...カタカタカタカタカタカタカタ...

はその日もいつものようにパソコンに向かって仕事をしていた。

しかし、もう少しで仕事が終わるという所で、の手がピタリと止まった。

はパソコンに向かったまま驚いたように目を見開き、数度まばたきをしたあと、懐かしんでいるような目をして苦笑した。

はパソコンのデータを上書きして、別の画面を表示させる。

そこには1人の女性と11、2歳くらいの男の子が映し出されていた。

はその映像に目を向けたまま携帯電話を取り出して、相手とすぐに連絡が取れるほうの番号にかけた。

「...お久しぶりです、です」

『おう、か!久しぶり!!』

「くすくす...相変わらず元気そうですね」

『まあな。ところで、この番号にかけてきたってことは何かあったか?』

「ええ...あなたの息子さんがハンター試験を受けるために、あなたの従姉妹とある約束をなさいましたよ、ジン君」

『...いい加減『君』を付けて呼ぶのやめねぇか?オレもう30過ぎてんだぜ』

「あはははは、だって中身はナハトさんの所で修行してたときと変わって無いじゃないですか」

『変わってねえわけ、ねぇだろうがッ!』

「相変わらず熱くなりやすくて子供みたいな性格なのに、変わってるなんて言われても信じられるわけ無いでしょう?」

『うっ...』

「...で話を戻しますけど、約束の内容聞きますか?」

『あー...その前に、ゴンはオレを探すと思うか?』

「カイト君に会って話を聞いてから、そのつもりのようですね。あなたの二ツ星(ダブル)の認定カードも、きちんと保管してますからね」

『...なら、やめとく。会ったときに聞くさ』

「おや、見つかりたくないと言ってる人の言葉とは思えませんねぇ」

『ぐっ...』

のからかい混じりの言葉にジンが詰まり、は笑い声を上げる。

『...人の悪さが会長に似てきたんじゃね?』

「流石にあの域までは、まだ無理ですよ」

『...まだ?』

「ええ、まだです」

が笑顔でそう言うと、電話越しにでもはっきりと分かるほど大きなため息が聞こえてきた。

「?、何ですか?ため息なんかついて...」

『ここで本気でそう聞いてくるあたり、確かにあのジーさんほどじゃねぇな』

「は?」

『いや、気にすんな...で、ゴンはハンター試験受けれそうなのか?』

「結果が出るのはもう少しかかりそうですけど、私の予想では間違いなく受けることになるでしょうね」

『そうか』

「ただ...」

『あ?何だよ?』

「ゴン君がハンターがどんな職業かを知らないのが、気にかかりますけど」

『.........マジ?』

「あなたの従姉妹が意図的に教えなかったようですね。カイト君の話も、あなたがどんなことをしたかだけでしたし...」

『...うわぁ』

「まぁ、ゴン君なら大丈夫だとは思いますけどね」

『ああ...まあ...なぁ...』

「?、めずらしく歯切れが悪いですねぇ」

めずらしく言い澱んでいるジンに、が不思議そうに問いかけると、ジンはアーだのウーだのとうめき声をあげる。

は携帯から耳を離して、眉根を寄せて携帯を見る。

携帯からジンのうめき声がしばらく聞こえたあと、唐突にジンがヨシッと大きな声をあげた。

は携帯を耳から離しておいて良かったと思いながら、携帯から聞こえてきたジンの声に耳を傾ける。

、これから暇か?』

「...唐突ですね」

『あ?なんか声小せぇぞ?』

「(携帯を離してましたからね)今度はちゃんと聞こえますか?」

『ああ、大丈夫だ』

「それで何故急に、私が暇かどうかと言う話になったんですか?」

『えーとな、ゴンと一緒にハンター試験を受けてもらえねーかなぁ...と...』

ジンの言葉にはまた耳から携帯を離して、携帯電話をまじまじと見る。

は携帯電話が壊れているわけでは無いということを確認すると、携帯電話に耳を近づける。

「...ずいぶん老化が進みましたね」

『オイッ!アンタのが年上だろうがっ!!』

「おや、それは覚えてたんですね。私がハンター証を持ってることを忘れているようでしたから、てっきり...」

『何がてっきりだよッ!思いっきり確信犯だろ!?』

「あ、やっぱりあなたでも分かりましたか?」

『...無自覚に会話にトゲを入れるのやめろよ』

疲れたように言うジンに、は答えずに笑って流した。









   第二十一話    友人からの依頼










「まあ、からかうのはコレ位にしてあげますから、さっさと理由を説明して下さいね」

『...説明できなかったのは、誰のせいだと思ってんだよ』

「詳しいことを最初に話さなかったジン君のせいです」

キッパリと言いきったに、ジンが今迄で1番深いため息をつく。

『そういうヤツだよな...あんたって』

「(分かってるなら学習すればいいのに...)それで何故私が、ゴン君と一緒に試験を受けなければならないんですか?ゴン君なら、受験者達の実力的に見てもかなり上位に入ると思うんですけど?」

『ああ、に報告しててもらってたから、それは分かるんだけどよ...』

「それにゴン君の性格なら、気の合う受験者達と仲良くなってハンターがどんなものか教えてもらえると思いますよ」

『まあ、オレの息子だからな』

「はいはい、あなたの親バカぶりは分かってますから、今更言わなくて良いですよ。今回の理由も、どうせ親バカなことでしょう?」

『今回は親バカじゃねぇ...と思う...』

「で?」

『...あー、その、ゴンがハンターについて知ることが出来なかったのって、オレのせいだろ?』

「そうですね」

『即答かよ...まあ、本来なら試験を受けるときハンターについて最低限の知識くらいは持ってたはずだったろ?...それにだな、オレ当たり前なんだけどよ、ゴンに誕生日プレゼントやったことねぇんだよ』

「...ジン君、まさか『私をゴン君の誕生日プレゼントにしよう』なんて、考えてるんじゃ無いでしょうね?」

ジンの話を聞きワントーン落とした声で話すに、ジンがあせったように話を続ける。

『い、いや、それは言葉のアヤだって!オレはただゴンに、あんたの持ってる技術や情報を教えてやって欲しいだけだって!』

「技術って...まさか、念ですか?」

『いや、そっちは試験が終わったらどうせ身に付けることになるから...まあ、あんまりやばそうなときは鍛えて欲しいがな。くじら島で知ることが出来なかったハンターについての情報や、あんたがオレに教えてくれた簡単な機械操作や武器の扱い方とか...ゴンが興味を持ったことを教えてくれないか?』

「自分の代わりに...ですか?」

『ああ』

真剣な声で言うジンに、は呆れたようにため息をつく。

「やっぱり、親バカじゃないですか」

『そうか?で、頼めないか?』

ジンの問いかけに、はもう1度ため息をつく。

「...ジン君、私は試験中にゴン君だけに手を貸すなんてことしませんからね?」

『っ!ああ、もちろんだ。ゴンなら自力で合格できるさ』

「以前の契約どおり、あなたの居場所も話しません」

『ああ』

「でも、あなたの恥ずかしい思い出の数々が、思わず口から出てしまうかもしれませんねぇ」

『ゲッ!...あー、まあしょうがねーか』

「それでもよろしければ『』として、あなたの頼みごとを引き受けましょう」

『ああ、感謝する』

「どういたしまして、Dear my friend(愛すべき我が友人殿)






ジンとの電話を切った後、はある人にメールを送った。

メールを送った次の日、の携帯にその人からの連絡が届く。

はその人と数分話をすると、感謝の言葉を伝えて電話を切った。

電話を切ると、はすぐに旅支度をはじめ、手のひらサイズのパソコン・簡単な医療品・わずかな着替えなどを鞄に詰め込んでいく。

最後に携帯電話があることを確認すると、はドーレ港へと向かう船が着く島のひとつへと『強制転送(ムーヴ ムーヴ)』で移動した。

島の中の森に着くとはその島で一泊し、ドーレ港へと向かう船に乗り込む。

船の中はハンター試験会場へと向かう受験者達が多く乗っていて、お互いに牽制しあったり弱そうな相手に嘲笑を浮かべたりしていた。

も見た目的には14、5歳の少年に見えるため、受験者達がバカにしたような視線をよこす。

しかしがそんな者たちの視線に動じるわけがなく、2日ほど何もなく過ぎていく。

が船に乗り込んでから4日目、本を読みながらも『小さな蜜蜂(シークレット アイズ) 』でゴンの様子を見ていたは、周りに分からない程度の笑みを浮かべた。

そして8日目、船はくじら島へとたどり着く。






「元気でねー!!絶対立派なハンターになって、戻ってくるからー!!」

小さな蜜蜂(シークレット アイズ) 』を通さなくても聞こえてくるゴンの声に、は感慨深げな気持ちになる。

(実際にゴン君の声を耳にしたのは、久しぶりですね。もっとも、あの頃は『声』というよりも『音』でしたけど)

は頭の中に流れ込んでくる『小さな蜜蜂(シークレット アイズ) 』の映像を通してゴンを確認しながら、本のページをめくる。

(実際に会うのは久しぶりですけど、覚えていないでしょうね。さて、嵐が過ぎるまでは大人しくしていますか。こんなところで落ちるようなゴン君ではありませんものね、ジン君?)

船倉に入ってきたゴンを目の端で確認しながら、はこっそりと笑みを浮かべた。








あとがき

H×H第二十一話終了です。
原作突入です!
ジンさんはナハトさんの弟子設定です。

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

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