では薬品を扱うので、こんなものしかありませんが」

「ありがとうございます」

茶々丸が食べ物の摂取が出来ないことを知っているので、病人に必要なスポーツ飲料を渡すのは慣例となっている。

「まだ熱は下がりませんか?」

「はい。昨夜頂いた薬でだいぶ咳は止まりましたが」

「お前がまだ熱のあるエヴァンジェリンを置いてきたのか?めずらしいな」

調合した薬を紙袋に入れたチモが、2人の所に足を進めながら言う。

「ネギ先生がいらっしゃったので、お任せしてきました」

「あいつの息子がか?」

「はい」

「そう言えば、あなたたちの担任でしたね。お見舞いにいらしたんですか?」

「いえ...ネギ先生はマスターに勝負を申し込みに」

その言葉に、聞いていた2人は顔を見合せた。

「まあ、弱ってる時に敵を倒すのは定石だがな」

「一般的な10歳ってそういうの嫌いじゃありませんでしたか?」

「一般じゃなくて魔法使いだろ?」

「でも普通の人間ですよ」

「だよなぁ」

「あの」

心底不思議そうに会話を交わす2人をさえぎるように、茶々丸が声を発した。

「ネギ先生は魔力が減少したマスターの状態を知らなかったため、風邪と言うのはウソだと思ったようです」

「...そう言えば吸血鬼だったな」

「しかも真祖でしたねー」

エヴァンジェリンが吸血鬼だと言うことが頭から抜けていたらしい。

その2人に、茶々丸は呆れもせずにこくりと頷いた。














たちがそんな会話をしているころ、看病を任されたネギは、自分の父とエバンジェリンの関係が気になり写真でも探そうとしたところ、突然聞こえた寝言に驚いたところだった。

「やめ..ろ..」

「うひぃっ!?ご、ごめんなさい!別に悪気は...!!」

「さ..サウザンドマスター....待て....や、やめろ..」

(サウザンドマスターの夢...!?そうだ!もしかして...)

何を思ったのかネギは杖に魔力を集め、眼を閉じて呪文を唱える。

「ラス・テル マ・スキル ...夢の妖精(ニュンファ・ソムニー)女王メイヴよ(レーギーナ・メイヴ)扉を開けて(ボルターム・アペリエンス)夢へと(アド・セー・メー)いざなえ(アリキアット)...」

呪文が終わると同時に、ネギは杖をつかんだまま眠りへと落ちる。

そして、眠ったネギの意識はエバンジェリンの夢の中へと入り込んだ。

(あ...)

麻帆良学園の湖にかかる橋が見える砂浜に、2人の人影がある。

ひとつは長いローブを身にまとい、顔を隠し、見覚えのある杖を持った男らしき姿。

もうひとつは2、3歳時ほどの大きさの操り人形(マリオネット)を持った金髪の女性。

(こっ..これは....昔のエヴァンジェリンさん..!?全然違う   !?)

今ネギが見ているエヴァンジェリンは、背が高く、女性らしい体つきで、雰囲気も多少異なる。

またその手に持つ操り人形は茶々丸と同じ耳があり、蝙蝠の羽根のついた服を身にまとい、大振りのナイフを両手に持っている。

お世辞にも和やかな雰囲気とは言えない場面だ。

「ついに追い詰めたぞ。『千の呪文の男(サウザンド・マスター)』この極東の島でな。『魔法の(マジカル)錬金術師(アルケミスト)』のいない今日こそ貴様を打倒し...その血肉、我がモノにしてくれる」

(マジカル...アルケミスト...?)

「『人形使い(ドールマスター)』『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』『不死の魔法使い(マガ・ノスフェラトゥ)』...恐るべき吸血鬼よ。己が力と美貌の糧に、何百人を毒牙にかけた?その上俺を狙い、何を企むかは知らぬが...」

(あ...)

ローブに隠れて見えなかった顔が見え、無表情ではあったが、鋭い眼がエヴァンジェリンを見据えている。

「...諦めろ。何度挑んでも俺には勝てんぞ」

(こ...この人がサウザンド・マスター!?15年前の僕のお父さん!?か、かっこい〜〜〜〜っ!!)

ネギは目を輝かせ小躍りする。

(すごい!!イメージどおりだ!!まさに最強の魔法使いだ!わーい♥)

「パートナーもいない魔法使いに何が出来る!?いくぞチャチャゼロ!!」

アイサー御主人(ごしゅじん)

「えーと、この辺だっけ...」

向かってくるエヴァンジェリン達を気にすることなく、サウザンド・マスター...ナギ・スプリングフィールドは数歩前に出る。

「フ...遅いわ若造!私の勝ちだ!」

(と、父さ     ん!?)

ナギは今まさに当たろうとする攻撃に慌てることなく、持っていた杖を砂につき立てた。

それと同時にエヴァンジェリン達の足の下が崩れた。

うわあっ!?

アブッ

(え    っ!?)

エヴァンジェリンが大きな水音を立てて落とし穴へと落ちたことに、ネギは目を剥いた。

「なっ...これは!?」

落トシ穴ダ御主人

「見りゃわかるッ」

「あ、成功ですか?」

突然ナギの隣に現れたもうひとりの男に、エヴァンジェリンもネギもギョッとする。

どちらにとっても意味は違えど見知った人物だった。

(え、な、何で!?)

「お、お前!なぜここにっ!?」

「これも作戦のうちさ!ふははは!!」

そう言いながら、ナギは持っていた袋の中身を落とし穴の中に流しいれた。

ひっ...ひいい    !?私の嫌いなニンニクやネギ〜〜〜〜!?」

「ふふ...お前の苦手なものは調査済みよ」

「調査したのは私なんですけどね」

「いっ...いやあ〜っ!や、やめろぉ〜っ!」

オチツケ御主人!

「あッ、ああッ、ダメ...あううっ!!

ボンという音とともに、エヴァンジェリンの姿がネギの良く知っているものへと変わる。

アアッ!御主人ノ幻術解ケタ!!

「そう言えば、とっくにあなたのその姿を知ってる私たちに、なぜ幻術なんて使ったんですか?魔力の無駄だと思いますけど」

「うるさい!!」

「噂の吸血鬼の正体がチビのガキだと知ったら、みんな何と言うかな?」

「やめろー!バカ    ッ!!」

こうやって話している間も、絶えずニンニクやネギが放り込まれていたりする。

(あ...あれー...?なんかイメージが...)

「ひっ...卑怯者   !!うぷっ、き、貴様らは、『千の呪文の男(サウザンド・マスター)』と『魔法の(マジカル)錬金術師(アルケミスト)』だろ!魔法使いなら魔法で勝負しろ    っ!!」

「嫌です」

「やなこった」

とナギの声が同時に発せられた。

ナギはローブのフードをおろし、はっきりと表情を見えるようにして言う。

「俺本当は5、6個しか魔法知らねーんだよ。勉強苦手でな。魔法学校も中退だ。恐れ入ったかコラ」

「なっ...」

(えっ...ちょっ...)

愕然としたエヴァンジェリンに苦笑を向けながら、が補足した。

「中退後に、一応私が家庭教師みたいなことをしてたんですよ。実戦で、ですが」

「いーんじゃね?実戦でも。の授業(?)は学校みたいに暗記しなくてもメモや本を持ってれば問題ねーし、適当に好きな呪文使えるし、力も付いていくのがはっきり分かるし、何より楽しかったし」

「ふふっ、可愛い生徒兼友人にそう言ってもらえると嬉しいですね」

笑顔で顔を見合わせた2人に、わずかに疎外感を感じたエヴァンジェリンが声を荒げる。

「お、おい!サウザンドマスター!!私の何が嫌なんだ!?」

「だから俺、ガキには興味ないってば」

「歳なのか!?歳なら100歳超えてるぞ、私!!」

「じゃ、オバハンだなー」

「オバハン言うなーっ」

「じゃ、お子様ですか?」

「子供言うなーっ!」

オチツケヨ御主人

落とし穴で喚いてるのを呆れたように見ながら、ナギは言った。

「なあ、そろそろ俺を追うのは諦めて、悪事からも足を洗ったらどうだ?」

やだっ!

「予想通りですね。じゃあ、対抗策を行わなくてはいけませんね」

「ああ、仕方がない。変な呪いをかけて、2度と悪さの出来ない身体にしてやるぜ」

「うっ...何だ、この強大な魔力は...」

2人が急速に高めた魔力の大きさに、エヴァンジェリンは肌を粟立てた。

「確か、麻帆良のじじいが警備員欲しがってたんだよな。マンマンテロテロ...長いなこの呪文」

「この辺り省略してもいいのでしょ?トントンカンカン...ここも飛ばしましょう」

ば、バカやめろ!!そんな力でテキトーな呪文使うな!たっ...助けて、誰か助けて    

さらに高まる魔力に、エヴァンジェリンが本気で泣き出す。

「あっ、ひどいぞサウザンドマスター!マジカルアルケミスト!あッ!いやッ!!」

御主人ピーンチ!

「「登校地獄(インフェルヌス・スコラスティクス)!!」」

いや    ん!好きなのに    







うわあぁああッ...」

エヴァンジェリンは叫び声をあげながら、勢いよく起き上がった。

「ハアハア...ま、また...この夢か...うわっと!!

自分のベットの横で眠っていたネギに気づき、驚きの声を上げる。

「何だこいつか。何でこんな所に...ふん...殺れと言ってるようなものだな(...ちっ、私の看病をしてたのか)」

疲れたように眠るネギを見て、自分が看病されていたことに気づくと、一気に殺す気が失せた。

「は...しまった。寝てた...!?大丈夫ですかエヴァさん!?」

「ああ、大丈夫だよ。今日のところは見逃してやる。風邪は治ったからさっさと帰れよ」

「あ、はい...そ、そうですね。じゃあ、今日はこれで...果たし状も、今日はとりあえずしまっておきますね。で、では」

「ん...?」

そそくさと背を向けるネギを、エヴァンジェリンはジーと観察した。

(うひゃ〜〜〜〜いろいろ見れちゃった...でも、あれがホントにお父さんなのかなー...先生がお父さんの先生て言ってたけど...)

「...オイ、貴様。何故寝ながら杖を握っていたんだ?」

その質問に、ネギの身体がぎくりと固まった。

「まさか...きさま...私の夢を...?」

高まる魔力に、ネギ話慌てて振り返る。

「何を見た!?どこまで見たんだ!貴様    っ!!」

「べ、別に何も...」

「嘘をつけ  っ!き、貴様らは親子そろって...殺す!やっぱり今殺す    ッ!!」

うひぃ    っ!?

この騒がしい声を、帰ってきた茶々丸が聞いた。

「あ...マスターが元気に...よかった」

重要なのはそこなのかと突っ込む人は、あいにく近くにいなかった。











あとがき

『『ネギま』とのクロス』第2話です。
おいおい様、気に入っていただけると、嬉しいです。

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