は白衣を身にまとい、ゆっくりとした足取りで廊下を歩いていた。

が今この世界で生活場所として選んでいる麻帆良(まほら)学園を、少し説明しておこう。

所属しているのは麻帆良学園の中の、本校女子中等学校である。

一学年24クラス、1クラス30人と計算すると、生徒数2000人。

また本校とあるからには分校もあるし、同規模の男子校や高校もある。

他にも幼稚園から大学まで存在し、全校では3万人を超える学生が生活する巨大学園都市だ。

生徒数だけではなく、裏山には世界樹と呼ばれる小山のような巨木がそびえ、湖に浮かぶ図書館島の地下図書は地下10階以上の深さに広がる巨大迷路と化している。

また、一般的には知られていないが、魔法使いが何人か在籍している場所でもある。

さん!」

「タカミチ君?どうかしましたか?」

後ろからかけられた男の声に、はゆったりとした動作で振り向き、笑みを浮かべながら尋ねる。

男の身長はややより高く、短く刈られた髪を後ろに流し、細身の眼鏡の奥にある目は緩やかな弧を描いている。

「ついさっき保健室に生徒が運び込まれたらしくて、さんを探してたんです」

「あぁ、そうだったんですか。すぐに行きますね」

にっこりと笑って言ったあと、歩き出そうとしたが、ふと先程の会話を思い出して足を止めた。

「あ、タカミチ君」

「はい?」

「学校ではキチンと先生と呼んでくださいね」

「あ!...すいません」

「いえいえ、私も気をつけなければいけませんから。それでは高畑先生(・・・・)、ありがとうございました」

今度こそ保健室へと歩き出したの後姿を、高畑はかすかな苦笑で見送った。

保健室に近づくと、何人か集まっているらしく、中から話声か聞こえてきた。

「なにか桜通りで寝てるところを見つかったらしいのよ...」

「何だ。大したことないじゃん」

「甘酒飲んで寝てたんじゃないかなー?」

「昨日暑かったし、涼んでたら気を失ったとか...」

「おや?患者さんは一人ではなかったんですか?」

穏やかにかけられた声で、ベットに横になった少女を覗き込んでいた者たちが振り返る。

その中でと同僚の女性が口を開いた。

先生、いらしたんですか?」

「ええ、今来たところです。しずな先生、患者さんはどなたですか?」

「そこのベットに寝ています。2−Aの佐々木まき絵さんです」

「分かりました」

しずなに頷きながら答えると、耳温計(耳で測る体温計)を持ってきて体温を測ったり、脈を取ったりして、気を失っている少女の診察を行う。

一通り診察を済ませると、少女の横に立ち何かを考え込んでいる少年と目があった。

「2−Aの担任になったネギ先生ですか?」

「え?あっ!はい!」

慌てて頷く少年に、は穏やかな笑みを浮かべて言った。

「症状から見てただの貧血でしょう。大丈夫だと思いますよ。もし、頻繁に貧血を起こすようなら、一度きちんとした検査を受けさせた方がいいかもしれませんが」

「あ、はい!分かりました!えっと...それで、あなたは?」

「中等部の養護教諭...保険医のことですが...をしている、と言います。しばらく出張で学園を離れていたため、ご挨拶が遅れました」

「2−Aの担任のネギ・スプリングフィールドです。よろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします。あ、皆さん戻ってくださって構いませんよ。彼女が起きたら私が寮まで送りますから」

「えっと...それじゃあ、お願いします」

「ええ」

にっこりと笑って頷いて言うと、少年は安心したような顔になった。

その後、少年は今日帰りが遅くなると、一緒の寮で暮らしているらしい生徒たちに言いながら保健室を出て行った。

保健室から皆出て行き、大分気配も離れた頃、はため息とともに呟いた。

「やれやれ、エヴァもわざわざ魔力を残して...あの子の息子さんは学園で苦労しそうですね」









「で、キティはネギ君にご執心なんですか?」

「正確には、ネギ君の血でしょうね...今のところは」

「掛ってる呪いを解くころには、一滴も残らないんじゃないか?あいつの息子はまだ小さいからな」

「せめて後5年は欲しいところですね」

「それでも失血死は免れないと思いますよ。少量の血を媒介にして呪いを解く方が楽でしょう」

麻帆良学園の図書館島、その地下深くにある大樹と滝に囲まれた場所で、は友人達とお茶を楽しんでいた。

のんびりとした雰囲気とは異なり、話している内容は少し物騒なことも混ざっている。

長い髪を一つに結び、魔法使いが着る長いローブを身にまとった友人は、アルビレオ・イマ。

琥珀色の獣の目を持ち、銀の長い髪を複雑に編み込み、背に流しているのは、長い間とともにいるチモ。

チモは最近は物の怪の姿よりも、人の姿でいる方が多い。

そんな中、アルビレオはいつも通り喰えない笑みを浮かべて、がその目で映している映像を見ていた。

「ところであの子をエヴァンジェリンとファーストネームで呼ばないと、また怒られますよ」

「フフフ...そうやってムキになるのが可愛らしいんじゃないですか」

「否定はしませんが、ほどほどにしておかないと逃げられますよ」

「その加減はきちんと分かってるつもりですよ」

「どちらにしろ、聞こえないところでそう呼んでも遊べないぞ」

この3人にかかっては、『吸血鬼の真祖』、『人形使い(ドールマスター)』『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』『不死の魔法使い(マガ・ノスフェラトゥ)』と呼ばれるエヴァンジェリンも形なしである。

「...で、あいつらは何してるんだ?」

チモが目の前に映し出されている、もうひとつの映像を見ながら言った。

そちらはが見た過去の映像ではなく、『小さな蜜蜂(シークレット アイズ)』からの現在の映像だ。

「エヴァのパートナー、絡繰(からくり)茶々丸(ちゃちゃまる)さんを尾行してるようですね」

「相手の弱点探しか?」

「倒すことが目的のようです」

「2人がかりで、ですか?2人とも、そう言うことは好きではなさそうですが」

「2人の提案ではなく、侵入者の提案ですね」

「「なるほど」」

2人の視線が、ネギたちとともにいるオコジョに向けられる。

「う〜ん、2人ともうまく誘導されてますね」

「ああ。だが、2人そろってお人好しの様だからな。そう上手くは運ぶまい」

「しっかり絆されてますからねぇ」

3人が好き勝手に言っているうちに、戦いになったが、ネギが途中で放った魔法の向きを変えた。

「自分に当たったな」

「あそこで『戻れ』じゃなく、『曲がれ』だとよかったんですけどね」

「追尾型よりも操作型の方が良かったですね」

「あの歳で操作型を使うには、魔力が足りないのでは?」

「いや、11本全てを操作するのは難しいだろうが、1本にまとめてやれば十分可能だ」

「まあ、その辺りは周りがどうこう言って、どうにかなるものではありませんからね。さて、アルビレオ、チモ、私は上へ戻りますね」

「「もうか(ですか)?」」

そろって尋ねてくる2人に、は軽く肩をすくめて見せた。

「患者が向かっている先にいなければ、治療が出来ませんからね」

保健室に走る神楽坂(かぐらざか)明日菜(あすな)と、抱えられているネギの姿に、3人はそれぞれ異なる笑みを浮かべた。










あとがき

おいおい様のリクエストで、『『ネギま』とのクロス』です。
連載でと言うことでしたので、まだ『第1話』ですが、エヴァンジェリンと茶々丸を修学旅行に連れていくまで頑張りたいと思います。
気に入っていただけると、嬉しいです。

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