『お待たせいたしました。これより最終試験を始めます。受験生は1階ロビーへとお集まりください』
部屋の隅に備え付けられていたスピーカーから流れた声に、4人は部屋を出てロビーへと向かった。
ロビーへとのんびり向かいながら、ナハトがやや緊張気味に口を開く。
「いよいよ最終試験か...」
「そうね、今度はどんな試験なのかしら?」
「総当たり戦とかだったら、面倒だよな」
「今までずっと体力勝負だったから、知識を調べるために筆記試験って可能性もあるんじゃねぇ?」
「そういうのは、1次試験とか2次試験に持ってくると思うけど?」
「いや、試験内容って試験官の好みで決めるはずだから、知識に重きを置くやつが考えたならありえなくも無いと思うぞ」
「そうなると、出題される分野によって変わってくるわね」
「まあな。自分が興味ないことを出されたら分からねぇしな。はどう思う?」
「筆記試験の可能性はかなり少ないと思いますよ(試験を考えたのがネテロさんですし...)」
「何でだよ?」
「セシリアさんの言ったように、出題される分野によって変わってくるからです。ハンターと言っても、ブラックリストハンター・美食ハンター・トレジャーハンターなど、さまざまですから。出題範囲が相当広く無いと、今期の合格者が全員トレジャーハンターなんてことになってしまいますし(建前上は)」
「確かに、誰も合格者が出なかった年はあったらしいけど、1分野の人ばかり合格したって言うのは聞いたことが無いな」
内心を表に出さずに説明するに、3人は納得して頷く。
「だったらは、今度はどんな試験だと思うんだ?」
「そうですね...(ネテロさんですから)予想はつきませんが、ややこしい課題だったりするんじゃないですか?」
「まあ、最終試験ですものね。今までより難しくなるでしょうね」
「上等!今までが簡単すぎたからな。少しは手ごたえが無いとつまらねぇって」
「お前2次試験のとき、かなり面白そうにしてた気がするんだが...」
シルバの言葉にナハトが呆れながら言うと、シルバは鼻で笑って言い返した。
「に合わせてただけだって」
「私にですか?」
「年下に合わせてやるのも、年上の器量だろ?」
「へぇー、そうなんですか」
「...そんな内容でだまされんなよ」
「えっ!ウソなんですか!?」
「......ここまでマジで信じられると、こいつの将来が心配になるんだけど」
「「同感」」
「えっ、何でですか?」
「「「.........」」」
本気で不思議そうな顔をするに、3人は微妙な顔で黙り込んだ。
そうこうしている内に4人はロビーへと到着し、開いているドアから中へと入っていった。
第十九話 最終試験
「ほっほっほ、意外と遅かったのぅ」
「...あんたが最終試験の試験官か?」
「左様、ワシが最終試験の試験官を務めるネテロじゃ。おぬしらにはまず、この箱の中からくじを引いてもらい、その紙に書かれた番号に従ってあそこのドアを開けて中に入ってもらう。中にはそれぞれ異なる『相手』が待っておる。その『相手』を殺さずに、部屋の反対側にあるドアから1時間以内に無事にでてくれば合格じゃ。では、くじを引いてもらおう」
ネテロにうながされて、たちはくじを引いていく。
「うむ、全員引いたの。ではそれぞれドアの前に立って待っておれ。5分後に開始じゃ」
1番のドアの前に、2番に前にナハト、3番にシルバ、4番にセシリアが立つ。
「シルバさん、ちゃんと手加減してくださいね。殺してしまったら失格になりますから」
「分かってるって。お前も気をつけろよ?」
「はい」
「おい、なんか物騒な話を当たり前のようにしてねぇか?」
「「そう(です)か?」」
ナハトの言葉に2人そろって首を傾げる。
「少なくとも一般市民は『殺さないように気をつけよう』なんて、注意しあったりしないわよ」
「ハンターって『一般市民』ですか?」
「...そういや、違ったな」
「なら、問題ねぇだろ?」
「まあ、そうなんだけどね」
ジリリリリリリリリリリリリリリリリィ!!!
セシリアが苦笑したとき、開始の合図のベルが鳴り響く。
「ほっほっほ、それでは試験開始じゃ。健闘を祈るぞ」
ネテロの言葉に、4人はお互いにまた後でと声をかけると中へと入っていった。
4番のドアを開けてセシリアが中に入ると、そこには下卑た笑いを顔に浮かべた数十人の男達がいた。
「へぇ、なかなかじゃねぇか」
「ああ、どんなゴツイのが来るかと思ったら、女が相手とはな」
「せいぜい楽しませてもらおうぜ」
男達の言葉に、セシリアは呆れ、見下したような目で見る。
「むさ苦しいだけでも不愉快なのに、頭の悪い男って嫌いなのよね。特に実力も無いくせに、強いと思い込んでるバカは始末に終えないわね」
ふんと鼻で笑いながら言うセシリアに、男達は怒りで顔を真っ赤にさせた。
「お高くとまってんじゃねえぞ!」
「泣いて詫び入れさせてやる!!」
口汚くののしってくる男達に、セシリアは挑発的な笑みを浮かべた。
「キャンキャンと負け犬らしく吠えた立ててないで、さっさとかかってらしゃい。全員まとめて去勢してあげるわ」
セシリアがそう言ったとたん、男達が怒りの形相で飛び掛ってきた。
セシリアの隣の3番の部屋では、シルバが床一面にうごめいている『相手』を見て非常に嫌な顔をしていた。
「確かに『相手』が人間だとは限定してなかったけどよ...」
床には、足の踏み場が無いほど大量のねずみがもぞもぞとうごめいていた。
ネズミ達はかなり空腹らしく、部屋の中に置いてあった椅子やテーブルは見る影も無いほどぼろぼろになり、壁紙もかじられてコンクリートの壁がむき出しになっていた。
シルバが入ってきたことに気づいたネズミ達が、餌を逃がすまいとシルバに方へと群がってくる。
「こんなちいせぇのを殺すなって、むちゃくちゃだろ」
そう言いながら、シルバはネズミ達をつぶさないように注意しながら進んでいく。
しかし部屋の中程まで来ると、さすがに群がってくるネズミ達に辟易してくる。
「うざってぇ...」
面倒臭そうにシルバが足を止めると、ネズミ達がその期を逃すまいといっせいにシルバに踊りかかった。
シルバがネズミ達に辟易しているころ、ナハトは目の前の『相手』に目を輝かせていた。
「すげぇ...ユキヒョウにブラッディータイガー、クロウパンサーにミドリオオヤマネコ...ネコ科の希少動物勢揃い...」
ぐるるるるるるるる...
がるるるるるる...
猛獣達の威嚇の声を聞きながら、ナハトは滅多に会うことの出来ない希少動物たちに目を奪われていた。
「......って、見とれてる場合じゃなかった。1時間以内にここを抜けるんだった」
ナハトがはっと気を取り直すのを見て、猛獣達は警戒心をより一層強める。
「しかし、ここをたった1時間で通れなんて...もったいない」
深くため息をつきながら言うナハトに、1番近くにいたユキヒョウが襲い掛かる。
他の猛獣達も、それを皮切りにナハトへと襲い掛かってきた。
ナハトは猛獣達の攻撃をかわしながら、上着のポケットから何かの粉末の入った小さな袋を取り出した。
「やれやれ、時間がもったいないしな。十分に観察させてもらうぞ?」
そう言ってナハトは、袋の中の粉末を部屋の中にばら撒いた。
他の3人が『相手』と対面しているとき、当然ながらも『相手』と対面していた。
「............」
はドアを閉めたままの体勢で、部屋の奥に陣取っている『相手』と無言で目を合わせていた。
は内心非常に嫌な予感がしていたが、このまま固まっていてもしょうがないと『相手』の前まで歩いていった。
ゆっくりと近づいてくるを、黒く大きな目で追いながら『相手』はが目の前に来るのを待っていた。
が『相手』の目の前で立ち止まり、目を合わせるために見上げると、相手もを見下ろしていた。
「...通りたいんですけれど、どうしたら良いですかねぇ?」
ぽつりとが呟くと、相手はその言葉を待っていたかのようにのっそりと立ち上がった。
「...やっぱりですか......」
がその様子にため息をつきながら言うと、『相手』は目をらんらんと輝かせてに飛び掛って来た。
試験開始から10分後、最初にシルバが出てきた。
合格を告げたあと、先に説明会場に行くか聞いてきたネテロに、シルバはここで3人を待つことを伝えその場にとどまった。
シルバがしばらく待っていると、4番のドアからセシリアが出てきた。
セシリアもシルバと同様にその場で待つことを告げる。
「とナハトはまだなのね」
「ああ、もうすぐ来るとは思うけどな」
「そうね」
2人の言葉とは裏腹に、なかなか残りの2人は出てこない。
2人はいぶかしげにお互いの顔を見合わせる。
「どうしたんだ?」
「さあ、苦戦してる...とか?」
「あんたの所は苦戦するような『相手』だったわけ?」
「いいえ、ちょっと自惚れてる男どもだったけど。あなたの所は?」
「大量のねずみ」
「...それは、嫌ね」
「ああ、面倒臭かった」
そのときドアの開く音がして、2人が音のしたところを見るとナハトが機嫌良く出てくる所だった。
「ん?2人とも早かったな」
「...あなた、何でそんなに機嫌が良いのよ?」
「......気色ワリィ」
「何とでも言え!俺は今最高に機嫌が良いからな。そんな言葉には動じねぇぜ」
シルバの言葉にも機嫌の良いまま返すナハトを、2人は非常に気持ちが悪そうに眺めた。
「...あなたの『相手』は何だったわけ?」
「フッフッフ、希少なネコ科の猛獣だ。ユキヒョウ、ブラッディータイガー、クロウパンサー、ミドリオオヤマネコ、非常に珍しい上にそれをツガイで見ることが出来たからな!」
「そういえば、あなた生物学者だったわね。忘れてたけど...」
「俺は覚えてさえなかったぞ」
「...おまえらな...」
2人の言葉にさすがにナハトも反応し、ため息をつく。
「で、お前らの『相手』は?」
「むさっ苦しくて弱い男ども」
「腹を空かせた大量のねずみ」
「へぇー、どうやって通って来たんだ?俺は特性のマタタビを使ったけど」
「群がってきてうざかったから殺気を出したら逃げてった」
「気絶させて、あんな奴等の遺伝子を残さないように去勢したわよ」
「「...おい」」
「あら、気にすることないわよ」
笑顔で言うセシリアにシルバとナハトは微妙な顔をしながらも、その話題に触れない方が良いと思い、話を変えることにした。
「でも俺、ナハトよりが先に出てくると思ったぜ」
「失礼なやつだな。まあ、俺もがいるものだと思ってたけどな」
「私もとシルバのほうが早いと思ってたんだけど...」
3人はのいる部屋へとつながるドアを見る。
「でもいくらなんでも遅くないかしら?もうあと5分しか無いわよ」
「まさか失格になってる...とか?」
「いや、も『相手』も生きてる気配はするぞ」
「分かるの?」
「ああ」
「じゃあ、が手こずる『相手』ってことか?」
「それほどでもねぇと思うんだが...」
「それなら、何で...」
3人はそれっきり口を閉じて、が出てくるはずのドアを見つめた。
制限時間が残り1分を切ったとき、のいる部屋のドアが開いていく。
「、遅か...っ!!!」
「「なっ!!!!!」」
ぐったりとしているを咥え、体長が5m以上ある犬のような動物がのっそりとドアから出てきた。
「おい!てめぇを「遅くなりましたぁ」
「「「...?」」」
「はい?あれ、時間切れじゃないですよね?」
「うむ、ぎりぎりじゃったが合格じゃ」
「そうですか...皆さんどうかしたんですか?」
咥えられたままネテロと普通に話すを、3人は口をポカンと開けたまま見つめていた。
いち早く我にかえったシルバが、多少混乱しながらもに話しかける。
「お前、何とも無いのか?」
「えーと、ケガが無いかってことですか?」
「ああ」
「ケガは無いですよ。ちょっと...と言うか、かなり疲れてますけど」
「...いったい、何やってたんだよ?」
「この子と遊んでました」
の言葉に3人がその大きな犬を見ると、ナハトが気づいて驚きの声をあげる。
「こいつって、もしかしてアーミィドッグか!?」
「そうですよ」
「ナハト、アーミィドックって何よ?」
「あ、ああ、兵器の犬とか軍の犬って意味でつけられた名前なんだけどな。体の大きさと破壊力もすごいんだが、最も特徴的なのはこいつらの性格だ。自分より強い相手にしか服従しないんだが、訓練次第では本当に兵器と同じようになるんだよ」
「兵器と同じって、どういうことよ?」
「簡単に言えば機械と同じってことだ。感情を持たずに、命令に従って攻撃する。それが例え、毎日会っていたり、餌を与えてくれる相手でも、命令であれば攻撃する。いわば完璧な狩猟犬だ」
「...には、めちゃくちゃ懐いてるけど?」
シルバの言葉に視線を向けると、いつの間にかが床へと下してもらい、アーミィドックに顔をなめられていた。
「「「......」」」
「ほっほっほ、は特別じゃよ」
今まで静観していたネテロが笑いながら言うと、3人はネテロへと目を向けた。
「特別って...」
「何、あれが元々に懐いてたわけでは無い。がかなり動物に好かれやすいんじゃ」
ネテロの言葉に3人がへ視線を戻すと、パタパタと尻尾を振るアーミィドックにのしかかられて、がじたばたともがいていた。
「かなり好かれやすいって言うか...」
「かなり好かれ過ぎ?」
「いや、異常なほど好かれ過ぎだろう」
「「...確かに」」
「ほっほっほ、では最終試験も終わったところで、説明会に行きたいんじゃが...、さっさと来んか」
「.........今の状態を見て、言ってるんですよね?」
「当然じゃろう」
「だったら、この子に離れてくれるように言ってください」
「無理じゃ」
「「「「.........」」」」
「一時間ほど待つから、それまでに何とかしてくるんじゃぞ?ほっほっほっほっほっほ...」
笑いながら去っていくネテロに、が涙目になりながらぽつりと呟いた。
「...こんなときに人の悪さを発揮しないでくださいよぅ」
あとがき
H×H第十九話終了です。
やっとハンター試験が終わりました。
でも、さんにはこれからもうひと仕事あるんですよねェ...
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
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