「あはは、私あんなオーソドックスな驚き方を大声でする人たち、はじめて見ました」

「そんなとこを面白がるか?普通...」

「まあ、だしな...」

楽しそうに笑い声を上げるに、サジキールとシルバが呆れたように呟いた。

「ところで、この2人放っておいて良いのか?固まってんぞ?」

「...放っておけ。が何とかするだろ。こっちが巻き込まれるよりはマシだ」

「それもそうか」

固まっている二人を見ながら話すサジキールとシルバを気にすることなく、はまだ笑っている。

しばらく固まっていた2人のうち女性の方が、はっと気を取り直してをまじまじと見つめた。

は笑顔のままで、まだ固まっている男性に声をかけた。

「ナハトさーん、いい加減に起きてくださらないと、話が出来ませんよー?」

「あっ?あ!?ワリィ!」

「いえいえ、お気になさらず。反応が楽しかったですし」

ニコニコと笑顔で話すに、ナハトはばつが悪そうな顔で謝った。

そのとき、を観察していた女性が声をかけた。

「ごめんなさいね、取り乱してしまって。それで、失礼は承知なんだけれど...あなたが『イレブン』だっていう証拠はあるかしら?」

「あ、そうですね。えーと、これが名刺になります。一応あなた方からの依頼内容も言いますか?」

「ええ、お願いするわ」

「ああ、俺もいまいちお前が『イレブン』だって実感がわかねーから頼む」

そう言って頷く2人に、は2人の依頼内容を話し始めた。

「依頼内容は、今年の試験会場へ連れて行ってくれるナビゲーターの情報。報酬は5万ジェニー。依頼報告の内容は...」

「...ちょっと待て、

「?、なんですか?」

シルバは、報告の内容を話そうとしたの言葉をさえぎった。

「...今、報酬が5万とか言わなかったか?」

「言いましたけど?」

「俺の情報はたかだか5万か!!」

「何でナビゲーターの情報が5万なんだよ!?」

思わず怒鳴り声をあげた2人に、は笑顔で答えた。

「だって、面白いじゃないですか?私の報酬に5万って。これだけ安い金額で依頼されたのって初めてでしたし」

「「お前って...」」

心底楽しそうに話すに、2人はがっくりと肩を落とした。

「...なんであんたらも、あの『イレブン』に5万で頼むんだよ」

「いや、俺はちゃんとした金額で頼もうと思ったんだけどな...」

「私がきっとそれじゃあ受けてもらえないと思って、5万ジェニーにしたのよ。実際にそうしたら受けてもらえたでしょう?」

「何でそう思ったんだよ?」

「ふふっ、女の勘よv」

「「女じゃ無い(じゃねーか)(でしょう?)」」

笑いながら言うセシリアに、とナハトが呆れながら言う。

2人の言葉に、シルバは思わずを見た。

「...こいつ男なのか?」

「ええ、そうですよ。セシリアさんの地元では割りと有名な刺繍作家で、見た目は女性ですけど、れっきとした男性です」

それとナハトさんは駆け出しの生物学者ですと付け加えるから、シルバはセシリアに目を移した。

「...あんた、オカ『ガシッ!』

「少年、それは禁句だから覚えておきましょうね?」

「お前、子ども相手にムキになるなよ...」

シルバの頭を片手で掴みながら笑顔で脅すセシリアに、ナハトは呆れてため息をついた。








   第十一話    試験会場








翌日、5人はニールデルタ空港の中を歩いていた。

「なあ、ならナビゲーター無しでも会場に行けたんじゃないのか?」

「ええ、行けますけど?」

ナハトの質問に、はあっさりと肯定した。

「だったら、何で俺のところに来たんだよ?ったく、めんどくせぇ」

「だって、ナビゲーターに案内してもらった方が楽しそうじゃないですか。滅多に経験出来ないことですし」

「...おっさん、言うだけ無駄だと思うぞ?だし」

「おっさん言うな!...まあ、だからな」

「2人とも、気持ちは分かるけど口に出さない方が良いわよ」

「それ、フォローになってねーんじゃねぇか?」

「大丈夫だって、だし」

「でもなぁ...」

何でもないことのように話すシルバに、ナハトが難色を示す。

それを見ては笑い声を上げた。

「あはははは、やっぱり皆さんといると楽しいですねぇ」

「ほら、大丈夫だって」

「......」

楽しそうに笑っているに、ナハトは脱力した。

セシリアはその様子を見て苦笑すると、サジキールに話しかけた。

「でも、まさか空港の中に試験会場があるとは思って無かったわ」

「...だろうな」

「試験会場にたどり着ける新人の数って1万人に1人って聞いたな、そういえば」

「ええ、そして新人が合格できるのは3年に1人と言われています」

「ここにいるのは、全員新人だけどな」

「そう言えばそうね...」

前を歩いていたサジキールが、チケット売り場で立ち止まって振り向いた。

「お前らここで待ってろ。今チケットを「はい、これですよね」

「......」

「はい?」

「...いや、良い。行くぞ」

言葉をさえぎってチケットを取り出したに、サジキールはため息をついて歩き出した。

他の3人は、思わずサジキールを同情のこもったまなざしで見た。

5人がチケットを見せて中に入ると、サジキールは免税店が並んだ通路の方へと歩いていく。

それにセシリアとナハトは顔を見合わせたが、とシルバは気にすることなく付いて行った。

サジキールは多くの免税店の中から、ワインの専門店へと入って行き、店員に話しかけた。

「アイジエン大陸の5大シャトーのロゼを、1721年から1724年までそれぞれ一本ずつ頼む。それと、奥の方でテイスティングしていく」

「分かりました。どうぞこちらへ」

5人が店員に導かれて入ると、部屋の中は店の雰囲気に合わせた内装になっており、テーブルの中央には注文したワインとグラスが置いてあった。

「なあ、まさかこれを飲めってことか?」

「飲んでもいいでしょうけど、1721年から1724年にかけては葡萄の木の病気が流行したので、味はおいしく無いと思いますよ?」

「そう言うことだ。本当に必要なのはこっちだ」

そう言うと、サジキールはワインの横においてあったオープナーを手に取った。

そしてそれを持って壁際に行くと、かかっていた小さい絵をどかして、壁にあいている穴にオープナーを差し込んだ。

差し込んだ瞬間、サジキールの横の壁がスライドし、壁の中から下へと続く階段が現れた。

「へぇ、よく出来てるわね」

「この条件を全部クリアーしないとたどり着けないってことか...」

「俺の仕事はここまでだ。今回受からなくても俺のところに来るんじゃねーぞ。ナビゲーターなんて面倒臭ぇんだからな」

「俺らが落ちること前提かよ?」

「ふん、さっき自分で言ってただろうが、『3年に一人』ってな。じゃあな」

そう言ってサジキールは部屋を出て行った。

「それじゃあ行きましょうか?この通路5分間しか開きませんし」

「げっ!先に言えよ!」

4人は急いで階段へと足を勧めた。

4人は階段をナハト、セシリア、シルバ、の順に下りていく。

階段をおりている途中、上からわずかに扉が閉まった音がした。

「上の方、閉まったみたいだな...しかし、これどこまで下りればいいんだ?」

「さあ?なら分かるんじゃないの?」

「私はさっきの入り口までしか調べてませんよ」

「は?何で調べて無いんだ?」

「馬鹿だな、ナハト聞くだけ無駄だって」

「あ?何でだよ?」

の答えなんか決まってるだろ?調べたら「面白くない(です)から」って、な?」

シルバの声に合わせても声を出すと、それを聞いたナハトが肩を落とした。

セシリアは3人の様子に苦笑した。

「本当にシルバとは仲が良いわね。昨日が初対面だったなんて信じられないくらいよ」

「まあ、俺の方が年上だからな。こいつの面倒見てやってんだよ」

「え?じゃあ、シルバさんのことお兄さんて呼ばないといけないんですか?」

「今のままで良いって、つーか見た目は同じ位なんだから『さん』付けやめろよ」

「それは諦めて下さい。このほうが私らしいでしょう?」

「お前、変なところで頑固だよなぁ」

「ありがとうございます」

「いや、そこはお礼を言うところじゃないだろ?...あ、終わりっぽいな」

いろいろと話をしているうちに4人は一番下についた。

ナハトは階段の先にあったドアを開けた。

「「!!」」

「「......」」

ドアの近くにいた受験者達が入ってきた4人を見る。

しばらくすると、4人を見ていた人たちはふいっと顔をそらした。

「ふぅ、やっぱり街中であったハンター志願者とは違うな」

「そうね」

「この位のことで何言ってんだよ?」

「うるせぇ、俺らは元々一般人だっつーの」

「それより、番号札もらいませんか?さっきからあの方が困ってますよ?」

「ん?ああ、ワリィ」

4人はドアの横にいた人物から番号札を受け取った。

ナハトは389番、セシリアは390番、シルバが391番、が392番をもらい、それぞれ胸に着けた。

「ふーん、結構人いるんだな」

「そういえば、いつごろ始まるのかしら?私たちが来たの結構遅かったわよね?」

「さあ?もうそろそろじゃねーか?」

「予定ではあと30分ほどですよ」

「そこのボーヤの言う通りよ」

4人が話していると、後ろのほうから1人の女性が声をかけてきた。

女性はたちのほうに歩いてくると、にっこりと笑顔を浮かべた。

「いきなり声をかけて驚かせてしまったかしら?あたしはレイファ、よろしく」

「はじめまして、よろしくお願いします」

とレイファが握手を交わし、他の3人も挨拶をした。

「あたしはこの試験5回目なんだけど、ルーキーが4人もそろって入ってくるから珍しくて声をかけたの」

「やっぱり、ルーキーかどうかって分かるものなの?」

「ええ、いばれる事じゃないけど、さすがに5回も参加してると常連の顔は分かるもの」

「へぇ、そんなもんかねぇ」

「ええ、ところであなた達、飴食べる?ちょっと余分に持ってきたから、お近づきのしるしにでもあげるわ」

「ありがとうございます。でも、ナハトさんとセシリアさんはもらわない方が良いですよ?」

「あ?なんでだよ」

「...つまり、俺となら大丈夫ってことは、そういうことか?」

「ええ」

の言っている意味に気がついたシルバに、が同意する。

「一体、何の話をしてるの2人とも?」

「そうそう、二人だけ分かったって、こっちはさっぱり分からねーんだぞ?」

「ああ、失礼しました。簡単に言うと、レイファさんの持っている飴には、毒か薬が仕込まれているだろうってことです。ね?『毒蛇』のレイファさん?」











あとがき

H×H第十一話終了です。
やっと本試験の会場に着きました。でもまだ試験が始まらない...
次は試験を始められたら良いなぁとおもいます。

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

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