翌日8:00黒い門の前には、たちを含め計19名の人が集まっていた。

本来なら自分のそばにいるはずの2人がいないことに、レイファはとシルバを睨みつけてきた。

もシルバも睨まれていることを分かっていながら、まったく気にすることなく他の2人と話している。

しばらくすると門がゆっくりと開き、内側からモーニングを身にまとった小柄な男性が出てきた。

「これより3次試験を始めさせていただきます。受験者の皆様は、奥へとお進みください」

受験者達が門を通り、奥へと進んでいく。

その奥には、少し開けた空間と上の方に1から10の番号がついたドアが並んでいた。

「皆様には、この10個のドアの中から1つ選択して入っていただきます」

(...このドアのデザインは、もしかして...)

「すべて出口は同じところに続いております。しかし、このドアの奥は全て異なるルートとなっております。制限時間以内にゴールできた方のみ、次の試験へと進むことが出来ます。制限時間は80時間です。それでは、ご健闘をお祈りいたします」

試験官の言葉に、受験者達が品定めをするようにひとつひとつドアを眺めていく。

は他の受験者達にかまうことなく、3人に目配せすると10と書かれたドアへと歩いていく。

3人はそれに不思議そうな顔をしながらも、の後ろをついて行き、10のドアを開いて入っていった。

   カシャン

「「「!!」」」

たちが中に入りドアを閉めると鍵のかかる音がした。

ナハトとセシリアがの方を向き、シルバがそう言うことかと呟く。

「もしかして、早い者勝ちってことだったの?」

「ええ、おそらくドアが開くのは1度だけなんだと思います。受験者の人数に合わない数のドアしかないということは、選ぶ段階で受験者を選択していくということでしょう?」

「なるほど、だからさっさとドアを選んだのか...でもそれなら、6番のドアが1番近かったんじゃないのか?」

「はい、でもちゃんと理由があるんですよ」

「理由って...見ただけでか?全部似たようなものだっただろ?」

はシルバの言葉に苦笑すし、歩き出した。

3人もに続いて歩き出す。

「ぱっと見ただけでは分からなかったでしょうけれど、それぞれドアのデザインが異なっていたんですよ」

「...違ってたか?」

「さぁ...」

「ドアのデザインが違うからって、何でここなんだ?」

「推測ですが、それぞれのデザイナーの趣味や分野によってルートの内容がある程度決まっていると思ったんですよ。たとえば1番のドアはあまり知られていないんですが、自宅の庭に巨大な迷路を築いた方のデザインなんです。それと同様に、2番はちょっと特殊なトラップのデザインをしていた方の作品です」

「そうなると、1番は迷路、2番はトラップか...」

「はい。全員が有名というわけではありませんが、それなりに名の通った方々です」

「それじゃあ、ここのはどんなやつのだったんだ?」

ナハトがそう尋ねたとき、前方に真っ白なドアが見えてきた。

「ロルフ=レイニード、1903年から1931年までにトータルデザイナーをしていた方です。先ほどのようなドアのデザインから家具、壁紙などさまざまなものをデザインしました。中でも特に多かった作品が...」

「「「!!!」」」

が説明を続けながら白いドアを開くと、その先には白い砂浜と真っ青な海が広がっていた。

「このような、まるで本物と見間違うほど精巧なだまし絵を描いたエレベーターです」








   第十六話    三次試験








以外の3人が、その説明に驚いた顔をする。

「...これがエレベーターかよ」

「すごいわ...」

「これだけのものを作ったやつが無名だったのか?」

「エレベーターのデザインを数多く手がけた方ですが、それを作品として発表することはなかったんです」

「えっ!どうして!?」

「セシリアさん、このエレベーターのスイッチをぱっと見てみつけられますか?」

の言葉にセシリアは辺りを見回した。

「え?.........あっ!無いわ」

「そう言えば、見当たらないな」

「見つからないように隠してあるってことか?」

「ええ、元々は貴族や富豪の方に依頼されて作り始めたものなんです。誰にも知られることなく移動するために、スイッチを隠していたので、構造やデザインを発表することが出来なかったんです」

「それなら納得がいくわ。これだけのものを作って、無名だったわけね」

頷いているセシリアの横で、もう1度中を見回したナハトがに声を掛ける。

「で、肝心のスイッチはどこなんだ?」

「地道に探せば、2時間もあれば大丈夫ですよ」

「地道にかよ...」

「地道じゃない方法もあるのか?」

「ありますけど、あまりお勧めしません」

「一応、言ってみろよ」

非常に真面目な顔で言うに、シルバがそう言った。

「絵が描いてあるのは壁紙なので、それを剥がせば...」

「ちょっと!そんなの、却下よ、却下!!同じアーティストとして、そんなの絶対に許さないわよ!!」

「...同じって、あんた刺繍じゃなかったっけ?」

「物を作り出す意味では一緒よ!」

「......まあ、地道に探すしかねぇだろ?」

「そうだな」

「当然よ!」

ナハトの言葉に息荒く同意するセシリアに、が苦笑し、ナハトとシルバが呆れたようにため息をついた。

「1人1面でいいですよね?壁を叩くと空洞音がするはずですから」

「分かった」

「床には無いのか?」

「可能性としては考えられますけど、壁から探していったほうが早いと思います。貴族や富豪のために作られたものですから...」

「ああ、ひざまずくのはプライドが許さないってやつか」

「ええ」

「じゃあ、探すか」

4人は自分に近い壁に移動し、壁を叩き始める。

 コンコンコン...コンコンコン

部屋の中には壁を叩く音だけが木霊し、それが一時間以上続いた。

 コンコン...コンコンコン...コーン

「!!」

壁を叩いていたシルバの耳が、空洞音を捕らえた。

シルバが他の3人に呼びかけると、叩くのをやめてシルバのところに集まってくる。

シルバは3人が集まってきたのを確認してから壁を調べ始める。

しばらくすると、カタンという音をたてて壁の一部がスライドした。

シルバがに目配せをすると、はこくりと頷いた。

シルバも頷き返してスイッチを押すと、エレベーター特有の浮遊感と振動音が4人に感じられた。

しばらくすると浮遊感と振動音がおさまった。

4人はドアを開けて外へと出て、通路を歩いていく。

「意外と早く終わったな」

「そうね。このルートなら、ほんの数時間ですものね」

「...2人とも、覚えて無いんですか?」

「俺はなんとなく分かった...」

「どういうこと?」

「俺ら1次試験のときに階段降りただろ?地下290m位だったよな?」

「...290m上ったにしては、エレベーターに乗ってる時間が少なかった...か?」

「そう言えば、ああいうエレベーターを数多く手がけたって...」

4人に前方に今度は緑色の扉が見えてきた。

以外の3人の顔がわずかにひきつる。

「はい...つまり、そういうことです」

がそう言いながらドアを開けると、今度はさんさんと日が差し込む森が描かれていた。

「...これ、いつまで続くの?」

「先ほど上昇したのは30mほどでしたが、今度も同じくらい上昇するかは分かりません」

「...おい、これでも止めるのか、セシリア?」

「......ぎりぎりまでがんばりましょう」

セシリアの言葉には苦笑し、他の2人はがっくりと肩を落とした。





3次試験が始まってから60時間、たちは40近くものエレベーターに乗っていた。

「...なあ、さすがに疲れたぞ」

「そうね、だんだん集中力が切れてきてるのが自分で分かるもの」

「上ったり下りたりをくり返してるからな...の携帯で現在地が分かるだけマシだけどな」

「トラップが無いだけ気を張ることが無いので、探すことだけに集中出来ますけど...さすがに、疲れがたまってきますね」

時々仮眠を取ったとは言え、4人の声は始めのときと比べると大分疲れがにじみ出ている。

「あと20mほどで地上に出るんですけど、次のが下りじゃないといいですね...」

「嫌なこと言うなよ...」

シルバはの言葉にため息をつきつつ、目の前のドアを開けた。

「......あれ?」

「普通のエレベーターね」

「あ、ああ」

今までと違い、普通のエレベーターの内装に4人は驚きつつも中へと入っていく。

「「「「!!」」」」

4人が中に入るとエレベーターが自動的に上昇し始めた。

「何なんだ?」

「さあ?」

「「......」」

ナハトとセシリアはお互いに顔を見合わせ、とシルバは携帯に表示される高度の変化に目を凝らしている。

しばらくすると、エレベーターの上昇が止まり入り口が開く。

4人は顔を見合わせて、エレベーターから降りるとスピーカーから三次試験通過の知らせが聞こえてきた。

『受験番号389番、390番、391番、392番、三次試験通過。所要時間60時間8分』

その放送に4人は疲れたようにため息をついた。

「...やっとかよ」

「まあ、残り20時間休めるんだから良いじゃない。それに、あの人たちみたいに怪我らしい怪我もなかったんだし」

「そうだな」

セシリアが見た先には、先に到着していた5人の受験者が大小さまざまな傷を負いながら休んでいた。

ナハトもそれを見て頷くと、4人は端の方へと移動した。

「俺は寝るから、時間まで起こすなよ?」

「分かってるって、年寄りは疲れやすいからな」

「...お前な...」

「ナハト、そんな状態で怒っても覇気が無いわよ」

「...寝る」

ふてくされたように横になったナハトに、が苦笑する。

「はい、お休みなさい。セシリアさんも休んでて良いですよ。私はまだ大丈夫ですし」

「そうね、休ませてもらうわ。あなたも無理しないでちゃんと休みなさいね?」

「分かりました。シルバさんはどうしますか?」

「俺もまだ平気。それより、前言った無線機マジで作ってくれんのか?」

「はい、作るつもりですけど...今のうちに相談しておきますか?」

「ああ、そうだな。その方が効率いいか...」

「どんな機能にしますか?」

「そうだな...」

とシルバは3次試験終了時間まで無線機の機能やデザインについて話し、ナハトとセシリアは終了時間ぎりぎりまで休んでいた。


『3次試験終了。通過人数11名』








あとがき

H×H第十六話終了です。
3次試験まで終わりました。

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

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