ハンゾーが言った言葉に、ゴンはきょとんとし、周りも呆気にとられる。
「俺にはお前は殺せねェ。かといってお前に『まいった』と言わせる術も思い浮かばねェ。俺は負け上がりで次にかける」
背を向けたハンゾーにゴンはむっとした顔になった。
「そんなのダメだよ!ずるい!!ちゃんと2人でどうやって勝負するか決めようよ!!」
その言葉にハンゾーの額に青筋が浮かぶ。
「フ...言うと思ったぜ...バカかこの!!てめーはどんな勝負しようがまいったなんて言わねーよ!!」
「だからってこんな風に勝手も嬉しくないよ!」
「じゃ、どーすんだよ!」
「それを一緒に考えよーよ!!」
「要するにだ。俺はもう負ける気満々だが、もう1度勝つつもりで真剣勝負をしろと。その上でお前が気持ちよく勝てるような勝負方法を一緒に考えろと。そーゆーことか!?」
「うん!!」
「アホか !!!」
満足そうに肯定したゴンに、ハンゾーのツッコミとともにアッパーがさく裂する。
この場合、誰もハンゾーを責められないのではないだろうか。
ゴンは目を回して気絶している。
「おい、審判。俺の負けだ。2回戦に行くぜ。しかし、委員会に言っておくが、これで決着したなんて思うなよ。そいつが目覚めたら、きっと合格は辞退するぜ。1度決めたら意志の強さは見てのとおりだ。不合格者は1人か0なんだろ?ゴンが不合格なら、俺たちのこの後の戦いは全て無意味になるんじゃないか?」
「心配御無用。ゴンは合格じゃ。本人が何と言おうとそれは変わらんよ。仮にゴンがごねてわしを殺したとしても、合格した後で資格が取り消されることはない」
「なるほど」
ハンゾーが納得した後、ネテロはに顔を向けた。
「、ゴンの手当てを頼んだぞ」
「分かりました」
「ふむ。しかし、昔よりはるかに我慢強くなったのう」
「...4歳のときの出来事をまだ出されるんですか」
「事実じゃろ。昔のおぬしなら、間違いなく試験に手を出しとったと思うぞ」
「否定はしません」
ゴンを担いできた審判から、ゴンを受け取り、子供抱きにする。
「後遺症の残るようなケガもしていませんし、骨もきれいに折れているようですね」
「参考までに聞いておくが、その反対のケガだったらどうするつもりじゃった」
「......試合中に手は出しませんよ」
「試合後は?」
それは周りにいた受験生たちの問いでもあった。
その一言で、の顔には笑みが浮かんだ。
ただし、目が笑っていないにもかかわらず、穏やか過ぎる笑顔なのがかえって怖い。
「生き地獄」
その一言が、今までの試験の中で1番恐ろしかったと受験生および試験官たちは語った。
第三十七話 殺し屋の友達
はゴンの治療をしていたために第2試合から、第4試合までを見過ごした。
したがって、はその結果をサトツから聞いただけである。
第2試合はクラピカ vs ヒソカ − クラピカの勝利。
しばらく戦った後、ヒソカが何事か囁き、その直後に負けを宣言。
第3試合、ハンゾー vs ポックル − ハンゾーの勝利。
第1試合のゴンと同じような体勢になり、あっさりとポックルが負けを宣言。
第4試合、ヒソカ vs ボドロ − ヒソカの勝利。
一方的な試合展開だったがボドロがなかなか負けを宣言せず、倒れたボドロにヒソカがまた耳打ちし、その直後ボドロが負けを宣言。
が戻ってきて最初に見た第5試合もすぐに終了した。
第5試合はキルア vs ポックルで、開始と同時にキルアが戦線離脱し、ポックルの勝利となった。
戦う気がしないからと言うその理由は、非常にキルアらしくは苦笑を洩らした。
そして、次の第6試合と第7試合が入れ替わった。
第6試合はレオリオとボドロの試合だったが、レオリオがボドロの怪我を理由に延期を要請したため、先に第7試合の組み合わせが行われることになった。
第7試合の組み合わせはキルアとギタラクル。
開始の合図とともに、ギタラクルが声を発した。
「久しぶりだね、キル」
「!?」
顔に刺さった針を抜いていくと、ギタラクルと言う変装した姿から、とキルアのよく知っている姿へと変わった。
「......兄...貴!!」
「キルアの兄貴...!?」
「正確には一番上の兄ですが」
「、知っているのか!?」
「言ったでしょう。キル君は私の友人の息子ですと。イル君もその友人の息子ですよ」
が2人を見る目はとても優しい。
「母さんと次男を刺したんだって?」
「まあね」
「母さん泣いてたよ」
「そりゃそうだろうな。息子にそんなひでー目にあわされちゃ。やっぱとんでもねーガキだぜ」
(多分そういう意味じゃないと思うんですけど)
「感激してた。『あの子が立派に成長してくれて嬉しい』ってさ」
「ああ、キキョウさんらしいですね」
ものすごくずれた言葉と相槌に、レオリオが滑った。
「『でもやっぱり、外に出すのは心配だから』って、それとなく様子を見てくるように頼まれたんだけど。奇遇だね。まさかキルがハンターになりたいと思ってたなんて。がいたのも予想外だったけど」
「言ってませんでしたしね」
「うん。それでさ、実は俺も次の仕事の関係上資格をとりたくてさ」
「別になりたかったわけじゃないよ。ただ何となく受けてみただけさ」
「...そうか。安心したよ。心置きなく忠告できる。お前はハンターに向かないよ。お前の天職は殺し屋なんだから」
「イル君、シルバさんもライセンス持っていますけど?」
「はちょっと黙ってて」
にしか分からなかったが、少しいらついた声で言った。
はそれに軽く肩をすくめることで答えとした。
イルミは一応それに満足したらしく、再びキルアに話しかけた。
「お前は熱を持たない闇人形だ。自身は何も欲しがらず、何も望まない。陰を糧に動く、お前が唯一喜びを抱くのは、人の死に触れたとき。お前は親父と俺にそう育てられた。そんなお前が何を求めてハンターになると?」
「確かに...ハンターにはなりたいと思ってるわけじゃない。だけど俺にだって欲しいものくらいある」
「ないね」
「ある!今望んでることだってある!」
「ふーん。言ってごらん。何が望みか?」
「.........」
「どうした?」
キルアは、イルミの言葉にうつむきながら黙り込んだ。
「本当は望みなんてないんだろう?」
「違う!」
イルミの言葉を強く否定する。
「ゴンと...友達になりたい。もう人殺しなんてうんざりだ。普通に、ゴンと友達になって、普通に遊びたい」
「無理だね。お前に友達なんて出来っこないよ」
淡々とした口調でイルミはさらに言葉を続けた。
「お前は人というものを殺せるか、殺せないかでしか判断できない。そう教え込まれたからね。今のお前にはゴンがまぶしすぎて、測り切れないでいるだけだ。友達になりたい訳じゃない」
「違う...」
「彼の側にいれば、いつかお前は彼を殺したくなるよ。殺せるか殺せないか、試したくなる。なぜならお前は根っからの人殺しだから」
イルミがそう言った後、レオリオが前に一歩進み出た。
その前にすかさず黒服の者が現れる。
「先ほども申し上げましたが」
「ああ、分かってるよ。手は出さねェ」
レオリオが声を張り上げる。
「キルア!!お前の兄貴か何か知らねーが言わせてもらうぜ!そいつはバカ野郎でクソ野郎だ!聞く耳持つな!いつもの調子でさっさとぶっとばして合格しちまえ!!ゴンと友達になりたいだと?寝ぼけんな!!とっくにお前ら友達同士だろーがよ!!」
「!」
「少なくともゴンはそう思ってるはずだぜ!!」
「え?そうなの?」
「たりめーだ!バーカ!!」
「?」
「私はとっくにキル君とゴン君は友達になっているんだと思っていたんですけど。わざわざ友達になろうと言って、なるものでもありませんし」
「そうなのか。まいったな。あっちはもう友達のつもりなのか」
「私としては2人ともだと思うんですけど」
の言葉を無視してイルミは言った。
「よし。ゴンを殺そう」
「............え?」
「殺し屋に友達なんていらない。邪魔なだけだから」
その言葉にキルアの体が小刻みに震える。
イルミがドアへと向かって歩き出す。
「彼はどこにいるの?」
「ちょ、待ってください、まだ試験は...『トン』あ」
審判の言葉をさえぎるように投げられた3本の針が、審判の頭に刺さると、ビキビキと音をたてて変形する。
「あ...?アイハハ」
「どこ?」
「とナリの控え室ニ」
「どうも」
「あ...ァあ」
扉へと向かっていたイルミの足が止まる。
扉の前には、クラピカ、レオリオ、ハンゾー、そして黒服の試験官たちが睨みつけるようにしてたたずんでいた。
「イル君」
「何?」
扉の前にはいなかったが、イルミの行動を見ていたが声を掛ける。
「殺し屋に友達はいらないんですか?」
「うん。いらない」
「私は、あなたたちの父親の『友達』何ですけれど」
「...親父たちはは例外だって言ってたよ」
「(どういう意味ですか、シルバさん)例外でも、私は『友達』なんですよ。それに、この試験の条件忘れてませんか?殺したら不合格なんですよ」
「あ、そうか。ゴンを殺しちゃったら、俺が落ちて自動的にキルが合格しちゃうね。うーん......そうだ!まず合格してからゴンを殺そう!」
「...こういうときに頭がまわらなくてもいいのに」
呆れているように話すとは違い、キルアはうつむいたまま目を見開いている。
「それなら、仮にここの全員を殺しても、俺の合格が取り消されることはないよね」
「うむ。ルール上は問題ない」
「ええ、確かに『ルール上は』問題ありませんね」
「!!てめェどっちの味方だ!?」
「イル君もキル君もシルバさんの息子。それと同じように、ゴン君もジン君の息子です。友人の息子と言う意味では3人とも同じ立場です」
「っ...!」
レオリオは気づかなかったが、は言外にここにいる者たちを殺せるならやってみろと意味を込めている。
それに気づいたのはネテロとイルミだけだったが。
の言葉の裏に気づいていながらも、イルミは言葉をつむぐ。
「聞いたかい、キル。俺と戦って勝たないとゴンを助けられない。友達のために俺と戦えるかい?出来ないね。なぜならお前は友達なんかより、今この場で俺を倒せるか倒せないかの方が大事だから」
キルアの体がびくりと揺れる。
「そしてもう、お前の頭の中で答えは出ている。『俺の力では兄貴を倒せない』...『勝ち目のない敵とは戦うな』、俺が口をすっぱくして教えたよね?」
近づいてくるイルミの手から離れようと、キルアは無意識に後ずさろうとした。
「動くな」
イルミの言葉に、キルアの動きが止まる。
「少しでも動いたら戦いの合図とみなす。同じくお前と俺の体が触れた瞬間から戦い開始とする。止める方法はひとつだけ。分かるな?だが...忘れるな。お前が俺と戦わなければ、大事なゴンが死ぬことになるよ」
徐々に近づいてくるイルミの手に、キルアの顔から汗が滴り落ちる。
「やっちまえキルア!!どっちにしろ、お前もゴンも殺させやしねえ!!そいつは何があっても俺たちが止める!!お前のやりたいようにしろ!!」
「レオ君たちが止めるのは無理だと思いますよ。逆にあっという間に殺されます」
「うるせえ!は黙ってろ!!」
そう言っている間にも、イルミの手はどんどん近づいていく。
「......まいった。俺の......負けだよ」
キルアの言葉にレオリオたちが愕然とする。
キルアはうつむき、その表情は分からない。
しばらく黙ってその様子を見ていたイルミが、パンと音を立てて手を合わせる。
「あーよかった。これで戦闘解除だね。はっはっは、ウソだよキル。ゴンを殺すなんてウソさ。そんなことをしたらが泣いて、親父や母さんがうるさいしね。お前をちょっと試してみたのだよ。でもこれではっきりした」
イルミは手をキルアの頭に置き顔を近づけた。
「お前に友達をつくる資格はない。必要もない。今まで通り親父や俺の言うことを聞いて、ただ仕事をこなしていればそれでいい。ハンター試験も必要な時期がくれば俺が指示する。今は必要ない」
そう言ったあと離れていったイルミの反対へと歩いてきたキルアは、レオリオやクラピカが何を言っても反応しなかった。
は何かを考えるようにじっとキルアを見つめていた。
次の試合が始まる直前にも関わらず、目を離さずに。
だからこそ、反応できたと言うべきなのだろう。
レオリオとボドロの試合開始と同時に、ボドロの心臓へと繰り出されたキルアの手は、間一髪で間に合ったの胸へ矛先を変えた。
見開かれたキルアの目には、胸を赤く染めたの、弧を描く口元が映っていた。
あとがき
H×H第三十七話終了です。
目指せ最終試験の死人ゼロ、達成しました!!
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38話