...タン...タン...タン...
は木々の枝を足場にして、飛び跳ねるように森の中を移動していく。
しばらくすると、一本の巨木が立っている開けた場所に出た。
は走るスピードを落とすことなく、枝を蹴って大樹を登って行く。
大樹の天辺に結ばれた赤いリボンを1本ほどくと、大樹から飛び下りて、来た方向へと戻っていった。
...タン...タン...タン...
20kmほど戻ると、湖に行き当たった。
湖には真ん中に島があり、岸から島までは5〜10mおきに岩が水面から顔を出していた。
は飛び石を渡り、島の中央にそびえ立つ岩の天辺に、先ほど取ってきたリボンを結びつけた。
岩にはすでに20本近くリボンが結び付けられている。
結び終わるとは、また大樹の方へ行き、これを繰り返す。
リボンの数も30本ほどになり、は最後のリボンを岩に結びつけた。
岩に結び付けられた本数を確認すると、はアサヒの待つ家へと駆けて行った。
家に着き、玄関のドアを開けて中に入ると、はアサヒがいるリビングへと向かった。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい。だいぶ早くなったわね」
「そうですね。始めた頃と比べればかなり速くなったと思います」
「そうね。で、今日は何本だったの?」
「27本でした。あっていますか?」
「ええ、あってるわ」
はそれを聞いて、安心したようにほっと息をついた。
アサヒはくすりと笑うと、ソファーから立ち上がり、キッチンへ歩いていった。
お茶の準備をしながら、アサヒはに話しかけた。
「昨日ビスケの仕事が終わったらしいから、今日の夜にはここに来れるそうよ」
「そうですか。一緒に新年を迎えられそうですね」
「そうね。でも、新年の前に、本格的に修行に入ると思うわ」
「今くらいの実力では足りないんですか?」
アサヒは首をゆっくりと振って否定した。
「いいえ、そんなことは無いわ。そこら辺のごろつきやマフィアには勝てると思うわ。ただ、ビスケと一緒に行動するなら、もう少し本格的なものをやっておいたほうがいいのよ」
「ビスケさんがハンターだからですか?」
「ええ、それもあるわ」
アサヒはお茶のカップをテーブルに置き、の隣に座った。
「ビスケがハンターだから、の実力を上げて足手まといにならないようになる、ということもあるわ」
「他の理由は何なんですか?」
「
あなたが一人で行動しているときに、ハンターに狙われる可能性があるからよ」
は驚いてわずかに目を見開いたが、取り乱すことなく話の続きをうながした。
「狙われる理由はいくつかあるわ。
1つ、私への人質として。これは、あなたを捕まえたら私への交渉が可能になるから。
2つ、ビスケへの人質として。これも私のときと同じね。
3つ、あなたのハッキング能力を目当てとして。ビスケから聞いたのだけれど、あなたのハッキングの腕は一部で有名なのだそうよ。
最後に、あなた自身をターゲットとして。まだばれてはいないけれど、あなたがロボットだと分かったらかなりの人たちに狙われると考えた方が良いわ」
「もしもばれたら、狙うのはハンターに限らないということですね」
「ええ、そうよ」
はアサヒの言葉を考えるように、目を伏せた。
「...初めてビスケさんにお会いしたときに、『能力』という言葉を使っていました。それを覚えるのが本格的な修行ですか?」
は疑問として口に出したが、ほぼ確信していた。
アサヒもそれが分かったらしく、の思考に感嘆した。
「ええ、そのとおりよ。よく分かったわね」
「...記憶力は良いんですよ?」
アサヒにいたずらっぽく口元に笑みを浮かべて返事をすると、2人は顔を見合わせてくすくすと笑った。
「その説明はビスケが来てからにしましょうか」
「そうですね。ビスケさんのために腕によりをかけて夕食を作らないといけませんしね」
第五話 契約の開始
「アサヒさん、ビスケさんがそろそろ着きますよ」
の言葉にアサヒは苦笑を浮かべた。
「あなた、相変わらず気配に敏感ね。迎えに出てもらえるかしら?」
「はい、行って来ます」
「ええ、お願いね」
キッチンを出て、は玄関の前でビスケの到着を待った。
5分ほどするとビスケがの前に現れた。
「いらっしゃいませ、ビスケさん」
が声をかけるとビスケは少し落胆したようにため息を付いた。
「...今度こそ気付かれないと思ったのに...」
その小さな呟きを耳にしたは、少し口元が緩むのを感じた。
「以前言ったように、私の場合はオーラや気配での識別ではなく、生体反応センサーでの識別ですから...それに、ビスケさんの携帯電話でも位置が分かるんですよ」
「それは分かってるんだけどねぇ...」
「それより、中に入りませんか?いつまでもここにいると、ビスケさんのために作った夕食が冷めてしまいますよ?」
にっこりと笑みを浮かべて言ったに、ビスケは微妙な顔をした。
「あんたはそういうことを素で言うの治した方がいいわさ」
「?」
何のことか分からなずに首をかしげたを見て、ビスケはため息をついた。
「まあ、とりあえず中に入りましょう」
「?、そうですね」
二人が中に入ると、リビングでアサヒが秘蔵の酒をあけながらビスケを迎えた。
「いらっしゃい、ビスケ。また見つかったでしょう?」
アサヒは意地の悪い笑みでビスケに言った。
「余計なお世話だわよ」
ビスケは苦虫を噛み潰したような顔で返すと、は苦笑してビスケに席を勧めた。
「二人とも久しぶりに会ったんですから...それに、料理も冷めてしまいますよ?」
「それもそうね。せっかくが作ってくれたのに冷めたらもったいないわさ」
「そうね。、グラス持ってきてちょうだい」
「分かりました」
がグラスを持ってくると、アサヒが酒を注ぎ、食事と近況報告が始まった。
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「へー、あれ27までいけるようになったんだ」
「はい。ただ、アサヒさんのように音を立てないように移動するのはまだ無理ですけど」
「当たり前でしょう、私だって出来るようになるまで結構苦労したのよ」
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「あ、これおいしい。これエビチリ?」
「はい、エビチリにいり卵を入れたんです。こっちの豚肉のシソ巻きはどうですか?」
「付けだれをオロシ醤油にするとさっぱりしてるわよ」
「ポン酢もありますよ」
「それぞれ食べてみるわさ」
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食事も終わり、ゆったりと食後のお茶を飲んでいるとき、アサヒはこれからのことを切り出した。
「ビスケ、の修行のことなんだけれど...」
「分かってるわさ。を外に連れ出す前に、『念』をある程度習得した方がいいでしょうね」
「ええ」
初めて聞く言葉にはビスケに話しかけた。
「ビスケさん、『念』とは以前おっしゃっていた『能力』のことですか?」
ビスケは、が覚えているとは思っていなかったらしく、驚いた顔になった。
「そうだわさ。よく覚えてたわね」
そう言うと、ビスケはの頭をエライ、エライと言って撫でた。
それには赤くなりつつも手をどけようとはしない。
その様子をほほえましく思いながら、アサヒは先を進めた。
「まずは説明から行きましょう」
あとがき
H×H 第五話終了です。
念の説明まで行きませんでした...
次に入れます。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました!
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