「あたしはブハラと違ってカラ党よ!!審査もキビシクいくわよー」

(美食ハンター メンチ:食文化への貢献が評価され弱冠21歳で一ツ星(シングル)ハンターの称号を持つ...それなりに突出したハンターってかなり癖が強いんですけど...大丈夫でしょうか?)

が試験官の情報を確認しながら観察していると、メンチは受験生達に課題を発表する。

二次試験後半、あたしのメニューはスシよ!!

「「「「「「...........(スシ?)」」」」」」

聞いたことのない料理に、受験生達がざわざわと騒ぎ出す。

そんな中、は顔には出していないが『もしかしてこの試験まずいかもしれない』と考えていた。

(さっきのブハラ君との会話を考えると味でも審査するつもりのようですけど、美食ハンターを満足させられる味を要求しているわけじゃない...と思いたいですね)

「ふふん、大分困ってるわね。ま、知らないのも無理ないわ。小さな島国の民族料理だからね。ヒントをあげるわ!!中を見てごらんなさーーーーーい!!ここで料理を作るのよ!!」

メンチの声に受験生達がぞろぞろと中に入り、道具などを確認する。

「最低限必要な道具と材料はそろえてあるし、スシに不可欠なご飯はこちらで用意してあげたわ。そして最大のヒント!!スシはスシでもニギリズシしか認め無いわよ!!それじゃスタートよ!!」

メンチの合図で受験生達がいっせいに道具やご飯に手を伸ばして確認する。

「ライスだけで作るのかな?」

「道具とか見ると他にも何か使いそうだぜ」

はスシがどんなのか知ってる?」

「知ってますよ」

「え!?知ってるの!?」


   ざわっ!!


ゴンの叫び声に周りの受験生達の視線がに集中し、話しを盗み聞くために耳を済ませる。

「そこっ!知ってても他の人に教えたら失格にするわよ!!」

「......ヒントを与えるくらいならいいですか?」

「いいわ。ただし、どんな料理かを教えたら即失格よ!」

「分かりました...だそうですよ」

「チェッ...ゴンが叫ぶからだぜ」

「あはは、ゴメン!」

不貞腐れたように言うキルアにゴンが謝ると、はしょうがないといった感じで苦笑しながら2人に話しかけた。

「まあ、本来は限られた状況の中で推測していくことを目的とした試験でしょうから仕方ありませんよ。それでは、はじめに材料に関するヒントですね。先程、試験官はスシとは『小さな島国の民族料理である』と言いました。ゴン君はくじら島出身ですけど、島と聞いて最初に思いつく食材は何ですか?」

「島?...あ!分かった!さか「魚ァ!?お前ここは森ん中だぜ!?」「声がでかい!!川とか池とかあるだろーが!!」...な?」

「............レオ君」

が呆れたように呟いた瞬間、レオリオとクラピカのやり取りを聞いた受験生がいっせいに走り出す。

「...のヒント意味なかったな」

「......そうですね」

「で、でも、オレには役に立ったよ!」

「...ゴン君...ありがとうございます」

「俺らも獲りに行くか」

「うん!」「そうですね」






走り去った受験生達から多少遅れながらも、3人は数匹の魚を持って試験会場に戻ってきた。

「材料は獲れたけど、どうやって作るんだ?」

「そうですね...まずは調味料を確認してみて下さい」

「えーと...塩、砂糖、お酒...お酢?」

「酢?塩とか砂糖は分かるけど、何で酢があるんだ?」

「キル君、いいところに気付きましたね。お酢と言うのはとても殺菌力が強いので、料理の際に痛みやすい食材と一緒に使われることがあります」

「痛みやすい?...あ、生の状態で調理するのか!?」

「正解です」

はにっこりと笑うと、わしわしっとキルアの頭を撫でる。

「うわっ!子ども扱いするなよ!!」

「あはははは、良いじゃないですか。キル君の髪ってさわり心地いいんですよ」

「全然かんけーねーじゃん!」

「えーと、ご飯をこおして...っと」

「?、ゴン君もう作り始めたんですか?」

「うん!もう少しで出来るよ!」

にっこりと笑いながらまだ生きている魚を握り締めているゴンに、が何かを言おうとしたとき、近くにいたレオリオが叫び声を上げる。

「よし!!出来たぜーーー!!オレが完成第一号だ!!」

「おや?レオ君も出来たんですね」

「名付けてレオリオスペシャル!!さあ、食ってくれ!!」

試験官の前に持って言った皿の覆いを取りレオリオスペシャルを見せた瞬間、メンチは皿ごとそれを後ろに放り投げた。










   第二十八話    やり直し











「て、てめ!!何も放ることねーだろ!コラァ!!」

「何?失格にするよ。ほれ、さっさと戻りな!いーい!?カタチは大事よ!!ニギリズシの形をしていないものは、味見の対象にもならないわ!!」

「くそー、自信作だったのに」

「よーし!次はオレだ!!」

試験官の言葉にしぶしぶ戻ってきたレオリオと入れ違いに、ゴンが作ったものを持っていく。

しかしゴンの持っていったものも、レオリオスペシャルと同様に空を飛んだ。

「ダメ!!403番とレベルが一緒!!」

「ッ!!!レオリオと同じレベルかー...」

「心中察するぞ、ゴン」

「んだよコラ」

落ち込んでいるゴンに苦笑すると、は慰めるようにゴンの頭を撫でた。

「最初は間違ってもしょうがないですよ。まだ時間はありますから次のスシを作りましょう」

「...うん」

とゴンがキルアのところに戻ってくる間に、他の受験生達も作ったスシをメンチに持っていくがどれも試食さえしてもらえない。

2人がキルアのところに戻ってくると、キルアは呆れたような声でゴンに話しかけた。

「いったいどんなの作ったんだよ?」

「えーと、これくらいの生の魚をお酢に入れた後にここら辺をライスで包んで...」

「...お前それ食いたいと思うか?」

「ううん、思わないけど、民族料理だからこういうのもあるかなぁと思って」

「ゴン君、民族料理だからって何でもありと言うわけではありませんよ」

「そうなの?」

「あたりまえだろ!?普通食いたくもねーもの作るわけねーじゃん!」

心底呆れたといった感じで言うキルアに、ゴンが再びへこみそうになるのをが話題を変えることで誤魔化す。

「ゴン君、今度は材料ではなく道具の方を見てください。試験官は最低限必要な道具も用意すると言っていたでしょう?」

「道具?...まな板と包丁?...捌かなきゃいけないってこと?」

「正解です。2人とも魚の捌き方は分かりますか?」

「「ううん、知らない」」

そろって首を振るゴンとキルアに、が笑みを浮かべながら捌き方を説明しようとしたとき、ある受験生の声が試験会場に響き渡る。

「な、何だとーーーー!?メシを一口サイズの長方形に握って、その上にワサビと魚の切り身を乗せるだけのお手軽料理だろーが!!こんなもん誰が作ったって味に大差ねーーーべ!?」

「「「............」」」

3人は一瞬体の動きを止め、試験官たちがいるほうを微妙な顔で見た。

「...が言わなくてもばれたな」

「そうだね。あの人も失格になるのかな?」

「どうでしょうね?...頭に血が上ってて、そのこと自体覚えてるようには見えませんけど...」

3人の視線の先には、料理を馬鹿にされたことで頭に血の上り294番に掴みかかっているメンチがいた。

(さて、スシがどんなものかばれてしまった状況でメンチちゃんなら...味の審査にした結果合格者なしということになりそうですねぇ...一応報告しておきますか)






二次試験会場から1番近い場所にあるホテルの1209室で、試験の状況報告を読んでいたマーメンが驚いたように『会長!』とネテロをよんだ。

「どうした?」

「二次試験会場でトラブルがあったようです。どうしますか?」

「ふむ...まだ試験は終わっとらんのじゃろう?」

「はい。試験終了後にメンチ試験官から連絡があるはずです」

「それならもう少し待とうかの。それから対処しても遅くは無いじゃろう」

「分かりました。ではそのように返信しておきます」

マーメンは今のやり取りを簡潔にまとめ、送信者に送り返した。






返信されてきた内容を直接電脳に送り内容を確認しているの視線の先では、『寿』とかかれた湯飲みに入っているお茶をゴクゴクと飲んでいるメンチの姿があった。

「ワリ!!お腹いっぱいになっちった」

((((((((((終了!?))))))))))

呆然とする受験生達をよそに、メンチは携帯電話を取り出すと審査委員会の番号へと電話を書け話し始めた。

しばらくして、試験結果を報告していたメンチの声が怒鳴り声に変わる。

「だからー、しかたないでしょ!?そうなっちゃったんだからさ!!...いやよ!!結果は結果!!やり直さないわよ!!」

「...」

「報告してた審査規定と違うってー!?何で!?はじめからあたしが『おいしい』って言ったら合格するって話になってたでしょ!?」

「それは建前で、審査はあくまでヒントを見逃さない注意力と...「あんたは黙ってなーーーーー!!」

なだめようとしたブハラの言葉を遮るようにメンチが怒鳴りつける。

「こっちにも事情があんのよ!テスト生の中に料理法を知ってる奴がいてさー!そのバカハゲが他の連中に作り方を全部ばらしちゃったのよ!!とにかく、あたしの結論は変わらないわ!

 二次試験後半の料理審査、合格者は(ゼロ)よ!!

キッパリと言い切ったメンチの言葉に、受験生達がざわざわと騒ぎ出す。


   ドゴオォン!!


ざわめきが次第に大きくなっていったとき、破壊音が響き渡り、受験生と試験官の視線が現況の人物へと注がれる。

「...納得いかねェな。とてもハイそうですかと帰る気にはならねェな。オレが目指してるのはコックでもグルメでもねェ!!ハンターだ!!しかも賞金首(ブラックリスト)ハンター志望だぜ!!美食ハンターごときに合否を決められたくねーな!!」

(美食ハンターごときねぇ...)

「それは残念だったわね」

「何ィ!?」

「今年のテストでは試験官運がなかったってことよ。また来年がんばればー?」

「あーあ、あんなに煽って...」

「ふざけんじゃねェーーーーーー!!」


     パァン 

「「「「「「「!!」」」」」」」

   ガシャン    ドオォン


255番がメンチへと殴りかかった瞬間、メンチの後ろにいたブハラに打たれ、255番の体は窓をつきぬけ会場の外まで飛ばされた。

255番の歯は全て折れ、顔面から血を流し、体は小刻みに痙攣していた。

開いていた入り口からその様子を見ていたメンチは、不機嫌な顔でブハラを睨んだ。

「ブハラ、余計なマネしないでよ」

「だってさ...俺が手ェ出してなきゃメンチあいつを殺ってたろ?」

「ふん、まーね」

ブハラの言葉を肯定したメンチは持っていた包丁を勢いよく回し、ジャグリングのように計4本の包丁を放り投げる。

賞金首(ブラックリスト)ハンター?笑わせるわ!!たかが美食ハンターごときの1撃でのされちゃって!どのハンターを目指すとか関係ないのよ!ハンターたるもの誰だって武術の心得があって当然!!あたしらも食材探して猛獣の巣の中に入ることだって珍しくないし、密猟者を見つければもちろん戦って捕らえるわ!!武芸なんてハンターやってたら、いやでも身につくのよ!あたしが知りたいのは未知のものに挑戦する気概なのよ!!」


『それにしても合格者(ゼロ)はちと厳しすぎやせんか?』


外から聞こえてきた声に、受験生達は試験会場から出て上を見上げた。

「あ!!あれはハンター協会のマーク!!」

「審査委員会か!!」


......ゥゥウウウ    ドォン!!


「「「「「「!!」」」」」」

ハンター協会のマークがかかれた飛行船からネテロが飛び降りて来ると、受験生達が驚き道を開ける。

「何者だ、このジイサン」

「てゆーか骨は!?今ので足の骨は!?」

「審査委員会のネテロ会長、ハンター試験の最高責任者よ」

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」

メンチの言葉に、受験生達はさらに驚きネテロを注視する。

「ま、責任者と言っても所詮裏方、こんなときのトラブル処理係みたいなもんじゃ。メンチくん」

「はい!」

「未知のものに挑戦する気概を彼らの問うた結果、全員その態度に問題あり、つまり不合格と思ったわけかね?」

「......いえ...テスト生に料理を軽んじる発言をされてついカッとなり、その際料理の作り方がテスト生全員に知られてしまうトラブルが重なりまして、頭に血が上っているうちに腹いっぱいにですね...」

「フムフム...つまり、自分でも審査不十分だと分かっとるわけだな?」

「.........はい...スイマセン!料理のこととなると我を忘れるんです。審査員失格ですね。私は審査員を降りますので、試験は無効にして下さい」

「ふむ...審査を続行しようにも選んだメニューの難易度が少々高かったようじゃな。よし!ではこうしよう。審査員は続行してもらう。そのかわり、新しいテストには審査員の君にも実演と言う形で参加してもらう−−−と言うので如何かな?」

「!」

(受験生の救済+受験生の不満解消及びメンチちゃんの信頼回復といったところですか...)

「そのほうがテスト生にも合否の納得がいきやすいじゃろ」

その言葉に少し考え込んでいたメンチは納得したように頷くとネテロに話しかけた。

「そうですね。それじゃ、ゆで卵

「「「「「「!?」」」」」」

「会長、私たちをあの山まで連れて行ってくれませんか?」

「なるほど....もちろんいいとも」

にやりと笑って許可したネテロに苦笑しながら、は不思議そうな顔をしているゴンとキルアに話し掛けた。

「今度は大丈夫そうですよ」

「?、はどんなことやるか分かるの?」

「ええ、あの山で美食ハンターに有名な卵といったらアレしかありませんから」

「「アレ?」」

「行けば分かりますよ」

楽しそうに笑いながら飛行船へと向かうに、2人は首を傾げながら顔を見合わせるとの後を追って飛行船へと乗り込んだ。







   ヒュウウウウウゥゥゥゥ......


「着いたわよ」

飛行船を降りた受験生の何人かが目の前にある底の見えない谷にゴクリとつばを飲み込む。

「一体...下はどうなっているんだ?」

「安心して、下は深ーい河よ。流れが速いから落ちたら数十km先の海までノンストップだけど...それじゃお先に」

「「「「「え!?」」」」」

靴を脱いで谷へと飛び込んでいったメンチに受験生達が驚きの声をあげる。

「マフタツ山に生息するクモワシ、その卵を取りに行ったのじゃよ。クモワシは陸の獣から卵を守るため谷の間に丈夫な糸を張り、卵をつるしておく。その糸にうまくつかまり、1つだけ卵を取り、岩壁をよじ登って戻ってくる」

「よっと、この卵でゆで卵を作るのよ」

戻ってきたメンチが卵を見せながら言うと、半数近くの受験生の雰囲気が一気に沈んだ。

「あー、良かった」

「こーゆーのを待ってたんだよね」

「走るのやら民族料理よりよっぽど早くて分かりやすいぜ。よっしゃ行くぜ!」

谷に次々に飛込んでいく受験生と一緒に、も飛び降りると卵を取って戻ってくる。

戻ってきた受験生がブハラの前に準備してあった大釜に卵を放り込んで10分ほど経つと、メンチが片手にクモワシの卵ともう片方の手に市販されている卵を持ち受験生に話しかける。

「こっちが市販の卵で、こっちがクモワシの卵。さぁ、比べてみて」

「「「「「...!!」」」」」

「う...うまいっっ!!」

「濃厚でいて舌の上でとろける様な深い味は市販の卵とははるかに段違いだ!!」

「おいしいものを発見したときの喜び!少しは味わってもらえたかしら?こちとらこれに命かけてんのよね」

得意そうな顔で言うメンチと受験生達の言葉を聞いて、255番がゴンに話し掛けた。

「オ、オレにも食わせてくれ!」

「オレの半分上げる」

「それならゴン君には私のを半分上げますよ」

「いいの?」

「ええ、ゴン君と違ってもう食べ盛りは過ぎてますから」

「ありがとう!」

笑顔を見合わせる2人の横では、255番がゴンにもらった卵を食べて目を見開いていた。

「......今年は完敗だ。来年また来るぜ」

顔を背けながら言った255番に、メンチは楽しそうな笑みを浮かべながら255番の顔を見た。



第二次試験後半、メンチの料理(メニュー)合格者43名












あとがき

H×H第二十八話終了です。
二次試験が終わりました!
の受験のときは二次試験だけで3話分にもなったので、ここで終わらすことができてよかったー!!

ここまで読んでくださって、ありがとうございました!

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