「毒蛇...ああ、だからケバイのか!」

「シルバさん、ケバイって...確かに毒蛇は無駄にハデですけど」

「だったらケバイでいいんじゃねぇ?」

「でも、正確には『けばけばしい』で、品が無く、非常にハデで目立つ様子を...あれ?」

「あってんじゃん」

「あってましたねぇ。あ、でも野生の毒蛇は品があるかもしれないですし」

「そうか?あのハデさは品があるとは思えねーけど」

「うーん、まあそうなんですけど...」

とシルバの会話に、レイファの表情が怒りを無理やり押さえ込んだような恐ろしい顔になり、周りにいた人たちがザッとひいた。

「...子どもって怖えぇ」

「シルバはワザとだろうけど、はどう見ても本気よね」

「だな...でも、それが返ってタチワリィ気がするんだけど?」

「...奇遇ね、私もそう思うわ」

ナハトとセシリアがこそこそと話しているうちに、とシルバの話はいつの間にかあまり関係の無いことに移っていた。

すごい形相で睨んでいたレイファは、しばらくうつむいて顔を上げると、多少ひきつってはいたが会ったころの表情になっていた。

「ボーヤたち...」

「「ん?」」

話に夢中になっていた二人がレイファのほうに顔を向ける。

「なんかよう?おばさん

「おば!」

「シルバさん、いくら見た目がそうだからって、いきなりおばさんと呼んでは駄目ですよ」

「なッ!」

「お前の方がきついんじゃねぇ?」

「そうですか?」

呆れた顔をするシルバと首を傾げるに、レイファは先ほどよりも顔をひきつらせながら話しかけた。

「ボーヤたち、あたしのことを知ってるなら、今度のターゲットはあなた達にするわ。せいぜい用心することね」

そう言ってレイファは、奥の方へと歩いていった。

「?、結局何しに来たんだ?あのおばさん」

「んー、宣戦布告ですかね?」

「『宣戦布告ですかね?』じゃ無いだろ...お前ら、早速敵つくって...」

「ナハト、2人に言ったてしょうがないわよ。大人なら、子どものいうことに寛容にならなきゃ...さすがにさっきのはきつかったと思うけど」

「まあ、俺はワザとだけどな」

「お前はな。そういえば、あの女ターゲットとか言ってたけど、どういう意味だ?」

「レイファさんの獲物という意味ですよ」

、そういう意味ではなくて...何故ターゲットにされるのかってことよ」

ずれた返答にセシリアが訂正すると、はそういうことですかと言って頷く。

「そういえば、3人ともレイファさんのこと知りませんでしたね」

「ああ、初めて知ったけど有名なのか?」

「そうですね、受験者の中では有名だと思います。レイファさんが受験するのは本人が言ったとおり5回目なんですが、合格するために試験を受けに来るわけでは無いんです」

「は?そんな物好きな奴がいるのか?」

「ええ、試験中には何が起きても自己責任みたいなものですから。レイファさんのように、目的が合格ではなく受験者である方もいらっしゃいます」

「受験者って...殺しが目的ってこと?」

はセシリアの言ったことを首を振って否定する。

「いえ、レイファさんの場合は誘拐ですね」

「は?誘拐ってごつい男がほとんどじゃねーか?」

「俺達みたいな年齢の奴狙うんなら、スラムでもいいんじゃね?」

「そうね。もし身代金目当てなら、もっと裕福な家の人を狙うだろうし」

3人の言葉に、は苦笑をうかべる。

「レイファさんのする誘拐は、個人的な趣味によるものです。何でも、精神的にも肉体的にも屈強な人を、無理やり屈服させるのが好きなんだそうです。それで、ハンター試験にやってきた人たちを薬や人を使って捕まえて、自分の家に持ち帰っているんです」

「げ!まじかよ!!」

「ふーん、ターゲットってことは俺らが狙われるんだ?」

「そうなりますね」

「あなた達、ノンキねぇ...あら、そういえばさっき薬や『人』を使ってって言わなかった?」

「あ?そういえば、言ってたな」

先ほどのの言葉に違和感を覚えたセシリアがたずねると、ナハトも思い出したように賛同した。

「それはですね、レイファさんがお持ち帰りした人たちが、彼女の下僕志願者になってるんですよ。あ、でも、そうならなかった人たちの一部は裏ルートで捌かれたようですけど」

「試験会場にそいつら連れてきてるんだ?」

「ええ、10名ほどですけど」

「わざわざこんな所にまで男漁りに来るなんて、よっぽどモテネーんだな」

「まあ、ここまで来て自分好みの人を探すなんて、豪快な人だとは思いますけどね」

「俺としては、その一言で片付けるお前らの方がすごいと思うぞ」

「...同感ね」

「「そう(です)か?」」

笑いながら話すとシルバに、他の2人は大きくため息を付いた。









    第十二話    一次試験









ジジジ...ビーーーーーーーーーーー!

しばらくすると、上の方に取り付けられていたスピーカーからブザーの音が鳴り響いた。

受験者達は黙り込み、スピーカーを注視する。

『ただいまを持って、受付時間を終了する。これより、ハンター試験を開始する』


 ガゴゴゴゴゴゴゴゴ....


場の空気が張り詰める中、奥の方にあった壁が大きな音を響かせながら開いていく。

『一応確認しておくが、ハンター試験は実力や運が乏しいと怪我をしたり死んだりする。それでもかまわないというものだけ、奥に進め』

その場にいた受験者が奥の方に進み、しばらくするとまた壁が動き出して入り口が閉まった。

『第一次試験392人全員の参加を確認した。それでは、一次試験の内容を説明する』

部屋の中がシンと静まり返る。

『受験者諸君にはこの通路を通り、2次試験会場へと行ってもらう。通路の端は行き止まりになっている。そこが試験会場だ。時間制限はあるが、その時間及び、場所は一切説明しない。それでは、スタートだ』

説明が終わりスピーカーの音が途切れると、受験者達は一斉に走り出した。

ほとんど照明の無いくらい通路で、受験生達の足音が反響し大きな音となっていく。

「制限時間と距離が分からないってのは、つらいな」

「ええ、ペースがつかめない上に精神的な負荷もかかってくるわね」

「まあ、しばらくは集団の後ろにいたほうが面倒が無いだろうな」

その言葉に、セシリアが不思議そうにシルバを見る。

「?、どうして?前にいたほうが、時間制限があるなら有利じゃないの?」

「ん?ああ、もしかして罠があるかもしれないからか?」

「そういうこと。俺とだけなら何とでもなるけど、あんたらには無理だろ?」

「あなた達に合わせたら、私たちがばててしまうと思うわ」

「あれ、そういえばさっきからと話してないけど、どうかしたのか?」

先ほどから話さないに気付いたナハトが、考え込んでいるに声をかける。

「...この通路がどうやら下りになっているので、少し厄介だなぁと考えてたんです」

「下りだから厄介って...しばらく行くと登りになるってことか?」

「それもあるんですけど、下りの階段になる方がきついと思いますよ」

「え?でも下りでしょう?」

分からないという顔をして首をひねるセシリアに、が苦笑しながら説明した。

「下りの方が足に負担がかかるんですよ。下りのときは体重がかかって沈みこむので、筋肉が本来の長さ以上に伸ばされます。それに体を支えるために無意識に踏ん張るので、筋肉が縮むんです。筋肉が伸びているのに収縮している...この状態は筋肉が最も傷つきやすくて、断裂する恐れもあるんです」

「それに、下りのほうが他の奴らが落ちてきたりしたら、巻き込まれるぜ」

「「あ!!」」

シルバの言葉に、2人は声をあげる。

「確かにその場合、前のほうにいたら確実に巻き込まれるわね」

「その上、下りなのを良いことにスピードを上げたら、さらにガタガタになるってことか」

「そういうことだな...の嫌な予想が当たったみたいだな」

「もしかして...」

「今先に行った人たちが叫ぶ声と、転がり落ちる音がしましたから」

「...この暗さでは足元が見えづらいものね」

「そうこう言ってるうちに、階段みたいだぜ」

ナハトが言ったように、階段の先がまったく見えないほど地下深くまで続いていた。

前を走っていた者の中には、階段に気付かずに踏み外した者、これ幸いと走る速度を速める者、後ろから押されて転げ落ちていく者など、さまざまだった。

最後尾を走っていたたちも、階段へと足を踏み出す。

階段のそこかしこに、動けなくなった者たちが横たわっている。

「出だしからこれかよ...自分が先頭だったらと思うとぞっとするな」

「ええ、まだ1時間も走ってないのに、ここを下りるだけでこれだけの人が負傷するなんて...」

「コースは陰湿だけど、こんなもんじゃねぇの?、もう少し先に行かないか?こいつらに合わせるの結構疲れる」

「嫌味か!ったく、も先に言ってていいぞ。俺らは自分のペースで行くから」

「ええ、気にしないで先に言ってて。絶対に、後で行くから」

「分かりました。二人とも、お気をつけて」

「じゃあ、行こうぜ」

「はい」

そう言うと2人は前にいる受験者達を追い抜いて走って行った。

「......早ぇな」

「今更でしょ?それより、私たちの心配をした方が良いわ」

「...そうだな」






一次試験が開始してから6時間ほど経ったころ。

とシルバは階段を終えて、また平坦になった通路を走っていた。

「結構な人数転がってるな」

「そうですね。やはり先ほどの階段で、消耗した人が多いんだと思います」

「しかし、思ったよりも簡単だったな。もう少し、難しいと思ってたんだが」

「私やシルバさんのように『覚えている人』にとってはそうでしょうね。もっとも、シルバさんなら覚えていなくても問題は無かったでしょうけど」

「ふーん、やっぱりも覚えてたんだな」

「ええ、最も私のは戦闘向きではありませんから、あまり関係ないんですけど」

「...お前、ちゃんと発まで出来てるのか?」

「はい。仕事を始めたときにはある程度は...シルバさんもイメージは出来てるんでしょう?」

「...お前、人の考えが読めるわけじゃないよな?」

「いくら情報屋だからって、そんなこと出来ませんよ。ただの予測です」

「まあ、お前ウソつくのに慣れてねーみたいだけどな」

「それは、実年齢を考えればしょうがないと思うんですけど」

話をしながらも周りの人たちを追い抜いていく。

2人が一番前になり30分ほど走ると、通路の端が見えてきた。

「...なぁ、あれか?」

「ええ、そうだと思います。二次試験会場と大きく書いてありますし」

「大きくっつうか、あれはやりすぎだろ?どっかの遊園地か?」

「確かに、遊園地みたいな看板ですよね」

二人が見ている看板にはでかでかと『二次試験会場』と書かれ、周りに花や動物の絵がこれでもか!というほど描かれている。

2人は看板の前で立ち止まって、まじまじと看板を見つめた。

「ネコに、ウサギ、パンダ、イヌ...」

「ヒマワリ、チューリップ...ガーベラでしょうか?」

「なんか場違いな看板だな」

「そうですね。あと一時間で終了のようです」

「ふーん、そういえば、あの二人間に合うのか?」

「今のペースですと、45分後位にここに着くと思いますよ」

はっきりと時間を言うを、シルバは不審そうに見た。

「...随分と具体的だな」

「発信機って便利ですよね」

「.........俺にも付けてるか?」

「受験者全員に付けました」

「.................そうか」

笑顔で言いきったに、シルバは走ったとき以上の疲れを感じて脱力した。










あとがき

H×H第十二話終了です。
十話のときに書き忘れましたが、シルバさんの子どものときの口調は、キルアのしゃべり方を多少参考にしています。

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。


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