ニールデルタ空港を出て、ブルネル湖へと向かって走っていた。

その途中、シルバは思い出したようににたずねた。

「そういえば、お前は実際にその薬屋にあったことがあるのか?」

「ありますよ。このあたりに滞在していたときに、何度かお会いしました」

「...お前は気に入られてるのか?」

「さぁ?」

首を傾げて言うに、シルバは不思議そうな顔をした。

「おい、気に入った奴にしか薬を売らないんじゃなかったのか?」

「だって私は、お客さんとしてお店に行ったこと無いですから」

「...はぁ?」

「ですから、私が個人的にサジキールさん...そこの店主に会いに行っただけで、薬を買ったことは無いんです」

「個人的にって、薬以外にどんな用事があったんだよ?」

「私の好奇心を満たすためです」

あっさりと言ったに、シルバはかなり呆れた。

「普通、好奇心だけで会いに行ったりするか?」

「私は行きましたよ」

「...まあ、お前はガキだからな」

呆れた顔で言うシルバに、はあれ?と首をかしげた。

「そういえばシルバさん、なんだか最初のころより話し方が乱暴というか、雑になってきてませんか?」

「まあな。猫を被ってたからな。それに13の話し方なんてこんなもんだろう?お前のが丁寧すぎるだけだって」

「そうですか?私にとってはこれが普通なんですけど」

「お前らしいとは思うから、良いんじゃないか」

「ありがとうございます」

嬉しそうに笑いながら礼を言うに、シルバは照れくさそうに横を向いた。




しばらくすると、ブルネル湖とその湖岸に小さな家の様な建物が見えてきた。

2人は目を合わせると、少しずつ走る速度を落としてその家の前で止まった。

「ここか?」

「はい。ちょっと待っててくださいね」

そう言っては家に近づいて行って、ドアをノックした。

コンコンコン

「サジキールさん、いらっしゃいますかー?」


コンコンコンコンコンコンコンコン......


声をかけた後に、ずっとノックをし続けるが人が出てくる気配は無い。

「...留守なんじゃないか?気配も無いし」

「いえ、ちゃんといらっしゃいますよ。あの人は気配を消すのが非常に上手なんです。...たぶん今の時間なら、寝てるんだろうとは思ってましたけど」

「もう、夕方近いぞ?」

「あの人は基本的に夜型です」

そう言いながらは、ショルダーバックの中から目覚まし時計を取り出した。

は1分後に時間をセットすると、ドアの下の方にある新聞受けに目覚まし時計を突っ込んだ。

そして、ドアから10mほどシルバの袖を掴んで離れる。

「耳を塞いでた方が良いですよ。かなり音が大きいですから」

今まで黙って見ていたシルバを振り返ってが言うと、シルバは呆れたため息をついて耳を塞いだ。

しばらくして....

ジリリリリリリリリリリリリリリリリ.......

耳を塞いで離れていても聞こえてくる騒音に、2人が顔をしかめてしばらく待った。

リリリリリリリリリリィ

然程待つことなく目覚まし時計が止められた。

2人は耳から手を離して、家のドアを見つめた。

ドアがゆっくりと開いていくと、突然ドアの隙間から何かがすごい勢いで飛んできた。

がそれをひょいっと避けると、それは後ろの木に当たってバラバラになった。

が壊れてしまった目覚まし時計から家に目を移すと、入り口に30代前半の男性が不機嫌な顔で立っていた。

「おはようございます、サジキールさん」

が挨拶した後も男はを睨んでいたが、しばらくすると諦めたようにため息をついて2人を中へ招き入れた。









  第十話    薬屋









「お前、いい加減にあれはやめろって...」

「サジキールさんがすぐに起きてきてくれるなら必要なくなりますよ」

「だけど、あれは俺もやりすぎだと思うぞ」

「あれでも試行錯誤の結果なんですよ。シルバさんだって2時間もノックし続けるの嫌でしょう?」

「...あんた、そんなに寝起き悪いのか?」

「うるせぇな。しかたねぇだろう昔っからなんだから」

シルバを紹介してすぐに文句を言い始めたサジキールに、が反論し、それを聞いたシルバも呆れたように呟く。

それをばつが悪そうに聞きながらサジキールが言い訳をすると、はそれなら諦めてくださいと言った。

「はぁ...で?今日はどういう用件だ?一応俺も仕事があるんだが」

「そのお仕事ですよ。今年のハンター試験を受けるので」

「...俺、お前にナビゲーターだって言ったっけ?」

「いいえ、あなたからは聞いてません。調べれば分かることでしたし」

「ナビゲーターを調べて、わざわざ俺のところに来るか?物好きなやつだなぁ」

「だって、あなたと一緒のほうが面白そうじゃないですか」

2人が話していると、シルバが二人のやり取りに疑問を覚え、サジキールに質問した。

「...が知ってることに驚いたってことは、あんたの仕事知らないわけ?」

「あ?そういやあ、知らねーなぁ」

「そういえば言ってませんねぇ」

のんびりと言う2人に、シルバは呆れた。

「つーか、何で知らないんだ?名刺を見れば、すぐに分かるだろ?」

「名刺なんかもらってねーぞ。あっても邪魔だしな」

「...はぁ?」

「シルバさん、はっきり言ってこの人は他人に関心がありませんから、名刺を見ても分からないと思いますよ」

「...マジ?」

「マジです」

シルバは大きなあくびをしているサジキールを、珍しい物のように見つめた。

「まぁ、と...シルバだったか?お前らなら大丈夫だろう。明日の朝、試験会場に連れてってやるよ」

「ありがとうございます」

「サンキュー、おっさん」

「...誰がおっさんだクソガキ」

「あんた」

シルバのおっさん発言に青筋を浮かべているサジキールに、は携帯を確認すると話しかけた。

「サジキールさん、案内する人もう2人追加でお願いします」

「あ?お前の知り合いか?」

「いいえ、会ったことはありません」

「...何で知らない奴らが来るんだよ」

「私が情報屋として、ここを紹介したからです」

「お前、情報屋だったのか...」

「おっさん、本当に知らなかったんだな」

「だから、おっさんって言うじゃねーよ!」

は2人のやり取りに苦笑をもらすと、サジキールにことわって夕食の準備を始めた。






2時間ほど経ち、窓の外がすっかり暗くなった。

のいるキッチンからは、包丁で切る音や水音が聞こえてくる。

サジキールとシルバはやることもなく、適当に引っ張り出した本を読んでいた。


コンコンコン


そんなとき、玄関のドアを叩く音が聞こえた。

サジキールはのいるキッチンをちらっと見ると、ため息をついて立ち上がりドアを開いた。

ドアの前には20代前半の男女が立っていた。

男の方が口を開こうとする前に、サジキールは入れとだけ言って部屋の中へ戻っていった。

2人は困惑したように顔を見合わせたが、女が頷くと2人は家の中へは言ってきた。

家の中に入ると、2人は他に人がいるとは思っていなかったらしく、シルバを驚いた顔で見た。

シルバは2人を気にすることなく本を読み続け、サジキールもいすに座ると本の続きを読み始めた。

男女は2人を困惑したように交互に見つめた。

話し声が聞こえてこないことを不思議に思い、がキッチンのドアから顔をのぞかせた。

は、いすに座って本を読む二人と立ったままの男女を見て、ことの経緯を理解すると苦笑した。

「サジキールさん、シルバさん、お2人ともそんなに暇でしたら料理を運ぶのを手伝ってください。あ、あなた方はいすに座って待っててください。すぐに準備が出来ますから」

そう言ってキッチンに戻っていくを見て、2人は渋々と立ち上がってキッチンへと向かった。

残された方の2人は困惑しながらも、とりあえず言われた通りにいすに座った。

料理を運んできたシルバに、男が声をかける。

「えーと、ちょっと聞きたいんだが...」

シルバは男をちらっと見ると、に聞けと言って料理を置いてキッチンに戻っていった。

に聞けってどういうことかしら?」

「さあ...さっきの黒髪の子どものことだとは思うけど...」

2人がひそひそと相談している間にも料理が次々と運び込まれ、料理を運び終えたサジキールとシルバが座ると、が飲み物を持ってキッチンから出てきた。

「とりあえず、冷めないうちに食べましょうか?質問は食事中でも良いですよね?」

「あ、ああ。大丈夫だ」

「んじゃ、食うか。それよこせ」

「これですか?」

「へぇ、結構うまいな」

「ありがとうございます。お2人とも食べないんですか?」

展開について行けず固まって箸を動かさない二人に、が首を傾げた。

「あ、いや、食うよ」

「ええ、いただくわ」

困惑しながらも食べ始めた二人に、は微笑むと二人が聞きたがっているであろう事を伝えた。

「ここはサジキールさんのやっている薬屋で間違いないですよ。明日の朝には出発するので、ゆっくり休んでください」

「えーと、サジキールさんてのはこの人だよな?それで、お前らは?」

「初対面でお前呼ばわりしない!『ゴンッ!』ごめんなさいね、行儀が悪くて。良かったらあなたたちのこと聞かせてもらえるかしら?」

「かまわねーけど、に聞いた方が早いぜ。あんたらが来るって言ったのはだし」

シルバの言葉に2人は急いでを見た。それを見ては苦笑した。

「まあ、私が知ってるのは当然なんですけどね...先日は情報屋『イレブン』をご利用いただきありがとうございました。ナハトさん、セシリアさん、私が『イレブン』の=です」


「「.........えぇ!!!?」」


の言葉に驚いた二人を見て、は楽しそうに笑い、サジキールとシルバはうるさそうに顔をしかめた。








あとがき

H×H第十話終了です。
ナビゲーターとオリキャラ二人を出しました。
多分シルバさんとオリキャラの2人は、今後さんの行動に振り回されていくかと...

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

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