ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド......
試験が始まって5時間ほど経った頃、受験生達は地上へと続く階段をひたすら駆け上がっていた。
(地上への階段中間地点...脱落者37名...意外と少ないですね)
いつの間にかゴンとキルアと共にサトツの後ろにつきながら、は番号札から出る信号で脱落者の人数を把握していく。
「いつの間にか1番前に来ちゃったね」
「うん、だってペース遅いんだもん。こんなんじゃ逆に疲れちゃうよな」
(...そう言えばシルバさんも似たような反応でしたねぇ)
「結構ハンター試験も楽勝かもな。つまんねーの」
「キルアは何でハンターになりたいの?」
「オレ?別にハンターなんかなりたく無いよ。ものすごい難関だって言われてるから、おもしろそうだと思っただけさ。でも拍子抜けだな」
「まあ、キル君にとってはそうかもしれませんね」
「だろ?...ゴンは?」
「オレの親父がハンターやってるんだ。親父みたいなハンターになるのが目標だよ」
「どんなハンター?」
「分からない!」
キッパリと言い切ったゴンにキルアがきょとんとした顔になる。
は珍しいキルアの反応に淡い笑みを浮かべながら黙って話しを聞いている。
「あはは、お前それ変じゃん!」
「そお?俺は生まれてすぐ叔母さんの家で育てられたから、親父は写真でしか知らないんだ。でも何年か前カイトっていう人と出会って、親父のこといろいろ教えてもらったんだ」
「ジン=フリークス:ルルカ文明遺跡の発見、二首オオカミの繁殖法の確立、コンゴ金脈の発掘、クート盗賊団の壊滅など、多くの分野で大きな功績を残すハンター。本来なら三ツ星に値するほどの功績を持ちながら、本人が申請を行わないため二ツ星に留まる」
「!!、知ってるの!?」
「先程言ったのは一般的に知られていることですが...」
「それってすごいことなのか?」
「分からない」
「そうですね...三ツ星ハンターは世界に10人いないと言われますから、それに近いジンく...ジン=フリークスもすごいといえると思いますよ」
思わず『ジン君』と呼びそうになりながらも、何でもなさそうにフルネームで呼ぶに2人は特に気にすることなく話しを続ける。
「カイトは自分のことみたく自慢げに、とても嬉しそうに話してくれた。それを見て思ったんだ。オレも親父みたいなハンターになりたいって」
「ふーん...そう言えばは「見ろ!出口だ!!」
キルアの言葉を遮るように、光に気づいた受験者の声が通路に反響する。
しばらくして外へと出た受験者達は、目の前に広がる景色に目を奪われる。
「うわーーー...」
「な...ここは...」
「ヌメーレ湿原、通称『詐欺師の塒』二次試験会場へはここを通って行かねばなりません。この湿原にしかいない珍奇な動物達、その多くが人を欺いて食糧にしようとする貪欲な生き物です。十分注意してついてきてください。騙されると死にますよ」
第二十六話 ヌメーレ湿原
は遠くまで広がる湿原をじっと見詰め、今の気温や湿度、季節から現在の湿原の状態を正確に把握する。
(かなり濃い霧が出そうですね...ここの生き物にとっては、いい具合に騙される『餌』が大量に現れたといったところでしょうか...)
しばらくすると地下道へと続いていた階段にシャッターが下ろされた。
「この湿原の生き物はありとあらゆる方法で獲物を欺き、捕食しようとします。標的を騙して食い物にする生物達の生態系...詐欺師の塒と呼ばれる由縁です。騙されることの無いように注意深く、しっかり私のあとについて来て下さい」
「ウソだ!!そいつはウソをついている!!」
「「「「!?」」」」
(...早速始まりましたか)
驚いて声のしたほうに振り返る受験生達をよそに、は冷静に受験生たちと声を出した相手を観察する。
受験生が振り向くと、全身傷だらけの男が左手に何かを抱えて階段横の壁の方から出てきた。
「そいつは偽者だ!!試験官じゃない!オレが本当の試験官だ!!」
「偽者!?どういうことだ!?」
「じゃ、こいつは一体...!?」
「これを見ろ!!ヌメーレ湿原に生息する人面猿!!」
男が手に持っていた人面猿を受験者達に突きつけると、受験者達の中に動揺が広がる。
「人面猿は新鮮な人肉を好む。しかし手足が細長く、非常に力が弱い。そこで自ら人間に扮し、言葉巧みに人間を湿原に連れ込み、他の生き物と連携して獲物を生け捕りにするんだ!!そいつはハンター試験に集まった受験生を一網打尽にする気だぞ!!」
(『力が弱い』ねぇ...自分で墓穴掘ってるのに気付いて無いんでしょうか?)
ヒュッ さく...
「......が...」
「「「「!!!」」」」
突然飛んできたトランプが先程まで勢いよく話していた男の命を奪ったことに、受験生達は驚き、死体となった男とトランプの持ち主へと視線を向ける。
はその2人のほかに飛んできたトランプを受け止めているサトツの様子を確認すると、周りの受験生達の反応も確かめる。
「くっく♠なるほど、なるほど♣」
その後死んだ男の横に横たわっていた猿が危険を察知し慌てて逃げようとしたが、すぐに飛んできたトランプで命を落とす。
「...!!」
「あの猿死んだふりを...!?」
「これで決定◆そっちが本物だね♥」
ヒソカの言葉に受験生の視線がサトツに集まる。
「試験官というのは、審査委員会から依頼されたハンターが無償で任務につくもの♠我々が目指すハンターの端くれともあろうものが、あの程度の攻撃を防げないわけが無いからね♣」
(理屈としてはあってるんですけどねぇ...素直に納得出来ないのは何故でしょうか?)
「褒め言葉として受け取っておきましょう。しかし、次からはいかなる理由でも、私への攻撃は試験官への反逆行為とみなして即失格とします。よろしいですね)
「はいはい◆」
「「「「.........」」」」
受験生達が2人のやり取りを呆然と見ていると、空から大量の鳥たちが死体へと群がり死肉をついばみ始める。
「あれが敗者の姿です」
「うっ」
「...自然の掟とは言え、えぐいもんだぜ」
「私を偽者扱いして受験者を混乱させ、何人か連れ去ろうとしたんでしょうな。こうした命がけの騙しあいが日夜行われているわけです。何人かは騙されかけて私を疑ったんじゃないですか?」
サトツの言葉にばつが悪そうな顔をするレオリオを見つけては苦笑する。
「それでは参りましょうか。二次試験会場へ」
階段を上りきった312名の受験生達を先導するように、再びサトツが歩き始める。
その後をぬかるみに足をとられながら受験生達が走っていく。
しばらくするとの予想通りに霧が立ちこみ始める。
「ゴン、もっと前に行こう」
「うん。試験官を見失うといけないもんね」
「そんなことよりヒソカから離れた方が良い」
「?」
「あいつ殺しをしたくてウズウズしてるから」
「!」
「霧に乗じてかなり殺るぜ」
「まあ...そうですね...こうねっとりした感じの殺気を浴びてるとどうも落ち着きませんよね...受験生同士の闘いは禁止されてませんし...」
やんわりとキルアの言葉にが同意すると、ゴンは不思議そうな顔で2人を見つめる。
「何でそんなこと分かるのって顔してるね。なぜならオレも同類だから。臭いで分かるのさ」
「同類...?あいつと?」
「...ゴン君、実際に臭いを嗅いでも分かりませんよ」
「そう?...でも、そんな風には見えないよ」
「それはオレが猫を被ってるからだよ。そのうち分かるさ」
「ふーん...も?」
「私のは経験ですね。それなりに危険なこともしてきましたから」
「そうなんだ...あ、レオリオーーーーーー!!クラピカーーーーーー!!キルアとが前に来た方が良いってさーーーーーー!!」
「どアホーー!行けるならとっくに行っとるわい!!」
「そこを何とか頑張ってきなよーーー」
「そうですよーー。霧に乗じて騙す生き物が多いんですから、頑張って前に来てくださーい」
「無理だっちゅーの」
「...緊張感の無いやつらだな、もー」
するとさらに霧が深くなり、前の受験生の頭の影ぐらいしか見えなくなってくる。
そのまましばらく進んでいると、後方の受験生達の位置がずれていっていることに気付いたは内心焦りが出てくる。
(ああ、もう...どうでもいい人たちなら放っておくのに、レオ君とクラ君がいるんじゃ放っておけないじゃないですか!...仕方ないですねぇ...)
「キル君、ゴン君、私はちょっと離れますから、2人はこのまま進んでください」
「え?何で?」
「...、もしかして」
「迎えに行って来ます。ちゃんと二次試験会場は分かりますから、後で会いましょう」
そう言って霧の中にまぎれてしまったにキルアが軽く舌打ちする。
「...どこに行ったんだろ?」
「あの2人のとこだろ?...本当に甘いんだよ」
「レオリオとクラピカ?は大丈夫なのかな?」
「大丈夫だろ...あいつは出来ないことは言わねーよ」
「うわああーーーー!!!」
「ひいいいぃ...」
「何であんな離れた方向から悲鳴が!?」
「騙されたんだろ」
のいなくなった後聞こえてきた悲鳴に、ゴンはたびたび後ろを振り返る。
「...ゴン...ゴン!!」
「え?何?」
「ボヤッとすんなよ。人の心配してる場合じゃないだろ」
「うん...」
「見ろよこの霧。前を走る奴がかすんでるぜ。1度はぐれたらもうアウトさ。せいぜい友達の悲鳴が聞こえないように祈るんだな...が行ったから大丈夫だろうけどな」
「...うん...っ!!」
ゴンがキルアの言葉に頷いたのとほぼ同時に、ゴンの耳がレオリオの悲鳴を捉えた。
「レオリオ!!」
「ゴン!!」
ゴンはキルアの声を振り切ってレオリオの声が聞こえたほうへと走っていく。
「チッ...」
キルアは走っていったゴンに苛立ちを感じながら、他の受験者たちと共に二次試験会場へと向かっていった。
そのころ、二人と別れたもレオリオの悲鳴を捉え、急いでクラピカとレオリオの元へと走っていた。
(1番人の密集してるところですけど...よりによって44番の近くにいるんですか!?生体反応がまだ出ているということは、ケガだけですね...)
するとの耳がさらに多くの悲鳴とヒソカの笑い声を捉える。
そしては視界にレオリオとクラピカ、76番に近づいていくヒソカを捉え、3人の前に滑り込む。
「「「!!?」」」
「......」
「やれやれ...間に合いましたか」
「「!?」」
「レオ君、クラ君...だからさっき前に来た方が良いって言いましたのに...」
「そんなこと言ってる場合かよ!?」
「そうだぞ!そいつは!」
「そこらじゅうに転がってる死体を生産した方でしょう?分かってますから、あなた達はしばらく隠れてて下さいね」
「なっ...何だと!?」
「ちょっと相手をしたら私もさっさと逃げますから、早く行ってください。ばらけてくれた方が楽ですから」
「だからってお前1人を...!!」
「イヤ...ここはこいつに任せた方が良いだろう。悔しいがオレ達がいても足手まといなだけだ」
「くっ...!」
「オレが合図を送る.........今だ!!」
76番の声と共にクラピカ、レオリオも走り出す。
その3人を振り返ることなく、はいつものような穏やかな笑みを浮かべてヒソカに対峙する。
ヒソカは走り去って行く3人に目を向けた後、楽しそうな顔でを眺める。
「!...なるほど、好判断だ♥...君は良いのかい?」
「ええ、時間稼ぎ要員は必要でしょう?」
「なるほどねぇ♣...それじゃあ、遊ぼうか?君は使えるんだろう?」
「使えますけど、今使う気はありませんよ」
「それは残念♥」
ヒソカがそう言ったとき、2人の元へ近づいてきた人影に気付き、それぞれ違った反応をする。
ヒソカはその相手に薄笑いを浮かべ、は困ったような微笑ましいような複雑そうな笑みを向ける。
「...レオ君...」
「やっぱダメだわな。こちとらやっれっぱなしでガマン出来るほど......気ィ長くねーんだよォオーーー!!」
「ん〜〜〜、いい顔だ◆」
(?、あの指はまさか...『凝』...やっぱり...)
凝をしたの目には、ヒソカの腰の添えられた手が不自然な形となり、指からオーラが文字として出ているのが見て取れた。
そこには『殺すつもりは無いよ♠合格だからね♠』と言葉が綴られており、それを読んでいたためにわずかにの反応が遅れた。
ドカ!
(マズイ!出遅れ『ドコッ!!』...え?オモリ?)
空振りしたレオリオの後ろから攻撃しようとしたヒソカの顔に、釣りのオモリがぶつかり、レオリオへの攻撃が不発に終わったことに驚きながら、は釣り糸の先へと目を向ける。
「「ゴン(君)!?」」
「......やるね、ボウヤ♣釣り竿?面白い武器だね♥ちょっと見せてよ◆」
「てめェの相手はオレだ!!」
「レオ君!?」
ゴッ!!!
「「!!!」」
ゴンの元へ向かおうとしたヒソカに殴りかかったレオリオが、逆に殴り飛ばされ宙を舞う。
(!、この体勢で地面に落ちたら首の骨を骨折するじゃないですか!?)
宙を飛んだレオリオを慌てて受け止めたの横で、ゴンがヒソカへと釣竿を振り下ろす。
「っ!ゴン君!!」
ゴンの振り下ろした釣竿はヒソカに当たることなく空を斬る。
そして釣竿を避けたヒソカはゴンの首を片手で掴んでいた。
「仲間を助けに来たのかい?いいコだね〜〜〜〜〜♣」
「いつまでゴン君の首を掴んでるんですか...」
「おっと、失礼♥」
の声で首から手を話すと、ヒソカはしゃがみこんでゴンの顔をまじまじと見る。
「大丈夫、殺しちゃいないよ♠彼は合格だから♥...んん〜〜〜...うん!君も合格♥いいハンターになりなよ♣」
ピピピ...
そのとき聞こえてきた電子音に、ヒソカはズボンにしまっていた携帯を取り出した。
『ヒソカ、そろそろ戻って来いよ。どうやらもうすぐ二次試験会場に着くみたいだぜ』
「...?...イル君?」
ヒソカは小さく呟いたの声を聞きつけて、面白そうな顔をに向ける。
「OK、すぐ行く◆」
ヒソカは携帯をしまうとの方へと歩いてきてレオリオを肩に担ぎ上げた。
「!?何を...」
「君も一緒においで♥」
「どういう...」
「1人で戻れるかい?」
の質問を遮って話しかけたヒソカに、ゴンは小さく首を縦に振った。
「いいコだ♣君はこっちだよ♠>」
「だから、説明を...って聞いてください!」
レオリオを担ぎ上げた反対の手でを引きずっていくヒソカを見送ると、ゴンはその場にへたり込んだ。
あとがき
H×H第二十六話終了です。
少しヒソカさんに押され気味かも?と言うか、結構押しに弱くなってるかも?
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
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