「...以上で説明を終わります。それではここにいる4名を、新しくハンターとして認定いたします」

説明が終わると、シルバ、ナハト、セシリアはそろってに目を向ける。

ネテロが言ったように何とか1時間以内に説明会がおこなわれる所には来れたが、の服と髪の毛はくしゃくしゃになり、疲れ果ててぐったりと机に突っ伏している。

ここに来るまでふらふらと危なっかしい足取りで歩いていたを思う出して、3人は哀れんだような目になる。

しかし、いつまでもこのままでいるわけにも行かないため、セシリアがを気遣いながら声をかけた。

、そろそろ移動しないと...」

「.........」

?」

「...んー...」

セシリアの声にゆっくりとボーっとした顔を上げると、を覗き込んでいるセシリアの顔を見上げた。

「......おはようございます」

「おはよう...って、寝てたの?」

「はい」

「はいってお前、説明聞いてなくてよかったのか?」

「ちゃんと録音はしてましたよ」

そう言っては3人に手のひらより小さな機械を見せた。

「それも自作か?」

「はい」

「それなら後で聞けるから良いんだろうけど、とりあえず移動しようぜ」

「そうね」「おう」「はい」

4人は廊下に出て、ゆっくりできるところを探しながら歩いていく。

まだ疲れが残っているのか眠そうに歩くを気遣って、3人の歩調は自然とゆっくりしたものになった。

しばらくすると、ソファーとテーブルが置かれた簡易休憩所のようなところを見つけ、4人はそこで腰を下した。

ソファーに座るとはまだ少しボーっとしながらも、ナハトとセシリアに言わなければいけないことを伝えるために口を開いた。

「ナハトさん、セシリアさん、お二人のハンター試験はまだ終わって無いですよ」

「え?終わって無いって、さっきハンターに認定されたはずよ」

「それになんで俺らだけなんだ?とシルバは終わってるのかよ?」

「はい、私とシルバさんは『裏ハンター試験』の条件を満たしていますから」

「『裏』?どういうことだ?」

「プロのハンターには『相応の強さ』が求められます。そのために、『あるもの』の習得がハンターになるための最低条件となっているんです」

「『あるもの』って?」

「実際に体験してみた方が良いだろ?」

「んー、そうですね。お願いできますか?」

「ああ、2人とも動くなよ」

シルバがそう言った瞬間、ナハトとセシリアは圧迫感を感じ顔をこわばらせた。

1分ほどそうしていたると、ふっと圧迫感がなくなり2人は大きくため息をついた。

「これが『念』だ」

「『念』...」

「なんかすげぇ圧迫感は感じたが...」

「ええ、プロのハンターになるための最低条件がこの『念』の習得です。『念』を習得した人としていない人では、強さの度合いが恐ろしく違います」

「...なんとなくだけど分かる気はするな」

「殺気が込められていない状態であれなら、殺気が込められていたらどうなるのか怖いわね」

「だろうな」

ナハトとセシリアの感想を聞くと、は嬉しそうににっこりと笑った。

それに気づいた3人が、不思議そうにを見つめる。

「ここで本題なんですけど、ナハトさんとセシリアさんは『念』を習得する気はありますか?」

「ああ」「ええ」

「では、これから『念』の師匠となる方たちのところへご案内しても良いですね?」

「...良いのか?」

「はい、先にそういう依頼を受けてたんですよ」

「そういう依頼?」

「『裏試験』にも試験官の方がちゃんといるんです。その方達の依頼で『才能のありそうなのを見繕ってきて』という内容なんですよ」

「...試験官が受験生を選り好みして良いの?」

「ダメだという話はありませんよ」

「そりゃあ、そうだろうけどよ」

「その方達の実力は私が保証しますよ。私の師匠たちですし」

の言葉にナハトとセシリアは一瞬顔を見合わせると、の顔をまじまじと見つめた。

はそれをいつものように笑いながら見つめ返すと、何も言わずに2人の返事を待っている。

しばらくすると、2人は深く頷いて頼むと言った。

はその返事を聞いて、今まで以上の笑顔で頷いた。









    第二十話    帰宅









4人は試験会場から最も近い空港へと移動し、それぞれの飛行船の出発の時間を待っていた。

「それでは、無線機が完成したらシルバさんのお家に遊びに行きますね」

「ああ、迷子になるなよ?」

「大丈夫ですよ。ちゃんと現在位置を確認する機能が携帯についてますから」

「...携帯がなかったら迷うってことか?」

「大丈夫ですよ。今まで迷子になったことは......あれ?」

「あるんだな」

「でも、師匠も一緒にいたときですし」

「どういう師匠だよ?」

「かわいらしい師匠ですよ」

「そういう意味じゃねぇよ」

ため息をつきながら言うシルバには首をかしげ、ナハトとセシリアは苦笑した。

それからも取り留めの無い話をしていると、出発時間が近づいてきたためにシルバは3人に別れを告げてゲートをくぐって行った。

シルバを見送った3人も自分達が乗る飛行船のゲートへと向かった。

飛行船に乗ること3日、電車で移動すること半日、徒歩で移動すること2日、ようやく3人はの師匠達のいる森の入り口へとたどり着いた。

「今連絡を入れましたから、30分もすれば迎えに来てくれると思います」

「迎えって、直接行ってはダメなの?」

「私は行けますけど、ここに来るのが始めてのナハトさんとセシリアさんはここに入る許可をいただかないと...」

「許可って...普通に入れそうだが?」

「中に入ってくる人を制限する『念』というのもあるんですよ」

「そんなのもあるの?」

「ええ、ひとくちに『念』と言っても、その能力はその人の個性に大きく左右されるんです。ですから『念』を習得した人たちは、それぞれ自分に合った能力を持っていると考えるのが無難です」

「へぇ、自分に合った能力ねぇ」

「詳しくはあなた達の師匠となる方が説明してくれますよ。もう、いらっしゃったようですし」

「え?ーーーーッ!!!」


 ドン!  ぎゅうぅぅーーーっ!


セシリアが疑問の声をあげた時、の名前を叫びながら走ってきたアサヒが勢いよくに抱きつき、きつく抱きしめる。

その光景を見たセシリアとナハトはポカンと口を開けて2人のやり取りを眺めた。

、大丈夫?ケガはして無いわね?あのクソジジィが、に意地悪したって連絡があったから心配してたのよ」

「大丈夫ですよ。意地悪と言っても少し疲れるようなものでしたし、ケガもありません。アサヒさんは大丈夫でしたか?無理をしたりしませんでしたか?」

「大丈夫よ。ああ、もう!ったら本当に良い子なんだからぁv」

「やめんか、この親ばか!!」



  ゴン!


「ッ!!何するのよビスケ!せっかくの親子の再会に水を注さないでちょうだい!!」

「うるさいわさ、この親ばか!!あんたのその過剰なスキンシップで、のウエストが10cmは細くなってるわさ!!」

「ウエストなんて、太いより細い方が良いじゃない!」

「念でガードしなきゃいけないような状態にさせて、そういうこと言うんじゃ無いわさ!」

「念でガードできてるなら良いじゃない!!」

「そういう問題じゃないわさ!!」

を挟んで激しい言い合いをはじめたアサヒとビスケを、ナハトとセシリアは困惑したように見つめた。

それに気づいたが、手を伸ばして言い争う二人の口の塞いだ。

「「!!」」

口を塞がれた二人が驚いてを見つめると、は嬉しそうににっこりと笑った。

「ただいま帰りました」

場の空気をぶち壊すようなのんびりとした声で言ったため、アサヒとビスケはもちろん、ナハトとセシリアも脱力した。

がアサヒとビスケが脱力したのを感じて口から手を離すと、安心しっきた笑顔を二人に向けた。

それを見た2人がそろって苦笑すると、への返事も自然とそろってしまった。

「「お帰り、」」

「はい」

アサヒに抱きつかれたままニコニコと笑うに2人はもう1度苦笑すると、困惑しているナハトとセシリアへと視線を向けた。

「ごめんなさいね、見苦しい所を見せちゃって」

「え、あ、いえ」

「...を心配してのことだったんでしょうし」

「そう言ってもらうと助かるわ」

「この親バカっぷりはいつものことだから気にしなくても良いわさ」

「は、はぁ」

「あら、今回はの初めてのひとり旅だったから、ちょっと過剰になっただけじゃない」

「そういうことはを放してから言いな」

うふふふふふふふふふ嫌に決まってるじゃない

「...あんたねぇ

また先ほどのように言い争いになりかけたため、慌ててナハトが口を挟む。

「俺達、に連れられてここに来たんだけ...ですけど」

「別に敬語なんか使わなくて良いわさ。堅苦しいのは嫌いだしね」

「あ、ああ。分かった」

「えーと、『念』の師匠を紹介するって言われたのだけど...」

「家に向かいませんか?ここで立ち話も何ですし」

「そうね、じゃあ行きましょうか」

そう言って歩き出したアサヒにナハトとセシリアが唖然とし、ビスケがこめかみに手を当てた。

「アサヒ、をかついで行くんじゃないわさ。もちゃんと抵抗する!」

「?、分かりました」

ビスケの言葉には首を傾げながらもモゾモゾと動き出した。

動き出したを残念そうに見てしぶしぶと地面に下すと、アサヒは不機嫌な顔でビスケを睨んだ。

ビスケはアサヒの睨みなどまったく気にすることなく、ナハトとセシリアを引き連れて家へと向かっていく。

アサヒとビスケのやり取りに、ナハトとセシリアが内心非常に不安になっていたのを、当然はまったく分かっていなかった。

そして2人の不安がなくなり、に関係することで苦労が増えるのは2人が弟子になってすぐのこと。

もちろん念の修行が終わる1年後までその苦労が続いたが、2人は懸命にもそれを口に出すことはなかった。











あとがき

H×H第二十話終了です。
アサヒさんの親バカ度が進行しました。
最初は穏やかで冷静なイメージで作ったはずだったんですけど...

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

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