当然のごとくより先に来ていた2人は、とともに出てきた相手へと視線を向けた。
視線が向けられている少女は居心地悪そうに身じろぎする。
「2人とも早かったですね」
「そうでもないよ♦」
「、それ何?」
「こら。『それ何』じゃなくて『その子誰』でしょ」
小さい子をしかるように『めっ』と言うと、ヒソカは面白いものを見たという顔で笑い、イルミは無表情で呆れ、ココルは何だこいつといった感じでを見ている。
「それで、その子誰だい?」
「ほら、イル君。あなたのお友達はちゃんとした言い方をしてますよ」
「友達じゃないから」
「酷いなあ♣」
「もう。どうしてこんなに頑固に育ってしまったんでしょうか?」
悲しそうにため息をついたに、ヒソカが笑いを噛み殺す。
イルミは以上に深いため息を吐きながら、無表情で言い直す。
「...、誰?」
「ん?ああ、この子はココルちゃんですよ。ココルちゃん、こっちの顔に落書きがしてあるのがヒソカ君で、こっちの融通が利かないほうがイルミ君です」
「...ココル『ちゃん』?」
「落書き?」
「融通...」
それぞれが自分に関して気になったことを口にしながらに返す。
その不満そうな顔を見ながらは首を傾げた。
「どうかしましたか?」
「何故この歳になって子供のような呼ばれ方をしなければならない!?」
「私より年下だからです」
「普通はフェイスペインティングっていうんだけど♠」
「落書きのほうが字数が少なくてちゃんと伝わるじゃないですか」
「融通って...」
「利かないでしょう」
全員の言い分が一言で言い返された。
しかもこれが嫌味でもなんでもなく、本心なのだからさらにいただけない。
さも当たり前のようにきょとんとした顔で不思議そうに3人を見るに、全員が何を言っても無駄だと口を閉ざした。
いや、1人だけ興味深そうに眺めているが。
「で、この子どうしたんだい 君の対戦相手だったんだろう?」
「何となく話してて楽しそうだなぁと思ったので、保釈金を払って連れてきちゃいました」
「へぇ が興味を持った子なんだ?」
「.........ご愁傷様」
「ちょっと待て!何だ、その『ご愁傷様』とは!?」
「なんだかそう言われると人聞きが悪いですねぇ」
「どうでもないと思うけど」
「ちょっと心外ですねぇ」
「ちょっとだけでしょ」
「ええ、もちろん」
「だからその『ご愁傷様』とは何なんだあ!!?」
叫びを無視されたココルがさらに大きな叫び声を上げると、それに賛同するようにヒソカも言葉を発した。
「ボクも気になるな♥」
「あら。ヒソカ君たら、意外と好奇心旺盛なのね」
の言葉遣いが急に変化したことにヒソカが面白そうに笑った。
「その言葉遣いも似合うね♠」
「そうかしら?」
「うん。デートに誘いたくなるよ♦」
「実際に誘ってはくださらないの?」
『バトル込みでもいいから』と残念そうにつぶやくに、ヒソカは笑みを向ける。
「それじゃあ、実際に誘おうかな♣」
「試験中は駄目よ」
「それは残念♥」
「......っ!!だーかーらーっ!説明しろよ!!!」
「いいですよ」
3度目の正直とばかりに叫んだココルの言葉をあっさりと了承する。
それにはココルも呆気にとられてにこにこと楽しそうに笑うを見つめた。
「...ご愁傷様」
今度はその言葉の意味が痛いほど良く分かったココルは、数年ぶりに泣きたくなった。
第三十二話 友人の話
「なぜか私が気に入る人たちって両極端なんですよ」
「性格が?それとも外見がかい?」
「性格が、ですね。大雑把に分けると『常識人』と『非常識な人』。もう少し詳しく言うと、『常識的な倫理・価値観・感覚を持っている人』と『常識破りがライフワークとなっている人』ですね」
「、自分もその『非常識』のほうにちゃんと入れなよ」
「私は『常識』と『非常識』の中間くらいですよ」
「非常識の人たちに囲まれてるときはでしょ」
「えー。でも『あの人』とか『あの人』とか『あの人』とか『あの人』とか『あの人』とか...」
「何人『あの人』をあげるつもりなのさ。の場合それが全員違うのは分かるけど」
「こうして考えると意外と非常識な方が多いですね」
「だからそれに自分も入れなよ。それを止める常識人が可哀相だろ」
「イル君。嘘つきは泥棒の始まりなんですよ」
「俺、暗殺者だし」
いつの間にかとイルミの漫才になっているような会話を、『常識人』に分類されるココルと、『非常識人』に分類されるヒソカが聞いていた。
その表情は泣きそうな顔と笑いをこらえる顔という正反対のものだったが。
「に気に入られたら常識人は、まさしく運のツキだよね」
「だから、それは人聞きが悪いでしょう」
「それでもを嫌いにならないお人好し揃いだし」
「いやですね。嫌いなんて言われようものなら泣き落とすに決まってるじゃないですか」
「どこで覚えたの泣き落としなんて」
「お母さんとか師匠とかキキョウさんとセシリアさんとか...何回やられたと思ってるんですか」
「それ自慢にならないよ」
「自慢なんかしてませんよ」
「お人好し自慢じゃないの?」
「それなら私の『常識的な』友人のほうがお人好しでしょう」
「うん」
「あのお人好しぶりを見てると、何だか心配になるときもあるんですよねぇ」
「心配しなくてもの友達はみんな強いんじゃなかったの?」
「強いんですけど、どこか抜けてるというか...」
いつの間にか話がの友達のお人好しぶりに話が移ってきている。
しかし、あいにくとその話を遮る者はいない。
聞いている1人は自分の浅慮を後悔するので精一杯だし、もう1人は笑いをこらえるので必死だ。
笑いをこらえる理由がもっと面白い会話を聞きたいからというのはどうかと思うが。
もっとも、2人がさえぎらなくても思わぬ音で会話が途切れたが。
その音の発信源はの携帯だった。
は携帯の画面を見てかけてきた相手を確認すると、ぴしりと音がしそうなほど急激に体を硬くした。
それを見たヒソカとココルがいぶかしげな視線をに向けるが、それには気づかずに電話に出てしまったために、問いかけるような視線がイルミに向けられる。
それに気づいたイルミは相変わらず無表情に『の友達から』と答えた。
「が固まったってことは、『非常識』な友達からかな♦」
「たぶんね。が今着てる服を作ったのもその人だと思うよ」
「あれは試験官が準備した服じゃなかったのかい?」
「の友達のほとんどは協会に顔が利くらしいから」
「...だからか」
「「何が(♣)」」
小さく呟いたココルの声に2人が反応すると、少し逡巡したあと言葉をつむいだ。
「あっさりとあたしの保釈金...1830億ジェニー払って連れてきたのも、あたしを抑えられるだけの知り合いがいるからかと思ったんだ」
「違うよ」
「...違う?どこがだ?」
「は誰かに頼まなくても君1人くらい一瞬で殺せるから」
「確かにそうだね♠」
「一瞬でだと?」
この言葉には少女の眉がしかめられる。
だが、ココルにもとこの2人は自分より強いということは感覚では分かるのでそれ以上はいわない。
勘でしかないが、この3人とココルの間には何かが決定的に違うことも分かるらしい。
言葉に出さない少女の考えを敏感に察知したかのように、ヒソカの顔が物騒な笑みを浮かべようとしたとき、少し強めに背中が叩かれた。
「痛いなあ♦」
「もう。痛いのは背中じゃなくて、肩の傷でしょ」
話が終ったらしいが呆れたような顔でヒソカの後ろに立っていた。
そして、いつ来たのか分からずに呆然としているココルを引っ張って胸に抱きとめた。
ココルは一瞬何が起きたのか分からなかったが、自分の顔がの胸に埋まっているのに気づいて慌てて離れようとした。
それには少し腕をゆるめはしたが、ココルを腕の中から出すことはしなかった。
「ボウヤたち、私のお友達をいじめちゃダメよ」
「いじめたのはヒソカだけだよ」
「ひどいなあ♦いじめてないよ♥」
「そんな物騒な笑顔を浮かべても信じられないわよ。遊びたいなら試験の後に天空闘技場に行ってあげるからそれまで我慢しなさい」
「うーん♠この子もおいしそうなんだけどな♣」
「だ・め」
「残念♦」
今のところは諦めたらしいヒソカに苦笑すると、は腕の中にいるココルに眼を向けた。
「ココルちゃん、もう1時間ほど待っててくれるかしら?」
「1時間?」
「ええ、あと1時間ほどしたらここに私のお友達が迎えに来てくれるの。私はまだ試験があるからいけないけど、その人がココルちゃんの新しい職場に連れて行ってくれるわ」
「......」
「ん?大丈夫。変な仕事じゃないわ」
無言でを見上げる少女に笑みを浮かべながらが話す。
「...どんな仕事だ?」
「私のお友達の1人が孤児院を経営しているんだけど、そこの職員が体を壊して事務のほうに移ることになったのよ。ココルちゃんにしてほしい仕事は、その人の代わりに子供たちの遊び相手よ」
「あたしが!?」
「だめかしら?」
「ダメというかあたしの外見じゃあ...」
「あら。私のお友達、孤児院の園長さんのほうがココルちゃん以上に傷だらけなのよ」
「は?.........それって本当に孤児院の園長なのか?」
「もちろんよ。彼ったらとっても怖い顔なのに大の子供好きなの」
コロコロと楽しそうに笑いながら友人のことを話すに、ココルは何とも言えない顔をする。
「孤児院の仕事がいやなら別の仕事を紹介するけど」
『だめかしら』と小首を傾げながら尋ねるに、ココルは少し考えたあと小さくうなづいた。
それを見たが嬉しそうに抱きつくのはこの2秒後。
あとがき
H×H第三十二話終了です。
ああ、常識人をいじるのは面白い(鬼畜)。
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