「残った43名の諸君に改めて挨拶しとこうかの。わしが今回のハンター試験審査委員会代表責任者のネテロである」
すっかり夜もふけた頃、二次試験の合格者達は飛行船の一室に集まりネテロの話を聞いていた。
「本来ならば最終試験で登場する予定であったが、いったんこうして現場に来て見ると...ほっほっほ、何とも言えぬ緊張感が伝わってきて良いもんじゃ。せっかくだから、このまま同行させてもらうことにする」
「次の目的地へは、明日の朝8時到着予定です。こちらから連絡するまでは、各自自由に時間をお使い下さい」
マーメンの話が終わると、楽しそうな顔をしたキルアがゴンとに話しかけた。
「ゴン!!!!飛行船の中、探検しようぜ!」
「うん!!」
「スイマセンが、探検は2人で行ってきてください。私は今日の分の仕事を片付けないと...」
「えぇーーー!!良いじゃん、今日くらい!!」
「どうしてもダメなの?」
「ええ、すいません。キル君、ゼノさんからの依頼もあるんですけど...」
「むー...(じいちゃんからの依頼じゃ)しょうがねぇなー...でも、今回だけだからな!」
「はいはい、分かってますよ。2人とも、気をつけて行ってらっしゃい」
「「いってきまーすっ!!」」
「元気な奴ら...」
元気に走っていった2人に、レオリオが驚きと呆れの混じった声で呟く。
「レオ君は随分と疲れてるみたいですねぇ」
「おぉ...オレはとにかくぐっすり寝てーぜ」
「私もだ。恐ろしく長い一日だった......しかし、1つ気になるのだが...」
「ん?」
「何ですか?」
「試験は一体あといくつあるんだろう?」
「あ、そういや聞かされてねーな」
「その年によって違うよ」
3人の会話に割り込むように、後ろからトンパが声をかける。
「試験の数は審査委員会がその年の試験官と試験内容を考慮して加減する。だが、大体平均して5つか6つくらいだ」
「あと3つか4つくらいって訳だ」
「なおのこと今は休んでおいた方が良いな」
「そうですね。体力を維持しないとキツイでしょうし...」
「だが、気をつけた方が良い」
「「?」」「...」
「さっきの進行係は『次の目的地』と言っただけだから、もしかしたら飛行船が第三試験会場かもしれないし、連絡があるのも『朝8時』とは限らないわけだ。寝てる間に試験が終わっちまってたなんて事にもなりかねない。次の試験受かりたけりゃ、飛行船でも気を抜かない方が良いってことだ」
「「「......」」」
無言になる3人に背を向けてトンパが去り、見えなくなると、は呆れの混ざったため息をついた。
「事実を混ぜてウソをつくのに慣れてますね...随分と分かりやすいウソでしたけど」
「やっぱりウソなのか?」
「ええ、試験の数はともかく、飛行船を試験会場にはしませんよ。今ここにネテロさんがいること自体、イレギュラーなんですから」
「なるほど...では、明日の朝8時で大丈夫なんだな」
「そうですね。機械のトラブルや気流の関係で多少の遅れが出ないとは言い切れませんけど、連絡を入れて下さるのは確かですよ」
「ん?随分とはっきり言い切るな」
「レオ君、私の職業忘れてますね?安心して下さい。『イレブン』としての私が、先程の言葉は保障します」
がそう言うと、2人は納得したように頷いた後、首を傾げる。
「『イレブン』としての...?」
「...どういう意味だ?」
「ああ、そう言えばあまり知られていませんでしたね。『イレブン』のときは、情報を最優先にして感情を挟まないようにしているんです。逆に『』のときは、その時の感情や私情を優先させます。ですから馴染みの方は『イレブン』としての私か、『』としての私か、どちらに依頼をしたいのか言ってもらうようにしてるんです」
「ふーん...公私をきっちり分けてるってことか?」
「そうですね。『』として依頼をされた場合は、依頼内容が依頼人に悪影響を及ぼすと考えて教えないこともありますし...」
「...いいのか?それで...」
「大丈夫ですよ。今までそれで苦情が来たことはありませんから」
不思議そうに問いかけるクラピカに、は何でもないことのように答えると、壁にかかっている時計をちらりと見た。
「あ、そろそろ仕事しないといけませんね」
「そういや、さっき言ってたな...」
「...すっかり引き止めてしまっていたな」
「大丈夫ですよ。あ、2人ともちゃんと休んで下さいね?」
「ああ、分かってる」
「おう、じゃあな」
眠れる場所を探しに行った2人と別れ、は人気の無い個室のある辺りへと移動し、その中の一室に体を滑り込ませた。
第二十九話 探し人
1日分の仕事を2件だけ残してパソコンを閉じたは、部屋に備え付けてあったシャワーを浴び服装を整えると、2枚のCD−ROMを片手に飛行船の中を歩き出した。
はある一室の前にくると、その部屋のドアをノックした。
ノックの音がしてしばらくすると、部屋の中にいた人物がドアを開いてを見下ろす。
「...どうかしましたか?」
「お寛ぎの所すいません。メンチちゃんいますか?」
「はぁ!?ちょっと、あんた!何ヒトを『ちゃん』付けしてんのよ!?」
がメンチの名前を呼んだ途端、名前のあとに付いていた言葉にメンチが怒ったように声を荒げる。
ドアのところに立っていたサトツもの言葉には驚いたが、廊下に響くことを考慮しを部屋の中に招きいれた。
部屋の中に入ったは、怒っているメンチを見て首を傾げる。
「?、何って...前はそんなこと言わなかったでしょう?」
「はあ!!?前って!?(試験のときが)初対面でしょう!?」
「え?...そう言えば、この姿で会うのは初めてでしたか?」
「「「............この姿?」」」
「メンチちゃんに会うときは確か...髪は背中の中程で...」
「「「!!?」」」
が言葉に合わせて片手で自分の髪を梳くと、さらさらとわずかな音をたてて髪が伸びていく。
「目元が少し下がっていて...左に泣きボクロが2つ...」
がスッと目元を撫でると少し目元が下がり、泣きボクロが2つ並んで現れる。
「口元には少し笑いジワがあって...」
そっと口元を押さえた手をどけると、穏やかな人柄を感じさせるような笑いジワが刻まれていた。
「声はメゾアルトで...後は身長がもう少し高くて、性別が違うんですけど...まあ、服がありませんからしょうがないですよね」
その様子を驚きと共に見ている3人の中で、今のの顔と声に覚えがあるメンチが呆然としたように呟く。
「.........『イレブン』...?」
「そうですよ。はい、依頼されてた内容の情報です」
「......ありがと...」
微笑むの顔を食い入るように見ながら、メンチが差し出された1枚のCD−ROMを受け取ると、メンチが呟いた名前に驚いて我に返った2人がメンチへと目を向ける。
「メンチ、この人って...」
「......あの『イレブン』よ」
「彼があの...」
2人に驚きと興味の浮かぶ目で見られ、は困ったような笑みを浮かべた。
しばらくじっと見ていたサトツは、『イレブン』に関するある噂を思い出しなるほどと呟くと、メンチとブハラがサトツへと目線を移す。
「サトツさん?」
「?、なるほどって...?」
「いえ、『イレブン』の容姿の情報が入り乱れていたのは、こういう訳だったのかと...」
「そう言えば...小さな子供から老人までいろいろ言われてて、『イレブン』と言う名前の情報屋は組織的なものだって言う噂もあったよね」
「『イレブン』に関する噂って当てになんないと思ってたけど...事実も含んでたのね」
もう1度に視線を戻した3人に、は先程のように困ったような笑みを浮かべながら口を開いた。
「えーと...ネテロさんの居場所知りませんか?」
「会長の?」
「ええ」
「確かテスト生を見て回ると言っていましたが...」
「そうですか...それでは探してみますね。ありがとうございました」
「いえ...」
頭を下げるにサトツが多少困惑したような声で返事をすると、はそれに苦笑すると、3人に背を向けドアの方へと歩き出した。
「「「!!?」」」
が一歩一歩ドアへと近づいていくごとに長かった髪が元に戻り、ドアを開け振り返ったときには、既にいつものの顔へと戻っていた。
「失礼しました」
パタン...
が出て行ったあと、部屋の中はしばし沈黙に包まれた。
「.........オーラに変化がありませんでしたね...」
「そうね...一体どうやってるのかしら?」
「凝でも見えないほど隠がうまい...とか?」
「それだってオーラは動くでしょう?」
「そうですね...」
部屋の中が困惑した空気に包まれている頃、はネテロを探して飛行船の中をうろついていた。
(円が出来れば良いんですけど...受験生の精孔を開いてしまう可能性がありますし...ネテロさんと緊急の時以外は居場所を調べないという約束もしてますし...あれ?)
「ネテロさんと...キル君とゴン君?」
「あ!!!」
「お仕事終わったの?」
「終わったと言うか...依頼人を探してたんですけど...」
「「依頼人?」」
「何じゃ、もう終わったのか?」
「ネテロさん?」
「ジイさんが依頼人?」
「ええ...はい、依頼内容はこの中に入ってますよ」
「うむ、ではいつものように振り込んでおくぞ」
がネテロのCD−ROMを渡すと、ゴンがそれを待っていたようにに話しかけた。
「これで仕事終わったの?」
「ええ、終わりましたよ」
「じゃあさ!も一緒にやろうよ!!」
「一緒に?」
「このジイさんがゲームに勝ったらハンターの資格をくれるってさ」
「勝ったら...ですか?」
はキルアの言葉に目を瞬かせると、少し呆れを含んだ目をネテロに向けた。
ネテロはそんなの視線に気付きながらも、楽しそうに笑い声を上げている。
はそんなネテロの様子にため息をつくと、キルアへと視線を戻した。
「せっかくですけど、私はもう休みますよ。今まで食事を摂らないで仕事をしていたので、お腹もすきましたし...」
「ちぇっ...」
「そっか、残念だね」
「すいません」
少し不貞腐れるキルアと肩を落としたゴンに、は苦笑しながら2人の頭を撫でる。
「お詫びと言っては何ですけど、厨房で明日のお弁当を作りましょうか?」
「え!?マジッ!!?」
「お弁当?」
「ええ、よかったらですけど」
「ゴン!そうしようぜ!の料理はめちゃくちゃ旨いんだぜ!!」
「へぇー...オレも食べて見たいな」
「分かりました。それじゃあ、作りますね」
2人の反応に笑いながら約束すると、はネテロに向かって『にっこり』という音がしそうな笑みを浮かべて話し掛けた。
「ということで、それの依頼料は厨房を使わせてくれる許可でいいですよ?」
「ほっほっほ、相変わらず破格値じゃのう...よかろう。厨房のスタッフにはわしから連絡を入れておこう」
「ありがとうございます」
なお、ネテロが持っているCD−ROMには日本語で『世界の巨乳美女100選!!』と書かれていた。
ゴンたちと別れた後、厨房へとやってきたはスタッフの人に案内され厨房の一角を借りると8人分の弁当を作り始めた。
主食、主菜、副菜、デザートと彩り良く詰められた弁当のふたを閉め、その上に念をかけた青い紙(保冷剤のかわり)をぺたりと貼り、用意してもらったハンカチに包んでいく。
(ゴン君達の分は飛行船を降りた後でいいとして...イル君、ヒソカ君、ネテロさんの分は今から渡しに行った方が良いですよね)
は弁当が5つ入った紙袋を冷蔵庫に入れさせてもらうと、残りの3つを持って飛行船の中を歩き出した。
しばらくして、広いスペースにもかかわらず2人しか人が見当たらないところに来ると、は壁に寄りかかっている1人の前まで進みしゃがみこんだ。
「...何?」
「お弁当を届けに来ました」
「弁当?...が作ったヤツ?」
「そうですよ。キル君たちに作ってあげると約束したので、ついでですけど」
「良いよ、ついででも。の作ったのは旨いし」
「ありがとうございます。あ、ヒソカ君もいりますか?一応作りましたけど?」
「くっくっく、それじゃあ貰おうかな♣」
「はい、どうぞ。さてと、それじゃあ私は行きますね」
「うん」
「またね◆」
「ええ、それではまた」
は2人と別れ、ネテロたちがゲームをしていそうな場所を探して歩き出す。
その途中、床にバラバラになっている死体を何もなかったかのように素通りしつつ、動き回るふたつの反応がある部屋のドアを開け中を覗き込む。
がドアを開けるとちらっとネテロがを見てきたが、ゴンはに気付くことなくネテロへと向かって行く。
は二人に声をかけることなく、絶をしてドアの横の壁に背を預けその様子を見ていた。
が来てから3時間以上経った頃、ゴンがネテロの腹に頭突きを食らわせ、さらに頭突きをくりだそうとしたゴンをネテロが右手を使ってよけると、ゴンは嬉しそうな顔で『勝ったァーーーー!!』と叫び、パタンとその場で横になった。
「...右手を使わせることがゲームだったんですか?」
「いや、わしからボールを奪うことだったんじゃが、いつの間にか主旨が変わっておったのう」
「そうですか。8時まで後3時間40分ほどですね」
「ふむ...」
が目的地までの到着時間を告げると、ネテロは何かを考えるように時計を見上げ、壁に備え付けられている電話の受話器をとった。
「...機長か?ワシじゃがのー、飛行は順調?...そうか。順調なところ悪いんじゃが、少しゆーっくり飛んでくれんか?...ふむ、頼んだぞ」
「ありがとうございます」
「何、ほんの気まぐれじゃよ。で、それはわしの分か?」
「ええ、よろしければどうぞ」
「ほっほっほ、ではあとで食べさせてもらうとしよう。もゲームやらんか?」
「お断りします。ゴン君が起きてしまいますから」
「お主らしく無い言い訳だのう?起きないように動くことなど、普通に出来るくせに」
「良いじゃないですか、偶には...私もそれなりに疲れてるんですよ」
「ふむ、では今回は見送ることにするかのう」
「ありがとうございます」
その後ゴンの近くで休憩を取っていると、到着予定時刻から1時間半ほど遅れた頃、放送が流れてくる。
『皆様、大変お待たせいたしました。目的地に到着です』
はその放送を聞いて、そっと部屋から出て行った。
あとがき
H×H第二十九話終了です。
の向かった先は...もちろんアレを置いていた場所です。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
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