ドーレ港へと着いた船から降りた4人は、周りにいる大勢の人を眺め渡した。

は周りの人達に注意を向ける3人に苦笑すると、船長に振り返った。

「ありがとうございます。あなたがいなかったら、あの子たちに年下と思われたままでしたよ」

「大したことじゃねーが...」

「そんなに呆れた顔すること無いじゃないですか...あそこまで年上だって信じてもらえないことって少ないんですよ?」

「.........」

「本当ですって」

の言葉に非常に疑わしそうにしている船長に、少し諦めの混ざったため息をついたとき、2人の元にゴンが近づいてきた。

「船長いろいろありがとう!!元気で」

「うむ、達者でな...最後にわしからのアドバイスだ」

「?」

船長はそう言うとスッと山の方を指差した。

「あの山の一本杉を目指せ、それが試験会場へたどりつく近道だ」

「分かった!ありがとう!」

「それでは、またいずれ...」

「ああ、じゃあな」

とゴンは船長に笑顔で手を振りながら、クラピカとレオリオの元へと向かった。

2人のところに着くとすぐにゴンが船長に聞いた話しをしたが、それを聞いたレオリオは訝しげに港にある大きな地図へと目を向けた。

「そりゃおかしいぜ、見ろよ。会場があるザバン地区は、地図にもちゃんと載ってるでかい都市だぜ。わざわざ反対方向に行かなくても、ザバン直行便のバスが出てるぜ。近道どころか、ヘタすりゃムダ足だぜ」

「彼の勘違いでは無いのか?」

「とりあえずオレは行ってみる。きっと何か理由があるんだよ」

「...(ゴン君正解です)私も行きますよ。あの人の言ったことですから」

「お前ら、少しは人を疑うことを覚えた方が良いぜ?オレはバスで行くことを勧めるね」

「では、ここでお別れですね」

「そうだね、じゃあ試験会場でね!」

とゴンは2人に別れを告げ、一本杉へと歩き出した。

2人が少し遠くまで行ったとき、それまで二人を見送っていたクラピカが2人の後を追うように足を進めた。

「!、おい、クラピカ」

「...船長の言葉...と言うよりも、ゴンとの行動に興味があるね。しばらく彼らに付き合ってみるさ」

「けっ、意外に主体性のねーヤツだな。オレは地道にバスで向かう。じゃーな、短い付き合いだったが元気でな」

去っていくクラピカを呆れたように見送ったレオリオは、バス停の近くに座り込んだ。

しかしレオリオがバスを待って10分ほど経っても、一向にバスが来る気配がなく、いらつき始めたレオリオの耳に他の受験者の声が聞こえて来る。

「おい、どーもザバン直行便のバスは、一台も目的地に到着して無いらしいぜ」

「やはりトラップか...初受験者(ルーキー)はバカ正直だから、大概これで脱落するぜ」


その話しを聞き少し考え込んだレオリオは、勢いよく立ち上がって3人の後を追いかけながら大声で叫んだ。

「待て待て待て、待ってくれよ!!お前ら3人だけじゃ寂しいだろ?しょーがねーなァ!オレも付き合ってやるよ、ワハハハハハ!!」

大分はバス停から離れていた3人がレオリオの声を聞き取ると、ゴンはきょとんとした顔をし、クラピカは近づいてくるレオリオへと呆れたような視線を向け、はバス停でレオリオが聞いたであろう話とその後の行動を正確に予測して苦笑していた。









   第二十三話   選択









4人が一時間ほど歩いたころ、道の両脇に高い建物が隙間なく並び、まるでスラムの路地を思わせるような場所に巡りついた。

山から吹き降ろす風が通りの転がっているゴミを舞い上げるなか、4人は少し警戒を強めながら進んでいく。

「...うすっ気味悪い所だな。人っ子一人見あたらねーぜ」

「でも...いっぱい人いるよね」

「!!」

「うむ、油断するな」

「そうですね。今は敵意は無いようですけど...」

「な、何で分かんだよそんなこと!?」

「息遣いがそこらじゅうから聞こえてくるじゃないか」

「うん、衣擦れの音もするし...隠れてるつもりかな?」

「隠れているというよりも、私たちを観察してるのかもしれませんね」

3人の話しを聞いたレオリオは両手を耳に当てて音を拾おうとするが、まったく聞き取れなかった。

「ふ、ふん!生憎オレは普通の人間なんでな」

「しっ!」

「!!」

クラピカが注意を促すと、周りの建物からぞろぞろと面を被った人達と1人に老婆が現れた。

人々は老婆を中心にして道に広がり、4人の行く手に立ちふさがった。

ドキドキ.........ドキドキ2択クイ〜〜〜〜〜〜〜ズ!!

老婆がいきなり叫んだ言葉にクラピカとレオリオは呆然とし、ゴンは変わらずに老婆達を見つめ、は老婆の後ろの人達と一緒に拍手をした。

「お前たち...あの一本杉を目指してんだろ?あそこはこの町を抜けないと絶対に行けないよ。他からの山道は迷路みたいになっている上に、凶暴な魔獣のナワバリだからね。これから一問でけクイズを出題する。考える時間は5秒だけ、もし間違えたら即失格。今年のハンター試験は諦めな」

「む...」

「なる程、これもハンター試験の関門のひとつか」

「@かAで答えること!!それ以外の曖昧な返事は全て間違いとみなす」

「おい、ちょっと待てよ。この4人で一問ってことか?もしこいつが間違えたら、オレまで失格ってことだろ!?」

「あり得ないね。むしろ逆の可能性があまりにも高くて泣きたくなるよ」

クラピカがそう言った途端、2人は取っ組み合いを始めた。

「クラ君もレオ君も元気ですねぇ」

「でも4人のうち一人が答えを知ってれば良いんだから、楽だよ。オレ、クイズ苦手だし」

「む、確かにそーだけどよ...」

「それよりのその呼びかたは何なんだ?」

「?、ピカ君とリオ君のほうが良かったですか?」

「「......そうじゃなくて...」」

「『君』って付けなくても良いってことじゃない?オレも呼び捨てで良いし」

「うーん、そう言われても...年下の子に『〜君』とか『〜ちゃん』って付けるのが癖になってますし...諦めてもらうしかないですねぇ」

「そうなんだ、じゃあしょうがないよね」

「そうですねぇ」

とゴンのほのぼのとした雰囲気に2人が肩を落としていると、突然後ろから4人に声がかけられた。

「おいおい、早くしてくれよ。何ならオレが先に答えるぜ...へへへ悪いなボウズ、港でちょいと立ち聞きしちまってな」

「?、何を?」

「のん気な奴...船長との話だよ」

「まあ、聞かれて困るようなことは話してませんでしたしね」

「お前も結構のん気だな...」

「どうするかね?」

「......」

老婆に話しかけられてしばらく考え込んだレオリオは、小声で3人に話しかけた。

「譲ろうぜ...それで問題の傾向も分かるしな」

先を譲った4人に男はにやりと笑いながら老婆の前に進み出た。

「それでは問題...お前の恋人が悪党に捕まり一人しか助けられない。@母親、A恋人どちらを助ける?」

「「!?」」

「......@!!」

「何故そう思う?」

「そりゃ〜母親はこの世でたった一人だぜ。恋人はまた見つけりゃ良い」

男の答えを聞いた人々がボソボソと相談すると、老婆は男に通りなと言って道をあけさせた。

「........〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ふざけんじゃねェッ!こんなクイズがあるかボケェ!!

男と老婆達のやり取り置きいていたレオリオが、たまりかねたように大声で叫ぶ。

「こんな問題人のよって答えは違うし、『正解』なんていう言葉でくくれるもんでもねー!!ここの審査員も合格者も全部クソの山だぜ!!オレは認めねーぞ!オレは引き返す!!別のルートから行くぜ!!」

(...強化系っぽいですねぇ...あ、でも短気な所を見ると放出系かも...)

「ふん、もう遅い。クイズを辞退するなら即失格とする...ハンターになる資格は無いね」

「.........!!」

「ッ!!レオリオ!!」

「何だよ!!まさかこんなクイズ続けろってのか!?」

「待ちな!これ以上のおしゃべりは許さないよ」

何かに気づいたクラピカに、老婆が静止の声をかける。

「ここからは余計な発言をしたら即失格とする!!さあ、答えな。@クイズを受ける、A受けない」

「@だ!!」

「....っ」

即座に答えたクラピカをレオリオが苛立ちを込めた目で睨む。

「それじゃ問題だ。息子と娘が誘拐された、一人しか取り戻せない。@娘、A息子どちらを取り戻す?」

老婆の質問を聞いたレオリオのこめかみに太い青筋が浮かび、近くに立てかけてあった角材を取ると、上下に振り回し始めた。

(...おやおや、レオ君は分かりやすいですねぇ)

「2...1...ぶーーーー、終〜〜〜了〜〜〜」


   ギィン!


レオリオが老婆に振り下ろした角材を、クラピカが老婆の前に出て受け止める。

「なぜ止める!」

「落ち着けレオリオ!!」

「いーーーや、激昂するね!手土産にこのババァの素っ首持って会場へ乗り込むぜ!スカした審査員どもを全員ぶっ飛ばして説教してやる!!ハンター!?くそくらえだ!!こんな腐れた商売は、なくしちまった方が世のためだ!」

「...せっかくの合格を棒に振る気か?」

「!?何?」

「ふう!我々は正解したんだよ、レオリオ...沈黙!!それが正しい答えなんだ。いみじくも君が言っただろう『正解なんて言葉ではくくれない』と...その通り、このクイズには正解なんて無い!!しかし、解答は@かAでしか言えないルールだ。つまりは答えられない。沈黙しかないんだ」

「しかしさっきの野郎は...」

「正解とは言って無い。通れと言っただけだ。さっき彼の悲鳴が聞こえた...おそらく魔獣に襲われたんだろう。つまり、この道は正しい道じゃないのさ」

「............」

「その通り、本当はこっちの道だよ。一本道だ、2時間も歩けば頂上に着く」

レオリオはクラピカに言葉と開かれた道を見てポカンとしていたが、しばらく考え込むと老婆に向き直った。

「バアサン......すまなかったな......」

「何を謝ることがある。お前みたいな奴に会いたくてやってる仕事さ!がんばって良いハンターになりな」

「ああ...」

「ふぅ〜〜〜〜〜ダメだ!!どうしても答えが出ないや」

今まで黙っていたゴンがため息と共に言った言葉に、クラピカとレオリオが笑い声を上げる。

「何だよ、まだ考えてたのかよ!もう良いんだぜ」

「え?何で?」

「何でって、クイズは終わったんだぜ」

「それは分かってるよ...でも、もし本当に大切な2人のうち1人しか助けられない場面に出会ったら...どうする?」

(やはり、勘の良い子ですね...無意識にこのクイズの意図に気づきましたか...)

「どちらを選んでも本当の答えじゃないけど、どちらか必ず選ばなくちゃならない時...いつか来るかもしれないんだ」

「「.........」」

「...そのときの状況と時間によるでしょうね。同じ場所にとらわれていた場合、違う場所の場合...時間に余裕のある場合と無い場合...その時々で対応は変化しますから」

「うん、そうだね」

穏やかに掛けられたの言葉に、ゴンが深く頷き、他の2人も黙って考え込んだ。

しばらくして4人は老婆達に別れを告げ、道を進んで行く。

その4人の背中を老婆は静かに見送っていた。









あとがき

H×H第二十三話終了です。
主人公、クラピカをクラ君、レオリオをレオ君と呼ぶことに決定しちゃいました。

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

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