トリックタワーの外は少し強めの風が吹いていた。
は服に合わせて長く伸ばした髪が視界を遮るのを防ぐために手で押さえた。
場所が場所ならさぞかし絵になったのだろうが、あいにくと自然にあふれたような場所ではその服装は異物でしかない。
もっとも受験生たちの注意は異質なよりも、目の前の試験官らしき人物へと集まっている。
彼は3次試験官で刑務所所長のリッポーという。
その人物を見た人ならば、10人中9人は丸メガネをかけたパイナップルで通じるのではないだろうかと考えてしまった。
もちろん口に出すことはしないが。
「諸君、タワー脱出おめでとう」
リッポーがおもむろに口を開いた。
「残る試験は4次試験と最終試験のみ。4次試験はゼビル島にて行われる。では、さっそくだが」
リッポーが指を鳴らすと、隣に台にのった箱が運ばれてきた。
「これからクジを引いてもらう」
「クジ...?」
「これで一体、何を決めるんだ?」
受験生たちの疑問の声に1拍置き、リッポーがその答えを口にした。
「このクジで決定するのは、狩る者と狩られる者」
その物騒な言葉に受験生たちに緊張が走る。
「この中には25枚のナンバーカード。すなわち今残っている諸君らの受験番号が入っている。今から1枚ずつ引いてもらう。それではタワーを脱出した順にクジをひいてもらおう」
リッポーがそう言い終わると、最初にヒソカが進み出てクジをひいた。
だがは受験生ではなく、あくまでサポート役であるため、他の受験生と違うナンバーカードが用意されている。
もちろんはこの中にはの番号は入っていない。
箱に手を入れて取り出すとき、誰もが箱の底に手を伸ばす。
のために用意されたカードは、箱の上部に貼り付けてあるのだ。
ヒソカ、ギタラクルに続き、が箱の上部からそうだとは気づかれないようにカードを抜き取った。
それに書かれたものを見たは、表情には出さなかったが呆れかえっていた。
「全員、引き終わったね」
再び視線がリッポーに集まる。
「今、諸君がそれぞれ何番のカードを引いたかは全てこの機会に記録されている。したがって、もうそのカードは各自自由に処分してもらって結構。それぞれのカードに示された番号の受験生が、それぞれの獲物だ」
「ひとつよろしいかしら?」
「何かね?」
「私のカードに書かれているのは番号ではないのだけれど、どういうことか説明いただけるかしら?」
「もともとそのカードを取った人物は自己申告してもらう予定だったから、好都合だ。それも含めて今から説明する」
リッポーが受験生たちに眼を走らせる。
「奪うのは獲物のナンバープレート。自分の獲物となる受験生のナンバープレートは3点。自分自身のナンバープレートも3点。それ以外のナンバープレートは1点」
リッポーの指が点数を言うたびに受験生に見えるように掲げられる。
「最終試験に進むために必要な点数は6点。ゼビル島での滞在期間中に6点分のナンバープレートを集めること。ただし、ひとつだけ例外がある」
リッポーの視線がに注がれる。
「番号以外が書かれた受験生のナンバープレートのみ6点。ただし、番号を他の受験生に公開する」
その言葉に受験生たちの視線が集まる中、は相変わらず艶やかな笑みを浮かべていた。
余談だが、ユウのカードに書かれていた言葉は『大当たり!』である。
第三十四話 船の中
『ご乗船の皆様。第3次試験お疲れ様でした!!当船はこれより2時間ほどの予定でゼビル島へ向かいます。ここに残った25名の方々には、来年の試験会場無条件招待券が与えられます。たとえ今年受からなくても、気を落とさずに来年また挑戦してくださいねっ』
話をしていた女性は、受験生たちの雰囲気に一瞬言葉を詰まらせた。
を含めたごく一部のもの以外、誰とはなく自分のプレートを胸からはずし懐にしまいこんでいた。
そして皆、誰とも視線を合わせずに情報を遮断したのだ。
説明をした女性でなくとも辛気臭さに顔をしかめただろう。
『それではこれからの2時間は自由時間になります。皆さん、船の旅をお楽しみくださいね!!』
女性が立ち去ると、は自然な歩調で甲板へと上がった。
船のすぐ横を海鳥たちが通っていく。
しばらく海を眺めていると、甲板に以外のものがやってきた。
「あ、」
「ゴン君、話の続きを聞かせてもらえるかしら?」
「うん」
ゴンはの横へと歩いてきて甲板に座り込んだ。
ゴンの話を聞いていると、2人のもとにキルアが近づいてきた。
「よ」
キルアは軽く声を掛けるとゴンの隣に座った。
しばらく沈黙したあとにキルアはゴンに声を掛けた。
「何番引いた?」
「......キルアは?」
「ナイショ」
そういって黙り込む2人を見てが小さく笑うと、それを合図にしたかのように2人は顔を見合わせて笑った。
「安心しろよ。俺の獲物は405番じゃない」
「俺も99番じゃないよ」
「...せーので見せっこするか?」
獲物が関係ないは黙って2人のやりとりを見ている。
「「せーの!!」」
掛け声とともにゴンが44番、キルアが199番と書かれたカードを見せ合う。
「......マジ?」
ゴンのカードを見たキルアは目を丸くして呟いた。
「お前、クジ運ないなー」
「やっぱり?」
「と同じくらいクジ運ないんじゃないか?」
「そうかしら?私としてはそれほどでもないと思うのだけど(受験生たちへのボーナスポイントみたいな扱いですし)」
「まあ、に勝てるようなやつ滅多にいないだろうけどな」
「って強いの?」
「そうね。ほどほどかしら」
「へぇー。キルアの...これ、誰の番号だっけ?」
「...やっぱし分かんねー?」
「は知ってる?」
「ええ」
「どんなやつ?」
「いつも3人一緒に動いていた人を覚えているかしら?その3人の中の顔の輪郭が四角い人よ」
「あー、何となくなら覚えてる。トンパさんが言っていた人たちだよね。俺ぜんぜん番号聞いても分からなかったよ」
「まあ、普通は他のやつの番号なんか覚えちゃいないもんな。説明聞いてから回り探してみたんだけどさ、もうみんなプレーと隠してやんの。せこいよな 」
ゴンに同意を求めようとしたキルアの言葉が途切れる。
とキルアに見られていることにも気づかず、ゴンは口元に笑みを浮かべながら小刻みに震えていた。
しばらくして見られていることに気づいたゴンが、2人の顔に交互に眼を向けた。
「嬉しいのか怖いのか、どっちなんだ?」
「...両方...かな」
「そう(ああ、こういうところもよく似ていますね)」
「これがもしただの決闘だったら、俺に勝ち目はなかっただろうけど、プレートを奪えばいいってことなら何か方法があるはず。今の俺でも...少しはチャンスがある。そう思うとさ、怖いけど、やりがいはあるよね」
「......」
「...そっか。ま、がんばろうぜ」
立ち上がってスケボーに乗りながらキルアは2人に背を向けた。
「生き残れよ、ゴン。もな」
「キル君も無茶はしただめよ」
親指を経てたゴンと笑みを浮かべているに軽く手を上げながらキルアは離れていった。
『それでは第3次試験の早い人から順に下船していただきます!1人が上陸してから2分後に次の人がスタートする方式を取ります!!』
崖のところに接岸した船と崖の間には、受験生が下船するために板が渡されていた。
下船する周囲は多少開けているが、その先にはうっそうとした森が広がっている。
『滞在期間はちょうど1週間!!その間に6点分のプレートを集めてまたこの場世に戻ってきてください。それでは1番の方スタート!!』
女性の言葉にヒソカは船を下り、森の中へと姿を消していった。
先に行った者は身を隠し、狙った獲物の動向をチェックできるため有利となる。
もちろん、それは獲物に見つからないことが前提となるが。
『3番スタート!』
女性の声で足を進め森の中に入ったは、音をたてずに先の2人と離れたほうへ音をたてずに走っていく。
受験生には1人ずつ試験官がついていることになっているが、にはそれは当てはまらないため、まく必要がないのがありがたかった。
船からだいぶ離れたところに来ると足を止め、勢いよくドレスを脱いだ。
これ以上ないというほど早く着替えを済ませると、は疲労と安堵の混じったため息をついた。
「やはり自主的に変装するのと、強制的に着替えさせられるのでは、精神な疲労が違いますね」
『小さな蜜蜂』を飛ばしながら、はこの島で一番目立つところへと移動するために歩き始めた。
3次試験終了後にネテロと連絡を取ったとき、そう指示が出されていた。
が自分を『ボーナスポイント』と表現した理由はここにある。
念を覚えているからプレートを奪うことは限りなく不可能に近い。
友人となったものがくれと言ったら渡してしまうかもしれないが、今この試験を受けているものの中には言うものはいないだろう。
だからこそ、『から奪えたもの』=『奇跡のような幸運を掴んだもの』というわけだ。
の踏みしめた地面が、柔らかな砂地へと変わった。
島の中央にある海岸沿いの砂浜は広く、見晴らしもよい。
砂浜の反対側に多少木が生い茂っているが、その前にあるのは小さな湖なのでほとんど障害物はない。
は砂浜の中間地点辺りで海へと足を向け、『無限の武器庫』で釣竿を出すと、えさもつけずに釣りを始めた。
(さて、狙ってくださいというこの状況で、受験生たちはどんな反応をするでしょうね)
もし今のの表情を友人たちが見ていたら、間違いなくこう評しただろう。
人の悪さが似てきたと...『誰に』とは言わないが。
あとがき
H×H第三十四話終了です。
管理人が主人公の女性口調は書きなれていないせいか、時々話し方が元に戻りそうになります。
33話
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35話