「申し訳ないっ!!」

ゴンがジュースの味を指摘した後、トンパは両手を合わせて一生懸命に誤り倒した。

「いいよそんなに謝んなくても」

「まあ、間違いは誰にでもありますよ」

「でも良かったよ、オレが最初に飲んでみて。山とかでいろんな草や芽をためし食いしてるから、大体味で変なものが分かるんだ」

「い、いや〜〜、本当に悪かったよ」

トンパはその後も何度も謝った後、申し訳なさそうな顔をして4人から離れていった。

はトンパの姿が完全に見えなくなると、鞄の中から1錠の薬を取り出した。

「ゴン君、大丈夫だとは思いますけど、念のためにこれ飲んでおいて下さいね」

「?...あ、さっきのジュース?大丈夫だよ、すぐに吐き出しちゃったし」

「ゴンがそういうなら大丈夫じゃねぇのか?」

「でも自然のものと、人工的に作られた薬とでは現れる症状が違うかもしれませんから」

「...薬?どういうことだ?」

「さっきのジュースに混ぜられていた薬ですよ」

「「「え!?」」」

驚きの声を上げる3人に、はより詳しい説明をしていく。

「トンパさんが今年大量に買ったのは下剤だそうですから、一応それに対する解毒剤をいくつか買っておいたので、注意はしませんでしたけど...」

「でもトンパさんもジュース飲んでたよ?」

「あれは薬の入っていないものですから...同じジュースを飲んでるということで、相手に油断させるためです」

「...はトンパについて何か知っているのか?」

「ええ、ごく一般的なことでしたら」

「どんなことだよ?」

「名前、受験回数は本人が言ったとおりです。本試験の連続出場は30回、本試験での成績も上位に入ります。それにもかかわらず合格しないのは、目的が試験の合格ではなく『新人つぶし』だからです。特に多いのは受験生をだますこと、足を引っ張ること、協力者や金銭取引での他の受験生たちと連携した妨害などですね」

「...タチワリィな」

「着いて早々これか...気が抜けないな」

の言葉を聞いて3人が表情を引き締めたとき、地下道に大きなベルの音が響き渡った。

受験生達の視線が音源を持った男へと集中すると、男はベルの音を止めた。

「ただ今を持って受付時間を終了いたします...ではこれより、ハンター試験を開始いたします」

男の言葉に、地下道内の空気が一気に張り詰めた。

男はこちらへどうぞと言って地下道を奥へと歩いていく。

受験生が男の後ろをぞろぞろとついていく中、男は歩きながら全体に聞こえる声で話し出す。

「さて一応確認いたしますが、ハンター試験は大変厳しいものもあり、運が悪かったり、実力が乏しかったりすると、ケガしたり死んだりします。先程のように、受験生同士の争いで再起不能になる場合もあるでしょう。それでも構わない...という方のみ付いて来て下さい」

それから1分ほどして先程の場所から少し離れると、男はスッと後ろを確認した。

「承知しました。第一次試験405名全員参加ですね」

「...当たり前の話だが、誰ひとり帰らねーな。ちょっとだけ期待したんだがな」

「......おかしいな」

「?」

クラピカの言葉にレオリオが首を傾げていると、周りの受験生達がどんどん走り出した。

「おいおい、何だ?やけにみんな急いでねーか?」

「やはり進むペースが段々速くなっている!」

「前のほうが走り出したんだよ!!」

「私たちも走りましょう」

男の後を追って走っている受験生たちの足音が反響し合い、地下道は地響きのような音に包まれる。

そんな状態にもかかわらず、先頭を走っている男の声は受験生全員の耳に届いてきた。

「申し遅れましたが、私一次試験担当官サトツと申します。これより皆様を二次試験会場へ案内いたします」

「?...二次...?ってことは一次は?」

「もう始まっているのでございます...二次試験会場まで私について来ること。これが一次試験でございます」

「「「「「「「!!」」」」」」」

「場所や到着時刻はお答えできません。ただ私について来ていただきます」









   第二十五話   試験開始









「なるほどな...」

「変なテストだね」

「さしずめ持久力試験ってとこか」

「まあ、途中にトラップが無ければですけどね」

「へっ!望むところだぜ!どこまでもついて行ってやる!!」

レオリオが勢い強くそう言ったとき、1人の少年が4人の横をスーッと通っていった。

驚いたように少年を見たレオリオは、少年の足元にスケボーがあることに気づき少年に怒鳴り声を上げた。

「おいガキ!汚ねーぞ!そりゃ反則じゃねーかオイ!!」

「何で?」

「何でっておま...こりゃ持久力にテストなんだぞ!」

「違うよ。試験官はついて来いって言っただけだもんね」

「ゴン!!てめ、どっちの味方だ!?」

「怒鳴るな、体力を消耗するぞ。何よりまずうるさい...テストは原則として持ち込み自由なのだよ!」

「〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

額に青筋を浮かべながら走るレオリオに苦笑すると、はレオリオの後ろから少年に見える位置に移動した。

「キル君、随分スケボーに乗れるようになりましたねぇ」

「...?...何でここに居んの?」

「あ!?お前ら知り合いかよ!」

「ええ、この子は私の友人の子供なんですよ...ここにはキル君と同じように試験を受けに来たんですよ」

「...親父達に頼まれたとかじゃなくてか?」

「ええ、シルバさん達からはここ1か月ほど依頼は受けていません」

「ふーん...が言うんならそうなんだろうな」

キルアはの言葉に頷くと、の隣を走っているゴンへと目を向けた。

「...ねェ、君年いくつ?」

「もうすぐ12歳!」

「ふーん...」

「それならゴン君とキル君は同い年ですね」

「...やっぱオレも走ろっと『ダン』」

「おっ、かっこいー!」

キルアがスケボーを蹴り上げて手に持ち、ゴンの横に並ぶ。

「オレ、キルア」

「オレはゴン!」

「オッサンの名前は?」

「オッサ...これでもお前らと同じ10代なんだぞオレはよ!!」

「「ウソォ!?」」

「いえいえ、レオ君は本当に19歳ですよ」

「あーーーー!!ゴンまで...!!ひっでー!もォ絶交な!!つーか、何でがオレの歳知ってんだよっ!!」

はレオリオの叫び声にきょとんとして首を傾げる。

「え?だってこれでも情報屋ですし...」

「そうだったの?」

「...、お前話してねーの?」

「あ!?何をだよ!?」

「レオ君、あんまり叫ぶとノド痛めますよ」

「話してないって何を?」

「こいつ、情報屋『イレブン』」

「「何!?」」

キルアが言った言葉にレオリオと同時に驚きの声をあげたクラピカは、驚いた顔で振り返りに並ぶまでスピードを落とした。

は隣に並んだクラピカに笑顔で声をかけた。

「あ、クラ君おかえりなさい」

「..................本当にがあの『イレブン』なのか?」

「まあ、見た目はそう見えねぇけどな」

「キル君、見えないって...」

「ホントのことじゃん」

はキルアに即答されたことに少し項垂れたが、レオリオとクラピカはキルアの言葉に深く頷いている。

「そっか、は情報屋だったからいろいろ知ってたんだ?」

「...お前『イレブン』知らねーの?」

「?、って有名なの?」

がって言うか、『イレブン』がだな...」

「同じじゃないの?」

「ええ、まぁ同じなんですけど...『イレブン』というのは、私が仕事をするときに使っている名前なんですよ」

キルアの言葉に少しへこんでいたは、ゴンが不思議そうに尋ねてきたことで何とか気持ちを切り替えて答えた。

「『イレブン』っていやー、表でも裏でも有名な情報屋だぜ」

「それ故、情報屋といえば真っ先に『イレブン』の名が上げられるほどだ」

「依頼達成率100%、情報の早さ、量、正確さにかけては右に出る者はいないって話しだ」

「しかも気に入った依頼しか受けず、特に気に入った相手を『身内』と呼び、その人たちに対しては無報酬で依頼を受けることもあるらしい」

「しかも『イレブン』に対してだけじゃなく、その『身内』に対して危害を加えた奴らは、口に出来ないほど壮絶な人生を送ることになるらしい...」

「...レオ君、それはどこの都市伝説ですか?」

「でも当たってんじゃん」

((((((当たってんのかよっ!!)))))

達の周りを走り聞き耳を立てていた受験生達が心の中でいっせいに突っ込む。

「口には出来ない程ってどれくらい?」

「えーと...ちょっとその人名義で裏の方から大量に借金してみたり、戸籍を抹消してみたり、その人の行動や経歴を事細かにネット上で公開したり、死なない程度に懸賞金かけてみたり...」

が次々とあげていく事柄に、周りを走っていた受験生が青い顔をしながら徐々に離れていく。

「えーと、後は...」

、そろそろ止めねーとそこの2人がもっと青くなるぞ」

「え?...あれ?レオ君、クラ君、顔色が悪いですね」

「「.........」」

レオリオとクラピカはの話した内容に、『』=『イレブン』ということを実感しながらも、首を傾げているを見ているとイメージとのギャップに眩暈がしそうになった。

「2人ともどうしたんだろうね?」

「どうしたんでしょうねぇ?」

「大方が言った内容に呆気にとられてんじゃねーの?」

「「へぇー...」」

「...あれを聞いてその感想かよ...ゴンの奴、結構神経太いな...」

「...言うな...余計な内容まで思い出す」

「......そうだな」


声を揃えて頷いているとゴンに、クラピカとレオリオは少し遠い目をしながら走り続けた。






一次試験が始まってから3時間ほど経ったころ、レオリオは受験生達の最後尾を走り、徐々にその距離を離されていた。

「「大丈夫(ですか)?」」

「......

(...もう声を出せませんか...この状態で先に進むよりは、来年の試験を受けさせた方が良いんでしょうけど...)

がそう考えていたとき、レオリオの手から鞄が落ち、引きずるように走っていた足もピタリと止まった。

「レオリオ!!」

「...レオ君」

「ほっとけよ、遊びじゃないんだぜゴン...も甘すぎ」

「「......」」

キルアにそう言われながらもとゴンの足も遅くなり、じっとレオリオを見つめる。

ハッ...ハッ...ハッ.........ざけんなよ...絶対ハンターになったるんじゃーーーーーーーー!!くそったらぁ〜〜〜〜〜〜!!

一気にとゴンを追い越して走っていくレオリオに、2人はうれしそうに笑顔を浮かべる。

ゴンは後ろを振り向きレオリオの置いていった鞄を見ると、狙いを定めて釣竿を振った。

そして狙い通り釣り針を鞄の取っ手に引っ掛けると、自分のほうへと引き寄せキャッチした。

「おー、かっこいいー」

「扱いなれてますねぇ」

「後でオレにもやらせてよ」

「スケボー貸してくれたらね」

そんな他愛の無い普通の子供らしい会話を、は穏やかな笑顔で聞いていた。

笑っているのポケットの中では、携帯電話がある場所へとメールを送っていた。



状況報告:試験開始から3時間16分、60km地点通過、脱落者0名...現時点でのトラブルなし








あとがき

H×H第二十五話終了です。

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

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