すでに日も暮れて暗くなった山道を、4人はひたすら老婆が言っていた道案内(ナビゲーター)の家を目指して歩いていた。

「すっかり暗くなっちまったな...」

「今日は満月なんですねぇ」

「歩いて2時間だァ〜〜〜〜〜〜?2時間なんて、2時間前にとっくに過ぎちまったぞ、くそ」

「正確には1時間42分前ですけどね」

「...また魔獣注意の看板だぜ。こんな調子で本当にオレ達会場につけるのかなァ」

「レオ君は文句の多い子ですねぇ」

「うむ、ゴンのほうが大人だな」

「レオリオ、おいてくよー」

「あはは、本当ですねぇ」

文句ばかり言うレオリオに、が合いの手を入れて暇つぶしをしているの聞いていたクラピカは呆れたようにちらっとレオリオを見ると、黙々と足を進めた。

駄々をこねているレオリオにゴンが声をかけたのを聞いて、も朗らかに笑う。

「!、見えたぞ」

先に進んでいたクラピカが声をかけると、即座にレオリオは駄々をこねるのをやめ、クラピカに追いつく。

それを見ていたとゴンは顔を見合わせて小さく笑った。

「や〜〜〜〜っと、着いたぜ」

「静かだな...我々以外の受験者は来ていないのか?」

レオリオが家のドアをノックしたが、中からは物音ひとつ聞こえてこなかった。

レオリオは訝しげな顔をしながらもドアに手をかけた。

「入るぜ......うっ!!?

4人が中に入ると、1匹の魔獣が女性の首を抱え4人を睨むようにして鳴き声をあげた。

その魔獣によって室内は荒らされていて、傷ついた男性が必死に女性の方へと手を伸ばしている。

魔獣はレオリオとクラピカが武器を構えたのを見て、女性を抱えたまま、すばやく外へと逃げていった。

「助けなきゃ!」

「レオリオ、、ケガ人を頼む!!」

「任せとけ!!」

「つ...妻を...助け...」

「気をつけて下さいね」

は出て行った2人を見送ると、男性の傷を見ているレオリオに声をかけた。

「レオ君、水は必要ですか?」

「ああ、頼む!」

「分かりました」

はそこら辺に落ちていた入れ物を手に、外にある井戸へと向かった。

(まぁあの3人なら、キリコさん一家に気に入られるでしょうから心配は要りませんね)

は井戸から水を汲みながら、背後から近づいている者に声をかけた。

「...そこにいるのは奥さんのほうですか?」

「!!?」

「あの子たちも結構すばやいですから、そろそろ旦那さんのところに加勢に行った方が良いですよ」

「......」

「さてと...それではまた後ほど」

水を抱えて家の中に入って行ったに、キリコはしばらくポカンとしていたが、かすかに聞こえてきた音ですばやくその場をあとにした。










   第二十四話   2度目の試験会場









しばらくしてとレオリオは、クラピカとナビゲーターの夫婦の姿をした2人と共に、ゴンのところへと移動してきた。

「ご苦労さま、ゴン君。キリコさん達に気に入られたようですね」

「あ、...は知ってたの?」

「ええ、ここに住んでらっしゃるキリコさん御一家は、割と有名ですから...ナビゲーターに案内してもらうには、あなた達自身が認めてもらわなければなりませんから何も話しませんでしたけど...」

「そうなんだ」

ここに着いてから話しをしているとゴンを、キリコたちがまじまじと見つめる。

「ふーむ...」

「何年ぶりかねェ、うちら夫婦を見分けた人間は...」

「嬉しいねェ」

「うちらのことをはじめから知ってる人間も、随分と会ってなかったけどねェ」

「.........声と顔の違い...分かるか?」

「いや...全く」


少しはなれたところでその様子を見ていたレオリオとクラピカは、キリコの区別がつかないため小さな声で話しをしている。

「ちなみに、オレとクラピカに殴られたほうがダンナさんだよ」

「「だから、それはどっちだ」」

「こちらが旦那さんで、こちらが奥さんです。初対面では区別がつきにくいかもしれませんねぇ」

笑いながらキリコ夫婦を紹介するに、レオリオとクラピカは非常に複雑な顔をしていた。

「さて...もう君らも察しの通り」

「我々夫婦がナビゲーターだ」

「娘です」

「息子です」

それぞれが自己紹介した後、キリコの娘が腕を上げてイレズミを見せる。

「このイレズミは、古代スミ族の女性が神の妻となり生涯独身を誓って彫るもの。古代史に長けていないと、まず判読不可能...博学を持ってヒントを見逃さず、見事私たち2人が夫婦でないことを見破ったクラピカ殿」

「......」

「レオリオ殿は、結局最後まで私の正体に気づかなかった。しかしキズの応急処置は医者以上に早くて的確...そして何より、妻の身を案じている振りをしていた私に対し、ずっと力強い励ましの言葉をかけ続けてくれた」

「止してくれ...恥ずかしい...」

「我々のことを知っていたにもかかわらず、あえて3人の判断に任せていた殿...先に3人に話しをしていたら、試す間も与えずに全員失格にしていました」

「まあ、そうでしょうね」

「そして、とてつもなく人間離れした運動能力・観察力を持つゴン殿」

「いや〜〜、思いっきり殴っちゃったねっ」

「合格だ...会場まで君たち4人を案内しよう」

4人は顔に笑みを浮かべると軽くこぶしをぶつけあった。

そして4人はキリコたちの足につかまり、満月が照らしだす中、つかの間の空中遊泳を楽しんだ。






翌日、4人は人間に化けたキリコに案内されザバン市の通りを歩いていた。

「ツバシ町の2−5−10は..と...向こうの建物だな」

「...あれが会場か」

「うわーーーー!」

キリコが指差した方に目を向けたゴン、クラピカ、レオリオは、そこにある最も大きな建物を見上げた。

「ここに世界各地から」

「ハンター志望の猛者が集まるわけだな」

「...(親父もこんな気持ちだったのかな...)」

は違う建物を見上げて緊張したり、興奮したりしている3人に苦笑しながら声をかけた。

「3人とも、そっちじゃありませんよ」

「そうそう、こっちだよ」

とキリコが指差した方を見た3人は、呆気に取られた顔をする。

「......」

「どう見てもただの定食屋だぜ...冗談きついぜ、ナビさんよ。まさかこの中に全国から無数のハンター志望者が集まってるなんて言うんじゃねーだろ!?」

「そのまさかさ。ここなら誰も応募者が数百人とも言われているハンター試験の会場だとは思わないだろ?」

4人はキリコに続いて店の中へと入っていった。

「いらっしぇーい!!」

「......」

「ご注文はー?」

「ステーキ定食」

「焼き方は?」

「弱火でじっくり」

「あいよー」

「お客さん、奥の部屋へどうぞー」

4人が奥の部屋へと入ると、そこには人数分の席がすでに用意されており、肉がジュージューと音をたてて焼かれていた。

「...1万人に1人」

「?」

「ここにたどり着くまでの倍率さ。お前達、新人にしちゃあ上出来だ。それじゃあがんばりな、ルーキーさん達。お前らなら来年も案内してやるぜ」

キリコが出て行ったあと、部屋が下がっていく音を聞きながら4人は席につきステーキ定食に手をつけた。

「失礼な奴だぜ、まるでオレ達が今年受からねーみたいじゃねーか」

「3年に1人」

「ん?」

初受験者(ルーキー)が合格する確立...だそうだ」

「もちろん確立ですから、10年くらい新人の合格者が出なくて、その後2・3人受かるという場合もありますけど...」

「新人の中にはあまりにも過酷なテストに、途中で精神をやられてしまう奴、ベテラン受験者のつぶしによって2度と受験を受けられない体になってしまった奴などざららしい」

「ベテラン受験者の人達の中には、新人つぶしを楽しみにしている人や金銭のやり取りでつぶしを請け負う人もいますから、気をつけて下さいね」

「でもさ...」

「?、何ですか?」

「何でみんなはそんな大変な目にあってまでハンターになりたいのかなぁ?」

ゴンの言葉を聞いたレオリオとクラピカは呆然とゴンを見つめ、は固まった2人に苦笑した。

「お前、本当に何も知らねーでテスト受けに来たのか!?」

「う......」

「まあまあ、レオ君落ち着いて...」


「ハンターはこの世で最も儲かる仕事なんだぜ!!」
「ハンターはこの世で最も気高い仕事なのだよ!!」


それぞれの考えを言ったレオリオとクラピカは顔を見合わせて睨みあうと、2人同時に説明を始めた。

「正式なハンターだけがもらえるライセンスカード!!(レオリオの想像では、高価な宝石が大量に使われていてかなり悪趣味...豪華な品物)
「人と自然の秩序を守るのがハンターの本当の仕事だ!動物を狩り、宝を漁るというイメージは二流(アマチュア)のハンターでしかない!!

 これがあればほとんどの国がフリーパス!!
 一流(プロ)のハンターは貴重な文化遺産や希少な動植物を発見した場合、その保護を第一に考える!!

 世界富豪ランキングのベスト100には、ハンターが60人も名を連ねてる!!
 その他にも指名手配犯や無資格の悪質なハンターを取り締まるのもハンターの重要な仕事だ!!

 売るだけで7代遊んで暮らせると言われてるこのカードは富と名声の象徴だ!!そしてこのカードを使えるのはハンターだけなのさ!!」
 これら全てをこなす為には深遠なる知識と健全な心身・強い信念が必要なのは言うまでも無い!!ハードだがやりがいのある仕事なのだよ!!」

「要約すると、ハンターのライセンスにはいろいろな特典があって、さまざまの分野のプロフェッショナル達がさまざまな仕事をしてますが、一流と呼ばれるのは誰から見ても立派だと思える人達だということです」

が2人の話しを簡単にまとめたのを無視して、レオリオとクラピカがゴンのほうに身を乗り出す。

「どうだ、ゴン!!」

「ゴンはどっちのハンターを目指すんだ!?」

「どっちって言われてもなァ〜〜〜〜」

「2人とも、返事を強制しちゃダメですよ」

が2人をなだめていると、エレベーターの表示がB100となり、着いたことを知らせるように短くベルがなった。

「着いたらしいな...」

「話の続きは後だ!!」

(そのときまでこの話しを覚えてるんでしょうか?)

4人がドアの前に立つとエレベーターのドアが静かに開かれ、エレベーターを降りた瞬間、4人に受験者達の視線が集まる。
 
しばらく4人を見ていた受験者の視線が反らされると、レオリオはゴクッとつばを飲み込み、クラピカも緊張した面持ちになった。

(...何年経ってもこういう雰囲気って変わらないものなんですねぇ)

「それにしても薄暗い所だな」

「地下道みたいだね...いったい何人くらいいるんだろうね?」

「君達で406人目だよ」

ゴンが回りを見渡しながら言った言葉に、地下道の排気管に座っている人物から答えが返された。

「よっ、オレはトンパ。よろしく」

(新人つぶしの方ですか...)

はゴンの次にトンパと握手を交わすと、係員から406番の番号札を受け取り腕のところにつけた。

「新顔だね、君たち」

「分かるの?」

「まーね!何しろオレ、10歳からもう35回もテスト受けてるから」

「35回!?」

「まぁ、試験のベテランってわけだよ。分からないことは何でも教えてあげるよ」

「ありがとう」

「威張れることじゃねーよな...それだけテストに受からねーってことだから」

「確かに...」


(まあこの方は合格が目的じゃありませんからね...)

レオリオとクラピカの内緒話を聞きつけたは、内心で苦笑していた。

「じゃあ、ここにいる人達みんな知ってるの?」

「当然よ!よーし、いろいろ紹介してやるよ!」

トンパは目に付いた受験者の名前と特徴をゴンに説明しだした。

「103番、蛇使いバーボン。あいつは非常に執念深いから、敵に回すと厄介だぜ」

(確か、毒蛇を操るのが得意でしたね...まあ、血清は持ってるから大丈夫でしょう)

「76番、武闘家チェリー。体術においては右に出るものなし!」

(所属の道場においては...ですけどね)

「255番、レスラー トードー。パワーはダントツだし、意外と頭もキレる」

(違う意味でもキレやすいみたいですけど)

「197〜199番、アモリ3兄弟。絶妙にコンビプレイで常に好成績をあげている」

(ただし、単独での戦闘はあまり高くありませんけど)

「384番、猟師ゲレタ。吹き矢と棍棒であらゆる生物をしとめる凄腕だ」

(今回所有している薬の種類は、多くて10種類という所ですかね)

「...と、まあここら辺が常連だな。実力はあるが、今一歩で合格を逃してきた連中だ」

「ぎゃあぁ〜〜〜〜〜っ」

トンパの説明が終わったころ、突然地下道に悲鳴が響き渡った。

受験者達の視線が悲鳴の聞こえたほうに集中する。

「アーラ、不思議♥腕が消えちゃった♠タネも仕掛けもございません♠」

「お、オ、オ、オオレのォォ〜〜〜〜〜〜」

「気をつけようね◆人にぶつかったら謝らなくちゃ♣」

「ちっ...危ない奴が今年も来やがった」

はトンバの声を聞きながら、凝を使って叫んでいる人物の腕を見た。

(...やはり念で覆ってますね...マーメンさんに治療をお願いしに行きますか)

「44番、奇術師ヒソカ。去年合格確実と言われながら、気に入らない試験官を半殺しにして失格した奴だ」

「...!!そんな奴が今年も堂々と試験を受けれんのかよ!?」

「当然さ...ハンター試験は毎年試験官が変わる。そしてテストの内容はその試験官が自由に決めるんだ。その年の試験官が『合格』と言えば、悪魔だって合格できるのがハンター試験さ。奴は去年試験官の他に20人の受験生を再起不能にしてる。極力近寄らねー方が良いぜ」

トンパの説明が終わるころ、マーメンのところに行っていたが戻ってきた。

「他にもヤバイ奴はいっぱいいるからな。オレがいろいろ教えてやるから安心しな!」

「うん!」

「おっと、そうだ...」

トンパは自分のポケットから4本の缶ジュースを取り出し4人に渡すと、さらにもう1本取り出して自分で飲んだ。

「お近づきのしるしだ、飲みなよ。お互いの健闘を祈ってカンパイだ」

「ありがとう!!」

(...ゴン君なら、すぐに気づくでしょうね)

がそう思ったのとほぼ同時に、最初にジュースを飲んだゴンがダーっとジュースを吐き出した。

「トンパさん、このジュース古くなってるよ!!味がヘン!」

「え!?あれ?おかしいな〜〜〜〜?」

「...レオ君、クラ君、そんなことしたら掃除が大変ですから、缶のまま隅に置いた方が良いですよ」

「あ...ぅ...」

ジュースの中身を床に流している2人には困った様に注意し、トンパはさらに脂汗をかいた。









あとがき

H×H第二十四話終了です。
主人公は現在サポート役に徹してます。

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

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