3次試験が終了したあと、3次試験の案内をした男性が受験者達を外へと案内する。

主権者達が外へと出ると、眼下には切り立った崖に囲まれ、深い霧の立ち込める森が広がっていた。

「3次試験通過おめでとうございます。これより4次試験の説明を始めさせていただきます」

男はそう言うと、懐から5cm四方の透明な箱を取り出した。

箱の中には、深い藍色の台座に2、3cmの赤い宝石がおさまっている。

(...!!ネテロさん...あの依頼は、このためですか...)

「皆様にはこの下に広がる森で、これと同じような細工を施したものを見つけていただきます」

「細工って、カッティングのことかしら?」

「左様、これを見ていただければ分かります」

そう言うと男は、他の人が持っててきたテーブルの上へとおいた。

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

「...」

その石を見て驚く受験者たちをよそに、は内心冷や汗をかいていた。

「これって、もしかして『イヤーズ・ストーン』か?」

「その通りでございます。発表されるのは1年に1度ひとつだけという、世界でまだ2つしか公にされていない『イヤーズ・ストーン』の内の1つでございます」

そう言って男は白い手袋をはめると、箱を開けて中の宝石を取り出した。

「『イヤーズ・ストーン』の特徴は、この繊細な花を浮き彫りさせるカッティングです。今回ハンター協会を通して製作者へと依頼し、特別に7個の『イヤーズ・ストーン』を製作していただきました。色はこれと同じ赤と、オレンジ、青、緑、紫、黒、透明の7色です。それらはこの森のどこかに隠してあります。それを見つけるのが4次試験の内容です。なお、この石は試験終了時に確認した後は、見つけた方の所有物ということになります。もちろん、1人で複数所有していただいてもかまいません。これひとつで、最低でも70億ジェニーは下らないでしょう」

「70億!!」

「通過者は最高でも7人か...」

説明を聞いた受験者達が騒ぎ出すのを、は内心ため息をつきながら見つめた。

(受験者同士の奪い合いを増やすためにいろいろ条件をつけましたね...ネテロさんが関わっててこれくらいなら、まだマシな方でしょうか?しかし、70億までいきますか...原価は5万なんですけどねぇ)

、どうした?」

黙り込んでいるに気づいたナハトが声を掛けると、は内心を顔や態度に出すことなく返事をした。

「いえ、どれ位の時間が与えられるのか、まだ聞いていないなぁと思っただけです」

「そういや、まだ聞いてねぇな。さすがに2、3時間で探せとは言わないだろうけどな」

とナハトの話を聞いていた男が、達の方を向いて話し出す。

「ご心配なく、きちんとそれなりの時間を設定しております。期間は1週間、これより1時間後にスタートいたします。それでは皆様、あちらの昇降機へとお乗りください」

男の言葉に受験者達が移動していく。

それぞれが態度や目線で牽制し合う中、とシルバだけは大して周りに興味は無いと言わんばかりに普通にしていた。

ナハトとセシリアも最初は緊張して気を張っていたが、2人の態度を見て苦笑した後は、待ち時間のあいだ気を張ることはなかった。









   第十七話   四次試験









「それではこれより4次試験を開始いたします」

先ほどの男性がそう言うと受験者達はたちを残して、すぐに散り散りになっていった。

「一応今回は1人1人で行った方が良いと思うけど、どうする?」

「そうね...4人で一緒に動くよりは早く集められると思うわ」

「同感、4人一緒に動いてたらものすごく遅いだろうしな」

「...俺らが遅いって?」

「事実じゃねぇか。なあ、...って、お前何してんの?」

3人から少し離れたところでしゃがみこんでいるに、シルバが声をかける。

は立ち上がって3人のほうを見ると、左手を胸の高さくらいまで上げた。

「見つけました」

「「「早っ!!」」」

の手の中には、確かに透明な『イヤーズ・ストーン』が輝いていた。

「お前、何でそんなに早く見つけるんだよ!せっかく競争しようと思ったのに!!」

「突っ込むところが違うぞ。普通はこんなに早く見つけたことに、疑問を持つべきだろうが」

「私としては、何故誰も気づかなかったか疑問なんですけど...」

「何故って言われても...ねぇ?」

「普通そんなところにあるって思わねぇだろ」

「でも埋めてあったわけでもなく、普通に転がってましたけど?私はそこにあるのが取り合いになるのかなぁと思ったんですけど、誰も取ろうとしませんでしたし」

「「......」」

「...2人とも、ここはだからってことで納得しておかないと、精神的に疲れるわよ」

「「...まあ、だしな」」

「それ、私が納得いかないんですけど」

「「「どこが?」」」

「............」

3人そろって言われたため、は落ち込んで黙ってしまった。

の分はいいとして、俺らはやっぱり単独でいった方が良いよな?」

「そうね。いざとなったら奪い合いになるだろうけど、2、3日は大丈夫だと思うわ」

「じゃあ会うのは一週間後だな。はちゃんとそれ守り通せよ」

「...はい」

まだ落ち込んでいるが返事をした後、3人はそれぞれ別の方角へと散っていく。

「それじゃあな」

「がんばって見つけてくださいね」

「ええ、あなたも気をつけてね」

「ここで落ちるなよ」

「うるせぇよ」






は3人が見えなくなるまで見送ると、後ろを振り向いた。

「隠れるなら、もっとうまく隠れた方が良いですよ?『毒蛇』さん」


    ヒュッ!


がそういった瞬間、木々のあいだから一本のナイフが飛んでくる。

はそれを呆れたように眺めると、指で受け止め、来た方向と少しずらして投げ返した。


   カッ!


ナイフが気に刺さる音が聞こえると、はゆっくりとナイフを飛ばしたほうへと歩いていった。

が生い茂る草を掻き分けて行くと、左側の髪がばっさりと切られたレイファが青い顔をしながらも、ギッと睨みつけてきた。

「自分の実力はきちんと把握しなければダメですよ。シルバさんはもとより、ナハトさんとセシリアさんも気づいていましたし。3次試験のときに仕掛けて来れなかったから、ここで仕掛けてくると分かってましたしね。少しは頭を使わないと、もっと老けますよ?」

にっこりと笑みを浮かべて言うに、真っ青だったレイファの顔はどんどん赤くなっていき、終いには真っ赤な顔でギラギラと睨みつけてきた。

「子どもに本当のことを言われて頭に血が上るなんて、大人気ないですねぇ」

そう言ってが呆れたようにため息をつくと、レイファは木に刺さったままになっていたナイフを掴んで引き抜き、先ほどよりも速く投げつけた。

がそれをあっさりと顔の前で受け止め、ナイフを手に持ったまま近くにあった木に背を預けた。

レイファはが自分のことを取るに足らない者として認識していると感じ、ギリッと歯をかみ締め、怒りのあまり握りしめている手が小刻みに震える。

憎々しげにを見るレイファの視線を感じながらも、はまるで天気の話しでもするのようにゆったりとした声で話す。

「私は別に聖人君子ではありませんから、貴方がどんなことをしようと大して興味は無いんですよ。...でもね...」

が言葉を区切った瞬間、ゆったりとした雰囲気は変わっていないのに、レイファは声も出せないほどの威圧感を感じた。

「どうも私は、自分のテリトリーに1度でも受け入れた人たちに対しては、無意識に信頼と依存をしているようなんですよ」

さらに威圧感が高まり、レイファは自分がガタガタと震えていることさえ認識できなくなっていた。

「そのせいなのか、その人たちを傷つけようとする人がいると、ちょっとだけ押さえが効かなくなるんです

レイファは自分の足で立っていることさえ出来なくなり、その場へ倒れこむ。

「まあ、自分が変わるつもりは無いので...変えるなら、傷つけようとする人という結論になるんでしょう?」

倒れこんでいるレイファの顔は、化粧が汗と涙で剥がれ落ち、恐怖のあまりがたがたと歯が震えている。

「そんな顔をしなくても...別に殺すつもりは無いんですから...」

苦笑しながら言うの言葉に、レイファの目にわずかに光が戻る。

「ただ今後一切、私に関わる人達に近づかなければ良いんですよ。簡単なことでしょう?」

にっこりと笑って言うに、レイファはがくがくと何度も首を振る。

「それは何よりです、もう行ってもいいですよ。ああ、試験官の方が向こうにいるので、あなたは棄権すると伝えてくださいね?もう、この森には私の大切な人が4人もいるんですから」

の言葉にレイファは震える足で何とか立ち上がると、ふらふらとが指差した方へ歩いていく。







レイファが立ち去ってからも、はしばらく木に背を預けたまま立っていたが、ふっと木の上を振り仰いだ。

「立ち聞きは趣味が悪いんじゃないんですか?」

「ほっほっほ、先ほどのほどではないじゃろう?」

が背を預けている木の枝の上で、ネテロがを見下ろして笑っていた。

「失礼ですね。殺したり、怪我をさせたりしたわけではありませんよ?」

「じゃが、あそこまで悪意をこめて念を使うこともなかったじゃろう」

「聞いていたなら分かるでしょう?私は大切な人たちを傷つけようとする方達には、押さえが効かなくなり易いんですよ」

「ほっほっほ、そうじゃったか?」

「ええ、そうでなければここまで念の制御に梃子ずったりしません」

がため息をつきながら言うと、ネテロは意外そうに片眉を上げた。

「何じゃ、本当に制御できてなかったのか?」

「はい。まだまだ精神的に未熟なもので...」

「これこれ、そう落ち込むな。今の歳でそれだけできるなら、これからの経験で鍛えていけばいいんじゃ。に足りないのは、あとは経験くらいのものだからのぅ」

「...ありがとうございます」

「ほっほっほ、気にするでない。それに先ほど『この森に4人いる』と言ってくれたからの。その礼じゃよ」

はその言葉に、もう1度ありがとうございますと頭を下げる。

ネテロはの反応に笑い声で返した。

「それで、あの2人が弟弟子候補かの?」

「そうですね。他にも候補者を上げてはいたんですけど、他の方々は落ちてしまいましたから」

「それでおぬしのことは、どのくらい伝えておるんじゃ?」

「私が『イレブン』ということまでです。試験が終わって時間が出来たときのでも、話そうかと思っています」

「それがよかろう。ここでは誰が聞いておるか分からんからの」

「はい」

ネテロの言葉に頷くと、はほっとしたように笑みを漏らす。

「おぬしのことじゃ、あの3人にはこの4次試験中に顔を合わせる気が無いじゃろ?」

「ええ、チームプレイが認められているとは言え、試験の内容がほかに漏れればあの人たちにどんな中傷が行くか分かりませんし」

「ほっほっほ、本当に身内に甘いのぅ。ワシなら、それをからかう材料にするがのぅ」

「良いんですよ、これが私ですから。この試験の最中に私についてる試験官は、ネテロさんだけですか?」

「急な呼び出しが無い限り、その予定じゃ」

「では4次試験中は、このあいだ新しく覚えた料理をご試食いただけますか?」

「ほっほっほ、それは楽しみじゃ。では試験官の詰め所で1杯といこうかの」

「まだレイファさんがいるでしょうから、もう少ししてからですよ?」

「何、話していればあっという間じゃよ」

「そうですね」

はネテロの言葉に、子どもらしく笑いながら同意した。








あとがき

H×H第十七話終了です。
さんの脅しのスキルはアサヒさん仕込み...かも。
ネテロ会長とも結構仲良しです。

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

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