4次試験が始まってから1週間、とネテロは試験官の詰め所で...


  ズズズズズズズ......ほぅ


ゆったりとお茶を楽しんでいた。

「紅茶もおいしいですけど、緑茶もおいしいですね」

「そうじゃろう。じゃが、おぬしが作った大福もなかなかのものじゃぞ」

「ありがとうございます。そう言っていただけると、作ったかいがあります」

「ほっほっほ、今度はどこのを真似たんじゃ?」

「ジャポンの福福屋というお店です。依然そこの大福がお好きだと言っていたでしょう?」

「じゃが、相変わらず店よりいい物を作るのう」

「.........またですか」

ネテロの言葉に、はがっくりと肩を落とした。

「褒められて落ち込むとは、そんなに同じ物を作りたいのか?」

「そりゃあ、作りたいですよ。同じ材料と手順・時間配分で作って、味が同じになるようにしたんですから」

「しかし、不味くなるならともかく、旨いと言っているんじゃから気にすることは無いと思うがのぅ」

「でも、アサヒさんにもビスケさんにも同じことを言われたんですよ?」

「そのときも念は使ったんじゃろう?」

「はい。もともと、贋物の本物(パーフェクト イミテイション)の練習のためでしたし...」

「ふむ、技術的な面で無いとすれば、おぬしの心構えの違いかもしれんのう」

「心構えですか?」

ネテロの言葉にが首を傾げる。

「そうじゃ。店の料理人は大抵、顔の見えない不特定多数の客に対して作っておる」

「...つまり、味が違うのは、私が親しい人に対してしか作っていないからですか?」

「そう考えると、辻褄は合うじゃろう?」

「確かに辻褄は合いますけど...」

微妙に納得しきれていないに、ネテロは何か思いついたように口元に笑みを浮かべた。

「それに、料理には愛情が不可欠というからのぅ。愛情が入りすぎたせいかもしれんし...」

「...愛情って入れられるものなんですか!?」

「ほっほっほ、入れられなかったら、こんな表現が出来とらんじゃろうが」

「でも愛情なんて計量できませんよ?」

「それはやはり、料理人としての長年の勘じゃろう」

「それじゃあ、同じものは私には無理じゃないですかぁ」

ネテロの言葉を真に受けて半泣きになっているに、ネテロは笑いながらフォローを入れた。

「しかし市販のものより旨いということは、それだけワシらのことを好きだと言っているのと同じじゃろう?気持ちが伝わる料理を作れるというのは、素晴らしいことだと思うぞ」

「うー...確かに皆さんのことは大好きですけど...」

「ワシらがの料理を旨いと感じとるのが、ちゃんと伝わっておる証拠じゃ。自信を持ってかまわんよ」

「んー...分かりました」

「ほっほっほっほ...」

まだ微妙に納得しきれないながらも頷いたに、ネテロは内心ちょろいなと思いながら笑い声を上げた。








    第十八話    最終試験の前に








笑っているネテロをが首を傾げながら眺めていたとき、4次試験終了の放送が流された。

『ただいまを持ちまして、4次試験を終了いたします。受験生の皆様は1時間以内にスタート地点へとお戻り下さい。1時間以内に戻られない方は失格といたしますので、ご注意下さい』

その放送が終わると、は椅子から立ち上がり湯飲みを片付け始める。

「やれやれ、あと1時間あるというのに、せっかちじゃのぅ」

「すいません。どうもあの3人のことが気になってしまって...」

「何じゃ、おぬし見とらんかったのか」

「ええ、見てしまうとじっとしていられないと思ったので」

「ほっほっほ、確かにその通りじゃ」

苦笑しながら言うに、ネテロも笑いながら同意する。

「それでは、私も行きますね。お茶をご馳走様でした」

「うむ、それでは後ほどの」

「はい」

はネテロに一礼すると、ドアを開けて部屋を出て行った。





がスタート地点へ行くと、既にシルバが来ていた。

シルバはに気がつくと、手をひらひらと小さく振った。

も嬉しそうに手を振りかえすと、シルバの前へと歩いていく。

「お久しぶりです。ケガはありませんでしたか?」

「平気だって。誰に聞いてんだよ?」

「シルバさんにですよ?」

「...お前、マジに返すなよ」

「?」

首を傾げるに、シルバは呆れてため息をつく。

「そういえば、ここに来たってことは当然守り抜いたんだろ?」

「守り抜いたというか...誰にも(石は)狙われませんでしたよ」

「は?マジで?」

「はい」

「俺のところに3人突っかかってきたぜ。まあ、全員返り討ちにしたけど」

「へぇー、そうなんですか」

「ああ、そのおかげでこれは2個の収穫だけどな」

そう言ってシルバはに、黒と青の『イヤーズ・ストーン』を見せた。

「黒と青ですか...何だかシルバさんに合った色ですね」

「そうか?」

「ええ。もっとも、私の勝手なイメージですけど」

苦笑しながら言うに、シルバはふーんと頷いた。

2人がもうしばらく話していると、ナハトとセシリアもやってきた。

「お前ら、随分と早いかったんだな」

「あんたらが遅いだけだって。で、ちゃんと合格出来てんのかよ?」

「当然だろ!ついでに収穫は2個だぜ」

「あら、ナハトもなの?」

「セシリアさんもですか?」

「ええ、赤と紫よ」

「じゃあ、あんたは緑とオレンジか?」

「おう...もしかしてお前も2個持ってんのか?」

「そういうこと」

「じゃあ、もしかしてあたし達でこれ独占しちゃったてこと?」

「そうなりますね...と、言うことは」

が言いかけたことをさえぎるように、後ろから試験官の男性が声をかけてきた。

「1時間の待ち時間は必要なくなったようですね」

たちは驚くことなく試験官の方を振り向く。

「それではあちらの方で鑑定をいたしますので、受験番号の早い方からいらしてください」

「...俺か?」

「そうね、いってらしゃい」

「おう!!」

「そんなに気合入れていくことねぇと思うぞ?」

「うるせぇよ!」

「あははははははは....」

も笑ってんじゃねぇよ!...ッタク」

ナハトは三人に背を向けて、試験官が指した方へと歩いていった。






4人全員の鑑定が終了すると、4次試験の合格を告げられ、最終試験の会場へと向かうために4人は飛行船へと乗せられた。

試験会場まではおよそ2時間ほどで着き、4人には24時間の休憩と個室が与えられた。

それぞれが個室に入りシャワーを浴びたり仮眠をとったりした後、自然との部屋へと集まってきた。

「そういえば、これって何の石なんだ?」

「何って『イヤーズ・ストーン』でしょう?」

「そうじゃなくてよ、石の種類だよ。いろいろあるだろ?ダイヤとかルビーとか」

「ああ、そういうこと。赤いやつの見た目はルビーよね?」

「あんた鑑定とかできねぇの?」

「さすがに無理よ。染料に宝石の粉を使う場合もあるけど、こういう状態での鑑定は出来ないもの」

に聞けば分かるんじゃねぇ?」

「今、食事をもらいに行ってるぞ」

シルバがそう言ったとき、が食事の乗ったワゴンを押しながら部屋に戻ってきた。

「お待たせしました。足りないときには、また作って下さるそうです」

「おう、サンキュー」

「へぇー、けっこう豪華だな」

「そうね」

がテーブルに料理を並べると、4人は箸を手に取り食べ始めた。

「そういや、はこれが何の宝石か分かるか?」

「...石の種類がですか?」

「そう。俺もこいつらも鑑定はできねぇし、試験が終わったときに何も聞かなかったからさ」

「そうですか」

は頷くと、箸をおいて自分の持っていた『イヤーズ・ストーン』を取り出した。

「私達が持っている石は全て同じものですよ?」

「は?『イヤーズ・ストーン』だからってことじゃなくてか?」

「はい」

「でも、まったく色が違うわよ?」

「この宝石の色というのは、含まれる不純物の違いですから。『スピネル』というんですけど、聞いたことはありませんか?」

「あ、ルビーと一緒に取れるやつか?」

「なんでお前そんなこと知ってるんだ?」

「お袋が言ってたから」

「確かにこれはルビーに似てるけど...他の色も同じ場所で取れるの?」

「ええ、まったく同じというわけではありませんが」

「でもあんまり聞いたことねぇ名前だな。スピネルだっけ?」

「まあ、長いあいだルビーの一種と思われてきた宝石ですからね。ついでに言うと、今は人工のスピネルが一般的です。これも元々は5万ジェニー程度の人工スピネルですよ」

の言葉に、3人は非常に驚いた顔になった。

「はぁ!?マジかよ!!」

「5万が70億って...ありえねぇ...」

「あなたの情報を疑うわけじゃないけど、これが本当に5万ジェニーだったの?」

「正確には4万7千ジェニーですけど」

あっさりと言ったの言葉に、3人はそろってため息をついた。

「こういうのをぼろ儲けって言うのか?」

「...そうじゃねぇか」

「14万倍の利益ね...」

「...利益はありませんよ。材料費しか、いただいてませんから」

「「「.........は?」」」

3人は思わす固まると、を凝視した。

「?、どうかしましたか?」

「材料費しかもらってないって...そいつバカか?」

「これを作った人って、よっぽどのお人好しなの?」

「それとも、よっぽど金があるのか、単なる趣味なのか?」

「...3人とも言いたい放題ですね」

「「「事実だし」」」

3人そろって言われたために、は拗ねたように口を尖らせた。

「さすがにそこまで言われると、拗ねますよ...」

「誰が?」

「私がです」

「何でお前が拗ねるんだよ?」

「何でって「あーーーーーーっ!!!」

が言いかけたとき、気づいたセシリアが叫び声を上げた。

「何だよ、いきなり...」

「今のは耳にきたぞ」

「...耳が痛いです」

耳を押さえたり、さすったりしている3人をよそに、セシリアがに話しかける。

!もしかしてというか、もしかしなくてもこれを作ったのって...!」

「私ですけど?」

「「.....................マジ?」」

「ええ、半年前に依頼で作ったんですよ」

「...『イレブン』が作ってるなら、情報が流れてこないはずだわ」

「そうですか?別に秘密にはして無いんですけど...」

「『イレブン』から情報を盗めるやつがいるわけないだろ?」

「まあ、普通はそうだよな...」

「そういうものですか?」

「「「自分のことだろーが...」」」

3人は声をそろえて言うと、深いため息をついた。









あとがき

H×H第十八話終了です。
最終試験の前に、少しほのぼの(?)させてみました。
次は最終試験です。

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

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